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ごみ清掃車とマシンガンズ滝沢さん
取材・文=武田智志/撮影=西尾 豪

マシンガンズ滝沢がごみ清掃車との日々を振り返る!「生ごみの臭いの原因は○○です」

身近な存在なのに意外と知らない「ごみ清掃車」の世界【前編】

お笑い芸人とごみ清掃員、異色の“二刀流”で知られるマシンガンズ・滝沢秀一さん。2012年、滝沢さんが36歳のときに奥さんが妊娠。当時不安定だった芸人としての稼ぎだけでは心許ないと、定収入を得るために知人に紹介してもらったのが、清掃員になるきっかけでした。

清掃員としての体験や気づきを発信したツイッター(現X)での投稿が話題となり、2018年に初の著書を出版。その後もごみや環境問題をテーマにした著書を次々と出版し、累計発行部数は20万部超え。本業のお笑いでも2023年に『THE SECOND~漫才トーナメント』にて準優勝するなど、 “二足のわらじ”の両足でブレイクを果たしています。

13年目のベテラン清掃員となった現在も、組合に所属する非常勤の職員として、東京23区内を清掃車で駆け回る日々を送る滝沢さん。そこで身近な存在なのに意外と知らない“はたらくクルマ”「ごみ清掃車」について教えてほしいと依頼。練馬区環境部練馬清掃事務所の協力で、実車を見せてもらえることになりました。現役の清掃員の視点から、ごみ清掃車の機能や積載装置の使い方、収集作業をめぐるエピソードの数々を伺いました。

目次

清掃員の相棒「パッカー車」
最大の特徴、ごみ積載装置の仕組みとは?

パッカー車の様子

――ごみ清掃車は滝沢さんにとって、どんな存在ですか?

清掃員にとっては“相棒”みたいなものですね。このクルマに乗っていると子供たちが手を振ってくれたりするので、仕事のスイッチが入って、みんなのために働いている「公の人間」という意識になります。仕事中ですので、車内ではタバコは吸いません。

考えてみれば、昔はリヤカーを引っ張って、荷台に生ごみを載せていたりしたわけですから、大変な時代でしたよね。もし、ごみ清掃車がなかったら、今でもリヤカーで収集作業をしていたかもしれないですから、社会にとって、こんなに頼もしいクルマはないと思います。


――ごみ清掃車のことは普段、なんて呼んでいるのですか?

清掃員は「パッカー車」と呼んでいます。ごみを圧迫するので「プレス」とも言いますね。
ちなみに、いま目の前にあるものは、小型プレス車というタイプになります。小型といえども最大で2トンまで積載することができます。ごみの種類にもよりますけど、収集できる目安はごみ袋900個分と言われていますね。

※パッカー車
練馬清掃事務所によると、パッカー車の由来は「詰める」という意味の英単語「pack」からきているという説と、アメリカの老舗トラックメーカー「PACCAR社」からきているとする説があるとのこと。ちなみに国交省による区分は「塵芥車」(じんかいしゃ)。

小型プレス車

小型プレス車。小型トラックをベースに荷台にごみの積載装置を架装している

――普段はどんなタイプの清掃車に乗られているのですか?

東京23区は今回、紹介しているこの小型プレス車ですね。あとは粗大ごみだと「小型ダンプ」という荷台があるトラックのような車で収集することもあります。

――清掃車の一番の特徴といえば、ごみの積載装置だと思いますが、どんな仕組みになっているのか、教えてください。

投入口(バケット)にごみを入れて、圧縮板という金属のプレートで圧縮して、かさを減らした状態で、奥の荷台へ押し込んでいきます。ゴミを「巻く」なんて言い方もしますね。「積込」ボタンを押して圧縮版を動かすんですが、安全対策で1秒以上押さないと作動しないようになっています。
入れたものに違和感があったり、挙動がおかしいなと思ったら、動きを反転させることもできます。

車両の左後方にある圧縮板の操作盤

車両の左後方にある圧縮板の操作盤

「積込」ボタンを押して、圧縮板を操作する

「積込」のボタンを押すことで、圧縮板を操作できる

――ごみ収集の際は、危険を伴うこともあると思います。安全装置のようなものはあるのですか?

