トヨタ・MR-S(ZZW30型)のレンタカーで愛知から岐阜へとドライブ。軽さで走る、トヨタ唯一のミッドシップ・オープン2シーター #22
自動車ライター・下野康史の旧車試乗記トヨタが1999年から2007年まで販売していたMR-Sに試乗。車両重量が1tを切る軽量級のボディーを生かし、ハイパワーでなくてもスポーティーカーが成立することを示しました。
そんなMR-Sを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。
デビューから四半世紀。トヨタ製スポーティーカーの走りは?
2代続いたトヨタMR2の後継モデルが、99年10月に登場したMR-Sである。海外ではMR2として販売されたが、ソフトトップの上屋を持つオープンボディーに新装したため、国内では改名した。今のところ、トヨタがつくった唯一のミッドシップ・オープン2シーターである。
しかし、2007年の生産終了まで、エンジンは1.8リッターのノンターボのみ。ハイパワー競争に参戦しなかったためか、大ブレークをすることはなく、地味な存在に終始した。そんな印象が筆者にはある。
だが、MR-Sはいいクルマだった。数あるトヨタ製スポーティーカーのなかでも、とくに記憶に残る意欲作だったと思う。そのMR-Sを今でもレンタカーで味わうことができる。
向かった先は、愛知県の岩倉市。「日本一楽しいレンタカー」を謳うスパイスレンタカー岩倉店だ。名古屋に本社のある会社だが、この店舗にはほかに日産フェアレディZ、スバル・インプレッサWRX、マツダ・RX-8など、ちょっと古いMTの国産スポーティーカーがラインナップされている。旧車レンタカーの輪が広がりつつあることを実感させるお店である。
2代目MR2より約200kgダイエット。スポーツカーにとって軽さは正義
試乗車はデビュー直後の2000年1月に登録されたクルマだ。すでに25年モノだが、内外装の程度はとてもいい。ただし、ウェブサイトに注意書きが出ていたとおり、パワーステアリングが不調で、アシストがなくなっていると、出発前にも説明を受ける。
3885mmのボディー全長は、同時代のマツダ・ロードスター(2代目)より7cm短い。車重は車検証記載値で970kg。マツダ・ロードスターより30kgも軽い。そのかわり、独立したトランクルームはない。あれもこれもと欲張らなかった割り切りのよさが、80点主義と言われたトヨタ車とは思えないMR-Sの真骨頂といえた。
乗り込むと、着座位置が低い。しかしダッシュボードも低いから、前方視界はいい。行く手の雲行きが怪しかったので、早速、屋根を開ける。左右2か所のロックを外し、ソフトトップを後方にはぐって、ラッチで固定する。座ったままできる最も簡単で確実なオープン機構である。
軽いクラッチペダルを踏んでキーをひねる。背後で目覚めたエンジンは1ZZ-FE型。当時、トヨタ車に広く使われた4気筒ユニットで、ロータス・エリーゼのベイシックモデルにも搭載されていた。
動き出した途端、実感するのは“軽さ”である。量って軽いだけでなく、乗っても軽い。クルマの身のこなしがすべてにわたって軽いのだ。最高出力は140PS。2リッターターボで最後は245PSまでいった2代目MR2からは、とてつもないパワーダウンだが、MR-Sはチカラではなく、軽さで走る。
デビュー当時、シートのカラーはブラックが基本ながらレッド、イエローも選べたという。試乗車はブラックを装備していた
ミッドシップらしいシャープなハンドリングが印象的
白い盤面の3連メーターで、ドライバーの真正面にあるのがタコメーター。エンジンは最高7000rpmまで回るが、ふだんそんな高回転のお世話になる必要はまったくない。気楽にクラッチをつないで、やさしくアクセルを踏めば、実に反応よく、かろやかに加速する。肩肘を張らず“スイスイ走る感じ”が心地よい。ハンドルやシフトなど、運転操作の動線が短いのもうれしい。きびきびした加速感とあいまって、運転していると、いい意味で“小づくり”な感じがするクルマである。
パワーアシストがないため、据え切りの操舵力は重かったが、この程度で済んでいるのはノーズの軽いミッドシップだからこそだろう。ハンドルのわずかな動きでも、鼻先がビクンと反応する微舵応答性のよさは軽量ミッドシップならではだ。
オープンボディーの建て付けは新車時よりユルくなっていた。でも、帰路にソフトトップを閉めると、剛性感は少し増した。コンパクトな2座キャビンにエンジン音がこもって、ますますスポーツカーっぽくなる。あらためて、MR-Sは隠れた名車だなあと思った。
新車当時、ロータス・エリーゼにいちばん近い量産ミッドシップだと感じたものだが、そんな印象は今も変わらなかった。四半世紀前のクルマでも、フツーのレンタカーと同じく、ETC車載機やカーナビが付いている。長年大切に使っているオーナー車を借りているような錯覚に陥った。
ミッドシップらしい回頭性の高さが印象的だったMR-S。軽量なボディーと適度なパワーを発揮するエンジンとのバランスがよく、ファン・トゥ・ドライブだった
トヨタ・MR-Sのスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3885×1695×1235mm
ホイールベース:2450mm
エンジン:1ZZ-FE型 1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5速MT
エンジン最高出力:140PS(103kW)/6400rpm
エンジン最大トルク:170N・m(17.4kgf・m)/4400rpm
車両重量:970kg
タイヤ:(前)185/55R15、(後)205/50R15
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下野康史
かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。