邦人の命を救う陸自の鋼鉄シェルター「MRAP」! 地雷の爆風を切り裂く“ブッシュマスター”とは!?
【特車図鑑】世の中を支える唯一無二の特殊な乗り物たち
建設現場や災害現場、そして輸送の最前線など、人知れず活躍する特殊車両たち。「特車図鑑」では、そんな世の中を陰で支える無二のマシンたちにスポットを当てて紹介していく。今回の輸送防護車は、兵員や関係者を爆発や銃撃から守り、安全に移動させるために生まれた特殊装甲車両。その存在は、現代の自衛隊の任務が抱える新たな危険を静かに物語っている。
アルジェリアの悲劇が生んだ鋼鉄の「盾」
乗車定員は10名で、導入台数はわずか8台。限られた車両ながら、エアコンと長距離行動用の飲料水タンクなどを備えることで車内に3日間の滞在が可能。過酷な環境下での任務を支える機能が備えられている
この車両が導入される直接のきっかけとなったのは、2013年に発生したアルジェリア人質事件。この悲劇を受けて自衛隊法が改正され、海外における邦人保護や輸送が、より現実的な任務として位置づけられるようになった。しかし当時、陸上自衛隊が保有していた軽装甲機動車や96式装輪装甲車は、あくまで「戦場」での運用を主眼に設計された車両であり、テロリストが多用する地雷やIED(即席爆発装置)といった脅威に対する耐性は十分とは言えなかった。
そこで注目されたのが、すでに実戦で高い防護性能を証明していた、タレス・オーストラリア社製の歩兵機動車、MRAP(エムラップ=米軍や自衛隊での呼称)「ブッシュマスター」だ。運転用ハンドルの左右を選ぶことができる構造のため、日本の道路事情に合わせて右ハンドルに設定できること、そして自衛隊の輸送機、輸送ヘリコプターに搭載可能である点も、採用を後押しした重要な要因だった。
高く張り出した車体と重厚な装甲が、地雷やIEDといった脅威から乗員を守ってくれる。ベースとなっている車体はタレス・オーストラリア社製の歩兵機動車。窓はすべて防弾ガラスとなっている
爆発や銃撃から人命を守るために設計された重厚なフォルム。車内への乗り降りは、ドライバーも含め、すべて後部の扉から行われる。扉下方には折りたたみ式の乗降用ステップを配備
なぜ車体底部が鋭い「V字型」なのか?
輸送防護車のV字型車体底部。地雷やIEDによる爆発時、衝撃と爆風を左右へ逃がし、乗員空間へのダメージを最小限に抑えるための構造となっている
輸送防護車の最大の特徴は、車体底部が鋭いV字型に成形されている点にある。地雷が車体の下で爆発した場合、V字型の床が凄まじい爆風と衝撃を車体中央ではなく、左右へと逃がす。平面的な床だと爆風をまともに受けて車体が跳ね上がり、車内に伝わる爆発振動で乗員にダメージを与える懸念があるが、V字型構造だと爆風などによる振動伝達を大幅に軽減することができる。
乗員の安全を守る輸送防護車「MRAP」の細部を紹介!
【コンバットタイヤ】ランフラット機能を備え、被弾や破片で空気を失っても一定距離の走行を可能とする。これは危険地域から確実に離脱するための装備だ。舗装路だけでなく、不整地や瓦礫が散乱する環境での走破性も考慮されている。高速移動が可能な装輪式のため、最高速度は時速100kmを誇る
【ワイヤーカッター】テロリストが道路上に張るワイヤーやロープは車両の進行を妨げるだけでなく、車上で活動する乗員に致命的な被害を与える危険がある。車体前方上部に設けられるワイヤーカッターはそれらを切断し、不意の障害物による待ち伏せや転倒リスクを回避するための装備として機能する
【樹脂製燃料タンク】車体左側面には、樹脂製の燃料タンクが装備されている。地雷やIEDが車体下で爆発した場合、燃料タンクが車内にあると誘爆の危険性が高まる。そこで輸送防護車では、燃料タンクを外部に独立配置されている
【側面小窓】輸送防護車は窓の開閉を行わない密閉性の高い車両であるため、外部との連絡手段として、右側の運転席下部には小さなハッチが設けられている
【上部ハッチ】車体上部のハッチは、警戒・観測のための重要なポジションだ。緊急時には、後部搭乗口が使用できない場合の脱出口としても機能する。また固定武装を持たない車両であるため、必要な際にはこのハッチに機関銃を装備することもできる
【輸送防護車のスペック(タレス社公表データ)】
●車種名:輸送防護車
●ベース車両:タレス・オーストラリア社製「ブッシュマスター」
●全長×全幅×全高:7180mm×2480mm×2650mm
●車両総重量:約15000kg
●エンジン:直列6気筒ディーゼルターボ(キャタピラー社製 3126E)
●排気量:7200cc
●最高出力:264kW(334HP)/2200rpm
●トランスミッション:ZF製 6HP502 ECOMAT G2
●最高速度:100km/h ●航続距離:約800km
●アプローチアングル:40° ●デパーチャーアングル:38°
●最低地上高:430mm ●乗車定員:10名
重機女子オペレーター Kaoriさんが語る輸送防護車「MRAP」の魅力
守るために生まれた車両、それが「MRAP」!
輸送防護車MRAPは暴動など、海外などで不測の事態が起きた際に、邦人を安全に保護・輸送するための車両です。地雷や銃弾などの攻撃から人員を守ることを前提に設計されています。ここまで徹底して「人を守る」ことを考えたクルマは、なかなかないですよね。すごい! 車内に住みたい(笑)。
特に印象的だったのが燃料タンクの構造です。樹脂製で車体側面に配置することで、地雷爆発時の車体誘爆や車内への被害を最小限に抑える工夫が施されています。さらに予備タンクは車体内部の安全な位置に確保されており、危険区域から離脱するための燃料はしっかり確保されています。
ちなみに私は、戦車を公道で走らせることができる(条件あり)大型特殊免許を持っています♡ いつか役に立つといいなぁ〜。そんなことを思いながら、「MRAP」を眺めていました。
重機女子オペレーター Kaoriさん(株式会社KSK 代表)
親方として現場で作業を行うKaoriさんは、重機が好きすぎて自ら会社を設立。「ユンボの楽しさを伝えたい!」という思いから、毎日現場で作業しながらもテレビ出演やイベントでの講演のほか、建設業界で働く女性たちが集まるコミュニティサイトなども運営している。
●Instagram:@kao.ksk
●公式LINE(建設業に関わる女性限定):@925dxxzs
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