緊急停止ボタンが投入口の両側についています。あと両手がふさがっている時は、足で止められるようにバー形状のスイッチもあるので、合計3つ付いていますね。


――作業中に清掃員が巻きこまれるような事故を聞いたことはありますか?

何年かに一度くらいの頻度で事故があるようですが、そこまで聞かないですね。全国レベルであった事例だと、一人で作業をしていたときに巻き込まれて亡くなっていたことがあるらしいのですが、僕の周りでは聞いたことがありません。

投入口の両側の赤いボタンとバー形状のスイッチ、合計3ヶ所に緊急停止ボタン

投入口の両側の赤いボタンとバー形状のスイッチ、合計3か所にある緊急停止ボタン

足元の緊急停止バーを操作する滝沢さん

足元の緊急停止バー。こちらをキックすることで緊急時に停止することができる

――可燃ごみの入った袋を押しつぶす様子は想像できるのですが、他には小型プレス車で、どんなごみの収集を行いますか?

区によって違いがあります。不燃ごみやペットボトル、ダンボールなんかもパッカー車(小型プレス車)で収集するところもありますし、潰さずに荷台のあるトラック型のクルマで収集する区もあります。


――さすがに金属は無理ですよね……?

スプレー缶とかは、車両火災の原因となる場合があるため、区によるかと思いますがこのパッカー車でプレスします。フライパンくらいだったら問題ないですね。

もう少し大きい中型のプレス車だったら、自転車とかベッド、食器棚のような粗大ごみを入れても大丈夫です。砕くというか曲げるくらいですけど、とにかくすごいパワーなんですよ。これだけのパワーがある車ですので、大袈裟ではなくて、清掃車に一般の方がうかつに近づくのは危ないんです。

――収集後、清掃車はどこへ向かうのですか?

大体40〜50か所の集積所をまわると、いっぱいになるので、清掃工場に行って荷箱の中身を出します。それを1日に6回くらい繰り返しています。

車体横の小窓をのぞくと、荷箱の様子を確認することができる

車体横の小窓をのぞくと、荷箱の様子を確認することができる

テールゲートが上がった様子

清掃工場へ到着すると、テールゲートを上げて排出板を操作し荷箱の奥からごみを押し出す

ごみ収集は3人1組の“演劇”
運転手1人、収集作業員2人の“調和”がカギ

ごみ袋を積み込む滝沢さん

――滝沢さんも清掃車を運転することはありますか?

僕は運転しません。収集作業だけです。基本的に運転手1人、収集作業員2人の3人体制で集積所を回ります。


――収集作業では、運転手との連携も大切そうですよね。

まずは収集しやすい場所に停車してもらう。これが最初の大切な連携です。集積所で停める際に、積みやすい位置にクルマをつけてくれるとありがたいのですが、遠すぎるとその距離を歩いて収集作業をすることになります。1回ではちょっとした距離ですが、1日に200か所、300か所と回るとなると、なかなかストレスになります。

あとは夏だと作業員がクルマに戻ってきたときに、冷房を強くしてくれると、素敵な運転手さんだと、うれしくなります。運転手さんは冷房が効いている車内にいますので、暑くない状態で待っていますが、僕ら作業員は汗をダラダラと流しての作業になっていることもあります。そんななかで、作業員のことを考えて、冷房をあえて強くしてくれていると、本当にありがたい。どんな仕事でも、やっぱり相手の立場に立てるかどうかって大事だと思います。


――収集担当の作業員同士の協力も大切ですよね?

作業員同士の連携で、もっとも大事なことは、通行する方への対応です。作業しているそばを通ったりする方もいますので、「歩行者!」と声をかけます。絶対に地域の住民を危ない目に遭わせるわけにはいかないので、そこはチームプレーが重要になります。

そんなチームプレーを経て、ものすごい量のごみを収集しきったときなどは、作業員、運転手さんと「これで最後だ!」って言い合ったりして、まるで演劇が終わってカーテンコールを迎えるような、そんな独特の達成感を持てることもあるんです(笑)。

ごみは時代を写す鏡
車両火災につながる“危険なごみ”も

ごみ問題を語る滝沢さん

――ごみ投入作業時でのコツ、注意していることはありますか?

