510ブルーバードの画像
文=下野康史/撮影=荒川正幸

日産ブルーバード(510型)のラリーレプリカの旧車レンタカーに試乗。 サファリラリーにも出場したブルーバードの実力は? #28

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

日産が1967 年に発売した、ブルーバード(510型)のレンタカーに試乗。ブルーバードはサファリラリーで大活躍し、日本車で初めて総合優勝したことでも知られています。サファリラリー優勝車レプリカのレンタカーを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

70年サファリラリー優勝車のレプリカ

510ブルーバードのフロント7:3

東京都清瀬市の「ときめきカーレンタル 」でお借りしたブルーバードは1971年式で、車検証に記載された車両重量は1070kg。ブルーバードSSSの登場時の店頭渡し価格(東京都)は75万5000円だった
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510ブルーバードのリア7:3

試乗した車両は、1970年の第18回東アフリカ・サファリラリーで優勝したハーマン/シュラー組の4号車を再現したもの。優勝した車両そのものは日産ヘリテージコレクションに所蔵されている
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日産のラインナップからブルーバードが消えて四半世紀近くが経とうとしている。その後、ブルーバード シルフィというモデルが現れたが、これは2001年まで10代を重ねたブルーバードにはカウントしないことになっている。

昭和の代表的ファミリーカーも遠くなりにけり、なのだが、67年に登場した3代目ブルーバード(510型)の、しかもラリーカー仕立てという驚天動地のレンタカーがある。

提供するのは東京都清瀬市の“ときめきカーレンタル ”。ベース車両は2015年に手に入れた71年型1800SSS(スリーエス)。買った当時は満足に自走ができないほどの状態だったが、10年がかりで仕上げた。ラリー出場経験もある同社代表、中川賢一さんの労作だ。
目標にしたのは、70年の東アフリカ・サファリラリーで総合優勝を飾ったクルマ。実車は神奈川県座間市の日産ヘリテージコレクションに展示されている。そこへ通ってデータを集め、21世紀の路上で実用に使うことを考えながら、可能な限り忠実に再現した。

以前からビジネスレンタカーも手がけるときめきカーレンタルには整備部門もある。オリジナルのエンジンは1.6リッターだが、同じL型4気筒の2リッター(L20B)に換装している。こちらのほうが低速トルクがあって扱いやすいからだという。サスペンションの部品はニスモやヤフオクで探した。ラリーカーの世界はディープで、昔のパーツがけっこう出てくるのだそうだ。 

車内には3点式ロールバーが組んである。横のバーはヤフオクで見つけ、縦のバーは自作で溶接した。エンジンルームにはボディー剛性を上げるためのストラットタワーバーが装着してある。そのパイプをクリアするために、ボンネットの細い支持棒がそこだけ半円形に曲げられている 。細かすぎて笑ってしまったが、それも中川さんの自作だという。

かくして出来上がった70年サファリラリー優勝車レプリカ。車検証記載の車名は「ダットサン」。型式名は「H510改」。もちろん車検に適合した合法改造車である。

アドレナリンが出る

510ブルーバードのインパネ

ほぼ黒一色のインパネ。中央に3連メーターも追加され、非常にスポーティな印象だ
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510ブルーバードのシート

運転席はクラシックな印象のバケットシート。ホールド性は高い

半世紀以上前のクルマとはいえ、見た目は“競技車両”である。どんな武闘派かと覚悟して乗ると、肩すかしを食らった。MT車を運転できる人なら、だれでも乗れると言っていい。

ラリータイヤを履いているために、40km/hあたりから独特のロードノイズが高まるが、ラリーカーっぽさといえばそれくらいである。今のSUVに慣れているせいか、運転席にいて、目線の高さはとくに感じない。最低地上高は実車から採寸した数値に合わせてある。よくこの車高でサファリのオフロードを走りきれたものだと思う。

L20B型は市販の510ブルーバードには載っていないエンジンだが、たしかに扱いやすい。燃料供給は2基のソレックス・キャブレターによる。大口径キャブならではの野太い吸気音を聞くと、アドレナリンが出てくるが、気むずかしさはない。発進時に一度だけエンストさせたが、キーをひねるとすぐかかった。

チカラは21世紀の路上でも十分以上である。キャブ車の特徴で、なんというか、加速が“太い”。3000rpmも回せば、交通の流れをリードできる。

5段ギアボックスのハガネチックなシフトフィールがキモチイイ。クラッチペダルは重くない。ノンパワーのステアリングも扱いやすいが、据え切りだと親のカタキのように重くなる。ウチの奥さんはMT車に乗れるが、このハンドルは回せないだろう。

エンジンルームの容積がそれほど大きくない510ブルーバードは基本的に“暑がり”で、このクルマも気温の高い日に渋滞にハマるとオーバーヒート気味になるという。そのため、夏場の貸し出しは考えていないそうだ。

といったようなこともあるが、この日の半日ドライブでは、総じて完成度の高さに驚かされた。筆者は90年代のなかば、オーナー車取材で67年型1600SSSを経験したことがある。そのときも“ゴーイチマル”は後輪駆動ブルーバードの最高傑作だと思ったが、このサファリ優勝車レプリカはさらに好印象で、より“新しいクルマ”に感じられた。今のノーハウと技術で復元すると、旧車も進化するのだ。しかも、そんなクルマがレンタカーで借りられるのである。

かつてラリーをやっていた人に乗ってもらいたいと、中川さんは言っていた。筆者はキャブレターエンジン車の楽しさを知りたい人にお薦めしたいと思った。日産はいま火の車のようだが、ヘリテージ(遺産)の世界では、こんなにすばらしいことが起きているのである。

510ブルーバードのエンジン

本来搭載されていたL18型エンジンに代えてL20B型・2リッター直列4 気筒エンジンを搭載。そのため車検証に記された形式名は「H510改」となる
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走り去る510ブルーバード

2リッターエンジンに換装したことも手伝って、太いトルクによる加速感が印象的な510ブルーバード。1970年前後のラリーシーンを思い起こさせてくれるドライブとなった

・ブルーバードのスペック(試乗車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4120×1630×1400mm
ホイールベース:2420mm
エンジン:L20B型 水冷式直列4気筒 1998cc
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(前/後):ストラット/セミトレーリング
タイヤ:175/65R14

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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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