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元刑事・犯罪コメンテーターの佐々木成三氏。自動車盗難の最新手口とビジネス化する犯罪実態を解説。
取材・文=武田智志/撮影=大槻圭介

再び増加する自動車盗難…元刑事・佐々木成三氏が明かす“ビジネス化”で広がる犯罪の実態

「4年連続で上昇」止まらない自動車盗難…“闇バイト”と“海外流出”の実態
佐々木 成三

自動車盗難は減少傾向にあったはず——。
しかし近年、その流れが再び変わり始めています。背景にあるのは、単なる窃盗にとどまらない大規模化した犯罪構造そのものの変化。車はどのように盗まれ、どこへ消えていくのか。そして被害が後を絶たないのはなぜなのか。
埼玉県警の元刑事で犯罪コメンテーターの佐々木成三氏に、本稿となる自動車盗難の実態をはじめ、最新の犯罪手口と愛車を守るための対策について、全三話のシリーズ「自動車防犯最前線」として解説してもらいました。

目次

減少から一転、再び増加する自動車盗難

元刑事・犯罪コメンテーターの佐々木成三氏。自動車盗難の最新手口とビジネス化する犯罪実態を解説。

元埼玉県警刑事・犯罪コメンテーター 佐々木成三氏

──自動車盗難の現状について教えてください。

まずは自動車盗難の認知件数ですが、警察庁の統計によると年間64,223件だった2003年をピークに、2021年(5,182件)まで減少が続きました。しかし、近年は増加傾向となっていて、2025年は6,386件と4年連続で増加しています。

また盗難の手口が、昔と比べると巧妙化しているというのが特徴です。現代の車はカギを直接使わず施錠・解錠ができるスマートキーなど、あらゆる挙動をコンピューターで制御するものが多くなっています。窃盗犯はそれを逆手に取り、車のコンピューターに特殊な機器を接続し、不正にエンジンを始動させるなどの手口で車を盗んでいます。

2021年から2025年にかけて4年連続で増加している自動車盗難の認知件数推移グラフ(警察庁統計引用)。

自動車盗難は4年連続で増加傾向
(警察庁生活安全企画課「自動車盗難等の発生状況等について」より)

──特に車の盗難被害が多い地域はありますか?

ワースト5は関東が中心で、埼玉、神奈川、栃木、千葉といったエリアです。特に海沿いは海外への輸送がしやすいという背景があります。また、愛知県も常に上位に入っています。自動車の保有率が全国1位と需要も大きく、交通インフラも整っている地域です。

自動車盗難被害が多い地域ワースト5を示すグラフ。海沿いや北関東が上位。

1位の愛知県以下5位までで全体の約半数を占める
(警察庁生活安全企画課「自動車盗難等の発生状況等について」より)

──盗まれた車を取り返すのは難しいのでしょうか?

盗まれた約6,000台のうち戻ってくるのは約2,000台、つまり3分の1程度です。発見されるケースとしては、Nシステム(※)による検知、駐車場での発見、解体後に見つかるなどです。ただし、解体されてしまうと元の状態に戻すことは難しく、軽微な損傷だったとしても修理には高額な費用がかかります。

  • )Nシステムとは?
    自動車ナンバー自動読取装置のこと。警察が主要道路に設置したカメラで通過車両のナンバープレートを自動的に撮影・照合し、手配車両(盗難車や事件関連車)や、車検切れ車両を検知する犯罪捜査支援システム。

盗まれた車は海外へ
“ビジネス化”する自動車盗難の実態

──盗まれた車はどうなるのですか?

窃盗犯はGPSの存在を警戒し、盗んだ車を一度コインパーキングに置いて追跡されていないか確認することがあります。数日様子を見て、それから車を移動させているようです。

その後は多くの場合「ヤード」と呼ばれる場所に持ち込まれます。ヤードとは車を集めて解体するための場所です。そこで車を切断するなどして、コンテナに積み込んで港へ運ぶ、という流れが一般的です。

ヤードは周囲を塀で覆うなど外から中が見えないようになっていて、車の出入りが多く、特定のコミュニティーの人間が頻繁に出入りしているといった特徴があります。警察もこうした場所を重点的に把握しようとしていますが、情報の多さや拠点の変化の早さから、対応が追いつかない面もあります。

──解体して港に運んだ後は?

