攻殻機動隊の「タチコマ」を連想させるかわいさと実力! 狭小現場で威力を発揮する“かにクレーン”
【特車図鑑】世の中を支える唯一無二の特殊な車両たち
今回の唯一無二の特殊車両は、株式会社前田製作所が生み出した「かにクレーン」。1988年に初代モデルが誕生し、先日は電気モーター駆動のリチウムイオンバッテリーを搭載した最新EVモデル「MK3053C」が登場した。コンパクトなボディながら、カニのように脚を大きく広げることで、最大約3tもの荷物を自在に持ち上げる力を発揮する。まさに世の中を支える“小さな巨人”と呼ぶにふさわしい存在だ。
狭く複雑な地形で威力を発揮する「かにクレーン」
もともと大きな重機が入ることができない墓地での墓石設置の需要に対応して開発されたかにクレーン。海外では「スパイダークレーン」と呼ばれている
稼働する際、まるでカニが足を広げているかのごとく脚部のアウトリガ(車体安定装置)を展開して、平坦ではない起伏のある地形でも安定性を保つ「かにクレーン」。長野県長野市に本社を置く前田製作所が開発したクローラータイプのコンパクトクレーンだ。もともとは墓石設置用として企画され、狭い通路が多い日本の墓地では車体幅を狭める必要がある一方、クローラー(走行用の装置)だけでは不安定なため格納式アウトリガを搭載。その結果、不整地でも調整によって水平を保つメリットも得ることとなった。動力はモデルによってガソリン・ディーゼルエンジンと電気モーター駆動のバッテリーを使い分けている。
4本の脚を収納すれば軽量コンパクトなのも特徴
移動時はコンパクト。稼働時は、それぞれ角度調整が可能な4本のアウトリガによって、飛躍的に安定性を高め、安全な荷揚げを実現する。この特徴は、小型モデルの場合、2トンクラスのトラックにも積載できるという大きなメリットをもたらす。さらに、クローラーは当たりの柔らかいゴム製で、排気ガスを出さないモーター仕様なら屋内作業も可能だ。また、その軽量さは建設機械の搬入が困難な山間部でも威力を発揮。パーツごとに分解すれば、リフトやヘリコプターでの運搬も可能で、とりわけ鉄塔工事など一般的なクレーンが入れない現場では、まさに真価を発揮する。
8月に登場した新型は電気モーター+ラジコン式を採用
2025年8月に日本向けに登場したばかりの最新モデルは、エコなモーター駆動を意味する鮮やかなライムグリーンのボディを採用。これに対して、やや落ち着いたグリーンのボディを持つディーゼルエンジン仕様もラインアップされている。バッテリー仕様は床面への当たりがソフトなホワイトクローラーを標準装備し、屋内作業にも対応する。
操作はすべてラジコンで行い、全自動・無段階制御のアウトリガが地形に左右されず水平を保持。最大吊り上げ能力は2980kgを誇る。走行時にはクローラーが車体から張り出して安定性を高め、ブーム(メインアーム)は最長12m。先端に装着するジブ(先端の補助アーム)を加えれば、全長はおよそ17mに達する。
最新モデル「MK3053C」は、ディーゼルエンジン、電動併用、電気モーター駆動のバッテリーの3仕様で、排気ガスゼロ・低騒音・振動の少ない静かな作業を実現し、屋内作業に対応している。クローラーも床に跡がつきにくい白いゴムが採用されている
「かにクレーン」の特徴はここ!
