アメ車っぽさ全開! セドリック、クラウンエイト、グロリア…1960〜70年代“アメリカ風”な日本車たち
60〜70年代の日本には、なぜか“アメリカの風”が吹いていた…憧れを詰め込んだ国産車たちを厳選紹介!
排気量もボディーサイズもデカくて、アメリカならではの大らかさとマッスル感を感じさせる1960〜70年代のアメ車。当時、そんなアメ車に、というかアメリカに憧れていた日本には、正直アメ車っぽいなぁと思えるクルマがたくさんあった。特集『アメ車っぽさ全開! 1960〜70年代“アメリカ風”な日本車たち』は、デザイン的にアメ車を意識していたと思われる1960〜70年代の国産車を、モータージャーナリスト高橋アキラさんが独断でピックアップします!
アメリカへの憧れはデザインにも表れた!?
アメリカへの憧れ。僕のアメリカへの憧れはいつからだろう。友達の多くも、そして先輩にもそうした人たちが多くいた。日本の高度経済成長期に育った僕は、アメリカの生活は豊かで、大きく、おおらかで、優しく、まるで富の象徴のように感じていた。だから自然とアメリカに憧れていたんだと思う。
僕がまだ生まれる前の話になるが、1950(昭和25)年に今の北朝鮮と韓国の間で朝鮮戦争が始まり、日本はアメリカ軍の調達基地になり軍需景気がくる。これが高度経済成長のきっかけと言われ、近代化が始まったとされている。
1945(昭和20)年の第二次世界大戦の終戦で疲弊していた日本が、その後の復興期に入るタイミングで、多くの日本人にとってアメリカの存在が大きくなったのではないだろうか。
そして1951年に民間のラジオ放送が始まり、やや遅れてテレビ放映も始まる時代だ。それまでは公共放送のNHKだけだったが、広告を主体とした民間放送は無料で視聴することができ、国民にさまざまな情報がもたらされていく時代へと変化していった。
60年代になると神奈川の湘南では、サーフィンをするアメリカ人を見て真似をする日本人が現れ、また映画もどんどんと日本へやってくる。特に60年代のアメリカ映画はアメリカン・ニューシネマと呼ばれ、アメリカの若者文化や社会課題をテーマにした映画が多く作られた。
『俺たちに明日はない』のボニー&クライド、『イージー・ライダー』のハーレーダビッドソン、40〜70年代のニューヨークを舞台とした『ゴッドファーザー』など、映画の影響は大きい。またベトナム戦争へのアメリカの本格参戦に反対するアメリカ人による反戦活動。ボブ・ディランのような音楽で反戦を訴えていく姿など、とにかく日本人には刺激的なことが数多く起こり、それらの「アメリカ」はテレビやラジオ、そして雑誌によって伝えられていった。
60年代から70年代のアメリカ車の特徴のひとつに、デザインがあると思う。たとえば欧州車のベンツやBMWのデザインは、いまも引き継がれるデザインでまとまっているのに対し、アメリカ車のデザインはその時代特有のものだ。現代のアメリカ車とはまったく違った特異なデザインと言えないだろうか。
しかし、それがまたインパクトがあり、ロックンロールが似合い、エルヴィス・プレスリーという大スターとクルマが相乗効果も生む。ロカビリーが流行し、リーゼントヘアや水玉模様のスカートを着て、ツイストを踊る日本人たち。
憧れはオープンカーやサイズの大きいクルマ。シボレー・ベルエアのように後部には、いきり立つようなテールフィンがあり、あるいはボンネットとトランクを同じ高さにデザインしたフラットデッキ・デザインのセダン、そしてカマロやマスタングのようにメッキを多用したロングノーズの2ドアクーペが60年代に生まれ、注目を集める。日本人にとってアメリカのモノと文化がどんどんと襲来して来たのだ。
僕は幼すぎてリアルタイムで経験はしていないが、大人になる頃にロックンロールを知り、ダンスパーティー(ディスコ)を知り、そしてアメリカ車を経験していった。22歳のとき、勢い余ってムスタング(当時の言い方)を中古車で購入してしまうほどに「アメリカ」にハマっていった。
この一種のアメリカへの羨望(せんぼう)ムーブメントは、その後サーフィンが大流行し、アメリカ文化を伝える雑誌も続々と創刊。食文化でもマクドナルドが上陸したりと、「さまざまなアメリカ」が日本を席巻し、英語は話せないままアメリカナイズされていくのだった。
デザインにアメ車を感じる日本車をピックアップ!
