国産車初のハードトップデザインを採用したトヨペット・コロナ ハードトップにゾッコン!
昭和の名車コロナ ハードトップで叶えた憧れのカーライフ【ちょっとレトロなガレージ探訪記】懐かしさにあふれた昭和時代の旧車をピックアップ。当時ならではの味わい深いデザインや装備、トリビア的な要素にスポットを当てつつ、オーナー自己流のカーライフを紹介するこのコーナー。今回は1967年式コロナ ハードトップを所有する、長崎県在住の馬場博文さんのガレージにお邪魔しました。
幼少期に見たカタログ写真に一目惚れ
「なんてかっこいいクルマなんだ!」
同型のコロナ4ドアセダンに対し全高が45mm低くなっているが、ホイールベースは変わらず、後席も十分な余裕を確保。しっとりとした落ち着きを感じさせるボディカラーの名称はリリーホワイト。馬場さんが所有する当時のカタログには「ユリの花の優雅な白に由来」と記されていた
その昔、父親が自動車販売店に勤務していたこともあり、幼少の頃からクルマに興味を持つようになったという馬場さん。とはいえ昭和30年代当時、自宅界隈で見かけるクルマといえばまだまだトラックやライトバンが主流で、自家用に普通乗用車を所有している例はごく稀。そんななか、父親が各営業所への配布用として持ち帰って来たカタログの束の中で見かけた一台のクルマに、目がクギづけに。
「それがコロナのハードトップでした。全開になった窓から女性が顔を出したすごくオシャレな表紙で、鋭く尖ったノーズを備えた2ドアのスタイルはそれまで商用車やファミリータイプの4ドアセダンしか見たことがなかった子供にはとても斬新に思えました」
この出来事から十数年の時が経過。馬場さんはカローラやスターレットのスポーツグレードなどを乗り継いだ後、結婚を機にそのクルマ選びは走行性能より快適性や実用性を重視したものへと変化していく。ところがある日、親戚の大掃除を手伝ったときにたまたま乗ることになった軽トラックで、マニュアル車の面白さを思い出す。
「パワーが小さいエンジンをマニュアルで引っ張りまわす感覚が楽しくて、もう一度乗ってみたくなりました。ちょうどその時期は設立した会社が徐々に軌道に乗り始め、多少の時間的な余裕が出てきた頃だったので、ネットオークションでユーノス(マツダ・NA型)のロードスターを購入しました。ネットでクルマを買うことに対しては抵抗があるという方もいると思いますが、私は日頃からミニカーやカタログ、昔のカー雑誌などをちょくちょく買っていたし、嫌な目に遭ったこともほとんどなかったので、特に不安は感じませんでした。落札した後はクルマが置いてある奈良県まで取りに行って、自走で帰って来ました」
この一連の話は10年ほど前のことで、現在のようにNA型ロードスターの中古車価格が高騰していなかった時期。そういう意味でも“自分はラッキーだった”と馬場さんは語る。ロードスターの購入をきっかけに、俗にネオクラ(ネオクラシック)と呼ばれるちょっと古めなクルマへの興味が湧き始めた馬場さんは、その後も暇を見つけてはネットオークションでそれらの物件情報を眺めながら“やっぱり、昔のクルマは良かったなァ”と、郷愁に浸っていたという。
「そんな時、出品車の中にコロナ ハードトップを見つけてしまったんです。もう一瞬で父親が持って帰ってきたカタログを見て騒いでいた子供の頃の風景が甦りました。同時に、手元にはロードスターがあるのに、なんとか手に入れたいという気持ちが込み上げてきました。ただ、さすがに今度はロードスターより遥かに昔の時代のクルマということで、いつもよりちょっと慎重になって出品者にいろいろと問い合わせたところ、年齢は私より少し上で、群馬在住とのことでした。私の質問に対し正直に傷んでいる箇所の詳しい写真を見せてくれたり、現在の車両状態についてとても丁寧に説明をしてくれました。これで欲しいモード(笑)が猛烈にヒートアップ。気が付けば“買います”と返事をしていたんです」
バンパーに取り付けられたスチール製オーバーライダーや、細身のテールランプも前~中期型モデルの特徴。1500ccの2R型直列4気筒エンジンも入念な整備が行われており、排気音はいたって静か
コロナ ハードトップの発売開始は1965年。馬場さんの愛車は翌年にマイナーチェンジを受けた中期型で、前期型に比べフロント周りの造形が僅かながら異なっている。後期型ではウインカーがバンパー下段に移動され、トヨタ・1600GTと共通のマスクが与えられた。「樹脂で一体化された近年のクルマと違って、この時代はアルミとかアンチモニーとか、複数の金属パーツが贅沢に使われていることに驚かされます」(馬場さん)
馬場さんの愛車はフロアシフト化されたマイナーチェンジ後のモデル。1965年の発売当初、コロナ ハードトップの1500cc車はコラム式の3速マニュアルとトヨグライド(オートマチック)という設定だった
ネットオークションで見つけたコロナ ハードトップのラジコン。残念ながら不動状態だが、「私と同じ前期型ですよ!動かなくても、眺めているだけで満足です!」。後方にはこれまでオークションで購入して来たミニカーがズラリ(これはほんの一部)
板金や整備はプロの職人さんに一任
ちょっとした創意工夫はDIYで対応
