コーナーを駆け抜ける三菱ランサーエボリューションⅨ MRのフロントビュー
文=下野康史/撮影=荒川正幸

三菱ランサーエボリューションⅨ MRのレンタカーに試乗。4G63型エンジン搭載ラストバージョンの完成度は? #36

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

三菱が2006年に発売した、ランサーエボリューションⅨ MRの旧車レンタカーに試乗。最高峰スポーツモデルの称号であるMR(Mitsubishi Racing)を車名に冠し、初代ランエボから熟成を重ねてきた4G63型DOHCインタークーラーターボエンジンを搭載した最後のモデルでもあります。
そんなランエボのレンタカーに、自動車ライターの下野康史さんが試乗します。

目次

“ランエボ”の集大成

三菱ランサーエボリューションⅨ MRのフロントサイド外観

千葉県松戸市のカーレンタル東京 でお借りしたランサーエボリューションⅨ MRの旧車レンタカーは2006年式。車両重量は1420kgだった
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大型リアウイングを備えたランサーエボリューションⅨ MRのリアビュー

象徴的なリアウイングと張り出したフェンダー。ランサーエボリューションシリーズが9世代にわたって磨き上げた走りへの機能美が際立つ
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千葉県の東松戸にある“カーレンタル東京”で借りたのは、ランサーエボリューションⅨ・MR。ここでは2年前にR32のスカイラインGT-Rを借りたことがある 。現在、10台ほどある品ぞろえのなかで、ランエボは2か月前に加わったホヤホヤの新顔だという。

Ⅰ Ⅱ Ⅲ以外はわかりにくいことでおなじみのローマ数字だが、Ⅸは「9」。2006年8月、9代目ランエボの最後に登場したMRは、92年に始まるランエボの集大成ともいうべきモデルである。

エンジンはギャランVR-4以来、熟成を重ねてきた2リッター4気筒ターボの4G63型。最終ランエボになったこの次のⅩ(10)からはエンジンだけでなく、ベースのボディーも刷新された。9代目は「ラリーのランサー」のイメージをまとう最後のランエボだったように記憶している。

名機4G63型エンジンの最終型

三菱ランサーエボリューションⅨ MRの運転席

インストルメントパネルオーナメントとセンターパネルをピアノブラック塗装としたのも、エボⅨ MRの特徴
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三菱ランサーエボリューションⅨ MRの運転席とインパネ

運転席・助手席ともにホールド性を高めたRECAROのバケットシートを備える。MRでは新たに赤いステッチを採用した
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出発前、女性スタッフからクルマの説明を受ける。ボディーの傷などはスマホで撮っておいてくださいと言われる。無用なトラブルを避けるためだろう。外国人旅行者の利用も増えていて、伊英日の3か国語を話すイタリア人のバイト君も働いている。

若いスタッフたちに「行ってらっしゃい!」と見送られてスタートする。車検証を見ると、初度登録平成18年12月。MR発売の4か月後に登録されたクルマである。走行距離は13万2000kmあまり。20年モノだが、程度はとてもいい。ワンオーナーで大事に乗られてきたクルマ、という感じだ。

ランエボといえば、ライバルはスバルWRXである。当時、2台はバージョンアップのたびに足まわりをガチガチにしていった印象があるけれど、意外やこのランエボは乗り心地がいい。サスペンションはもちろん硬いが、いやな揺れや突き上げはない。アンコのたっぷりした純正レカロシートも乗り心地に効いている。ボディーの剛性感はいまもしっかりしている。

最終型4G63エンジンも“旧車”を感じさせない。280PSの最高出力はランエボⅣ(4)のころから変わらないが、9代目の最大トルクは最初の4G63型を10kgm以上うわ回る40.8kgmに達していた。しかも、決してピーキーなドッカンターボではなく、低回転からモリモリしたトルク感にあふれ、そのまま一気呵成に7000rpmまで回る。いまでも本気で速いクルマである。

4G63ターボエンジンを搭載するランサーエボリューションⅨ MRのエンジンルーム

ボンネットを開けると、名機4G63型・2リッターDOHCターボエンジンが顔をのぞかせる。3世代にわたってランエボの伝説を支えてきた心臓部は、今なお特別な存在感を放つ
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旧車レンタカーで知る三菱らしさ

水辺に佇む三菱ランサーエボリューションⅨ MRのサイドビュー

日常の風景に溶け込みながら、時にただ者ではない雰囲気を醸し出す。低速域から扱いやすい日常性と、パンチが利いた高回転域を兼ね備えた二面性が大きな特徴だ

ダッシュボードの目立つところに“ACD”のスイッチがある。アクティブ・センター・デファレンシャル。前後輪の駆動力をコントロールする電子制御センターデフである。このスイッチではターマック(舗装路)、グラベル(未舗装路)、スノー(雪道)の3つが選べる。

さらに後輪左右の駆動力を自動で適正配分するAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)も装備されている。ボディーが大型化したⅦ(7)以降のランエボは、四輪制御技術に注力して、さながら駆動性能オタクのようだった。その“効き”を公道で体感するのは難しいが、20年経ったいまも、大排気量V8か!?と思わせるような大トルクをもれなく平然と路面に伝えているのが、なによりの現世御利益である。

舗装路面ではエンジンよりシャシーのほうがはるかに速いためか、ランエボは速くても真面目だなと感じた。半年ほど前、この連載で99年型インプレッサWRX STi ver.Ⅴ に乗った。今回のランエボより古く、チカラもやや劣るが、よりヤンチャで楽しかった。でも、そんな対比を思い起こすと、“真面目さ“が三菱系スポーツ車の芸風なのかなと思う。目を剥くようなハイパワー車であっても、まず安全第一。花嫁の父に好かれるようなしっかり者キャラなのだ。バブル景気のさなかにつくった3リッターV6ツインターボの三菱GTO などを思い起こしても、そんな感じがする。

何度も言うように、旧車レンタカーは、運転そのもの、クルマそのものを味わうレンタカーである。何かの用足しに使うレンタカーではない。

しかし、このランエボは万能高性能セダンとして、いまでも用足しに使えそうな旧車レンタカーだった。高さ20cmのカーボン製リアウイングを生やしていても、中のトランクはかなり広い。リアシートの空間もたっぷりしている。この乗り心地なら、ファミリーカーとしてもイケそうだ。返却して日が経つにつれ、「いいクルマだったなあ」という気持ちがこんなに募る旧車レンタカーも初めてである。

・ランサー・エボリューションⅨ MRのスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1770×1440mm
ホイールベース:2625mm
エンジン:4G63型 直列4気筒DOHCターボ 1997cc
エンジン最高出力:206kW(280PS)/ 6500rpm
エンジン最大トルク:400 Nm(40.8kgm)/ 3000rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式(前/後):ストラット/マルチリンク
タイヤ:235/45R17

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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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