トヨタ・クラウンエイト(1964年登場)
日本車初のV8エンジンを搭載した国産ラグジュアリーセダン
全長はクラウンよりも110mm長い4720mm、全幅も1845mmあり、当時の日本車としては大きなサイズだった
1964年の東京オリンピックで聖火ランナーを先導したトヨタ・クラウンエイト。そのオリンピックの年に誕生。当時、法人車やハイヤーはアメリカ車や欧州車で独占されており、その市場へ投入されたのがクラウンエイトだ。アメ車に負けじと日本車初のV型8気筒エンジンを搭載。しかし2600ccと排気量は日本サイズ。インテリアはベンチシートでコラムシフト。なんとトヨタ初オートマチックトランスミッションとして話題だったトヨグライド2段自動変速機を搭載しており、アメ車を相当意識していたに違いないモデルだ。
三菱デボネア(1964年登場)
いかにもアメリカを意識したボンネットデザイン
ボンネットよりも左右フェンダー部のほうが位置が高く、両サイドにエッジを立たせたアメ車らしいデザインを採用
1963年の全日本自動車ショー(現:ジャパンモビリティショー)で発表された三菱デボネア。全長は当時最長の4670mmの本格高級乗用車としてデビューしている。デザインは元GMのハンス・S・ブレッツナーで、アメリカ車を意識した筋金入りの乗用車だ。60年代のアメ車をモチーフに、ボンネットとテールの両脇にエッジを立たせたデザインを導入している。また、1986年のフルモデルチェンジまで22年間大きなデザイン変更がなかった息の長いシーラカンス・モデルでもあった。
日産グロリア(1967年登場)
“タテグロ”と呼ばれた高級志向セダン
1967年に登場した3代目グロリア。ヘッドライトの形状から“タテグロ”と呼ばれ人気だったモデル
グロリアは日産と合併する前のプリンス自動車工業が生産。スカイラインをベースに初代が作られ、プリンスが日産と合併した翌年に誕生した3代目グロリアがヒットした。1960年代のアメリカ車のデザイン的特徴であるフラットデッキ・デザインとし、メッキを多用するスタイルはアメリカ流。縦型ヘッドライトは各社が試みるものの、市販できたモデルは少なく希少なモデル。そしてバンも存在し、その姿はまさにアメリカ車そのものだ。
ラインアップされたバンは、テールランプ部がボディーよりも突出した独特なデザインだが、これもまたアメ車っぽさを感じさせるポイント
アメ車薫る、デザインポイントはココ!
1967年式のフォード・LTD。縦目のヘッドライトや大型のフロントグリルは当時のアメ車らしいデザインであり、トヨタ・クラウンエイトや三菱デボネア、日産グロリアからは同様の雰囲気を感じる
VanderWolf Images - stock.adobe.com
日産セドリック(1971年登場)
国産初の4ドアハードトップ車
「ニーサンマル」と呼ばれた3代目セドリック(230型)。この世代からグロリアと姉妹車となり(グロリアは4代目)、基本構造が共通化された
1971年に登場した日産セドリック。70年代に入ると自動車生産技術の向上もあり、新たなデザイン領域へ踏み込んでいく。そこで誕生したのが4ドアハードトップだ。4ドアのセダンでありながら、Bピラーレスとし、窓を下ろすとクーペスタイルに見える斬新なデザイン。そのためロングノーズ、ショートデッキのクーペスタイルに用いるデザイン手法で設計されている。しかしながらアメリカ車風味は失いたくない意志を感じるデザインでまとまっている。
縦基調のレンズを並べたテールランプや尻上がりに見えるデザインが、当時アメ車に多かったマッスルなセダンを感じさせる
日産ローレル 2ドアハードトップ(1972年登場)
マッスルカーを思わせる
スタイリッシュな2ドアクーペ
C130型ローレルといえば、リア付近のボリューム感を感じさせる2ドアクーペが代表的だが、4ドアセダンのラインアップもあった
2代目日産ローレルは1972年に登場。セドリック・グロリアに引けを取らないボディーサイズでありながら、2ドアクーペという無駄が楽しめるデザイン。経済成長した日本にあって、本当の贅沢は無駄を楽しむことだと言わんばかりに、各社がトライしたカテゴリーだ。本家アメリカではたくさんこの手のデザインがヒット。マッスルカーと呼ばれるアメリカ車をお手本に、無駄に大きくしたことで日本国内では利便性はなく、ただスタイリッシュであることに命を懸けたモデルだ。
ボディーの塗装面にテールランプなどの灯火類が配置されておらず、ツルッとしたリアデザインから「ブタケツ」という愛称が付いた
アメ車薫る、デザインポイントはココ!
