緑に囲まれた曲がりくねった道路を走るTE27カローラレビン。ヘッドライトが点灯している
文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタ・カローラレビン(TE27型)の特選旧車レンタカーに試乗。“ハチロク”レビン・トレノのご先祖の走りは? #31

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

トヨタが1972 年に発売した、カローラレビン(TE27型)の特選旧車レンタカーに試乗。初代セリカに搭載されていた2T-G型DOHCエンジンをより小さなボディーに押し込んだ、ライトウェイトFRスポーツクーペです。そんなカローラレビンのレンタカーを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

斬新だったモデル名

緑に囲まれた草地にモスグリーンのTE27カローラレビンが停車している。ナンバープレートは「34-90」

Vintage Club by KINTO でお借りした特選旧車レンタカーのTE27カローラレビンは1974年式で、車検証に記載された車両重量は855kg。価格は81万3000円だった
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緑に囲まれた道路に停車するダークグリーンのTE27型カローラレビンの後方・側面ビュー

1970年5月の2代目カローラ発売時にカローラ クーペが登場。それから2年後のマイナーチェンジの際にカローラレビンがお目見えした。セリカ1600GTやカリーナ1600GTに搭載されていた2T-G型エンジンを搭載したホットモデルである
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2代目カローラの高性能モデルが“レビン”である。追加車種として登場したのはモデルチェンジから2年後の72年3月。70年12月にデビューしていた初代セリカ1600GT用の1.6リッター4気筒DOHC(2T-G型)をカローラの2ドアクーペボディーに搭載した。

このころ、筆者は免許取得前の高校生で、ファミリーカーのカローラからスゴイのが出た、くらいの認識しかなかったが、レビン(英語で“稲妻”の意)というグレード名は斬新に感じた。GT-Rとか SSS(スリーエス)とかZ432とかGSRとか、国産高性能車に与えられるグレード名といえば、ビジネスライクな英数字と決まっていたからだ。

例によって新車と見まがうトヨタの旧車に「わ」ナンバーを付けてくれたのは Vintage Club by KINTOである。3か月にわたる貸し出しのワンクールを終えて、メンテナンスのために愛知県豊田市の新明工業へ里帰りしているタイミングを捉えて試乗させてもらう。

「74年式」と、書くのは簡単だが、51年前のクルマである。しかも、猛暑日の連続する真夏。出発前に「なにか注意点ありますか?」と聞くと、「ないです」と即答したのは新明工業のスペシャリスト、本多和之さんだ。「フツーに走っていただければ、大丈夫です。ただのおもしろいクルマですよ」

この気温ということもあり、ソレックス・キャブレター2連装のエンジンは一発でかかった。その後も、始動は常に一触即発で、ツインキャブの気難しさはいっさい感じさせなかった。

あとでトランクを開けると電動の燃料ポンプが付いていた。オリジナルは機械式だが、エンジンがかかる前からキャブレターに燃料を圧送する電動式を後付けしてある。KINTOレンタカーの自信は、こうしたノウハウの積み重ねなのだろう。

クルマはクーラーじゃない!

TE27レビンの車内。ナルディ社製の木製ステアリングとメーターが並ぶクラシックなダッシュボードが見える

たくさんのメーターが並ぶ70年代らしいインパネ。ステアリングホイールはナルディ製
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TE27レビンの黒い前席。水平ステッチが施されたシートと一部のダッシュボードが写っている

ビニールレザーの感触が懐かしいフロントシート
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TE27レビンに乗るのは初めてである。ヤマハと共同開発した、名機の誉れ高い2T-Gエンジンも初体験だ。クラッチペダルは意外や軽い。5段MTのシフトレバーはストロークこそ長めだが、コクッコクッという節度感のあるシフトタッチが気持ちいい。

走り始めると、動きの軽さに驚く。クラッチ調整が完璧なこともあり、とくに出足はアクセルを踏まなくても加速する、と言いたくなるほどの身軽さだ。

車重も軽く、855㎏しかない。同じエンジンのセリカより125㎏も軽かった。エンジン音は常に大きいが、速いから、ハッタリに聞こえない。峠道に入っても、多少の坂道なら、高いギアのままグングン加速する。それだけトルク(力強さ)があるということである。かといって、同時代のトヨタ製2リッターDOHC、18R-Gほど大味ではなく、高回転まで“回し甲斐”もある。

このレビンには、助手席グローブボックス下にクーラーも付いていた。つけたらパワーは落ちますけど、使ってくださいと言われていたので、お言葉に甘えて信号待ちのときにオンにした。ファンノイズが大きいのはともかく、途端にエンジンがワナワナ揺れ始めた。かわいそうなので、すぐにスイッチを切る。以後、窓を開けて、ペットボトルの水分補給でしのいだ。クルマはクーラーじゃない。

TE27型カローラレビンのエンジンルーム。赤い「TOYOTA」ロゴ入りのバルブカバーと各種エンジン部品が見える

直列 4気筒・ツインカムの2T-G型エンジンは、排気量1588cc。最高出力110PSを発揮する
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ライトウェイトスポーツカー

緑の中のカーブを走行するTE27型カローラレビンの後方ビュー。ナンバープレートは「わ 34-90」

軽量なボディーに高出力なエンジンを搭載したTE27レビン。固められた足まわりとあいまって、硬派なスポーツカーという印象を受けた

期待を上回るスポーツ性を感じさせたパワートレインに対して、シャシーは車齢相応である。ノンパワーのステアリングは、据え切りだと重い。スピードを上げれば軽くなるが、直進付近に不感帯があって、ステアリングホイールを5cmくらい振っても、反応しない。昔の“ブラブラハンドル”である。

路面の凸凹を真っ正直にすべて車体に伝えてしまうような足まわりも、古めかしい。リアサスペンションには2代目カローラの他モデル同様、板バネが使われている。同世代のセリカは同じく固定車軸のリジッドながら、コイルスプリングだった。スペックからして、セリカは“デートカー”だったのだ。

極上の旧車レンタカーで半世紀越しに「乗りこぼしの一台」を味わわせてもらうと、TE27レビンは、2T-Gエンジンを載せたライトウェイトスポーツカーである。現役時代から放たれていた「男のクルマ」的なオーラは、乗ってみるとまさにそのとおりだった。元祖レビン、70年代国産スポーツ車のなかでも、特筆すべきファンカーだと思う。

・カローラレビン(TE27型)のスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1595×1335mm
ホイールベース:2335mm
エンジン:2T-GR型 直列4気筒 1588cc
エンジン最高出力:81kW(110PS)/ 6400rpm
エンジン最大トルク:137N・m(14.0kgm)/ 4800rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(前/後):ストラット/リーフリジッド
タイヤ:185/60R14

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#30 トヨタ・ソアラ(MZ11型・初代)の試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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