高速道路を走るスープラ
文=下野康史/撮影=荒川正幸

スズキ・ジムニー(JA22型・2代目)に試乗。小さなオフローダーはオンロードでも活発 #20

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

スズキが1981年から98年まで販売していた2代目ジムニーの最終形にあたる、JA22型に試乗。軽自動車ながら本格的なオフローダーとして長く親しまれ、今なお人気が高いモデルです。
そんなジムニーを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

“ジムニーで遊ぶ楽しさを知ってもらう”ための旧車レンタカー

マウンテンバイクで林道を走っていると、上から下りてくるクルマは、たいていジムニーである。自分のことはタナに上げて、よくこんなところに来たなと感心する。登山者ならぬ「登山車」である。
SUVなんて言葉がまだなかった1970年に誕生した軽のオフロード四駆が、ジムニーである。4代目になる現行型は、登場から6年を経る今も、1年分以上のバックオーダーを抱える人気だが、山で見かけるのは旧モデルが多い。
その“古いジムニー”をレンタカーとして提供しているのが、静岡県磐田市の“J-Mini Friends”。ジムニー専門店として、修理・販売を手がけるかたわら、先代(JB23)と先々代(JA22)モデルを「わ」ナンバーで用意している。1日6120円と、料金も手頃だ。店の隣はスズキのディーラー。天竜川を渡って西へ30km行けば、ジムニーを生産しているスズキの湖西工場がある。ジムニーのふるさとみたいな土地である。
“J-Mini Friends”の代表、Sさんによると、レンタカーを始めたのは、“ジムニーで遊ぶ”楽しさを知ってもらいたいからだという。「浜に出てもいいし、悪路に行って多少傷つけたっていいので、自分のクルマじゃ走れないという人の“体験用”です」。太っ腹!というほかない。お客さんには、キャンプ用に何日か借りる人もいる。ジムニーでしか入れないような所に、どうしても仕事で行かなくてはならない、なんていう“需要”もあるそうだ。まさにジムニー本来の使い方である。

ジムニーのフロント7:3

「J-Mini Friends」でお借りしたジムニーは1996年式。スリーサイズは全長3295mm×全幅1395mm×全高1680mmで、車検証に記載された車両重量は910kgだった
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ジムニーのリア7:3

2代目ジムニーは直線基調のデザインが印象的だ。トランクのドアは右側にヒンジがあり、横に開く
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ジムニーの人気は、「新しけりゃいいってもんじゃない」

借りたのは、古いほうのJA22。フロントウインドウが平面ガラスで、ドアの蝶つがいが外側に露出しているクラシックなジムニーだ。2代目(81~98年)の最終期モデルにあたり、この個体は走行距離17万kmを超えた96年型である。
ジムニーはマニュアルで2WDと4WDを選ぶパートタイム四駆である。悪路へ行くつもりはなかったが、砂地には入るかもと出発前に伝えると、タイヤの空気圧をちょっと落とし、前輪のフリーハブを“LOCK”に切り替えて、4WD走行ができるようにしてくれた。後者はこのあとのジムニーからは不要になった操作である。それでも、レンタカーとしての人気は先代JB23よりこちらのほうが高いという。必ずしも古いほうがいいというわけではないが、少なくとも「新しけりゃいいってもんじゃない」のが、コアなジムニー好きの価値観である。
658ccの3気筒DOHCターボエンジンは、現在の軽と同じサイズだが、ボディー外寸の規格はひとつ前で、全幅は8cm狭く、全長は10cm短い。乗ると、さすがに幅は窮屈で、右ひじがドアに当たる。だが、ボディーが小さくて軽ければ、悪路での機動性や踏破性はより高いわけである。

ジムニーのインパネ

直線的なインパネには、白い3連メーターが目を引く。助手席側にあるアシストグリップがオフローダーであることを示している
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ジムニーのシート

ジムニーのフロントシートは大ぶりではないものの、大きな不満はない。穴あきのヘッドレストが懐かしい
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“アラサー”のジムニーだが、しっかり、シャンとしている

変速機は3段ATが付いていた。MT保存会会長を自認する筆者でも、ジムニーはATで乗るのが賢明だと思う。ターボエンジンとの相性がよくて、自在に加速がきくからだ。一方、MTは1速のギア比が低すぎて、加速時のシフト操作が忙しい。今のジムニーでも、発進、停車を繰り返す街なかでは、MTの僕(しもべ)になるような覚悟がいる。
このクルマはちょっと車高を上げ、ダンパーをスポーティーなものに替えてある。おかげで乗り心地は硬めだ。標準のダンパーだと、もっとフニャっとしているという。ラダーフレーム車特有のドッシリ感とあいまって、乗り味には古い軽とは思えない頼もしさがある。
走りは思いのほか軽快だ。街なかでパワー不足を感じることはない。それもそのはず、軽の自主規制値である64psの最高出力は、今のジムニーと同じだが、910㎏(車検証記載値)の車重は130㎏も軽いのである。
3ATだから、高速道路の100km/h時には5500rpmまでエンジン回転が上がる。さすがに静かとはいえない。しかしこのクルマが新車だったころ、高速道路での軽の制限速度は80km/hだった。ちなみに、今のジムニーの4段ATは100km/h巡航を3800rpmに抑えてくれる。
でも、30年前のジムニーがこんなにしっかり、シャンとしているとは思わなかった。内外装の程度もいい。猛暑日でも、クーラーはよく効いた。電動パワーステアリングを始め、コントロール類は軽いから、運転操作の重さで古めかしさを感じることもなかった。
やっぱりジムニー、新しけりゃいいってもんじゃないな、と思っていると、帰り道、磐田バイパスを出たところでアイドリングが不安定になり始める。ほどなくエンストした。キーをひねっても、セルモーターは回らない。オルタネーター(発電機)のトラブルか。押し掛けができないのは、AT車の弱点である。ゴールまであと8kmのところで、JAFロードサービスのお世話になる。
どんなにかくしゃくとしていても、トシは隠せない。こうしたリスクも含めて、古いクルマを味わうために借りるのが、旧車レンタカーである。

ジムニーのエンジン

1995年のマイナーチェンジでK6A型・0.66リッター直列3気筒インタークーラーターボエンジンが採用された。最大出力64ps/6500rpm、最大トルク10.5kgm/3500rpmを発揮するK6Aエンジンは、アルトワークスやカプチーノなどスズキのスポーツモデルに搭載されたほか、イギリス製のスポーツカーでありながら軽登録される「ケータハム・セブン160」にも使われた
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ジムニーが走る姿

天竜川の河川敷でダートを走った。ジムニーのオフロード性能はもっと高いところにあるのだろう。そんなポテンシャルの一部をしばしの間楽しむことができた

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#19 トヨタ・スープラの試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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