初代ホンダ インテグラ タイプRの旧車レンタカー試乗記。白いボディのスポーツクーペがワインディングロードを軽快に駆け抜ける瞬間、VTECエンジンの高回転サウンドが響く峠道での走行シーン
文=下野康史/撮影=荒川正幸

ホンダ・インテグラ タイプR(初代)のレンタカーに試乗。自然吸気にこだわっていた当時のタイプRの、エンジンの切れ味は? #33

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

ホンダが1995 年に発売した、インテグラ タイプR(初代)の旧車レンタカーに試乗。1992年にデビューしたNSX タイプRに次ぐホンダのタイプRシリーズの第2弾として、運動性能を際立たせたスポーツモデルです。そんなインテグラ タイプRのレンタカーに自動車ライターの下野康史さんが試乗します。

目次

NSXに次ぐ2番目の“タイプR”

初代ホンダ インテグラ タイプRのレンタカーに試乗。白いボディーと大型リアウイングが際立つフロントビュー

レンタカーズSEiWA でお借りしたインテグラ タイプRの旧車レンタカーは1996年式で、車検証に記載された車両重量は1120kg。インテグラ タイプRの価格は222万8000円(東京での価格)だった
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インテグラ タイプR(初代)のレンタカー試乗記。リアウイングとタイプRエンブレムが輝く後ろ姿、草地に停車し走り終えた余韻を感じさせる

試乗したのは3ドアクーペだが、初代インテグラ タイプRには4ドアハードトップも存在した
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“タイプR”は高性能ホンダ車の大吟醸モデルである。第一号は92年のNSX。90年に鳴り物入りでデビューした国産初の“スーパーカー”の追加モデルに初めてタイプRの名が与えられた。

そして、続く2番目のタイプRがインテグラだった。3代目インテグラの追加モデルとして登場したのは95年。同時代に居た者としては、エッ、タイプRの称号をほかのクルマにも付けちゃうの!? という驚きもあったが、内容を見ると納得だった。

1.8リッター4気筒のVTECエンジンは、自然吸気のまま200PSを発生した。高性能エンジンの指標、「リッター100PS」(1000cc換算で100PSの意) をクリアしていたインテグラSiR用1.8リッターの180PSをあっさり上書きしたのである。一方、各部の軽量化で車重は40㎏軽減された。

赤いヘッドカバーのエンジンには、約60点の専用パーツが組み込まれ、吸気ポートやバルブシート部はホンダの社員職人の手作業で研磨された。そのため、製造は一日25台が限度で、販売台数も月500台に限られた。レース用エンジンのようにまさに“手で磨く”この工程は、98年のマイナーチェンジまで続いた。

発売当時の価格は222万8000円。3リッターV6のホンダNSX タイプRは975万7000円した。インテグラは財布の軽い若者でも買えるタイプRだったのだ。筆者は新車時に試乗しているが、いまでも「あれ、よかったな」と思い出す“銘車”の1台である。

VTECによる高回転性能は、今なお健在

ホンダ インテグラ タイプR(初代)のコクピット。MOMOステアリングと5速マニュアルシフトが並ぶドライバーズシート、ワインディングを走るための純粋な操作系が際立つ

ステアリングはオリジナルよりさらに小径化され、ワインディングでの走りをいっそう楽しくさせている
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ホンダ インテグラ タイプR(初代)のRECAROシートと赤い4点式シートベルト。スポーツ走行を意識した、本格的な雰囲気

フロントシートはレカロ製。スポーティーな走りをしてもしっかりとホールドしてくれる
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そんなクルマに「わ」ナンバーをつけてくれたのは、この連載ではおなじみ、茨城県高萩市の“レンタカーズSEiWA”である。初度登録96年1月。17万4300kmを刻んだ個体は、マニアのあいだで “96スペック”と呼ばれる初期型で、同社代表の棚谷泰之さんが長く愛用していたものだという。

チャンピオンシップホワイトのクーペボディーは昔と変わらなかったが、乗り込むと、ステアリングは小径のMOMO製に変わっていた。NSXのタイプRと同じく、チタン製シフトノブが自慢だった5段MTのシフトレバーまわりも様子が違う。変速操作をもっと手前の位置でできる社外品のキットが付いていた。

といったように、“オーナー”の好みにモディファイされたところも少なくなかったが、30年前と変わらなかったのはエンジンである。タコメーターのレッドゾーンは8400rpmから始まる。最高200 PSの発生回転数も8000rpmの高みにある。

そんな高回転スペックはダテではない。このエンジン、今でもとにかくよく回り、回すほどに楽しい。加速していくと、5000rpm付近でエンジンの音質が変わり、さらに力強さが増す。カムが高速側に切り替わるホンダVTECエンジンの特徴がはっきりわかるのだ。

経済性と高性能を高いレベルで両立させるために開発されたのが、89年の初代インテグラで登場したVTECエンジンである。低回転用と高回転用にそれぞれのカムを設けて、吸排気のバルブタイミングとリフト量を変える。マツダ・ロータリーもびっくりの高回転性能はVTECのおかげである。

ホンダ インテグラ タイプR(初代)のB18C型VTECエンジン。赤いヘッドカバーと吸気系チューニングが目を引く、峠道で高回転を楽しむための心臓部

搭載されるB18C 96 spec.R型・直列1.8リッターエンジンは200PSを発揮。リッターあたり111馬力もの高出力を誇る
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エンジン車がいちばん楽しかった頃

ホンダ インテグラ タイプR(初代)が山道を駆け抜ける後ろ姿。リアウイングとテールランプが印象的で、試乗レンタカーならではの走りの余韻を感じるシーン

高萩のワインディングロードを駆けるインテグラ タイプR。エンジンサウンドを楽しみながら走るという、現代のクルマでは少なくなった味わいのあるクルマだった

この取材は、前回紹介した98年型インプレッサWRX STiと同じ日におこなった。レンタカーズSEiWAの旧車レンタカーを2台借りて、20世紀末に人気を誇った国産スポーティーカーを直接比べることができた。

アクセルを深く踏み込むたびに、思わずニンマリしてしまうのは、どちらも同じだが、そのキャラクターは好対照である。ターボというドーピングを思いっきり効かせたインプレッサに対して、自然吸気らしい軽さと“人肌感”が楽しいインテグラ。ハイパワーターボの爆発力はないが、そのかわり、回転上昇にドラマがある。どちらも、エンジンがいちばん楽しかった頃のエンジン車だと思う。

直径32cmのハンドルや、シフト操作の動線を短くしたレンタカーズSEiWAのカスタム装備もファン・トゥ・ドライブに効いていた。自社整備工場を持つこの会社のラインナップには、棚谷代表の元愛車がけっこうある。取っておくには大きすぎるし、お金がかかりすぎるマイカーを、レンタカーにして取っておいているような人である。

レンタカーズSEiWAの旧車レンタカーは、高萩市のふるさと納税の返礼品にもなっている。

・インテグラ タイプR(3ドアクーペ)のスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1695×1320mm
ホイールベース:2570mm
エンジン:B18C型 直列4気筒 1797cc
エンジン最高出力:147kW(200PS)/ 8000rpm
エンジン最大トルク:181Nm(18.5kgm)/ 7500rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(前/後):ダブルウィッシュボーン/ダブルウィッシュボーン
タイヤ:195/55R15
※96スペック・3ドアクーペ

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#32 スバル・インプレッサWRX(GC8型)の試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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