チェイサー・レガシィ・スカイライン・ギャラン…マニュアル4ドアスポーツセダンが輝かしい時代
あの頃のファミリーカーはミニバンじゃない! お父さんも楽しい4ドアセダンファミリーカー=ミニバンという時代が来る前、1990年代前半までは、セダンが当たり前にファミリーカーだった。子供が産まれて2シーターに乗れなくなったスポーツカー好きにとって、子育てと走りを両立するのに欠かせない存在だったのが4ドアスポーツ。昔はマニュアルトランスミッション(MT)やスポーツグレードの設定も多く、ファミリーカーであっても十分にスポーツ走行が楽しめた。今回はそんな懐かしい、今となっては貴重なMTを選択することができたスポーツセダンたちをピックアップ!
家族が乗れて走りも楽しい「4枚ドア」の選択肢は豊富だった
見た目はおとなしいセダンなのに、いざ走らせてみるとGTスポーツカーを凌駕するほどのパフォーマンスを発揮! そんな二面性をもったモデルのことを、一昔前のクルマ好きの間では、“羊の皮を被った狼”と呼んでいました。その元祖は、オーソドックスな3ボックスの車体にロータス・エラン用ツインカムエンジンを搭載した、英国フォードのコルチナ・ロータス(1963年)。また日本では、レースでの必勝を目指し、4気筒用として作られていたスカイライン1500の車体フロント部分を20cm延長し、グロリア用直列6気筒エンジンを押し込んだS54BスカイラインGT(1964年) が代表例とされています(いずれも諸説あり)。
この両車ほどの特別仕立てではないにせよ、かつて4ドアセダンがファミリーカーの王道だった時代、廉価モデルに限らず、トップグレードにもマニュアルのトランスミッション(以下、MT)が選べるホットモデルが必ずと言ってよいほど用意され、「高性能を楽しみたいけど、家族が乗れるユーティリティも不可欠」という、2つの条件の成立に悩むクルマ好きのおトーサンたちに大いに喜ばれていました。
そこから時代は平成、令和へ。ファミリーカーの主役はミニバン・SUVに代わり、MTのホットモデルどころか純粋な3ボックス型のセダン自体、国産全メーカーを見渡しても数えるほどしか残されていない現状となっています。
もちろん車内でのおむつの交換や着替えといった小さな子供のお世話や、車中泊などのレジャーシーンにおける使い勝手という点を考えると、空間的な広さに勝るミニバン・SUVの優位性は認めざるを得ないトコロ。それでもあえてMTの4ドアスポーツセダンを推したくなるのはやはり、クルマ好きなら誰もが共感できる「運転の楽しさ」を忘れないでほしいという想いがあるからこそ……。
今回ピックアップしたクルマの中には、まだまだ中古車市場で容易に見つけることができる、比較的高年式の車両もあります。もし興味をひかれるクルマがあれば、次なるマイカー選びの候補のひとつとして、頭の隅に留めておいてもよいかもしれません。
4WDシステムATTESA(アテーサ)を初採用
ラリー競技用のスペシャルモデルも設定
日産・ブルーバード SSS(U12系) 1987年登場
大ヒットとなった910型の後継というプレッシャーからか、過度にコンサバ路線に徹したU11系からイメージを一新。再びヒットモデルへと返り咲いた
他社に先駆けて4輪独立懸架やSOHCエンジンなどを採用した名車、510型から20年。FFの他、のちにスカイラインGT-Rにも継承される新フルタイム4WDシステム、ATTESA(GT-R用は進化版のATTESA-E-TS)の搭載でも話題となったU12系ブルーバード。車体は4ドアハードトップと4ドアセダンの2機種で、チューニングエンジンやクロスミッションを備えたモータースポーツ用のSSS-Rも設定されていた。モデル末期にはオーストラリアから逆輸入の5ドアハッチバックモデル、AUSSIE(オーズィー)も追加された。
約4年のモデルライフにおいてマイナーチェンジでの変更点がほとんど見られなかったことも、スタイリングの完成度の高さを裏付けている
バブル時代に生まれた個性派セダン
キャッチコピーは「くうねるあそぶ。」
日産・セフィーロ スポーツクルージング(A31系) 1988年登場
コンフォートタウンライド以外、すべてのグレードに5速MTを設定。スポーツクルージングには後輪操舵システム「HICAS-II」も採用されていた
