トヨタ・メガクルーザー(旧車レンタカー)が水しぶきを上げて直進する正面走行シーン
文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタ・メガクルーザーのレンタカーに試乗。 “巨大な巡洋艦”の、陸での走りは? #34

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

トヨタが1996年に発売した、メガクルーザーの旧車レンタカーに試乗。陸上自衛隊の高機動車を民生用に仕立てたモデルで、官公庁を中心に配備され、JAFも災害対策車として採用しました。そんなのメガクルーザーのレンタカーを、自動車ライターの下野康史さんが試乗します。

目次

自衛隊高機動車のスピンオフモデル

印旛沼のほとりに佇むブルーのトヨタ・メガクルーザー。左前3/4外観

100円レンタカー 千葉北店 でお借りしたメガクルーザーの旧車レンタカーは1997年式で、車検証に記載された車両重量は2980kg。発売当時の価格は962万円(東京での価格)だった
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トヨタ・メガクルーザーのリア3/4外観。背面にスペアタイヤとラダーが付く

メガクルーザーを運転するには準中型以上の運転免許が必要となる
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こんなクルマがレンタカーで借りられるとは!? 思わず目と耳を疑ったのがメガクルーザーである。

93年の東京モーターショーで初公開され、96年1月に発売されたこのクルマは、現在も自衛隊で活躍する大型高機動車の民生用市販モデルである。米軍が使う高機動車の市販型だった“ハマー”の日本版といっていい。

設計も製造もトヨタだが、輸送機への積載などを考えると、ボディーサイズやプロポーションは本家米国版に似てくる。

全長およそ5.1m、全幅2.2m、全高2.1m、車重2980㎏(車検証記載値)。軽々しく“SUV”なんて呼べない巨漢である。しかも、いちばん高いランドクルーザーが400万円しなかった時代に、メガクルーザーは962万円した。さすがに買う人は限られ、販売台数は約5年間で130台ほどにとどまった。

そんなクルマに「わ」ナンバーを付けたのは千葉市稲毛区にある「100円レンタカー千葉北店」。中古車を格安な料金で貸し出す全国チェーンのひとつだが、さすがにメガクルーザーとなると、そうお安くない。フルパックの保証をつけると、6時間2万6000円ほどだった。

だが、それも道理である。超希少車だけあって、いま中古車として売るとなると、メガクルーザーには2000万円近い値札がつくという。それを考えれば、格安な体験料だろう。「いちど乗ってみたかった」という人やユーチューバーなどを中心にけっこうな人気を博しているそうだ。

デートカーには無理かも

トヨタ・メガクルーザーの運転席とインパネ。直線基調の計器類

直線基調で無駄がないインパネ。カーナビは運転席左横のボックスに設置されていた
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メガクルーザーの前席まわり。厚みのあるファブリックシートと高い着座位置

運転席と助手席の間にはトランスミッションなどを収める大きなボックスが鎮座。助手席側にはエアコンの操作パネルが設置されている
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新車当時、メガクルーザーはトヨタの広報車両として用意されていた。試乗記のために筆者も借りて、東京から木曽を往復した。しかしそれも30年前の話である。まさかの旧車レンタカーで味わうメガクルーザーは、あらためて桁外れで、それゆえにおもしろい乗り物だった。

ハブ・リダクション(車輪のハブ部分に減速ギアを備える)を採用するなどして、42cmというたっぷりした最低地上高を実現している。ランクルの2倍だ。しかもボディー下を覗くと出っ張りがない。42cmは正味の数値だ。匍匐前進でクルマの右側から左側に抜けられる。

定員は6名。後席には4人並びで座れるのに、前席はふたり。左右席のあいだに鎮座する大きな“箱”の中には、4段ATなどの機関が出ばっている。少しでも鼻先を短くして、悪路踏破性を上げるためだ。機能第一の設計である。
路上に出ると、まずこの大きさに慣れることが急務だ。とくに車幅。前を走るトヨタ・ヤリスより50cmも広いのである。狭い一般道で逆走してくる自転車とすれ違ったときは、肝を冷やした。平時においても、助手席側のドアミラーをいつもの何十倍もの頻度で確認したが、そのドアミラーも遠いところにある。目が狂うザーだ。

一方、長さにはそれほど苦労しない。とくにUターンのような小回りは予想以上にきく。ハマーにはない4WS(四輪操舵)機構のおかげだ。ハンドルを切っていくと、後輪が最大12度、前輪と逆向きに切れる。

メガクルーザーのボンネット開状態のエンジンルーム。ディーゼルユニットのレイアウト

搭載される15B-FT型・直列4気筒4.1リッターエンジンは155PSを発揮。39.0kgmの最大トルクを1800回転で発揮する
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陸の王者の風格

雲間の光を受けるブルーのトヨタ・メガクルーザー、左前3/4外観

印旛沼のほとりにたたずむメガクルーザー。そのまま湖に入っても対岸まで渡り切ることができそうな、一般の市販車とはひと味違う凄みが見え隠れするクルマだった

エンジンは4気筒の4.1リッター・ディーゼルターボ。1気筒1000ccを超えるメガ4気筒ディーゼルだが、音や振動を含めて、荒っぽさはない。遠い助手席に座る編集部Nさんが「路線バスの運転席にいちばん近い席に座っている感じです」と言った。まるでディーゼル機関車のエンジンルームの中に放り込まれたようだった6.5リッターV8ディーゼル・ターボのハマーとは対照的だ。

車重約3tだから、俊敏な加速力はないが、ディーゼルらしい底力にあふれている。乗り心地もいい。ホイールベースが長いので、舗装路の細かいうねりなんかには反応しない。小型バス・トラック用の大きなスタッドレスタイヤを履いていても、足まわりが無闇にバタつく感じはない。

ただし、ブレーキには要注意である。軽い乗用車のようにハキハキとは利かない。制動時にはやはり3tの車重を感じる。Dレインジで信号待ちしているときも、しっかり意識してブレーキペダルを踏んでいる必要がある。

しかし、そういった扱いのコツとボディーの大きさに慣れれば、メガクルーザーはなかなか快適な乗り物だ。車室の幅はたっぷり2mあるのに、前席の中央部に「なんでこんなデッカイ箱があるのよ」と思うが、発進のたびに、その奧からトルクコンバーターのヒューンという音が聞こえるのがカッコイイ。

大径のハンドルを握っていると、運転という“任務”をこなしている感じがする。うかうかしたら、「あんた、寝ててもいいよ」と囁いてきそうな現代の自動車に比べたら、やることがいっぱいある。書くことがいっぱいある。30年ぶりに味わったメガクルーザーはそんなクルマだった。

・メガクルーザーのスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5090×2170×2075mm
ホイールベース:3395mm
エンジン:15B-FT型 直列4気筒 4104cc
エンジン最高出力:114kW(155PS)/ 3200rpm
エンジン最大トルク:382Nm(39.0kgm)/ 1800rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(前/後):ダブルウィッシュボーン/ダブルウィッシュボーン
タイヤ:37×12.50R17.5/8PRLT

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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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