文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタ・スターレット (KP61・2代目)。 コンパクトなFR車は、走りも軽快 #03

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

自動車ライター・下野康史さんがなつかしい旧車を借り受け、その走りをレポートします。今回はトヨタが1978年に発売したコンパクトカー、KP61スターレットをドライブ。モータースポーツでも活躍したスターレットは、レースカーでなくても走りがよかったのでしょうか。

目次

パブリカとパブリカ スターレットの2車種を統合して1978年に登場したKP61スターレット。車名は、英語で「小さな星」という意味だという。

パブリカとパブリカ スターレットの2車種を統合して1978年に登場したKP61スターレット。車名は、英語で「小さな星」という意味だという。
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KINTOからレンタルしたのは、1979 年式の1300Sというスポーツ系のグレードで、スポーツサスペンションや大型ブラックバンパーが専用装備となる。スリーサイズは全長3,725mm×全幅1,525mm×全高1,370mmと非常にコンパクト。残念ながら、この車は2023年5月でレンタルが終了している。

KINTOからレンタルしたのは、1979 年式の1300Sというスポーツ系のグレードで、スポーツサスペンションや大型ブラックバンパーが専用装備となる。スリーサイズは全長3,725mm×全幅1,525mm×全高1,370mmと非常にコンパクト。残念ながら、この車は2023年5月でレンタルが終了している。
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コンパクトカーなのにFR。当時の走り屋にも人気を博した

トヨタ車の定額利用サービスでおなじみのKINTOが、2022年春から旧車のレンタルを始めた。整備された70~90年代のトヨタ車をレンタカーとして提供する“ヴィンテージクラブby KINTO”である。
移動手段としてのレンタカーではなく、クルマそのものを味わい、楽しむ旧車レンタカーに、自動車メーカーみずからがコミットするのは画期的なことである。SNSのコミュニティを中心にしたイベント型のサービスで、車種もまだ限られるが、これからの展開が大いに楽しみだ。
そのラインアップからレンタルしたのは、2代目スターレット。撮影中、遠巻きに見ていた男性が「ケーピーロクイチかァ、なつかしいなあ」と言っていたが、そう、クルマ好きには“KP61”の型式名で知られた1300㏄のコンパクトカーである。
登場したのは78年2月。73年に出た初代モデルは当初、パブリカ スターレットと名乗っていた。KP61のあとのEP71からはFF(前輪駆動)に切り替わる。当時、ツーリングカーレースでも活躍した最後の後輪駆動スターレットでもある。

車重の軽さがもたらす身のこなしの軽さに、“ひと走りぼれ”

試乗車は79年式の5ドア1300S。44年前のクルマだが、フェンダーミラーを備えるハッチバックボディーはトヨタ博物館から出てきたような程度のよさである。
そのころの大衆車だから、クーラーもパワーウインドウもパワステも付いていない。ドアロックも金属のカギを挿して開ける。集中ドアロックではないので、後ろのドアを開ける時は、まず前のドアを開け、車内からロックを外す。昔はみんなこうでした。
79年といえば、筆者が自動車メディアで働き始めたころだが、あいにく2代目スターレットは乗りこぼしていた。念願かなってハンドルを握らせてもらうと、走り出した途端、ときめいてしまった。ひとめぼれならぬ、“ひと走りぼれ”である。
最近のSUV(スポーツ多目的車)やEV(電気自動車)に乗り慣れていると、新鮮なのは“軽さ”である。車重わずか720㎏。今の同級コンパクトカーより300㎏以上軽い。それがもたらす身のこなしの軽さに心がときめいたのだ。パワーアシスト無しなのに、ハンドルも軽いし、クラッチなど、ペダル類も軽い。

ダッシュボードは高さを抑え、広い視界が得られるようにしている。アナログ時計はドライバーからは遠い位置にあるものの、大きくて見やすい。試乗車のカーラジオはAMのみで、カーエアコンは装備されていなかった。

ダッシュボードは高さを抑え、広い視界が得られるようにしている。アナログ時計はドライバーからは遠い位置にあるものの、大きくて見やすい。試乗車のカーラジオはAMのみで、カーエアコンは装備されていなかった。
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53年(1978年)度排ガス規制に適合した、排気量1,290ccの4K-U型OHVエンジン。シリンダーヘッドには、カタカナの「トヨタ」を円で囲んだトヨタマークが入る。
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ボディーの軽さとFRの贅沢さを味わう

1.3リッター4気筒エンジンは72psを発生する。キャブレター仕様だから、電子制御燃料噴射のように始動が一触即発でいかないこともあったが、てこずるほどではない。
パワーは十分で、タコメーターの左半分、4,000rpmも回せば、峠道も軽快に駆け上がる。そういうところでも、エンジンのパワーに頼るのではなく、まずボディーの軽さで走っている感じがうれしい。
4段変速機のシフトレバーは長めで、ストロークも大きいが、動きに剛性感があるので、シフトするのが楽しい。
そして、しばらく走るうちに気づいたのは、後輪駆動(FR)のよさである。80年代以降の小型車はすべてFFになっていく。ハンドルをきることに加えて、駆動という重責も前輪が受け持つことになるが、そのほうがつくりやすく、コストダウンにもなったからだ。
しかし、いまや絶滅危惧種になった後輪駆動にはメリットもある。エンジンの振動がハンドルに伝わることがない。急加速中にハンドルをとられたりするような、エンジンからのキックバックもない。旧車になったKP61スターレットに乗って、あらためてFR(フロントエンジン・リアドライブ)の贅沢さを感じたのである。

キャブレター仕様ということもあり、チョークレバーが装備されていた。エンジンが冷えている時は、このレバーを引いてからエンジンをスタートする。

キャブレター仕様ということもあり、チョークレバーが装備されていた。エンジンが冷えている時は、このレバーを引いてからエンジンをスタートする。
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試乗車に乗せてあった注意書き。キーを使った給油口の開け方やエンジンの始動方法など、いまの車にはない“儀式”について丁寧に解説されている。

試乗車に乗せてあった注意書き。キーを使った給油口の開け方やエンジンの始動方法など、いまのクルマにはない“儀式”について丁寧に解説されている。
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レンタカーの注意書きに「エンジンをいたわって下さい」!?

車内にはパウチされた大判のリングファイルが入っていた。「スターレット1300Sにお乗り頂く前にお読みください」と記された注意書きだ。
キャブレター車ならではのチョークレバーの使い方を始め、初めて乗る人に向けたガイドが写真入りで載っている。高速道路で105km/hを超すと警告音が鳴るが、当時義務付けられていたもので、ご心配なく。なんてこともQ&A欄に出ている。
そのなかでひときわ印象的だったのは「エンジンをいたわって下さい」という赤文字の見出しだった。レンタカーでこんな注意書きを見たのは初めてだ。
旧車に乗る時の極意は、たしかにクルマをいたわることだろう。ひと走りぼれしてしまったこの旧車レンタカーからは、提供する側の愛情もしっかり伝わってきた。

KP61スターレットのフォトギャラリーは、下の写真をクリック!

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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