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一般社団法人自動車盗難防止協会アドバイザーを務める元刑事・佐々木成三氏の近影。
取材・文=武田智志/撮影=大槻圭介

元刑事も導入した愛車を守る「最後の砦」…“数十秒で盗まれる時代”の現実と対抗策

純正セキュリティは突破される? 愛車を守り抜く“物理”と“デジタル”の鉄壁ディフェンス
佐々木 成三

デジタル化する自動車窃盗の手口——。
いま主流となっているのは、車のシステムそのものに侵入し、不正に操作する“ハッキング型”の手口です。解錠からエンジン始動まで、わずか数十秒で完了するケースも珍しくありません。従来の防犯対策だけでは、防ぎ切れない時代に入っています。

こうした状況を踏まえ、元刑事の佐々木成三氏自身も「最後の砦」として、あるセキュリティシステムを導入しています。それが「後付けイモビライザー」です。

最新の自動車盗難の実態について解説していただいた第一話に続き、全三話でお届けする「自動車防犯最前線」シリーズ第二話となる本稿では、CANインベーダーにゲームボーイ、最新手口の解説とともに、実機を使った検証で後付けイモビライザーの有効性を探りました。

目次

車は“ハッキングされる”時代へ
カギを複製する「ゲームボーイ」の脅威

──カギの保管方法にも注意が必要ですか?

佐々木氏)玄関付近に保管するのは避けたほうがいいでしょう。スマートキーから常に発信される微弱な電波を特殊な機器で増幅・中継し、カギが離れた場所にあっても解錠できる「リレーアタック」と呼ばれる手口があります。対策としては電波が遮断できるようにスマートキーを金属製の容器に入れたり、なるべく車から離れたところに保管するなど、物理的に距離を取ることも有効です。

リレーアタック対策としてスマートキーを金属容器に入れ、電波を遮断して保管する方法。

金属製の容器にスマートキーを保管し、電波を遮断することが防犯の一助に

──現在、主流になっている窃盗手口について教えてください。

佐々木氏)車をハッキングする「CANインベーダー」という手口が主流となっています。「CAN」というのは、コントローラーエリアネットワーク(Controller Area Network)の略で、車の制御を司る通信システムのことです。今の自動車は各部品がコンピューターで制御されています。これらを結ぶ車内の通信システムの配線に特殊な機器を接続してネットワークに侵入し、不正に車を乗っ取る手口がCANインベーダーです。

自動車盗難の主流手口「CANインベーダー」に使用される特殊な接続機器。車の通信ネットワークをハッキングする。

CANインベーダー(写真=自動車盗難防止協会提供)

佐々木氏)自動車メーカー側でも、このCANにアクセスできる配線を隠すなど対策を講じていますが、最近では車体に穴を開けて配線にアクセスする手口も確認されています。窃盗犯は車種ごとにどこに穴を開ければいいかを把握しています。作業自体も非常に早く、数十秒で完了するケースもあります。

CAN配線にアクセスするため、バンパー付近の車体に穴を開けられた自動車盗難の被害状況。

車体に穴を開けられた被害車両1(写真=自動車盗難防止協会提供)

車種ごとに異なるアクセスポイントを狙い、精密に穴を開けられた盗難未遂・被害車両の近影。

車体に穴を開けられた被害車両2(写真=自動車盗難防止協会提供)

──CANへの不正アクセス以外に、どんなハッキング手口がありますか?

佐々木氏)通称「ゲームボーイ」と呼ばれる特殊な機器があります。十字キーやボタンがあり、見た目がゲーム機に似ていることからそう呼ばれています。

本来の名称は「キーエミュレーター」といって、車両データからカギを生成・複製することができる機器です。海外で車の点検などの用途で使われているのですが、それを違法に改造したものが「ゲームボーイ」として出回っています。闇市場では数百万円で取引されるなど非常に高価ですが、車を複数台盗めば元が取れるため、犯罪グループとしては十分に採算が合うビジネスになっています。

通称「ゲームボーイ」と呼ばれるキーエミュレーター。スマートキーの電波を複製し瞬時に合鍵を作成する機器。

「ゲームボーイ」は、ドアを開ける際に発せられる微弱な電波をつかんで瞬時に合鍵を作ることができる
(写真=自動車盗難防止協会提供)

元刑事も導入!
愛車を守る“最後の砦”とは?

