高速道路を走るスープラ
文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタ・スープラ(A70型)に試乗。ハイパフォーマンスだけど、走りは軽快 #19

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

トヨタが1986年から93年まで販売していたスープラ(A70型)に試乗。#18で試乗したセリカXXの後継モデルにあたり、モデルチェンジでパフォーマンスをいっそう高めたスペシャルティカーとして人気を誇りました。
そんなスープラを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

モデルチェンジで名称はセリカXXからスープラへ。その進化は大きい

バブルへ向かうイケイケドンドンなムードのなか、国産ハイパワースポーツカーへの期待が盛り上がりつつあった1986年、トヨタの放った大物が、セリカXXあらため、スープラである。その新旧2台をまさか2024年のいま、レンタカーで体験できるとは思わなかった。
静岡県日本平のテッペンで乗り換えた黒いスープラは、92年式2.5リッターツインターボ。90年のマイナーチェンジで、それまでの3リッターターボに代わって登場した国内初代スープラのトップモデルである。新世代直列6気筒の半分ずつをそれぞれセラミックターボで過給し、自主規制のマックス280psを得ている。この1JZ‐GTEエンジンはトヨタ初のツインターボで、日本平パークウェイを駆け上がってきた85年式セリカXX・2000GTと比べると、最高出力は実に120ps増しである。
乗り込むと、300km/hまで刻まれた速度計がまず目についた。出たてのスープラは180km/hまでだったが、その後、速度計表示上限の自主規制もなくなったのだ。
例によって、“ヴィンテージクラブ by KINTO”のレンタカーにはそのクルマ固有の取扱い説明書が載っている。読んでいて楽しい写真入りトリセツだ。乗り込むと、300km/hまで刻まれた速度計がまず目についた。あとから付けられた社外品のメーターなのだが、それに呼応して、トリセツの『Q&A』欄にはこんなやりとりがあった。
「時速300km/h出るの?」「出ません」、「サーキット走行したいのですが……」「ダメです」

70スープラのフロント7:3

「Vintage Club by KINTO」でお借りしたスープラは1992年式。スリーサイズは全長4620mm×全幅1745mm×全高1300mmで、車検証に記載された車両重量は1600kgだった。1986年の発売時、東京での車両価格は200万9000円~335万5000円。静岡でのレンタルは2024年9月で終了している。24年11月~25年1月に開催される旧車キャラバンではいったんラインアップから外れるが、また近いうちにレンタルも再開されるという。詳細はVintage Clubのウェブサイト
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70スープラのリア7:3

ワイドフェンダーを装備していることから、全幅は3ナンバーサイズとなる
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高回転域のトルク感はターボエンジンならでは。吹き上がりもいい

室内は内装からダッシュボードに至るまでブラック一色。スペシャルティカー的な雰囲気が強かったXXよりもスポーツカー色が濃厚だ。この280psエンジンは5速MTとの組み合わせのみで、センターフロアからは長めのシフトレバーが突き出す。横長の計器盤には大小のアナログメーターがずらりと並ぶ。そんななか、ステアリングポスト両側のいい位置にコインホルダーがあるのがおかしかった。それぞれフタ付きで、5枚くらいの硬貨が入る。道路を走ると、コインが必要な時代だったのだ。
クラッチペダルはXXほど軽くないが、重いというほどではない。走り出すと、120psものパワー差は感じなかった。試乗車の走行距離は20万kmに届こうとしていた。初代スープラの後期モデルとはいえ、すでに30年以上前のクルマだ。荒れた舗装路では、ボディーからけっこう軋み音が出る。
だが、やはりエンジンはイイ。むかし取ったキネヅカ、という感じだ。直列6気筒ならではの滑らかさは健在で、「エンジンをいたわってください」という注意書きを意識しながらも、ついつい回したくなる。8000rpmまで目盛られたタコメーターのレッドゾーンは7000rpmから始まる。4000rpmを超えてからの吹き上がりとトルク感は、ノンターボ160psのXX・2000GTに明確な差をつけるところである。ハイパワーターボ時代によく言われた“ターボラグ”もない。

70スープラのインパネ

セリカXXと比べると、6つのメーターが並ぶパネルのスペースが広がり、スポーティな雰囲気を高めている
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70スープラのシート

試乗車のシートは、サイドが耐久性に優れた本革で、座面と背面は滑りにくいスエードを採用。電動パワーシートで好みのポジションが得られる

スープラ史上最後のリトラクタブルヘッドライトが、当時の時代を感じさせる

試乗車のボディーはルーフパネルが外せる“エアロトップ”だった。KINTOのトリセツによると、専用工具は助手席グローブボックスに入っていて、脱着作業は必ず2名以上で、とある。人手は足りていたが、この日の気温は39℃。青天井よりもエアコンの冷気がマストとあって、取り外すのはあきらめた。走るうちに、ボディーの軋み音の大半はエアロトップの接合部から出ていることがわかった。古くなると、クルマは少しでも開口部分の少ないほうがいいと思う。
スープラのヘッドランプはセリカXXから引き継ぐポップアップ式だが、93年登場の2代目スープラからは固定式に変わった。パカっと開けば空気抵抗になるし、部品点数も増える。スポーツカーなら、開/閉時、2パターンのデザインをカッコよくしなくてはならない、など、ポップアップ式が廃れた理由はさまざまだろう。
スープラのヘッドランプ操作レバーをひねると、1段目では何も起きない。2段目でスモールが点き、3段目でライトが上がって点灯する。ナゾの1段目は3段目から戻したときの待機ポジションで、夜、ライトを上げたまま点灯/消灯をしたいときに使う。なんてことは、固定式ヘッドライトの、ましてや点灯も消灯もオートがあたりまえになった今のクルマに乗る人にはわからない。KINTOのトリセツではそのへんのところもたくさんの写真を使って懇切丁寧に説明している。
クルマの歴史に実車で触れることができるのも、旧車レンタカーの“意義”である。

70スープラのエンジン

1990年のマイナーチェンジで設定された1JZ-GTE型2.5リッター直列6気筒ツインターボエンジンは、最大出力280ps/6200rpm、最大トルク37.0kgm/4800rpmを発揮。トヨタ車で自主規制値である280psに達したのは、このエンジンが最初だった
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70スープラが走る姿

今なお十分以上の速さを見せてくれたスープラ。90年代のハイパフォーマンスカーの出来のよさや走らせる楽しみが体感できた試乗となった

#19 スープラのフォトギャラリーは、こちらをクリック!

#18 トヨタ・セリカXXの試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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