MR2、NSX、AZ-1、オロチも! 国産ミッドシップ車13選
走りの良さを追求した独特なエンジンレイアウト車はエンジンの搭載位置や駆動輪によっていくつかに分けられる。FFならフロントエンジン&フロント駆動、FRならフロントエンジン&リア駆動。多くの車は、FFかFRを採用しているが、ごく一部、走行性能にメリットがあるMR(ミッドシップエンジン&リア駆動)というレイアウトを採用してきた車がある。ここではそんな国産ミッドシップカーを紹介!
理想的な前後バランスが最大のメリット
ミッドシップは走りがいい
レーシングカーや海外のスーパースポーツたちが積極的に採用してきたミッドシップレイアウト。日本国内でももちろん、走りが楽しいミッドシップ車は数多く生産されてきた
ミッドシップ、と聞くだけでワクワクしてしまう筆者と同じ世代の方々はともかく、そもそもミッドシップとは何なのかをご存じない読者も多いハズ。そこでまずはミッドシップ車について簡単に解説しておこう。
自動車はエンジンレイアウトによって大きくカテゴライズされるのが一般的で、たとえばフロントエンジン&フロントドライブ(前輪駆動)はFF、フロントエンジン&リアドライブ(後輪駆動)はFR、リアエンジン&リアドライブ(後輪駆動)のRRなどがある。ミッドシップとはそのエンジンが車体中心部に近いところに配置されている車両のことで、MRと表現される。MRは前輪と後輪との間にエンジンを配置し、後輪を駆動する方式を採用した車両のことを指すのだ。
ちなみに駆動方式によってそれぞれにメリットが存在しており、FFの場合は後輪駆動で必須なプロペラシャフトが不要になるため車内のスペースを広くできるのが特徴。車内空間を確保できるからこそ、現代のファミリーカーなどはこのFFを積極的に採用しているのだ。後輪駆動のFRは、FFに比べて前後の重量バランスが良く、操舵輪と駆動輪を前後に分けているので、操作のフィーリングが良いとされている。また、加速時には慣性の法則によって後輪に重心が移動するが、駆動輪に重量がかかると地面をつかむチカラも大きくなるため、後輪駆動のFRは加速性能が優れているというのも特徴だ。
エンジンが車体後方にあり、駆動輪も後輪となるのがRR。車体後方に重量物がまとまっており、後輪へのトラクションがかかりやすく、FRよりもさらに加速性能に優れている。また、フロントに重量物がなく軽いので旋回性能に加え、ブレーキの安定性も高い。ただし、加速性能と旋回性能が高いゆえに、安定した走りを楽しむには、ドライビングテクニックが必要だ。
ではミッドシップ車(MR)のメリットは、何なのか。その最大の恩恵は、エンジンが車体中央にあるということだ。エンジンは自動車を構成するパーツの中でも最も重量がある部品。その最重量物と、自動車に積載される中で最も重い乗員とを車体の中央付近に集中させられるということは、つまりは前後輪の重量バランスが取りやすくなるということ。バランスが取れているのだから軽快な走りを楽しめると同時に、運転もしやすくなるというのがミッドシップならではの利点なのである。
FRやRR同様に後輪駆動がゆえの加速性能、フロントの軽さからくる操作性も相まって、運転している、操っている感が増すためドライビング自体がより楽しく感じられるのもメリット。MRはスポーティーながら運転もしやすいというのが一番の特徴だ。
走行性能面でのそうしたメリットのおかげか、レーシングカーや海外の高性能スポーツカーなどでは伝統的にミッドシップレイアウトが採用されることが多い。たとえばフェラーリやポルシェといったスポーツに重きを置くメーカーはもちろん積極的だし、BMWなどではさらなるコーナリング性能の改善を求めたフロントミッドシップと呼ばれるレイアウトを採用するなど、スーパースポーツとミッドシップとの組み合わせは世界的にもポピュラーなものという印象だ。
そしてもちろん日本国内にも、ワクワクが止まらないミッドシップたちは存在した。今回はそんな国産ミッドシップの雄たちをピックアップ。若かりし頃に憧れたあの国産スーパースポーツたちの魅力に、今一度迫りたい。
日本で初めての本格的なMRスポーツ
トヨタ・MR2(1984年)
日本で初めてミッドシップ方式を採用したのがトヨタのMR2。躍動的なシルエットで大人気となったまさにスポーツな2シーターだ
日本におけるミッドシップ車のフロンティアとなったのが1984年に発売されたトヨタのMR2。当時、ミッドシップの存在こそ知られてはいたものの絶対的な高級車であったミッドシップカーを、手の届く価格で開発してきたその話題性はバツグンだった。スポーティーな2人乗り仕様で、走る、曲がる、止まるを徹底的に追求した構成となっていて、4気筒ツインカム16バルブエンジンと空力性能に配慮したスタイリングとで、走りを愛する若者たちの間で大人気に。優れた走行性能だけでなく、スーパーカー風味のリトラクタブルヘッドランプも憧れの的だった。
