走るRX-8
文=下野康史/撮影=荒川正幸

マツダ・RX-8のレンタカーに試乗。マツダが磨き上げたロータリーエンジンの魅力は? #23

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

マツダが2003年から13年まで販売していたRX-8のレンタカーに試乗。全長4.4m超のコンパクトなボディーながら4人が快適に移動できる、中身の詰まった4ドアスポーツカーです。
そんなRX-8を、自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。

目次

21世紀初頭にデビューした、クーペライクな4ドアスポーツ

2024年の新車ニュースのひとつは、「ロータリーエンジンの復活」だった。マツダが新型プラグイン・ハイブリッド車の発電専用エンジンとして、11年ぶりにロータリーエンジンを採用したのである。

といってもこのクルマ、タイヤを駆動するのは常にモーターで、エンジン(発電)のオンオフはクルマが勝手にやる。復活ロータリーとはいえ、ハイブリッドシステムに組み込まれた、縁の下の力持ちのような存在だ。

ドライバーが自由に回せたロータリーエンジン搭載車の最後が、RX-8である。3代目RX-7生産終了の半年後、生産終了からほどなく、2003年春に登場した4人乗りのスポーツカーである。エンジンは吸排気系などに改良を加えた自然吸気の13Bロータリー。ボディー側面には観音開きの4ドアを備えていた。

RX-8のフロント7:3

愛知県岩倉市の「スパイスレンタカー 岩倉店」でお借りしたRX-8は2006年式。車検証に記載された車両重量は1310kgだった。同店によると25年2月現在、車両メンテナンスのため貸し出しは停止されているという
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RX-8のリア7:3

RX-8は「New 4Door Sports for 4Adults」をコンセプトに開発。スポーツカーのスタイリングや動力性能と4ドア4シーターの利便性を両立した。
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ロータリーの運転にあたっては独特の操作が必要。その操作とは?

生誕22年を迎えるRX-8をレンタカーで用意しているのは、愛知県岩倉市にあるスパイスレンタカー岩倉店。既報のトヨタ・MR-Sと同時に借り出しての試乗だった。赤いRX-8は2006年初度登録の“S”。250PSエンジンに6段MTを組み合わせた高性能グレードである。

出発前、スタッフから“デチョーク”について説明を受ける。エンジンが1回でかからなかったときの対処法だ。電子制御燃料噴射でも、いわゆる“プラグかぶり”を起こしやすいロータリーならではの心得である。

その場合には、アクセルペダルとクラッチペダルをいっぱいに踏み込んだままキーをひねる。この手順はメーカーの取扱説明書にも明記されていて、コピーが車載のファイルにも入れてあった。実際この日、一度これが役に立ち、セルモーターとバッテリーを無駄に使わずにすんだ。今のクルマにはないこうした注意事項をあらかじめ説明してもらえるのは、旧車レンタカーを借りる側にとってはなによりである。

RX-8のインパネ

ダッシュボード中央にも3連メーターを装備。シンプルながらスポーティーな雰囲気を演出している
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RX-8のシート

試乗車の前席は、ヘッドレスト一体型のバケットシートを装備していた。適度なホールド感を持ちつつ快適性も兼ね備えている印象だった

スポーツカーのパワーユニットとして、ロータリーは今なお魅力的だ

踏み応えのあるクラッチを踏み込み、おむすび型のローターのマークが入ったシフトノブを握って1速に入れ、走り出す。

ロータリー車に乗るのは、RX-8が現役だった頃の試乗時以来である。最初のひと加速で、感動した。“シビれた”と言ってもいい。ほぼ20年ぶりだったためか、新車時以上の感動だった。再会ロータリー、である。

ピストンが上下運動するレシプロエンジンに対して、ロータリーはローターの回転運動でチカラを出す。実際の回転フィールも、いかにも小さいモノが高速回転しているかのような印象で、レシプロエンジンとは別格の滑らかさを持つ。

といっても、モーター的な無機質の滑らかさではない。高回転に向かって何かを切り拓(ひら)いていくようなロータリー特有の“昇りつめ感”がある。8500rpmでビーっという警告音が鳴るまで、その気持ちよさが続く。

ただし、ツインターボで武装した3代目RX-7(FD型)のようなパワーはない。いや、むしろ低回転域でのトルクはかぼそい。140PSのMR-Sの後ろでボーっとしていると、しばしばおいていかれそうになる。スポーツカーらしい力感が出てくるのは、4000rpmを超えてからだ。よく回るロータリーは、よく回してこそのエンジンである。

RX-8のエンジン

13B-MSP型・654㏄×2ローターエンジンを搭載。サイド排気ポート方式に変更することによって、燃費改善や排気ガスのクリーン化を図ったという
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走り去るRX-8

全長4.4mに大人4人が快適に移動できるパッケージを達成したのは、コンパクトなロータリーエンジンを搭載しているおかげでもある。普段づかいも妥協しないスポーツカーだった

センターピラーを内蔵した小さなリアドアは、前ドアを開けないと、開かない。乗降性の点では半人前だが、この省スペースドアのおかげで、RX-7からたった15cm増しのボディー全長にフル4座を確保することができた。トランクルームも奥行きがあって、意外やたっぷり積める。ファミリーカーとしても使えるスポーツカーである。固定したセンターピラーを持たないのに、走行13万kmを重ねたボディーには今でもしっかりした剛性感があった。

だが今回、最も感銘を受けたのは、世界で唯一、マツダが磨き上げてきたロータリーエンジンのすばらしさである。いま乗ったら、古臭いかと思ったら、ぜんぜんそんなことはなかった。エンジンをちゃんと回せる人にとって、こんなに楽しいエンジンはない。エンジン時代のひとつの花がロータリーエンジンであることを再認識した。

RX-8の旧車レンタカーに乗ったら、以前から噂されている新型ロータリー・スポーツカーがますます楽しみになった。

・RX-8のスペック(発売時、Type S)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4435×1770×1340mm
ホイールベース:2700mm
エンジン:13B-MSP型 水冷式直列2ローター
トランスミッション:6段MT
エンジン最高出力:184 kW(250PS)/8500rpm
エンジン最大トルク:216N・m(22.0 kg-m)/5500rpm
サスペンション形式(前/後):ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
タイヤ:225/45R18 91W

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#22 トヨタ・MR-Sの試乗記はこちらから

#24 日産・R31スカイラインの試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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