当時大人気だったアメリカのマッスルカー。ルーフから車両後端までが傾斜するファストバックデザインは、1970年代の日本車に多かった2ドア/4ドアハードトップ車にも通ずるデザイン
Mike Mareen - stock.adobe.com
トヨタ・セリカ リフトバック(1973年登場)
スペシャルティ・カーの走りは
アメ車風な縦型テールが特徴
1970年の発売当初は独立したトランクを持つ2ドアクーペのみだったが、1973年にテールゲートを備えた3ドアリフトバック(LB)が登場
1973年にセリカリフトバックが登場する。この頃になると、スポーツカーのルックスだけど、乗り心地がよく居住性も良いモデルと定義される「スペシャルティ・カー」と呼ばれるカテゴリーが生まれる。しかし、僕の定義では使い勝手は悪いけど、スタイルは良いモデルが当てはまると思う。このセリカリフトバックもじつは2+2という乗車定員で実際の後席は小柄な人でないと厳しいスペースだった。さらにテールゲートが開くデザインではあるものの、荷室が丸見えで深さがないので実用性は低い。だが、カッコいいのだ。
ルーフからボディー後端までのなめらかなシルエットが美しいセリカ リフトバック。縦型テールランプがアメ車を感じさせる
アメ車薫る、デザインポイントはココ!
縦3連の独立したテールランプは、初代マスタングのアイコン的デザイン。1973年に登場したトヨタ・セリカ リフトバックには同様の縦型テールが採用されていた
Sergey Kohl - stock.adobe.com
マツダ・コスモAP(1975年登場)
“真っ赤なコスモ”で人気を得た
高級スペシャルティ・カー
ロングノーズ&ショートデッキ、独立したフロントグリルなど、北米で人気だったクーペスタイルを取り入れる
マツダ・コスモAPが1975年に登場。13Bロータリーエンジンを搭載し、スポーツカーのようにバカっ速だったのを思い出す。真っ赤なコスモと宇佐美恵子さんのTV CMもインパクトがあり話題になった。この時代になると「スポーツからGTへ」と言い出し、ラグジュアリーにそして速く、大陸横断するクルマという意味合いを持つグランドツーリングがもてはやされる。コスモAPも同様で、当時アメリカで人気を得ていたラグジュアリーなスポーツクーペを彷彿(ほうふつ)とさせるロングノーズ&ショートデッキスタイルだった。
テールランプ左右がはね上がるデザインが個性的。ルーフから滑らかに傾斜するデザインが美しい
アメ車薫る、デザインポイントはココ!
1972年から1976年まで販売されていた3代目フォード・グラン トリノ。マツダ・コスモAPは、独立した丸型4灯ヘッドライトや縦基調のフロントグリルなど、グラン・トリノ同様の押しの強いフェイスが特徴だった
mino21 - stock.adobe.com
最新車種で味わえるレトロなアメ車的デザイン
1968年創業の光岡自動車が販売するM55は2025年に100台限定で販売。創業55年を記念し、70年代のアメ車に憧れを持つ中高年層をターゲットに開発。丸目4灯のクーペスタイルはどこかダッジ・チャレンジャーを思い出させるデザイン。創業者は大のアメリカ車好きで光岡自動車創業後も、アメリカ車に乗り続けているという話を聞いたことがある。M55のネーミングも「エム・ダブルファイブ」としており、「ごじゅうご」でも「ゴーゴー」でもないアメリカンな呼び方だ。
2021年に発売されたバディもまたミツオカらしいアメ車の薫りを存分に感じさせるクルマ。ヘッドライトをデザイン内に取り入れた格子状のフロントグリルは、レトロなアメリカンSUVを思わせる。
光岡自動車が2023年に創業55周年を迎えたことを記念して作られたM55。アメリカンマッスルを感じさせる力強いスタイルが特徴。ベース車はホンダ・シビックLX
トヨタ・RAV4をベースに作られたバディはいかにもアメリカンなフェイスで大人気となったSUV。すでに全仕様が完売済みということで欲しい人は中古車の出玉を待つしかない
今回は1960〜70年代のアメ車のエッセンスが取り入れられたであろう国産車を、モータージャーナリストの高橋アキラさんが独断でピックアップしましたが、いかがでしたか?
日本車でありながらアメリカの薫りを感じられるクルマは当時の若者にとって魅力的だったに違いないですね。
8月18日公開予定の「北米で“育った”異色モデルたち」では、アメリカでデザインされた国産車をピックアップしますので、お楽しみに!

高橋アキラ
たかはし・あきら モータージャーナリスト、公益社団法人自動車技術会 モータースポーツ部門委員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、日本モータースポーツ記者会会員。やんちゃなチューニング全盛期の自動車専門誌編集者時代を経て、技術解説、試乗レポートなどに長けた真面目なジャーナリストに。Y30グロリアワゴン、マスタングなど愛車遍歴にはマニアックな車も多い。
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