──CANインベーダーやゲームボーイによる被害を防ぐ手立てはありますか?

佐々木氏)警察もそういった機器が出回っていることを把握しているので、車のカギとはべつに「後付けイモビライザー」を装備することを推奨しています。たとえ純正のスマートキーが突破されても、もう一つのカギがなければエンジンの始動ができません。いわば自動車防犯における“最後の砦”となります。

この「エンジンがかからない」ということが、デジタル化した現在の窃盗手口に対しては非常に有効です。私も所有する車に、「オーサーアラーム」(Author Alarm)という海外製の後付けイモビライザーを取り付けました。自動車盗難防止協会の防犯アドバイザーに就任したという経緯もあり、実際に有効性を検証してみようと思ったのがきっかけです。

──海外製のセキュリティシステムを導入された理由は?

佐々木氏)海外メーカーは「攻撃される前提」で製品を開発しています。脆弱性をチェックするホワイトハッカーによるテストなど、実際の攻撃を想定した“実戦ベース”でセキュリティシステムを進化させています。

また窃盗に用いられる「CANインベーダー」や「ゲームボーイ」といった機器も海外製なので、その対抗策として海外で培われたセキュリティ技術は、現状の車両盗難対策として非常に有効です。日本製でも同様の仕組みを持つ製品はありますが、重要なのは車の制御を司るCANに連動する後付けのイモビライザーを導入することです。

元刑事・佐々木成三氏も導入したオーサーアラーム(Author Alarm)の後付けイモビライザー製品イメージ

佐々木氏が導入したオーサー社の「オーサーアラーム」。写真はサイレン付きのモデルで価格は約20万円(税別)。ゲームボーイ対策でドア開錠を阻止するタイプもあり、必要な機能を選んでカスタマイズが可能

実機で解説!
後付けイモビライザーの防犯効果

ここからはオーサー社の後付けイモビライザー「オーサーアラーム」について、一般社団法人自動車盗難防止協会 の山田晃史理事を交え、佐々木成三氏が導入したものと同タイプの製品を取り付けた車を使って解説してもらいました。

一般社団法人自動車盗難防止協会の山田晃史理事。後付けイモビライザーの仕組みと防犯効果を解説。

一般社団法人自動車盗難防止協会 山田晃史理事

──佐々木氏が導入されたオーサー社の製品について教えてください。

山田理事)こちらのオーサーアラームは「キーフォブ」と呼ばれる手のひらサイズの認証キーを持つセキュリティシステムです。このキーフォブが手元にある場合は、通常通りエンジンがかかりますが、ない場合はエンジンが始動できません。さらにドアのこじ開けや外部からの衝撃を受けた場合、警告音が鳴る仕組みになっています。この「エンジンがかからない」、「音が鳴る」という2つの要素が強い抑止力になります。

佐々木氏)カギが2つ必要になることで荷物がかさばるなどの理由から、後付けのイモビライザーを敬遠される方もいると思いますが、これはコンパクトで利便性もあり、導入しやすいと感じました。

オーサーアラームの認証キー「キーフォブ」と車のスマートキーのサイズ比較。持ち運びに便利なコンパクトな設計。

オーサーアラームの認証キー「キーフォブ」。これが手元にないとエンジンがかからない

オーサーアラームの認証キー「キーフォブ」と車のスマートキーのサイズ比較。

車のスマートキーと比べても非常にコンパクト

──どういう仕組みでエンジンがかからないようになるのですか?

山田理事)CAN(車の制御を司る通信システム)の配線にイモビライザーを組み込むことで、正しい認証がない限りエンジンがかからない仕組みになっています。つまりCANインベーダーで同じ配線にアクセスしても、イモビライザー側で車が制御されるためエンジンが始動しません。

純正セキュリティのみの場合は突破される可能性がありますが、後付けのイモビライザーがあることで、窃盗犯は車内に侵入できたとしても、エンジンをかけることができないというわけです。

もちろん、さらに分解してイモビライザー本体を取り外せば突破される可能性はありますが、それには時間がかかるため、多くの場合はその前に断念します。

──キーフォブがない状態で車内に乗り込むとどうなりますか?