クルマのみならず、ファッションやグルメなどあらゆるものが過剰なまでに華美だったバブル時代、「『美しさ・遊び心』を大切にする知的なヤング・アダルトのためのスタイリッシュなパーソナルセダン」 としてデビューしたセフィーロ。グレードはGT、SR、GLといった英記号ではなく「タウンライド」「ツーリング」などの名称で分類されていた。この中で最もスポーティなモデルが205馬力を発生するRB20DETエンジン+5速MTの「スポーツクルージング」。シャシー性能も秀逸で、のちにドリフトファンたちの間でも大人気となった。
インタークーラーやセラミックタービンを備え、205馬力のパワーと27kgmの最大トルクを発揮したセフィーロ スポーツクルージングに搭載の直列6気筒RB20DETエンジン
歴代屈指の名作モデルとして
今なお高い人気を堅持
日産・スカイライン GTS-t タイプM(R32系) 1989年登場
大きく取られたホイールアーチやブリスター状のリアフェンダーラインなど、改めて見直してもスタイリッシュなR32型スカイライン
ガタイがデカいと言われた先代R31型から全長を80mm切り詰めるとともに、シャシーを一新。第2世代GT-RのベースにもなったのがR32型。運動性能の進化は目覚ましいものがあったが、4ドアの全高はR31型と比較して45mmダウンとなり、後席の居住性はかなりタイトに。この問題を解決すべく後継のR33型では再びサイズアップが図られたが、R32型ほどの支持を得ることができなかったのは周知のとおり。
“絶壁”と評されたR31からデザインを全面変更。操作系統をステアリングの周囲に集中させたスポーティなインパネ
ファミリーセダンの常識を変えた
驚きのハンドリング性能
日産・プリメーラ 2.0Te(P10系) 1990年登場
主張をあえて抑え、シンプルに徹したスタイル。翌年には英国から逆輸入の5ドアハッチバックも追加されている
90年代に世界No.1の技術を実現することを目指した「901運動」を象徴する一台と言えるのが、初代プリメーラ。マルチリンク式サスペンションをフロントに採用することにより、FF車とは思えないナチュラルかつ安定感のあるハンドリング性能を実現。今日では当たり前のように用いられている、ボディサイズやシャシー性能、車内空間などをトータルで表す「パッケージ」という言葉を、宣伝コピーやカタログ資料内にいち早く用いていた。
エンジンルームをコンパクトに抑えることで、余裕のキャビンスペースを確保。トランクはダブルヒンジ式で、開口部の広さも長所とされた
なぜマニュアル車は減ってきたのか
この疑問への明確な回答を見つけるのは難しい、というのが正直なトコロ。かつては動力性能面でATに対する優位性を持っていたMTだが、クラッチ操作を電子制御で行うセミATの登場によりその立場は逆転。ハイパースポーツカーと呼ばれる分野ではほぼすべてがセミATで、人間がHパターンのシフトをカチャカチャ操作するより機械任せにしたほうが速いことが実証されている。
また1991年のAT限定免許導入も要因のひとつ。「運転が上手くなりたい!」としゃかりきになっていた昔とは異なり、現在は「移動するなら楽チンなほうがいいじゃん」という声のほうが圧倒的。しかも免許の取得費用も安価とくれば、わざわざ乗りもしないMT免許を取らなくても、という気持ちになるのもしかたないハナシ。長年3ペダルのMT車にこだわり続けて来た筆者としては寂しい限りだが、この先もMT車は減ることはあっても、増えることはないと思う。
4輪ダブルウィッシュボーンへと進化
グレード名も変更され新しいファン層を開拓
トヨタ・マークⅡ ツアラーV(90系) 1992年登場
歴代モデルの面影を残しつつ、ウエッジシェイプを取り入れたスタイルに一新。フロントグリルはボンネットと一体式となっていた
6代目マークII(GX81)のマイナーチェンジ時に投入された最高出力280馬力の1JZ-GTEツインターボエンジンを継承しつつ、グレード名を「GTツインターボ」から「ツアラーV」へと変更。強力なパワーを確実に受け止めるべく、前後異なったタイヤサイズが与えられていた(フロント205/55R16、リア225/50R16)。3ナンバーサイズへと拡大し先代に対し力強さを増したスタイルも好評で、ユーザー層の若返りが図られた。
