新車から乗り続けて60年! 今なお現役絶好調「プリンス・スカイライン1500デラックス」
「旧車は人生の相棒」60年間愛されるスカイラインと90歳オーナーの物語【ちょっとレトロなガレージ探訪記】懐かしさあふれる昭和時代の旧車をピックアップ。当時ならではの味わい深いデザインや装備、トリビア的な要素にスポットを当てつつ、オーナー自己流のカーライフを紹介するこのコーナーです。
今回訪れたのは、90歳となった今なお愛車を自ら整備し、ハンドルを握り続けるオーナーのガレージ。しかもその愛車、1965年式「プリンス・スカイライン1500デラックス」は、新車で購入後、60年に渡り所有して来たワンオーナー車。
旧車好きだけでなく、クルマを愛するすべての人に響く、“人生とクルマの物語”をお届けします。
オーナーは昭和10年生まれの90歳!
「整備もほぼ、自前でやってます」
端正な3ボックススタイルを持つS50型プリンス・スカイライン。テールランプは初代スカイライン、ALSI型の後期モデルに続き丸型が採用されていた。リアバンパー下の切り欠き部分はジャッキアップのポイント
シャンと伸びた背筋に軽やかな足取りと、90歳という年齢を感じさせない若々しさが印象的な渡邉さん。クルマの運転を覚えたのは14歳の頃。機械好きの渡邉さんに、おもちゃ代わりにと祖父が買い与えてくれたクルマは中古のダットサン・トラック。幼少期を過ごした広島県の浦崎村(現=尾道市浦崎町)の界隈では当時、クルマを見かけることは少なく、道路もほとんどが未舗装だった。
「いくら機械を触るのが好きだったとはいえ、免許の無い子供にクルマを買い与えるなんてどうかと思いますよね。まだ戦後から間も無い中、食べる物も十分とはいえず、ガソリンも配給制という時代ですから。今で言うところのボンボンってヤツだったのかも知れませんね(笑)。祖父は製粉・製麺業を営んでいたので、工場の敷地内の一角にある、そうめんを天日に干すための広場で運転の練習をしていました」
その後、16歳になるとすぐに小型四輪免許を取得し、待望の公道デビュー。免許を取ったお祝いにと、祖父から贈られたのは新車のトヨペット・トラックRK型。このクルマは第78代内閣総理大臣を務めた宮澤喜一氏(福山出身)が初めて参議院選挙に出馬した際の選挙カーにも使用され(それだけ、当時はマイカーの所有者自体が珍しかった)、渡邉さんはその運転手という大役を務めている。
そんな恵まれた環境で育った渡邉さんは高校卒業後、家業の製粉・製麺業を継承。ところが、26歳の時に工場で火災が発生し、全てを失ってしまう。
「本当に何もかも無くなって、手元に残ったのは小麦粉を運んでいた5トンのトラックとバタンコ(マツダの三輪トラックの愛称) の2台だけ。さて、これはどうしたものかと悩みましたが、トラックがあれば荷物運びの仕事ができると閃いて、運送会社を立ち上げました。火事に遭った翌年のことです」。
常に前向きでバイタリティ溢れる渡邉さんは自らトラックを運転して、北九州や大阪などへ小麦粉や地元でとれたぶどうなどを届ける日々が(高速道路が開通する前の話)。さらに果物類は収穫時期を終えると次のシーズンまで閑散期に入ることから、今度は知人を通じて精密機械の運搬を請け負い、二種免許を取得して機械の注文が無い時には別の知人のタクシー業を手伝うなど、文字通り寸暇を惜しんで仕事に奔走した。渡邉さんの竹を割ったような性格も相まって、焼け跡から立ち直るべくして始めた運送業は徐々に規模を拡大。ようやく軌道に乗り始めた65年に、自分へのご褒美としてプリンス・スカイライン1500デラックスを福山の販売店で購入する。この時、渡邉さんは30歳。もちろん今度は祖父からではなく、自分の力で手に入れた初めての新車ということもあり、感慨もひとしおだったようだ。
祖父から免許取得のお祝いに贈られた1952(昭和27) 年式トヨペット・トラックRK型。当時渡邉さんは高校生だったが、自転車通勤の先生を横目にトヨペットで通学。堂々と校門前に乗り付けていたと言う
こちらが1965(昭和40) 年に購入した当時の様子。隣に佇むのは30代の頃の渡邉さん。まさかこの先、60年間も所有していくことになるとは、思ってもみなかったはず。グレーのボディカラーは当時の純正色で、後年、レストア時に現在のブルーへと全塗装が行われている
スカイラインでのイベント遠征時にはいつも奥様の幸江さんも同行。「私はクルマのことはさっぱり分からないので、道中に通るトンネルの長さをメモしたり、休憩を取るサービスエリアを探したりして時間をつぶしています(笑)」
春と秋の旧車のイベントシーズンが楽しみ
あちこち、毎週のように出掛けています
60年という長きに渡る付き合いということで、手足のようにスカイラインを操る渡邉さん。運転時には滑り止めのゴムが付いた手袋を着用する。ステアリングの内側のリングはクラクション用(※注 シートベルトは当時設定そのものが無かった)
