インプレッサWRX STi バージョンVがワインディングロードを走行する様子
文=下野康史/撮影=荒川正幸

スバル・インプレッサWRX(初代)のレンタカーに試乗。WRCで天下を取った走りは今でも健在か? #32

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

スバルが1992 年に発売した、インプレッサWRX(初代・GC8 型)の旧車レンタカーに試乗。初代レガシィに搭載されたEJ20型エンジンをより小さいボディーに格納した、世界ラリー選手権(WRC)に勝つために開発された4WDスポーツセダンです。そんなインプレッサWRXのレンタカーに自動車ライターの下野康史さんが試乗。WRC3連覇を果たしたラリーマシンの、ベース車両のポテンシャルに迫ります。

目次

「ラリーのスバル」の時代

インプレッサWRX STi バージョンVのフロント斜め外観、白いボディーとゴールドホイール

レンタカーズSEiWA でお借りしたインプレッサWRXの旧車レンタカーは1999年式のWRX STi バージョンVで、車検証に記載された車両重量は1290kg。価格は291万9000円(東京・大阪・名古屋での価格)だった
●画像クリックでフォトギャラリーへ

インプレッサWRX STi バージョンVのリア斜め後方外観、大型リアウイングが特徴

WRカータイプの大型スポイラーは、高速走行時の操縦安定性を高める効果があるという
●画像クリックでフォトギャラリーへ

スバルといえば、いまは「安全のスバル」かもしれないが、かつて「ラリーのスバル」だった時代があった。初代インプレッサWRXがWRC(世界ラリー選手権)で3年連続メーカータイトルに輝いていた90年代後半だ。

F1と違って、ラリーは市販車をベースにした車両で戦う。そのために販売されるのが、いわゆるホモロゲーションモデル。スバルのモータースポーツ部門、スバル・テクニカ・インターナショナル(STI)がプロデュースするWRX STiは、ライバルの“ランエボ”(三菱ランサー・エボリューション)とともに、“出せば完売”の人気を誇った。

そんな「ラリーのスバル」黄金時代をレンタカーで味わわせてくれるのは、茨城県高萩市の“レンタカーズSEiWA”である。

初代インプレッサ(92~2000年)には、バージョンアップを繰り返しながら6通りのWRX STiが登場したが、SEiWAのレンタカーは98年9月に出た5番目のバージョンV。5ナンバーの4ドアセダンボディーに280PSの2リッター4気筒水平対向ターボエンジン(EJ20型)を載せた初代WRX STiの最終初期モデルである。

ポルシェ911より速かった

インプレッサWRX STi バージョンVの運転席とダッシュボード、スポーツステアリングとメーター類

MOMOの小径ステアリングが装備されたインパネまわり
●画像クリックでフォトギャラリーへ

インプレッサWRX STi バージョンVの赤黒コンビスポーツシート、助手席と運転席

STiバージョン専用のバケットシートを装備。適度なタイト感でドライビングが楽しめる
●画像クリックでフォトギャラリーへ

現役時代はド派手に見えたリアウイングも、いま見ればそうでもない。あらためて間近にすると、セダンボディーはコンパクトだ。それも道理で、4350㎜の全長は5ナンバーの上限値を30cm以上残していた。

ホールドのいい前席シートやアルミのペダル類はSTI製。白い盤面のアナログメーターにもSTIの赤いロゴが入る。ステアリングホイールはノンオリジナルで、直径32cmと小径のMOMO製革巻きが付いている。

距離計は16万3000km台。旧車レンタカーとしては常識的な数値だ。ここでクルマを借りるのは96年式セリカ・コンバーチブルに次いで2度目だが、併設の認証工場でメインテナンスされた個体の機械的コンディションはいい。

まあまあ重いクラッチペダルを踏んでキーをひねる。一触即発で起きたエンジンが低い排気音をたてる。走り出すと、足まわりがイヤってほど硬い。クスコの車高調整式サスペンションに換装されていたせいだった。

