文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタ・アルテッツァに試乗。今どき希少なFR・NA・MTのコンパクトセダンの走りは? #26

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

トヨタが1998 年に発売した、アルテッツァのレンタカーに試乗。「速さを競い合うことよりドライビングそのものを楽しむこと」をテーマに開発された後輪駆動(FR)のスポーツセダンです。
そんなアルテッツァを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

エフアールはスポーティーで贅沢

アルテッツァのフロント7:3

「Vintage Club by KINTO」でお借りしたアルテッツァは1999年式のRS200 Zエディションで、車検証に記載された車両重量は1360kg。アルテッツァのデビュー当時の本体価格は207万円から254万円だった。アルテッツァは2001年にワゴン「ジータ」を追加、05年に一代限りで絶版となったが、同年に発売されたレクサス・ISが後継モデルとなる
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アルテッツァのリア7:3

試乗したアルテッツァは、2025年6月10日まで埼玉県さいたま市で貸し出されている。詳細はVintage Club by KINTOのウェブサイト
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FR(フロントエンジン/リアドライブ)。この半世紀ですっかりFF(フロントエンジン/フロントドライブ)に取って代わられてしまった駆動方式である。とくに小型車は、いまやぜんぶFF車と言っていい。

操舵(そうだ)も駆動も前輪が担当するFFに対して、前輪は操舵だけ、駆動は後輪と、分業体制をとるのがFR方式である。どちらにもそれぞれ長所と短所があるが、FRがあたりまえだった時代にクルマの刷り込みを受けた筆者は、今でもFRにシンパシーを感じる。

後輪の駆動力と前輪の操舵でバランスをとるドリフト競技もFR車の得意技だが、エンジンからのキックバックがない、すっきり上質な操舵感はFR車の持って生まれた長所といえる。昔のFF車は、エンジンの微振動がハンドルに伝わったり、急加速すると“トルクステア”といってハンドルが取られたりすることが多かったのだ。

タイヤが前後に2つずつあるのだから、それぞれに役割を分担させるのは、そもそも理にかなっている。考え方として“贅沢”ともいえる。その証拠に、製造コストやスペース効率をそれほど突き詰めなくてもいい大型高級車には今でもFR方式が残っている。

フラッグシップはMTだった

アルテッツァのインパネ

ダッシュボードにも経年劣化などはなく、よいコンディションが保たれていた
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アルテッツァのシート

シートクッションの上下と角度をダイヤルで調整できるシート上下アジャスタ―(4WAY)はZエディション専用の装備
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アルテッツァは98年10月に登場したFRのスポーツセダンである。ラグジュアリーセダン“プログレ”のフロアパネルを11cm切り詰め、燃料タンクやバッテリーなどの重量物をホイールベース内に収めるなどして運動性能を高めた。

おなじみKINTOの旧車レンタカーで借りたのは、99年式のRS200。ヤマハ発動機と共同開発した210PSの2リッター4気筒エンジン(3S-GE型)に6速MTを組み合わせたアルテッツァの大吟醸グレードである。RS200には5速ATもあったが、登場時の価格は6速MTモデル(240万円)のほうが16万円高かった。そのかわり、MTのエンジンにはチタン製の吸気バルブが奢(おご)られていた。

ショールームコンディションのボディーをまのあたりにすると、あらためてコンパクトだなあと感じた。全幅は5ナンバー枠をはみ出すが、たったの2cmである。全長は上限まで30cmを残している。こんなサイズのFRの4ドアセダンは、もうどこもつくっていない。

スポーツセダンとは何か?

アルテッツァのエンジン

3S-GE型・2リッター直列4 気筒エンジンを搭載。BEAMS(Breakthrough Engine with Advanced Mechanism System=先進機構を備えた画期的エンジン)を名乗るエンジンは、リッターあたり100PSを超す210PSを発揮する
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運転席に座ってまず目につくのは、クロノグラフ腕時計のようなメーターだ。白い文字盤の速度計の中に、小さな3つのメーター(水温/電圧/油圧)が配されている。チマチマしていて、けっして見やすくはないが、セダンでも「主人公はドライバーですよ!」と訴える“新趣向”だった。

走り出すと、軽快だ。ハンドルやクラッチペダルなどの運転操作感がまず軽い。古めかしい旧車ではなく、“最近のクルマ”といった感じだ。

身のこなし全体も軽くて、キビキビしている。新車当時よりむしろ“活き”のイイ感じがする。考えてみるとこれは、エンジンの貢献大と思われた。トルク感豊かで、しかもアクセルレスポンスがいい。この2点では、CO₂対策の進んだ最新のエンジンを凌(しの)いでいる。

レッドゾーンは8000rpm近い高みにある。「エンジンをいたわって下さい」というKINTOレンタカー車載トリセツの名言に従い、無闇(むやみ)に回すことはしなかったが、とにかく反応がレスポンシブなので、町を流しているだけでも楽しい。そんなクルマが“セダン”なのである。

アルテッツァが遺したもの

走り去るアルテッツァ

しっかりとメンテナンスがされたアルテッツァのレンタカーは、新車時と変わらないのではと思わせるほど、活発な走りを見せてくれた

セダンだから、後ろにも乗ってみた。プロペラシャフトを通す隆起のある後席にも必要十分な広さが確保されている。フロントピラーが寝すぎていないため、上屋の空間にも余裕がある。直せるところはぜんぶ直してあるのがKINTOレンタカーだから、20万km近い走行距離と四半世紀以上の歳月を刻んだこのクルマの内装も、新車時とそう変わらない。

運転席では編集部Nさんがハンドルを握っている。アルテッツァ初体験の感想を聞くと、「楽しいですね」と答えた。「今のトヨタ車でこれに近いレベルを探すと、86(ハチロク)なんでしょうか?」と、希少なFRのコンパクトスポーツクーペを挙げた。たしかにそうかもしれない。20世紀末に出て、一代限りで終わったアルテッツァが、現在のハチロクにつながっている。新説だが、納得がいった。

・アルテッツァのスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4400×1720×1410mm
ホイールベース:2670mm
エンジン:3S-GE型 水冷式直列4気筒 1998cc
トランスミッション:6速MT
エンジン最高出力:155 kW(210 PS)/7600rpm
エンジン最大トルク:216N・m(22.0kg・m)/6400 rpm
サスペンション形式(前/後):ダブルウィッシュボーン/ダブルウィッシュボーン
タイヤ:215/45R17

JAF Mate Onlineでのアルテッツァの記事は、こちらをチェック!

アルテッツァのフォトギャラリーは、こちらをクリック!

#25 トヨタ・セリカ コンバーチブルの試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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