三菱ギャランΣ(シグマ)ハードトップ。万人ウケしないアクの強さがお気に入り
ちょっとレトロなガレージ探訪記懐かしさあふれる昭和時代の旧車をピックアップ。当時ならではの味わい深いデザインや装備、トリビア的な要素にスポットを当てつつ、オーナー自己流のカーライフを紹介するこのコーナー。
今回は3代目ギャランΣ(シグマ)の上位機種として1984年に発売されたΣハードトップを所有する、福岡県のおかしらさんのガレージにお邪魔しました。
三菱車のファンになったきっかけは、父親から譲り受けた初代ギャランΣ
「トワイライトブルー2トーン」のボディカラーは当時の同車のイメージカラー。独特の格子デザインのテールランプは「グラフィカルデザイン」と名付けられていたが、おかしらさんは「板チョコ」と呼んでいる
3代目ギャランΣの派生モデルとして1984年に発売されたΣハードトップ。派手さを抑えたオーソドックス路線のセダンとは対照的に、スポーティさとゴージャスさを兼ね備えたアクの強いキャラクターは評論家筋の間では辛口の評価が聞かれたものの、当時のクルマ好きの間では大いに注目を集めた。そんな知る人ぞ知る魅力を備えた一台を素晴らしいコンディションで乗り続けているのが、福岡県在住のおかしらさん。
「クルマに興味を持ったのはカローラレビンやジェミニZZ/Rなどスポーツモデル好きだった叔父さんの影響ですが、三菱車に親しみを持つようになったのは父親の影響。学生の頃から初代ギャランΣや初代ギャランVR-4(E39A型)など、父親が乗らなくなった三菱車を譲り受けているうちに、ふと気づくとその独特のテイストにハマってしまいました」
Σハードトップを購入したのは今から7年ほど前のこと。前所有者は福井県に住むおかしらさんの従兄弟で、長年大切に維持していたものの、乗る機会が少なくなったことから“知らない誰かの手に渡るより、ぜひ三菱車好きの兄貴に引き取ってほしい”と、相談を持ちかけられたという。
「その時、すでに手元には自分で初めてお金を出して買ったマイカー、3代目のギャランVR-4(EC5A型)を所有していたけど、幸い他にもクルマが数台止められる場所もあるし、何よりΣハードトップは私が学生だったの頃の憧れ。Σハードトップは、当時の三菱がクラウンやセドリックのクラスにブツけて来たクルマで、価格も凄く高くて若造にはとても手が出せなかったんですよ。だから喜んで引き受けることにしました」。
こうしてΣハードトップの最上級グレード、VRエクストラを手に入れたおかしらさん。しかし、大事に保管されてきたクルマとはいえ、そこは40年前のネオクラ車。異音や振動、ターボチャージャーからのオイル漏れなど次々にマイナートラブルが発生。メーカーからの純正部品の大半は供給終了となっており、暇を見つけてはネットオークションを検索する日々が。そんな中、長崎県の出品者からのパーツ情報に目が止まる。
「私が欲しかったものが色々と並んでいて、よく見ると写真は部品単体ではなく、すべてクルマに付いた形で撮影されていることに気づきました。試しに問い合わせてみると予想通り、廃車寸前状態の白いΣハードトップをお持ちでした。それならばと、この先もあれこれ部品が必要になってくるだろうから、丸ごと譲ってもらえませか? という話になりました」
ハイデッキのテールエンドからフロント方向へと角度をつけて落ちる、クーペのようなボディラインが斬新。セダンに対し全長は10mm長く、全高は10mm低く設定されていた
ネットオークションでの出会いがきっかけとなり、部品取り車として手に入れた2台目のΣハードトップ。すでに色々と部品が外されているが、これでもまだまだ使える部分は残されているという。「コンピュータユニットもこのクルマから移植しました。MT用でしたが、配線の一部加工だけで問題なく使えています」
類は友を呼ぶ。ΣはΣを呼ぶ? まさかの2台体制を確立!