投入するときは、作業員それぞれで、オリジナルのやり方があります。僕は遠心力を使って投げ込みます。これは楽なんです。注意していることは、生ごみの袋です。持ったときに、重みがあって「汁が多いな」と感じた時は、投入口の正面に立たないようにしますね。プレスしたときにブシャッ!っと飛び出たりすることがあるので。あと、ごみ袋を抱えるように持つとけがの原因になるので、結び目のところを持つようにしています。竹串やガラス片を気づかずにつかんでしまい、何回も手を切ったことがあります。ちょっと意識しただけでも、けがをしにくくなります。

――ごみ収集時に何か怖い思いをしたことはありますか?

包丁が飛び出てきたことがあります。ごみ袋を持ち上げた時に刃物なので突き破って出てきました。ほかにもアイスピックとか、生花に使う剣山とか、ごみを出している方は何とも思わないかもしれませんが、刺さっちゃったりするので怖いですよね。

未使用の袋に入った小麦粉なんかも清掃車の圧縮板に挟まって、パーン!と風船みたいに割れたことがあります。中から白い粉が出てきて……、最初は何の粉かわからないので怖かったですよ。農薬をそのまま捨てたという事例もありますし、粉塵が飛散したりすると、吸ってしまったけど、大丈夫だったのかと不安になります。

−−とくに注意しているゴミはありますか?

モバイルバッテリーなどに使われている「リチウムイオン電池」ですね。圧迫されると出火する危険性があるので、車両火災の原因になります。

このリチウムイオン電池の問題は、10年前にはありませんでした。そういった社会の流行り廃りみたいなことも、収集作業をしていると感じますね。

清掃車の進化を期待する前に、私たちにできること
生ごみの臭いを軽減する“ひと手間”

――滝沢さんが考える“未来の清掃車”はどんな姿になりそうですか?

収集作業中に「におい」について、言われることがあります。清掃員は慣れるんですけど、住民にとっては決して気分の良い「におい」ではないですから。そこで、清掃車からいい香りがしたほうがいいのかなと思ったりもします。実際にチョコレートやジャスミンなど、車からいい匂いが出る装置も研究開発されているみたいなんですよね。でも“香害”みたいなこともあって、化学的なものが苦手な人もいますし、これも難しいところです。チョコレートのような甘い香りだからといって、みんながいい匂いと感じるとは限りませんから。結局、“匂い装置”を標準装備にするのは、今後も難しいかもしれないですね。


――清掃車の「におい」の問題は難しいですね。

ただ、改めて考えてほしいのは、そもそも清掃車が臭いわけじゃないんですよね。回収するごみが臭いわけです。また、すべてのごみが臭いわけじゃなくて、生ごみが臭いんですよ。そして、生ごみだから臭いわけじゃなくて、臭いのは「生ごみの汁」なんです。ごみ清掃車に新しい機能を付けることを考える前に、みんなが生ごみを水切りしてくれたら、不快な臭いはだいぶ消えるはずなんです。生ごみを集めたときに水分で結構な重みになります。重さで収集できる量は変わってくるので、結果として車重や積載量が清掃車のガソリン代に反映されます。小さなことですが、皆さんの協力が自治体のコストカットにもつながるんです。


――最後に滝沢さんの未来についても聞かせてください。現在はお笑い芸人としても十分な収入があると思うんですが、今後も清掃員の仕事は続けられるんですか?

収入のためというよりも、目標が「日本のゴミを減らしたい」ということなので、実際に現場を見ていないとダメなんですよ。リチウムイオン電池など、時代によっても出されるゴミが変わっていきますし、社会問題とかも段々と違うものに移行していっています。インターネットの聞きかじりで本を書いても伝わらないというか、収集作業の現場を見続けなきゃいけないなと考えています。

「日本のごみを減らしたい」と今後の活動について語る滝沢さん

「日本のごみを減らしたい」と今後の活動について語る滝沢さん

マシンガンズ 滝沢 秀一

たきざわ・しゅういち 1976年生まれ。東京都足立区出身。 カルチャースクールで知り合った相方・西堀 亮と、1998年にお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。お笑い芸人として活動する一方、2012年からごみ清掃員としても勤務。 ごみ収集中の体験や気づきを発信したツイッター(現X)での投稿が人気を集め、2018年に初の著書となる『このゴミは収集できません~ゴミ清掃員が見たあり得ない光景~』を出版。その後もごみや環境問題をテーマにした著書を次々と出版し、累計発行部数は20万部超え。現在は講演活動なども行っている。

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