山田理事)車の純正キーがあれば、ドアは開けることができます。乗り込むと電源自体も入るのですが、エンジンを始動することはできません。この状態で一定時間が経過するとサイレンが鳴ります。また衝撃センサーも連動していて、窓ガラスへの衝撃などでも警報が作動します。アラームには軽度の威嚇音、大音量の警報といった段階的な設定も可能です。

後付けイモビライザーにより、スマートキーがあってもエンジンが始動しない状態を示す車内イメージ。

キーフォブが手元になくても車の電源自体は入るが、スタートボタンを押してもエンジンがかからない

──自動車盗難防止協会がオーサーアラームを勧める理由は?

山田理事)一般的なカーセキュリティは、リモコンでオン・オフを切り替えるタイプが多いです。このタイプだとユーザー自身が「オンにし忘れる」というリスクがあります。つまり、セキュリティを付けていたが作動していなかったという事態が起こり得ます。

しかし、オーサーアラームは車のカギでロックした瞬間に自動でセキュリティがオンになります。そしてドアを開ける際にキーフォブがあることで自動的に解除されます。つまりセキュリティのオン・オフの操作をする必要がないという点が大きなメリットです。

また他社製だと「車に異常あり」と通知がくるタイプもあります。ドライバー側の心理としては、自分の車の元へ駆けつけたくなりますが、もし犯人と接触すれば何をされるかわかりません。オーサーアラームはエンジンがかからないという「車単体で防御する」という考えで設計されています。これなら被害にあったとしても身体的なリスクを避けることができます。

キーフォブの代わりとして使用できるオーサーアラーム専用のスマートフォン操作アプリ画面。

万が一、キーフォブを忘れた際はスマートフォンのアプリで代替することも可能。防犯は強すぎても不便なので、利便性とのバランスも重要とのこと

──利便性と防犯のバランスが難しいなかで、ユーザーはどのように“自分に合った防犯対策”を選べばいいのでしょうか?

佐々木氏)車は大きな財産です。ローンを組んで購入し、家族や趣味のために使う大切なものです。それが盗まれたときの精神的ダメージは計り知れません。だからこそ、盗まれてからではなく、購入した時点でセキュリティ対策を考えるべきです。

現代の車はコンピューター制御で成り立っているため、完全に外部からのアクセスを遮断すると管理が難しくなるというジレンマもあります。後付けのイモビライザーは有効な対策ですが、それでも利便性と防犯のバランスは非常に難しい問題です。

だからといって純正のセキュリティだけに頼ると、その仕組みを攻略した犯人に簡単に突破されてしまいます。だからこそカギは1つではなく複数持つ、そして物理的な対策と絡めた多層的・複合的な防犯対策が必要です。

自動車盗難の最新手口と対策について対談する佐々木成三氏と自動車盗難防止協会の山田晃史理事。

自動車盗難防止協会山田理事と佐々木成三氏

  • 一般社団法人自動車盗難防止協会
    全国の自動車盗難を防止撲滅することを使命として、自動車盗難に関する防止情報の提供および盗難防止相談や各種セミナーなどの活動や、警視庁をはじめ各県警などに窃盗被害後の捜査協力、検証を行っている。ウェブサイトのほかテレビ、YouTubeやXなどのSNSを通じて、巧妙化する自動車盗難の手口に対抗するため、最新の盗難被害・未遂情報を積極的に発信。盗難現場の映像や具体的な手口を公開して注意喚起を行っている。

前稿「再び増加する自動車盗難…元刑事・佐々木成三氏が明かす“ビジネス化”で広がる犯罪の実態」に続き、全三話シリーズの第二話として、本稿では自動車盗難ビジネス最前線と、その対策をお伝えしました。4月27日公開の第三話では、より強固に愛車を守るための「複合防犯」について解説します。

佐々木 成三

ささき なるみ 1976年生まれ。岩手県出身。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。2017年に退職するまで埼玉県警に20年以上勤務する。主に刑事として勤務し、うち10年間を埼玉県警察本部刑事部捜査第一課で勤める。捜査一課においては、デジタル証拠を収集・解析するデジタル捜査班長、スマートフォン等の解析を経験し、サイバー犯罪捜査においても知識を有している。
警察を退職後は「犯罪を生まない環境作り」を目指し、コメンテーターとして多数の番組に出演するほか、講演活動やドラマ監修など幅広く活動。YouTubeチャンネル「佐々木成三の攻める防犯チャンネル」を開設。2026年4月からは一般社団法人自動車盗難防止協会の防犯アドバイザーに就任した。

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