文=下野康史/撮影=荒川正幸

日産スカイライン(R31型)GTSクーペのレンタカーに試乗。AT免許でも乗れる、80年代GTカー #24

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

日産が1985年に発売した(クーペの発売は翌86年5月)、スカイラインGTSクーペ(R31型)のレンタカーに試乗。この世代のスカイラインは「セブンス(7th)・スカイライン」や「都市工学スカイライン」という愛称でも呼ばれ、当時流行していたハイソカー路線を取り入れ、大きく立派なモデルでした。
そんなスカイラインを、自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

スカイラインは、いつも“愛称”で呼ばれた

スカイラインのフロント7:3

東京都清瀬市の「ときめきカーレンタル」でお借りしたスカイラインは、86年式のGTS-X ツインカム24Vターボ。シリーズ最上級のグレードだ
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「これは“鉄仮面”だっけ?」。撮影をしていると、通りがかりの人が気さくに声をかけてきた。若い頃、“愛のスカイライン”と“ケンメリ”を乗り継いだという男性だ。「違います、鉄仮面の次です」と答える。なーんて会話、今の若い人にはチンプンカンプンだろうなと思った。

今回は7代目スカイライン(R31型)である。登場したのは85年8月。スカイラインが日産の中核車種だったころである。テレビドラマ『西部警察』の劇用車として一躍有名になり、のちに「鉄仮面」の異名をもらった6代目の次にあたる。この世代はそのものずばり「7thスカイライン」(セブンス・スカイライン)と呼ばれることが多い。

このように、かつてスカイラインは自称、他称を問わず、代替わりのたびに愛称を頂くクルマだった。シンプルに言うと、それだけ人気者だったのだ。78年から自動車メディアで働いてきた人間として証言すると、80年代、自動車専門誌でスカイラインの特集を組めば、売れた。「困ったときのスカイライン」みたいな存在だった。

東京都清瀬市にある“ときめきカーレンタル”で借りたレンタカーは、86年式の2ドアスポーツクーペGTS。折からのハイソカーブームになびいて、スカイラインも高級路線にシフトしたように思えた7代目で、見た目も中身も最もスポーティーだった2ドアモデルである。

スカイラインのリア7:3

トランク上に存在する控えめなリアスポイラーは、フロントのオートスポイラーとセットオプションだった
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スカイライン史上、初の“クーペ”

スカイラインのインパネ

インパネは4ドアセダンと同じデザインながら、ペダルのレイアウトやステアリングホイールの位置はクーペ専用とし、スポーティーなドライビングポジションを確保したという
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7代目スカイラインは直線デザインである。日産があえて“クーペ”と呼んだこの2ドアボディーも、直線と平面で構成されている。外観で“丸いもの”といったら、スカイラインのアイコンでもあるテールライトくらいだ。でも、徹底してスクエアなデザインのおかげで、5ナンバー枠に収めたサイズのわりに、大柄で立派に見える。
ダッシュボードをはじめとする内装も、直線定規だけでデザインしたかのようにスクエアだ。まっすぐな時代だったのだ。
大きなフロアセレクターを持つ変速機は4速AT。5速MTもあったが、いま旧車レンタカーとして使うなら、当然、ATモデルだろう。7代目スカイラインが出た85年、新車販売のAT比率は46%。まだかろうじてMTがリードしていた。
センターコンソールの“SPOILER”と書かれた小さなスイッチを押すと、フロントバンパー下にスポイラーが出る。オートモードにしておけば、70km/h以上で出て、50km/h以下で引っ込む。高速走行時の揚力発生を抑えて、安定性向上に寄与する“GTオートスポイラー”はGTSの新機軸だった。

スカイラインのシート

バケットシートながら、後輩にあたるR32スカイラインGT-Rのシートのようなタイト感はない。どちらかといえば快適さを重視している印象だ

スポーツクーペというよりも…

スカイラインのエンジン

RB20DET型・2リッター直列6気筒エンジンを搭載。セラミックターボを採用し、「ターボラグをほとんど感じさせないシャープなエンジンレスポンスを実現」(当時のリリースより)したという。実際に低回転域でもトルク不足を感じるようなことはなかった
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エンジンはセブンス・スカイラインでデビューした新型2リッター直列6気筒、RB20型。このレンタカーに搭載されているのは24バルブDOHCターボのRB20DET型で、180PSの出力は当時のスカイライン最強ユニットだった。

現役当時、GTSのMTモデルには乗った記憶があるが、AT仕様は初めてである。40年後にそんな初体験ができるのだから、旧車レンタカーはありがたい。しかも、千葉県内のワンオーナーの元にあったという個体は走行6万2000kmで、内外装も機関も程度抜群。若いスタッフが運営するときめきカーレンタルも2025年2月にスタートしたばかりとあって、まさに“おろしたての旧車レンタカー”だった。

アイドリングでは、社外品のマフラーから野太い排気音が出る。走り出すと、フロントからはヒューンというターボの音が聞こえる。Dレインジで流していても、加速は力強い。今でも十分、“速いクルマ”である。

パワーステアリングだが、操舵力はけっこう重い。そこだけが突出して“男のクルマ”という印象だ。アドバンHF Type Dという、なつかしくもレーシングライクなタイヤを履いていたが、乗り心地は後席でもわるくない。2ドアクーペながら、ボディーの実用性能が高いのは、丸く絞ったところがないデザインのおかげである。深く大きなトランクはゴルファーを喜ばせただろう。

この日、あらためて見て乗ったセブンス・スカイラインGTSは、スポーツクーペというよりも、高性能なハイソカーという感じがした。でも、7代目がこういう性格だったからこそ、GT-R復活を生む8代目(R32型)に続いたのだ。人気者スカイラインの歴史はさらに続く、のである。

走り去るスカイライン

スポーツカーというより、長距離を快適に走るグランドツーリングカーという位置付けが強い印象を受けた。ハイソカーの影響を受けてはいるものの、豪快な加速や80年代の旧車の雰囲気は十分に味わえる

・スカイラインのスペック(2ドアスポーツクーペ GTS-X ツインカム24Vターボ)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1690×1365mm
ホイールベース:2615mm
エンジン:RB20DET型 水冷式直列6気筒 1998cc
トランスミッション:4速AT
エンジン最高出力:132kW(180PS)/6400rpm
エンジン最大トルク:225N・m(23.0kg-m)/3600rpm
サスペンション形式(前/後):ストラット/セミトレーリングアーム・HICAS
タイヤ:205/60R15(試乗車は195/60R15を装着)

スカイラインGTSをお借りした、ときめきカーレンタルのウェブサイトはこちら

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#23 マツダ・RX-8の試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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