ミッドシップならではの優れた操作性やコーナリング性、加速性を有した一台。それ以上にその精悍なシルエットで若者たちの憧れとなった
国産スーパースポーツの元祖的存在
ホンダ・NSX(1990年)
超音速ジェット機をイメージしたというエクステリアの疾走感は、まさにスーパースポーツの名にふさわしいもの。空力特性にも配慮されていた
国産ミッドシップのフラッグシップ的存在と言えば、1990年にホンダが発表したミッドシップスポーツ、NSX以外にあり得ない。コンパクトながらもハイパワーな3.0L V型6気筒VTECエンジンを、当時世界初のオールアルミモノコックボディに積み込んだそのポテンシャルは刺激たっぷりで、パワートレーンは当時の自然吸気(NA)ではクラストップ。世界と肩を並べるスーパースポーツでありながら、ある程度の荷物が積めるうえに燃費も優秀で、普段使いもできるという一面もあった。
空力特性に配慮した流線型のシルエットに長いリアオーバーハング。未来のスポーツを感じさせる美しいボディラインと内装にも注目が集まった
「天才タマゴ」と呼ばれたミニバンも
実はミッドシップエンジンだった
トヨタ・エスティマ(1990年)
タマゴ型のボディはどこか愛らしく近未来的で、ミニバン草創期の誕生ながら早くも次世代ミニバンを予感させた名車。実はミッドシップレイアウトだった
ここまで記してきたように、ミッドシップはスポーツカーの代名詞的レイアウトであることは事実だ。しかし、そんな認識を大きく覆してくれたのが、1990年誕生のトヨタ・エスティマ。そう、天才タマゴのキャッチコピーで爆発的な人気を誇った、日本のミニバン草創期を支えたあのエスティマである。採用されたのはアンダーフロア型のミッドシップレイアウトで、エンジンを横に寝かせることで平床化し、広い室内を確保。高い静粛性と優れた運動性能を両立することに成功した、日本独自のミッドシップだった。
ミッドシップエンジンを寝かせることで広い室内空間を確保したのが画期的。室内でもウォークスルーという新たな概念を打ち出した
90年前半は軽スポーツ全盛期
ホンダ・ビート(1991年)
斬新で躍動的、しかもどこかキュートな印象も漂わせるのがビートの魅力。軽乗用車では初めてのミッドシップレイアウト採用車だった
国産のミッドシップエンジン搭載車は、実は軽自動車に多い。その理由は定かではないが、車重が軽い軽自動車において、駆動輪のトラクション性能を高められるミッドシップレイアウトは有利に働くことが多かったからなのかもしれない。そんなミッドシップ軽自動車のハシリとなったのが1991年発売のホンダ・ビート。コンパクトな2シーターのミッドシップで、しかも開放感あふれるオープンカーであったことから、熱狂的なファンが続出。660ccのNAエンジンでありながら小気味良い走りでもドライバーを魅了した。
量産車では世界初となるフルオープンモノコックボディを採用。先進装備も充実しており、軽スポーツの代表格として現在も愛好家は多い
驚きのガルウイングドア採用
マツダ・オートザムAZ-1(1992年)
コンセプトカーとして発表された姿をほぼそのままで市販化したのがAZ-1。世界最小のスーパーカーとして現在も根強い人気を誇る
1992年にデビューしたマツダのAZ-1。筆者ももちろんそのひとりだが、その先進的な姿に衝撃を受けた読者も多いハズだ。軽自動車のスーパーカーを創る、というコンセプトで開発されたこの愛すべきミッドシップは、それまでのマツダにはなかったスポーティーで遊び心を満たすクルマとして世に送り出される。エンジンはアルトワークス用の660ccターボエンジンで、5速マニュアルミッションにスポーティーなサスペンションも搭載するなど味付けはかなりスポーティー。ボンネットやフェンダーなどはすべて樹脂製で、圧倒的な軽さも実現した。
AZ-1のシンボルといえば、まさにスーパーカーな要素でもあるガルウイングドア。パワーの不足をクイックなハンドリングで補ったカート的な走り味も話題となった
ミッドシップ4WDというレアな存在
ホンダ・Z(1998年)
優れた操縦安定性と広い居住空間を両立するため、後席床下にエンジンを配置したアンダーミッドシップレイアウトを採用。角張ったフォルムも魅力的だった
街中からアウトドアまで、どこでも楽しく走れる軽自動車として開発されたホンダのZは、ミッドシップレイアウトによって50:50の理想的な前後重量配分を達成した当時としては珍しかったミッドシップ4WD。エンジンを後席の床下に配置することで広い室内空間も確保していたのが特徴で、ハイパワーなターボエンジンや世界水準の衝突安全性能など、ホンダの先進技術が惜しみなく投入された名車だった。カクカクとしたギアっぽいスタイリングも先進的で、バランスの良い走りと室内の使い勝手の良さに評価が集まった一台だ。