上下が薄く細長いテールランプ形状がマークIIの特徴。このモデルからサッシュ(窓枠)付きの4ドアセダンタイプは廃止された
先進のメカニズムを搭載した
通好みのミディアムセダン
三菱・ギャラン VR-4(EC1/3系) 1996年登場
ヒット作となった6代目モデルを現代的にリファインさせたようなフロントマスクを特徴としていた8代目ギャラン。ワゴンボディの兄弟車、レグナムも同時に発売された
6代目モデルはWRCで大活躍。その後、役目をランサーへと移行し、スポーティなミディアムセダンとしての道を歩むこととなったギャラン。若干、アクが強めだった7代目に対し、8代目モデルは6代目の雰囲気を彷彿とさせるシャープかつ抑揚のあるデザインへと生まれ変わった。メカニズム的には世界初とされる筒内噴射ガソリンエンジン(GDI)が話題となったが、6代目から続くスポーツグレードVR-4にはGDIではなくV6 2.5Lツインターボが搭載されギャラン初の280馬力を達成。ハイパワーなエンジン以外にも、左右後輪間で駆動力をコントロールし旋回性能を高めるAYCや、4輪にかかるブレーキ力を独立制御するASCなどの最新装備がVR-4専用装備として与えられていた。
革巻きのステアリングやシフトレバー以外に走りを意識させる部分は少なく、オトナのスポーツセダンという佇まいを見せる
丸型4灯ヘッドランプ化が大成功
モータースポーツシーンでも活躍
トヨタ・チェイサー ツアラーV(100系) 1996年登場
スポーティさを前面に押し出し、マークIIに対し明確なキャラクターの違いを見せていた100系チェイサー
「ダイナミックなスポーツセダン」をテーマとした100系チェイサー。これまでマークIIの影に隠れがちだったが、丸型4灯ヘッドランプの採用によりマークII3兄弟(マークII、チェイサー、クレスタ) の中でもひときわ目を惹く存在に。さらにスポーティなイメージを高めるべく、1997年から全日本ツーリングカー選手権(JTCC)にも参戦。生産終了から20年以上が経過しているが、中古車市場ではいまだに非常に高い人気を誇り、マニュアル車はプレミア価格での取引が行われている。
フロントマスク以上に端正な印象のリアビュー。ドリフトやチューニングカーのベースとしての人気もマークII以上だった
本気で走れた
4枚ドア最強スポーツセダン
RB26ターボ+4WD+5速MT+4ドアという“全部のせ”状態だったオーテックバージョン。ただし、リアシートは専用のバケットタイプのため乗車定員は4名とされていた
カテゴリー的にはファミリーセダンではなく本格的なスポーツカーに入れたほうがふさわしい、ということで今回の紹介リストからはあえて除外したが、近年における4ドアMTスポーツセダンの代表格といえばやはり三菱・ランサーエボリューションとスバル・インプレッサWRX(同WRX STI)であることに異論はないハズ。
それらと同様に、一世代前の忘れられない一台がスカイラインGT-Rオーテックバージョン40th ANNIVERSARY。これは名称の通り、スカイライン誕生40周年を記念してオーテックが製作した4ドア版GT-R。そもそも元祖GT-Rは4ドアセダン(1969年発売のPGC-10)だったこともあり、ファンは大歓喜。約400台とされている生産台数は瞬く間にSOLD OUTとなった。ちなみにR32の時代にも4ドアセダンをベースとしたRB26エンジン搭載車が作られているが、ターボは取り外され(カムシャフトやピストンなどは専用品)、トランスミッションもATのみということもあってか、GT-Rの名称は用いられず単に「オーテックバージョン」と呼ばれた。
初代ギャランVR-4の血統を受け継ぎ、WRC戦略車として開発されたランサーエボリューション。"ランエボ"の通称で親しまれ、シリーズは1992年の初代モデルから2007年のX(10)まで長きにわたり続いた(写真はVII(7))
ランサーエボリューションのライバルで、こちらはレガシィに代わるWRC戦略車として開発。3代目のマイナーチェンジ時にはインプレッサの名称が消え、「スバルWRX STI」となった(写真は2代目モデル)
6速MT+FRで走り爽快!