短期間のうちに福岡某所にあるおかしらさんの車両置き場には2台のΣハードトップが並ぶことに。この部品取り車が果たした役割は大きく、ドライブシャフトやコンピュータなどをDIYで交換。専門的な知識や設備が必要な場合には、佐賀県で整備工場を営む友人に協力を依頼するなど入念なメンテナンスが行われ、1号車は普段の街乗りから高速での長距離移動も難なくこなせる状態までリフレッシュ。九州近郊はもとより遠方で開かれるネオクラ車のイベントにも出向き、クルマ仲間の輪を広げるパートナーとしても大活躍! しかし、話はまだ終わらない。それから4年余りが経過した頃、おかしらさんの元に一本の電話が入る。
「仲の良い三菱の販売店関係者から、“鹿児島にΣハードトップを手放したいという人がいるけど、どうする?”って。私の1号車は前期型のオートマチックでしたが、鹿児島の案件は後期エテルナΣのマニュアル車。どうするも、こうするも、ここまで来ると、もう勢いですね。価格も手頃だったし、年式やミッションの違う2台を揃えてみるのも面白いかも?って、変なスイッチが入っちゃって、“わかった、持っといで”って答えてしまいました」
すでに前期型を所有していることを知っているにも関わらず、増車の話を持ち掛けて来ること自体、強引な気もするが、あっさり引き受けたおかしらさんも相当なツワモノ。2台のΣハードトップに先述したギャランVR-4を加え、三菱車は計3台(部品取り車を含めると4台)と、余計なお世話ながら、維持費だけでもそれなりに大変かと思うが、本人はいたってマイペース。維持に要する苦労より、Σをきっかけに広がる人と人との出会いを心から楽しんでいるようだ。
「だからと言って、Σを他の人にも勧めるかというと、それは絶対に無いです。ちょっとした部品の入手だけでこんな苦労を強いられるようクルマはダメ。こうして私が乗り続けられているのは、クルマいじりの知恵やヒントをくれる周りの仲間たちのおかげ。普通に乗るならイマドキの新しいモデルを買った方が良いです。ともかく、コイツは私の『終のクルマ』になると思うので、最後まで面倒見ますよ」
1台目のリフレッシュ整備がひと段落したかと思いきや、部品取り用の2台目に続いて引き受けることとなった3台目のΣハードトップ。しかも、こちらは「ギャラン版」よりさらにレアなカープラザ店向けの兄弟車、エテルナΣ
おかしらさんが“秘密基地”と呼ぶ車両置き場兼作業場。写真からもわかるように、おかしらさんはスバル・アルシオーネSVXなど複数台所有。痛車仕様の後方には2台目に購入した部品取り用のΣの姿が見える
【トリビア的ポイント その1】
シリウスDASH、サイクロンDASH。前期、後期で異なるエンジン名称
前期型のエンジン
前期型のロゴ
後期型のエンジン
後期型のロゴ
VRグレードに搭載されていた最高出力200馬力を誇るG63Bエンジンの呼称は1984年10月の前期型発売時にはシリウスDASH3x2とされていたが、86年のマイナーチェンジ時にサイクロンDASH3x2へと名称を変更。ステッカーやカバー類も全て作り直されていたが、前期/後期でスペックの違いは無かった。ちなみにDASHとはDualActionSuperHeadの略称。3×2とは低回転域では2本の吸気バルブのうち1本が休止し、高回転時には2本共に動作することで省燃費と高性能の両立を図った、独自の3バルブ構造に由来している。
【トリビア的ポイント その2】
高級車ながら発売当初、最上級グレードはMTのみだった!
オーナーのおかしらさんの言葉にもあるように、Σハードトップはクラウンやセドリックなど、当時ハイオーナーカーと呼ばれた高級車クラスを視野に登場したはずが、インタークーラーターボを搭載する最上級グレード「VR」は当初MTのみ。「VRエクストラ」として4速ATが追加されたのは約1年後だった(VR以外は発売時からAT/MTを設定)。
【トリビア的ポイントその3】
9箇所の調整機構を備えたソファのようなシート
この時代の高級車のお手本と言えばアメリカ車で、シートもソファのようなベロア地を用いる例が多かった。Σハードトップも同様の雰囲気だが、座面の高さやバックレスト上段部の角度など、ドライバーの好みに適した調整が可能だった。車体構造は当時の日産車などとは異なり、ハードトップながらセンターピラーを備えていた。
実動状態にあるギャランΣハードトップが国内にどれだけ現存しているかは不明だが、前期型、後期型の両方を個人で所有している例は、極めて珍しいのではないでしょうか。
「ちょっとレトロなガレージ探訪記」ではこれからも、時代を超えて輝き続ける昭和世代のクルマたちとのカーライフを楽しんでいる方々を探していきます。
高橋陽介
たかはし・ようすけ 雑誌・ウェブを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに精通。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。