空いた道に出て、右足を踏み込むと、思わず笑ってしまった。それくらいチカラがある。エンジンは7500rpmまでノーストレスで、力強く回る。全社一丸ならぬ、全車輪一丸となって路面を蹴り出す感覚は、トルクのあるハイパワーターボ四駆ならではである。重めのアクセルの踏みシロにみっちりトルクが詰まっている感じだ。4気筒だから、瞬発力もある。

36.0kgmの最大トルク値は、同時代のポルシェ911カレラ(3.4リッター6気筒)の35.7kgmをしのいでいた。というか、写真判定並みのリードは水平対向エンジン唯一のライバル、ポルシェ911を明らかに意識していたのではないかと、筆者は勝手に想像している。

インプレッサWRX STi バージョンVのエンジンルーム、ターボ付き水平対向エンジン

搭載されるEJ20型・水平対向2リッターエンジンは、当時の自主規制いっぱいの280PSを発揮する
●画像クリックでフォトギャラリーへ

新車のときより楽しかった

インプレッサWRX STi バージョンVが山道を走り去る後ろ姿、リアウイングが際立つ

インプレッサWRXをワインディングへと連れ出す。締め上げられた足まわりによって生き生きとコーナーを抜けていく。少しでも長く走っていたいと思うようなクルマだった

初代WRX STiの装備でおもしろかったのは、ルーフベンチレーターである。屋根の前端部に付く小さなフラップで、室内から手動でパカっと開けると、走行風が盛大に前席に入ってくる。当時、あまりクーラーの効かないマイカーに乗っていた筆者はうらやましかった。残念ながらバージョンVには採用されていないが、そのかわり、エアコンはいまでも強力に効く。

ボディー剛性もしっかりしていた。スポーツモデルは手荒く扱われがちだし、ましてやこれだけ硬いサスペンションで揺すられていることを考えれば、立派である。ボンネットを開けると、ストラットタワーとボディーの間にカーボンパイプの筋交いが入っている。WRC参戦の成果は、市販モデルの基本骨格にもさまざまなフィードバックを与えているのだろう。なんて、ポジティブに考えさせるのも、メーカー自らがラリーに打って出ることの“プラス効果”である。

旧車レンタカーで四半世紀ぶりに味わった初代WRX STiは、新車で試乗したときよりもむしろ速く、楽しく感じた。若さをもらいました。いまはもうこんなに豪快なターボスプリンターはない。エンジン本体をダウンサイジングしてターボで補う、みたいなことではなく、ターボを筋肉増強剤的に使った、ターボ本来の力強さとおもしろさにあふれるクルマだった。

・インプレッサ WRX STiバージョンVのスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4350×1690×1405mm
ホイールベース:2520mm
エンジン:EJ20型 水平対向4気筒 1994cc
エンジン最高出力:206kW(280PS)/6500rpm
エンジン最大トルク:353Nm(36.0kgm)/4000rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(前/後):ストラット/ストラット
タイヤ:205/50R16

インプレッサ WRXのフォトギャラリーは、こちらをクリック!

#31 トヨタ・カローラレビン(TE27型)の試乗記はこちらから

GC8型インプレッサについてもっと知りたい場合は、こちらもチェック!

ネオクラシックな90年代スポーツカーの画像

詳細は画像をクリック!

インプレッサをはじめ、スカイラインやスープラ、NSXなど、90年代は自動車メーカー各社がスポーツカーをラインアップしていた。今なおネオクラシックとして人気を誇る90年代スポーツカーたちを一挙紹介。


大きなリアウイングを搭載したクルマの画像

詳細は画像をクリック!

過去には、これ本当にノーマルなの!? と疑ってしまうほどに大きくて目立つリアウイングを装着したクルマもあった。そもそもリアウイングってどんな効果があるの? という機能面の話から、懐かしの個性的リアウイング装着車をピックアップ!


詳細は画像をクリック!

国産車として初めてWRCを3連覇したインプレッサをはじめ、国内外のモータースポーツシーンで活躍したクルマたちを一挙紹介!

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

この記事はいかがでしたか?
この記事のキーワード
あなたのSNSでこの記事をシェア!