メインブームにジブ(追加アーム)を装着して最大限伸ばした状態。高さは一般的なビル5階分を超える約17mにも達する。左側の写真はブーム格納状態
全長×全幅×全高それぞれ3195×780(走行時1050)×1945mm。実物を目の前にすると、そのコンパクトさに驚かされる
4本の脚とアームを畳んだ状態を正面から見ると非常にスリムなボディに驚く。人が乗って操縦しない設計のため、このサイズが実現できている
バッテリー&電気モーター駆動を示すエコマーク。電動なので静かで排気ガスを一切出さないため屋内作業にも向く。充電は100/200Vに対応。80%充電までの時間は200Vで2時間20分
走行場所を選ばないクローラーは走行時に車体から張り出させることで左右への安定性を引き上げる。MK3053Cは屋内作業にも対応するホワイトタイプを装着
油圧シリンダーによって作動するアウトリガは作業時の安定性を確保するための重要なパーツ。モデルによってストレートタイプと中央から曲がるタイプがある
MK3053Cは、運転席を持たないコンパクトなモデルなので、操作は本体から取り外して操作できるパドルレバー式のラジコンで行う
走行時やクレーン展開時などの作動状況は常時このマルチモニターに表示される。ブームの角度のほか車体の傾き具合も表示されるため、安全な作業を行う上で大きな役割を果たす
クレーンに関するすべての作動は油圧で制御。ユニットは非常に小さいものの強力なモーター駆動と相まって最大3t近くまでの重量物を吊り上げることが可能
1988年に登場した「かにクレーン」の初代モデル
アウトリガを持つ初代かにクレーンは、1988年にオレンジカラーも鮮やかなディーゼルエンジン仕様でデビュー。同級の現行各モデルと比べてアウトリガ収納方式こそ異なるもののコンパクトさは同等。当時からいかに小さくまとめるか苦心して開発された様子がうかがえる。多数のレバーや独立した針メーターなど、武骨さを備えたアナログ感がいかにも建設機械らしい。
かにクレーンの名の由来となる、脚を左右に広げて安定させるアウトリガ構造は初代モデルから採用され、当時としては革新的だった。設置後の安定性を高め、不整地での重量物の吊り上げや作業が安全に実施できるようになった
●かにクレーン「MK3053Cバッテリー仕様(エコ仕様)」のスペック
【全長×全幅×全高(収納時)】 3195mm×780mm×1945mm
【全長×全幅(最大張出時)】 4665mm×4800mm
【駆動方式】 電動モーター
【バッテリー】 リチウムイオン(DC55V-135Ah、7.4kWh)
【重量】 2875㎏
【走行速度】 2.4㎞/h
【登坂能力】 15度
【クレーン容量(メインブーム/ジブ)】 2.98t×1.8m/1.0t×5.2m
【操作方式】 ラジコン/独立比例制御パドルレバー式
重機女子オペレーターKaoriさんが語るかにクレーンの魅力
最小モデルの幅はキッチンマットとほぼ同じ60cm!
かにクレーンって、トミカのミニカーでも発売されているので、もしかしたら一度は目にしたことがあるのではないでしょうか? でも、街中の現場ではほぼ見かけません。なぜなら、クルマも入れないような狭い墓地の墓石工事のために開発されたクレーンだからです。アウトリガと呼ばれる4本の脚を広げると、カニのように横幅が出て吊り荷が安定します。でも走行するときには足を畳むので、とてもコンパクトになります。一番小さいサイズは、なんと横幅60cm。
今、ご飯を作りながらこのコメントを書いていますが、60cmってキッチンマットくらいの幅ですよ! びっくりです。この最小モデルでも、最大吊上能力は約500kg。屋内のパネル設置などでも活躍してくれます。しかも遠隔操作できるラジコン装置や、過負荷防止のリミッターも付いているモデルもあるので、安全面もばっちりです。街中で見つけたら、ぜひその動きや形をじっくり観察してみてくださいね(笑)。
重機女子オペレーター Kaoriさん(株式会社KSK 代表)
親方として現場で作業を行うKaoriさんは、重機が好きすぎて自ら会社を設立。「ユンボの楽しさを伝えたい!」という思いから、毎日現場で作業しながらもテレビ出演やイベントでの講演のほか、建設業界で働く女性たちが集まるコミュニティサイトなども運営している。
●Instagram:@kao.ksk
●公式LINE(建設業に関わる女性限定):@925dxxzs
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