「購入価格は当時で65万円だったと思います。プリンスのクルマを選んだ理由は、他のメーカーと比べてカタチが変わらないこと。技術的な面を見ても、とても信頼できるメーカーという印象がありました」
S50系スカイラインといえば、自動車ファンの間ではグランプリレースでの必勝を狙い、4気筒用ボディのノーズを延長して6気筒エンジンを押し込んだS54B型2000GTが人気だが、渡邉さんもその例に漏れず、1500を購入した2年後にシングルキャブレターモデルの2000GT-Aを増車。しかし、所有期間は思ったより長くは無かったという。
「そりゃ、スピードは6気筒の方が断然速かったけど、ハンドルは重いし、足回りもガチガチだったので、ちょっと遠出すると疲れる。まだまだ道路の舗装状態も悪かったですからね。そんな乗り難さもあって、数年後に当時運送会社で専務を務めていた弟に譲りました。私にはのんびり、ゆったり走れる1500の方が性に合ってたようです」
その後もA30グロリア、MS80クラウンなど、さまざまなクルマが渡邉さんのガレージにやって来たが、新車からずっと維持し続けているのは、このスカイラインのみ。
「途中、仕事が忙しくて何年間か倉庫にしまい込んだままになっていた時期もあったけど、昭和50年頃にまた乗りたくなって、知人の整備工場にレストアをお願いしました。何度も断られたけど、“なんとか頼む!”って。もともとのボディ色は地味なグレーだったけど、せっかく全部うがして(剥離して)塗り直すなら派手なヤツが良いだろうと、今のブルーを選んだんです。スカイラインの純正色じゃないけど、カッコイイでしょ?」
新車登録から60年、車体周りのレストアを終えてからも40年以上の時間が経過している渡邉さんのスカイラインだが、オイル管理や点火時期調整など、自身の手によるメンテナンスを定期的に行っていることもあり、現在でもエンジンはセル一発で始動。撮影ポイントに移動する際には助手席に同乗させて頂いたが、排気音も静かで、乗り心地も十分、快適と言えるもの。
「イベントシーズンになると、週末ほとんど家にいません。すでに今年もどんどん、カレンダーが埋まり始めています。クルマ好きのタイプは人それぞれでしょうが、私はガレージにしまい込んで一人で眺めているより、あちこち出回って、地域の方々とお話しすることが好き。そう、デベソなんですよ(笑)。視力もしっかりしてるし、これからもまだまだ走り続けますよ!」
広々としたガレージは、運送会社を営んでいた頃のトラック整備工場をそのまま活用したもの。ちなみにトラックの整備についても渡邉さん自ら行なっていたとのこと。ご覧の通り、バイクのコレクションも膨大な数に上る
【トリビア的ポイント その1】
当時としては画期的だった2年、または4万km保証
近年のように国産車の信頼性が十分に確立していなかった時代に購入後2年、または4万km保証というサービスをいち早く取り入れたプリンス。エンジンのブロック部分にプリンスの刻印が入ったワイヤーの封印が残されているのは、購入後、一度も本体をバラしていない(すなわち、大きなトラブルは発生していない)証拠なのだ。
【トリビア的ポイント その2】
60年の時を超え、時計もラジオもしっかり実動!
昭和世代のクルマによく見受けられたジェコー製のアナログ時計やナショナル製のAMラジオは今なお実動。ラジオの右下に見える「C」のマークが付いたノブはクーラー……ではなくエンジンの始動性をよくするためのチョーク
宮澤喜一氏から直々に贈られた記念品がドッサリ
これはクルマではなく、渡邉さんに関するトリビア的ポイント。宮澤喜一氏が新人国会議員だった頃、トヨペット・トラックで選挙運動を手伝った話は本文前段でも触れたが、後に総理大臣となった宮澤氏はその時の恩義を忘れることなく、後年、渡邉さんの元には色紙や絵皿(もちろん、いずれも直筆)などが送られて来たとのこと
ハーレーダビッドソンの愛好家による「福山ハーレー会」の名誉顧問も務める渡邉さん。交通安全の啓蒙活動の一環として地元で行われたパレードでは何度となく先導役を務めたという。もちろん、ライダーとしても今なお現役で、今年も各地でのイベントに出向く予定
3速のコラムシフトを巧みに操りながらの運転操作はいたってスムースで、90歳と言う年齢を意識させるところは全くナシ! 渡邉さんが心待ちにしている春のイベントシーズンの到来はもうすぐ。どこかの会場でブルーのプリンス・スカイラインを見かけたらぜひ、気軽に声を掛けてみては?
「ちょっとレトロなガレージ探訪記」では、これからも時代を超えて輝き続ける昭和世代のクルマたちとのカーライフを楽しんでいる方々を探していきます。
高橋陽介
たかはし・ようすけ 雑誌・ウェブを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに精通。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。
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