馬場さんの車両はコロナ ハードトップの中でもかなり珍しい前期型(正確には中期型)。旧車イベントなどの場では、かつてレースでも活躍したDOHCエンジン搭載のトヨタ1600GTと同じ顔つきを持った後期型は時折見かけることがあるが、クリアレンズのウインカーがバンパー上段部に位置した前期型は極めてレア。この点も、購入を決める上での大きな要因になったという。こうして思いがけないタイミングで幼少期の憧れを現実のものとした馬場さんだったが、元々几帳面な性格が災いしてか(失礼!)、車体周りの経年劣化部分が気になり始めることに。
「そんな多少ヤレた部分も承知の上で購入を決断したワケですが、できればもう少し手を加えてキレイにしたいなと思っていたところ、とある旧車イベントの会場で、年配の男性から声をかけられました。その方はトヨタ・1600GTを2台レストアした経験をお持ちで、この型式の車体の弱点を熟知していたんです。しかも、よくよくお話を伺うと作業場は同じ長崎県内ということがわかり、これも何かのご縁だと、車体周りの修復をお願いしました」
こうしてボルト一本にいたるまで徹底したリフレッシュ作業が行われた馬場さんのコロナ ハードトップは所有から8年が経過。スペアパーツに関してはネットでこまめに収集が続けられているが、機関部分に関する不安や苦労している点は特になし。サビの原因となる水分を排除すべく、雨の日の運転と水を掛けながらの洗車は厳禁という“主治医”からの注意を守りながら、暇を見つけてはお気に入りの撮影ポイントまでのショートドライブや、九州各地で行われる旧車イベントやミーティングに積極的に参加している。
「それでも鉄でできている以上、サビは出てくるし、定期的に手直しは受けています。パワーも70馬力だから大してスピードは出ないけど、私には十分。離れた場所から自分のクルマを眺めては、やっぱりカッコイイなって、自己満足に浸っています(笑)。旧車の世界の面白さってクルマそのものはもちろん年齢や職業などに関係なく、いろんな人と知り合う機会が得られる、ということにもあると思います。私がコロナに乗り続けられているのもこれまでお会いしてきたクルマ好きのみなさんのおかげ。あまり意識したことはないけど、振り返ってみるとクルマに関して言えば私は結構、運に恵まれてきたのかも知れませんね」
このクルマのオーナー共通の悩みのタネとなっているのがウインドー周りのウェザーストリップ。ドアサッシを持たないハードトップ車はガラスとゴム部分が圧着することで気密性を保っているが、経年劣化でゴムがボロボロになっている例が多いとのこと。これに対し、馬場さんのクルマはツヤツヤで、弾力性も十分。「ホームセンターで見つけた同じような材質のゴムを数種類組み合わせて、何度も調整しながら取り付けました」
オリジナルを尊重しつつも、乗るときの不便さはできるだけ軽減したい、ということでDIYにより装着されたリモコン式キーロック。左右ドアだけでなく、トランクにも対応している。「乗り降りするときに便利だし、カギが折れたりキーシリンダーが壊れたりする旧車ならではのトラブルのリスクを防ぐこともできます」
こちらは普段乗り用にと、2年ほど前に知人から譲り受けたセリカXX2000G。「旧車を持ってるけど普段は高年式の軽自動車とかコンパクトカーというのは僕的に面白くないので、日常のアシ用にも少しだけ実用性を持ったネオクラ車を使っています。これも最初は不動車だったけど、コロナでお世話になった地元の職人さんに復元をお願いしました」
【トリビア的ポイント その1】
後方に倒れるように格納されるリア側のサイドウインドー
通常通り垂直に昇降するドア側のウインドーに対し、リア側は前方部分を支点に後方へと、弧を描くように倒れながら格納される。馬場さんによると、内部のギアの劣化により開閉不能となり、「閉めっぱなし」になっている例もあるという。「ちなみに先端部のゴム部分は1600GT用を流用。同じ部品だけど、なぜかコロナ用は廃盤なんです」と馬場さん。
【トリビア的ポイント その2】
え? こんなところに給油口が!
車体を見回して、給油口がないなと思ったら、リアのナンバープレートの裏に発見! 滑らかなボディラインを損ないたくなかったのか、はたまた防犯対策のためか、明確な理由は定かではないが、ちょっと面白い部分だ(コロナ以外にも、同様の方式を用いていた昭和車もあった)。
時折ユーモアを交えながら、終始笑顔で取材に応じてくれた馬場さん。困ったときにはどこからともなく手助けの声が寄せられてきたのも、馬場さんの朗らかな人柄があってこそ。ハードトップボディの窓を全開にして、海岸線をリリーホワイト(純正色)のコロナをゆったりと運転している姿は本当に楽しそうで、とてもお似合いでした。
「ちょっとレトロなガレージ探訪記」では、これからも時代を超えて輝きを放ち続ける昭和世代のクルマたちとのカーライフを満喫されている方々を探していきます。
高橋陽介
たかはし・ようすけ 雑誌・ウェブを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに精通。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。
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