海外に不正輸出されています。外国人グループが関与しているケースもあり、こうしたグループは、車を盗んだ後の流通ルートを独自に持っています。バラバラになった車は現地で再び組み上げられるのですが、フレームの剛性などが多少落ちていても日本車は品質や性能が高いので価値があるようです。

実際に私の知人が所有しているランドクルーザーが盗まれ、海外で見つかったことがありました。アフリカの車販売サイトに掲載されていて、オリジナルのホイールを装着した車だったため自分の車だとわかったそうです。

また、盗難車は必ずしもそのまま売られるだけではなく、パーツ単位で販売されることもあり、ナンバープレートですら、売買されることがあります。海外では漢字表記がデザインとして人気で、装飾品として扱われることもあるようです。

日本で盗難車として車体番号や車のナンバーが登録されていれば、走行中にNシステムでヒットしますが、犯罪組織はそれが日本国内でしか通用しないことを理解しています。海外に持ち出されると追跡は難しくなるので、日本車が多く流通しているアフリカや中東、アジアなどに持って行かれるケースが多いのです。

──かなり大規模で組織的な犯行ですね。

完全に“ビジネス”として成立しています。さらに犯行に及ぶ実行役は比較的簡単に集められるという構造があり、一つのグループが摘発されても、別のグループがすぐに現れます。

実行役はいわゆるトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)であることも多く、SNSの闇バイト等で集まった、面識のないメンバーで構成される犯罪集団です。実行犯は捨て駒であるケースも多く、捕まることを前提に動いています。

その実行役もSNSなどを通じて連絡を取り合い、下見をする者、車を盗む者、車を移動させる者など、役割が非常に細かく分かれています。実行犯とその後の流通に関わる人間が直接つながっていない場合もあります。そのため実行犯を逮捕しても、首謀者までたどり着くのが難しいという現状があります。

純正セキュリティは“攻略済み⁉”
見落とされがちなリスクとは?

──自動車盗難が組織化していることはよくわかったのですが、一体どんな手口で盗んでいるのですか?

最近の特徴として大きいのは「キーなし盗難」です。警察庁の2025年のデータだと、エンジンキーがイグニッションスイッチに差し込まれていたり、運転席や周辺に放置されていて被害に遭った「キーあり」盗難が、さきほど挙げた6,386件のうちの1,416件、一方で施錠された状態で盗まれる「キーなし」盗難が4,970件となっています。つまり約78%は車にカギがかかっていたにもかかわらず盗まれているのです。

施錠された車を盗むと聞くと、かつては窓ガラスを割って車内に侵入するとか、ピッキングでカギを開けるといったイメージでしたが、今はまったく違います。特殊な機器を使って、車を制御しているコンピューターを「ハッキング」する手口が主流になっています。

一方で、出先でエンジンをかけたままコンビニに入るなど、いわゆる隙を突かれるケースもあります。これは気を付ければ未然に防げる被害なので、車から離れる場合はエンジンを切って、カギを持ち出すといった基本的な行動も大切です。

特殊な機器で車のコンピューターに接続し、解錠・エンジン始動を行う「キーなし盗難」のハッキングイメージ。

──狙われやすい車種はありますか?

警察庁も盗難の多い車種は公表していて、ランドクルーザー、プリウス、アルファード、ハイエース、レクサスなどが上位に挙げられています。特にランドクルーザーは大きな割合を占めていて、盗難された約6,000台のうち1,000台ほどがランドクルーザーでした。これらはリセールバリューが高い人気車種というのが共通点です。ご自身が所有されている車が該当する場合は、より強い防犯意識を持つ必要があります。

ランドクルーザーやアルファードなど盗難被害に遭いやすい人気車種のランキンググラフ。ハイゼット等の軽トラも対象。

人気の高い高級車のほかハイゼットやキャリイといった軽トラックも狙われている
(警察庁生活安全企画課「自動車盗難等の発生状況等について」より)

──愛車を守るためにドライバーが意識しなければいけないことは?

自動車メーカーの純正セキュリティはもちろん重要ですが、それだけで安心できるわけではありません。犯罪者たちは純正セキュリティの仕組みを研究・解析していて、同じ車種が連鎖的に狙われることもありますし、同一メーカーや同型車であれば、同じ手口が通用してしまうことも起こり得ます。

そういった現状のなかでも「純正のセキュリティがあるから大丈夫」と考えている人は実際に多く、盗まれてから対策の不十分さに気づくケースが少なくありません。まずは自動車窃盗の最新手口を知ることが、愛車を守るための第一歩となります。


次回、4月25日公開のシリーズ第二話「元刑事も導入した愛車を守る「最後の砦」…“数十秒で盗まれる時代”の現実と対抗策」では、佐々木成三氏が自動車窃盗の最新手口と、その対策方法を語ります。

佐々木 成三

ささき なるみ 1976年生まれ。岩手県出身。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。2017年に退職するまで埼玉県警に20年以上勤務する。主に刑事として勤務し、うち10年間を埼玉県警察本部刑事部捜査第一課で勤める。捜査一課においては、デジタル証拠を収集・解析するデジタル捜査班長、スマートフォン等の解析を経験し、サイバー犯罪捜査においても知識を有している。
警察を退職後は「犯罪を生まない環境作り」を目指し、コメンテーターとして多数の番組に出演するほか、講演活動やドラマ監修など幅広く活動。YouTubeチャンネル「佐々木成三の攻める防犯チャンネル」を開設。2026年4月からは一般社団法人自動車盗難防止協会の防犯アドバイザーに就任した。

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