スカイラインGT-R、インプレッサ、GTO…ド派手なリアウイングを装備した名車たち【前編】
これってほんとに純正だったの!? あの大きな形状には意味があったのか!リアトランクやルーフ後端に備わるリアウイング。今どきのクルマは比較的コンパクトでスマートなデザインが多いが、ひと昔前は、これ本当にノーマルなの!? と疑ってしまうほどに大きくて目立つリアウイングを装着したクルマもあった。そもそもリアウイングってどんな効果があるの? という機能面の話から懐かしの個性的リアウイング装着車をピックアップした。
リアウイングは走りに効果がある?
日本を代表するホンダのFFスポーツ、シビック タイプRには大型リアウイングが装着されている。写真は5代目のFK8シビック タイプR
昨今、大きなリアウイングを付けたスポーツカーは珍しい存在となってしまったが、1990年代のスポーツカーの多くには、純正パーツで巨大なリアウイングが装備されていた。
リアウイングの主な役割は「リアにダウンフォースを発生させること」だ。ダウンフォースとは、空気の流れによって物体を下に押し下げるように働く力のこと。揚力を発生する飛行機の主翼を上下逆さまにした形状が、一般的なスポーツカーのリアウイングだと考えるとわかりやすいと思う。ダウンフォースを発生させることで、クルマを路面に押し付ける力が働き、トラクションが向上する。
高速走行をするクルマでは、車体の上面を流れる空気が、車体の下面を流れる空気の流れより速くなることで圧力差が発生し、ボディーを地面から浮かび上がらせる揚力(リフトフォース)が働く。しかも、車速が上がるとリフトフォースは二次関数的に増える。
このリフトフォースが働くと、高速走行中にハンドルが軽くなったり、些細(ささい)な横風でクルマが左右に流されやすくなったりと、走行安定性に悪影響が出てしまう。ダウンフォースを高めることで走行安定性を確保するべく、レースの世界では1970年から大きなリアウイングが投入されるようになった。
その後1970年代には徐々に市販車への採用がはじまり、1980年代半ばには、「リアウイングがないとスポーツカーではない」というほどにはやった。
ただ、一般道で時速60km程度、高速道路であっても時速100km程度の速度で、リアウイングがどれほどの意味があったのかと、疑問に思っていた方も少なくないだろう。しかも、スポーツカーやセダンなどは全高が低く、車両後方がなだらかに下がるデザインであるため、床下に多くの空気が入り込みやすい背の高いSUVやミニバンとは違い、比較的リフトフォースはマシであるはずだ。
大きなリアウイングにはまた、運転中に後方視界の邪魔となったり、洗車機では洗い残しが発生する、そもそも洗車機の利用を断られる、などの弊害もあった。
決して実用的とはいえない装備ではあったのだが、これだけはやった背景には、「レースカーみたいでカッコいい」というファッション的な意味が大きかったのだろう。
走行場所に応じてドライバーが簡単に調節可能な、R34型GT-R純正の角度調整機構付2段式リアウイング。角度を立てるとリアの安定性が増す傾向にあった
そんなリアウイングも、2000年代になると様変わりする。コンピューターの性能が飛躍的に向上し、高度なCAE(Computer-Aided Engineeringの略:コンピューターによる解析など設計支援技術全般のこと)が普及したことで、走行中のクルマの周囲を流れる空気を緻密にシミュレーションすることができるようになり、フロア下の空気の流れをコントロールすることでリフトフォースを調節するという手法に注目が集まったためだ。
それまでも、フロア下による空力性能の改善は、レーシングドライバーやテストドライバーの間では感覚的、経験的に理解されていたそうだが、その後は、予測困難だったエンジンやマフラーによる熱の流れなど、複雑な空気の流れも解析できるようになったことで、開発エンジニアも着目するように。
