旧車コミュニティ「Vintage Club by KINTO」のソアラ・スープラ・セリカなどの特選旧車レンタカーを蘇らせた新明工業・レストア工房では、どのようなレストア作業が行われているのか? #27
自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
トヨタ・セリカXX(#18)や70スープラ(#19)、アルテッツァ(#26)など、「Vintage Club by KINTO」は旧車を新車に近いコンディションにレストアし、特選旧車レンタカーとして貸し出しています。そんな旧車のレストアやメインテナンスを手がけるのが新明工業です。自動車ライターの下野康史さんが新明工業の工房を訪問。特選旧車レンタカーがどのようにメインテナンスされているのかをレポートします。
KINTO旧車レンタカーのふるさと
トヨタの本社や本社工場が集まる「トヨタ町」の交差点からクルマで5分。片側2車線の国道脇にガラス面積の大きいオシャレな建物が現れる。
屋外にはきれいなトヨタ・スポーツ800(ヨタハチ)が置いてある。中に入ると、ボディーとフレームを一度に見られる状態で、あの2000GTが展示してある。その隣りには3代目クラウン。しかも2ドアクーペというレアものだ。いずれも60年近く前のトヨタ車である。
そうかと思えば、初代ホンダ・NSX やポルシェ・918スパイダーといったスーパーカーも置いてある。VRを使ったドライブシミュレーターもある。クルマ好きなら、数時間は楽しめそうだ。それが新明工業のショールーム“SowZow”(ソウゾウ)である。
トヨタ博物館の展示車も手がける
KINTOが展開する旧車レンタカーサービス“Vintage Club by KINTO”の車両を仕上げているのが、新明工業である。創立は1949(昭和24)年。自動車の整備・修復のプロとしてトヨタ博物館の展示車両も手がけてきた。
ショールームの裏手にある工場へ行くと、少し前までレンタカーのラインナップにあった黄色い初代セリカ、通称“だるまセリカ”や初代MR2がいた。
KINTOの旧車レンタカーは全車両、ここで整備や修理を行う。オーバーヒートをすれば、電動ファンを付けたり、ラジエーターのコア増しなどの手当てをする。
「トヨタ博物館のクルマをやっているという、へんなプレッシャーもあって、かけなくてもいいお金をかけてしまうんです」
新明工業の“スペシャリスト”本多和之さんがそう言って笑った。
別のブースでは裸に剥かれたボディーが修復中だった。シトロエンの9CVか10CVだという。100年近く前のフランス車である。大きな声で陣頭指揮をとっていた石川實さんは創業当時からの社員。86歳というお歳だが、現在もレストアチームの技術顧問として活躍されている。
“旧車文化”を感じさせるそんなファクトリーがKINTOレンタカーのふるさとである。
トヨタ・2000GTもレンタルできるか!?
トヨタ傘下のKINTOが旧車レンタカーを始めてから3年あまり。初代ソアラを皮切りに、これまでラインナップされた車両は十数台。一番人気はカローラTE27レビンと初代セリカ・リフトバック2000GT
の70年代中盤コンビだという。
ウェブサイトで告知されたKINTOレンタカーは、全国のトヨタディーラーで貸し出される。しかも、クルマづくりやメインテナンスにはシンメイがついている。このプラットフォームが他の旧車レンタカーにはない強みといえる。
KINTOといえば、本業はクルマのサブスク(定額利用サービス)である。ひょっとしたら、旧車のサブスクも視野に入れているのでは? と質問すると、KINTO総合企画部の布川康之部長は「考えてますよ」とあっさり即答した。調子に乗って、2000GTの旧車レンタカーもありですか? と聞いたら、「無理です、料金のケタが違っちゃいます」とのこと。愚問でした。
新明工業謹製トリセツ
スターレットのレンタカー(退役済み)に搭載されていた取扱説明書
。チョークレバーの操作方法やメーター手前にあるハザードランプのスイッチなど、旧車ならではの取り扱い方法について指南している
●画像クリックでスターレットの試乗記へ
クルマ選びの基本は、乗って楽しいスポーツ車。一般の旧車レンタカーサービスでも敬遠されがちなキャブレターエンジン車もいとわない。そんなKINTOレンタカーのユーザーサービスに大きく貢献しているのは、その個体専用の取扱説明書だ。作成しているのは新明工業レストアチームの野村久司さん。最初はA4判1枚だったが、現在はカラー写真による図解を多数使い、パウチしてリングファイルにまとめた立派なものである。
以前、ヨタハチを貸し出したとき、チョークレバーも使わず、暖機運転もせずにいきなり走り出してトラブった例があったという。壊れたわけではない。小さな空冷エンジンが機嫌を損ねてエンストしたのだ。そうしたことがなるべく起きないように、KINTOのトリセツはつくられている。「エンジンをいたわって下さい」という“名言”も野村さんの作である。
モノによってはかるく半世紀以上前のクルマだから、壊れることもある。「不可抗力で壊れるのは仕方ないです。壊れたら直しますから。それを心配するより、楽しく乗ってもらいたい」と、新明工業の人たちは言った。
一方、お客さんも、壊れて怒る人はほとんどいないという。むしろ「あれ、どうなりましたか」と、クルマの心配をしてくれる。KINTOのレンタカーは旧車文化を育ててもいるようだ。

下野康史
かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。
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