クロノグラフ調メーターも話題に
トヨタ・アルテッツァ RS200(XE10系) 1998年登場
フロントミッドに搭載された2L4気筒3S-GEエンジンは6MT車が210馬力、5AT車は200馬力とミッションによって特性を変えていた
2LクラスのFR車が消え去ろうとする中、彗星のごとく現れたアルテッツァ。前後のオーバーハングを切り詰めたコンパクトなボディ、4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション、後輪駆動、6速MTと、スポーツカー好きが求める要素を凝縮。4ドアセダンながら発売直後は「ハチロクの再来」として若者世代からも大歓迎された。主力は4気筒の3S-GEエンジンを搭載したRS200だったが、マイナーチェンジで追加された6気筒1G-FEエンジンを搭載するAS200の6MTモデルも隠れた人気を得ていた。
スピードメーター内に電圧計、水温計、油圧計を収めたクロノグラフ調メーターが特徴。居住性も高く、大人4人がゆったりと乗ることができた
4WDならではの安定感が持ち味
大人好みの長距離クルーザー
スバル・レガシィB4 RS(BE系) 1998年登場
派手さを抑えたスタイルは幅広い世代からの支持を獲得。2000年にはポルシェデザインによるエアロパーツを装着した「ブリッツェン」も追加された
先代(BD/BG型)まではどちらかと言えばセダンよりワゴンがメインという見方が強かったレガシィだが、BE/BH型からセダンにはB4のサブネームが与えられ、イメージを一新。グレードも発売時はターボ付きのRSK(最高出力280馬力【MT車】、260馬力【AT車】)、NAのRS(最高出力155馬力)という2種類に絞り、廉価モデルを廃止。スモーク仕上げのテールランプも5ナンバーサイズらしからぬ重厚感を漂わせていた。この戦略は功を奏し、派手さを嫌う本質重視派ユーザーからの熱烈な支持を獲得。モデル末期には出力を高めるとともに、6速MTを採用したS401STi バージョンも登場。
独特のサウンドが魅力の水平対向エンジン。B4のネーミングはBOXER(水平対向エンジンの俗称)4WDに由来している
220馬力のNAエンジンを搭載
"R2"の称号にふさわしい走行性能を発揮
ホンダ・アコード ユーロR(CF/CL系) 2000年登場
発売時の車体のイメージカラーはタイプRでは定番のチャンピオンシップホワイトではなく(設定そのものがない)、ミラノレッドが使用されていた
NSX、インテグラ、シビックに続く第4の“R”となったアコード。とはいえ、こちらは先発の3台に対しセダンとしての快適性やラグジュアリー性といった点も重視され、ネーミングも「タイプR」ではなく「ユーロR」とされた。それでもNA(自然吸気) エンジンはSiRグレードの190馬力を大きく上回る220馬力を発生。車高も専用サスペンションにより15mmローダウン化されたほか、ボディ剛性やブレーキシステムも強化。NAならではの俊敏なレスポンスと活発な走りを存分に楽しむことができた。
レカロ製バケットシート、MOMO製ステアリングホイール、アルミシフトノブなど内装もユーロRの専用仕様に。兄弟車としてトルネオ ユーロRも存在
2年前まで新車で買えた4枚ドアの6MTセダン
マツダ・MAZDA6
AT全盛の中、販売台数が見込めない6速MTグレードの設定を断行したマツダの姿勢には、自動車ファンとして拍手を送りたいところ
一部のスポーツタイプを除き、AT(CVTを含む)が当たり前となった国産車の中で、コンパクトやSUVにもMT車の設定を根気強く続けてきたマツダ。最近まで ミドルセダンのMAZDA6にもMTモデルが存在していた。豊かな中低速トルクが自慢の2.2LディーゼルターボとMTとの組み合わせにより、立派にスポーツセダンとしての走りを楽しむことができた。しかし、2022年12月にMTが廃止。MAZDA6自体も2024年4月をもって国内向けの生産が終了。国産車からまたひとつ、4ドアセダンが姿を消すこととなった。
内装はATと共通。このシックな佇まいを6速MTで走らせるというスタイルは、相当シブいと思うのだが……
マニュアル4ドアスポーツセダン特集、いかがでしたか? 今から十数年ほど前までは、今回ここで取り上げたもの以外にも、各メーカーのラインナップには個性豊かなスポーツセダンが多数存在していました。現代はミニバン・SUVが圧倒的多数を占める世の中ですが、ファミリーカーとしての選択肢を広げる意味でも、イマドキの技術や視点を盛り込んだ新しい感覚の4ドアセダンが出て来てもイイように思えますが、皆さんはどうお考えでしょうか?
高橋陽介
たかはし・ようすけ 雑誌・Webを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに興味を寄せる。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。