またCAEによって、ボディー表面を流れてきた気流が、ボディーのどのあたりから剥離して渦となって飛んでいくのかなどを詳細に解析できるようになったことで、ドラッグ(空気抵抗)を下げ、燃費改善を狙う設計ができるようになった。車両床下の凹凸をなくしたフラットフロアや、車両後端下側へのディフューザーの追加など、アイテムが続々と提案され、スポーツカーだけでなく、一般乗用車へも投入されるようになったのだ。こうしてド派手なリアウイングは徐々に影を潜めていった。
現在は、ドラッグを下げつつ、リフトフォースをゼロに近づける「ゼロリフト」が、空力設計のトレンドになっているようだ。
個性的リアウイングを備える懐かしのクルマたち
大型ボディーに大型リアウイング
圧倒的な存在感を放ったド派手スポーツカー
三菱GTO
後期モデルで大型化したリアウイングを備える三菱GTO。90年代にWRCで大活躍をしたランエボを彷彿(ほうふつ)とさせる迫力があった
ボディーサイドには、エンジンリア置きのイタリア製スーパーカーのようなエアインテークがあるが、エンジン前置きのGTOでは機能していなかった…
90年代の国産スポーツカーには、こぞって大きなリアウイングが装着されていた。トヨタ・80系スープラ、日産スカイラインGT-R、ホンダ・インテグラタイプRなどの代表的モデルのほか、三菱からはGTOが登場。写真のGTOは1998年8月にマイナーチェンジした後期型モデル。中期型からフロントバンパーやヘッドライトのデザインを変更、また大型リアウイングへ変更するなど車両全体をリフレッシュし、よりスポーツカーチックなスタイルのデザインとなった。前期型のターボモデルには、高速走行時にフロントスポイラーとリアウイングの角度が変わるアクティブ・エアロ・システムが採用されていた。
WRCで輝かしい戦績を残した4WDスポーツを
限定車として再現したロードモデル
スバル・インプレッサ(GC系)
WRCで日本車初の3連覇という快挙を成し遂げたスバル・インプレッサWRX。写真は1998年に登場した特別限定車のインプレッサ 22B-STiバージョン
スバルが世界ラリー選手権のWRカー・カテゴリーにおいて、1995~1997年シーズン3連覇を達成した際のベースマシンがインプレッサWRXだ。
なかでも22Bは、1997年に優勝したWRカーの前後バンパーデザインや前後ブリスターフェンダー、リアウイングなど、外観を極力再現したロードモデル。エンジンは2.0Lから2.2Lへ排気量を拡大し、最高出力は280PS/6000rpm、最大トルクは37.0kgm/3200rpmを発生した。足回りにも専用チューニングを施し、400台限定として販売されたが、瞬く間に完売となった伝説のクルマだ。
GC8をベースにSTIがチューニングした、限定 300台の究極のオンロードスポーツマシン。ダブルウイングリアスポイラーが特徴的だった
標準装備と思えるほど人気だった流麗なシルエットの大型リアウイング
トヨタ・スープラ(80系)
1993年にデビューした4代目スープラ。エンジンは自主規制値280PSを発生する3.0L 直6ツインターボ、ラウンド形状のリアウイングが人気だった
80系スープラを象徴する大型リアウイングは、実はメーカーオプション。リアウイングレス仕様が標準設定だった
先代の70系スープラの直線的なデザインから大きくイメチェンし、流麗なカーブを生かしたグラマラスなスタイリングへと生まれ変わったA80スープラ。最高出力280PS、最大トルク44.0kgmの3.0L直6ツインターボの2JZ-GTEに、ゲトラグ製6速MTを組み合わせた最強グレード「RZ」が人気だった。
なかでも大きな弧を描いた固定型の大型リアスポイラーは、80系を象徴するアイテムのひとつ。このアーチはリアウインドーの形状と一致しており、車両後方の視界を邪魔しない優れたデザインだった。
こんなマニアックなクルマでもリアウイングは派手だった
三菱ギャランスポーツ
ギャランスポーツ(1994年デビュー)はリアに大きな開口部をもった5ドアハッチバックだったが、当たり前のようにリアウイングが装着されていた
クロカンRVとGTのクロスオーバー的なコンセプトは新しかったが、登場した時代が早すぎたのかもしれない
4ドアセダンの三菱ギャランのコンポーネントをベースに、大きなリアハッチゲートが与えられた5ドアハッチバックだったギャランスポーツ。最高出力240PSを発揮する排気量2.0LのV6ツインターボを搭載(MT車)し、4WDシステムを組み合わせたGTグレードは、走りを優先したモデルであった。
キャッチコピーは「GTの走りと、RVの楽しさ。」。RV風のグリルガード(GTグレードのみ)やルーフレール、さらにはスポーティーなデザインのリアウイングも標準装備していたが、時代を先取りしすぎたのか、奇抜なデザインの珍しいクルマとみなされてしまっていた。
モデル初の角度調整機構付きでセッティングが楽しめるスポーツカーに
日産スカイラインGT-R(R33)
リアウイングの足部分は後方に伸び上がるような作りで、いかにもスポーティーなデザイン。R32型から大幅に大型化された
R33型スカイラインGT-Rを象徴するボディーカラーがミッドナイトパープル。R34やR35にも限定販売モデルに採用されていた
GT-R初の角度調整機構付きリアスポイラーを搭載した、R33型スカイラインGT-R(1995年デビュー)。ウイング部分のネジを緩めることで角度を4段階に調節でき、自分好みのセッティングを楽しめた。
R32型に対し、全長を約130mm、ホイールベースを約105mmほど拡大し、ボディー剛性も大幅に強化。加給圧を上げたRB26DETTエンジンを搭載し、最高出力の公称値は自主規制ギリギリの280PS(最大トルク37.5kgm)だったが、実際には300PSを超えていたという話も。R33スカイラインGT-Rはまた、プロトタイプモデルが、ドイツのニュルブルクリンクで7分59秒というラップタイムを出したことも有名。この記録には角度調整機構付きリアスポイラーも貢献していたことは間違いない。先代のR32型のGT-Rよりも、21秒ものタイム短縮に成功したことから、「マイナス21秒ロマン」というフレーズがセールスコピーにも使われた。
過酷なモータースポーツでは巨大なリアウイングが必須!?
最高時速300kmにもなるスーパーGTのマシンのリアウイング。サーキットごとにウイングの角度を調節し、ダウンフォースとドラッグのバランスを調節する
フォーミュラやスーパーGTのレーシングカーには、スポーツカーよりもはるかに巨大なサイズのリアウイングが装着されている。車体へ強いダウンフォースを働かせ、タイヤを地面により強く接地させてグリップを稼ぎ、コーナリングスピードを上げるためだ。
ただ、ダウンフォースを利かせるほど空気抵抗が大きくなるため、最高速度は下がる傾向になる。そのため、そのサーキットがコーナリング重視か、最高速度重視か、といった特徴を考えてリアウイングのセッティングを変えている。レーシングカーにとって、こうした空力セッティングはタイヤ以上に重要なファクターなのだ。
荒れた路面の山を猛スピードで走り上がる伝統的なヒルクライムレース、パイクスピーク。コースミスしたら一発アウトの状況下ではダウンフォースが生命線。コントロール性重視のためフロントにも多数のカナードというエアロパーツを装着している
ホンダ・インテグラ タイプR、三菱ランサーエボリューションⅥ、日産スカイラインGT-R(R34)などが登場する特集の後編はこちら!
吉川賢一
よしかわ・けんいち 日産自動車で操縦安定性・乗り心地の性能開発を専門に、スカイラインなどの開発に従事。新型車や新技術の背景にあるストーリー、つくり手視点の面白さを伝えるため執筆中。趣味はカーメンテナンス、模型収集、タミヤRCカーグランプリ参戦。最近はゴルフとサウナにもハマり中。
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