車体中央にエンジンを横倒しにして搭載するというレイアウトは実は某スポーツカーと同様。前後重量配分に優れ、高い走行性能を発揮した
MR2後継のオープンスポーツ
トヨタ・MR-S(1999年)
MR2に次ぐミッドシップスポーツとして登場したMR-S。主張たっぷりのヘッドライトとスマートなボディラインで人気を集めたオープンスポーツだ
走り味がとにかく軽快で、操っている感も堪能できるマニュアルトランスミッション。シルエットも実にエモーショナルで、そのうえオシャレなオープンカー。1999年にMRシリーズの後継として発表されたMR-Sに対する筆者の印象は、まさにそんな感じ。あぁモテそうなクルマだなぁとナナメに見ていたものだ。もちろんミッドシップスポーツの名に恥じないだけの爽快なポテンシャルを誇っていたのだが、同時にクラストップレベルの低燃費を実現していたり、安全性にも配慮されていたり。価格も含め、乗りやすいスポーツカーだった。
ロングホイールベースでショートオーバーハング、しかもオープン。いかにもスポーティーなその姿態と、ミッドシップならではのサイドエアインテークがカッコ良かった
ホンダの働く軽バン・軽トラは50年以上前からミッドシップだった
ホンダ・バモス(1999年)、アクティトラック(1999年
)、バモスホンダ(1970年)
エンジンを後席床下に配置することで、広い室内空間の確保と高い操縦安定性を両立したホンダ・バモス。軽でありながら世界最高水準の衝突安全性能も獲得している
乗降性と積載性、居住性といった実用面でのメリットを得るためにミッドシップレイアウトを採用。写真は1999年登場の3代目だが、1977年発売の初代からミッドシップを採用していた
1970年に発売されたバモスホンダ。フロアがフラットで乗りやすく積みやすい、しかも機動力に長けたタフな構造を目指してミッドシップが採用された
国産ミッドシップには軽自動車が多い、とは先ほども述べたが、実はホンダのミッドシップには軽バン&軽トラもラインアップされている。1999年発売のバモス、アクティ・トラック&バンがその代表格なのだが、なぜ働くクルマにミッドシップだったのだろう。実はその歴史、1970年誕生の初代バモスである「バモスホンダ」にまで遡る。バモスホンダの構造は軽トラックだが、そのボディにはドアも屋根もなく、ゴルフカートのような独特のフォルム。そのエンジンは乗員の居住スペースと荷物の積載スペースを確保するため、運転席後方の床下に設置されていたのが始まりだ。結果、収納スペースも豊富なバモス、乗降性や積載性に長けたアクティという実用十分な車種へと直結。ロングホイールベースのMRという方式の利点が生かされたのだ。
全幅2m超えの個性的フォルム
光岡・オロチ(2006年)
オロチ(大蛇)と名付けられたそのスタイリングは唯一無二で、まるで生き物のように有機的なラインを描く。まさに和製スーパーカーの代表格だ
光岡自動車が2006年に完成させたオロチは、自動車の常識を覆したかのような大胆でアグレッシブなボディデザインを持つミッドシップ。あらゆるラインをまるで生き物のような有機的デザインで描き出したそのワイド&ローボディは、世界的にも稀な“魅せる”スーパーカーと呼ぶにふさわしいだけの存在感を備えている。圧巻のボディサイズでありながら、トヨタ製のV6 NA 3.3Lエンジンをキャビンの後方に配置しているためバランスが良く、実は誰でも運転できて扱いやすいのも特徴。量産ではないフルオリジナル車であるというステータス性の高さも魅力だ。
全長が4.5m超え、全幅も2m超えというサイズでありながら、実は扱いやすいというのもミッドシップならでは。エンジンの出力特性も適度に速く、御しやすい
EV車も登場したプレミアム軽
三菱・i(2006年)
タマゴのような独特のシルエットに、愛らしい小動物を思わせるキュートで未来的なフロントマスク。実はミッドシップで走行安定性などにも長けている
2003年にコンセプトカーとしてお披露目され、そこから熟成を重ね2006年にいよいよ登場となったミツビシのi(アイ)。先進的で未来的、しかもキュートなそのエクステリアデザインに驚きを感じた読者の方も多かったハズだ。そんなiには可変バルブタイミング機構であるMIVECが採用されていて、さらにインタークーラー付きのターボチャージャーも搭載される。実はこの方式、前年に発表されたランサーエボリューションⅨに採用されたものと同様で、かわいいだけではなく軽自動車のクラス感を凌駕するほどの高い運動性能にも恵まれていた。
2009年には新世代電気自動車としての進化も遂げたi。未来感あるエクステリアに負けじと、専用デザインを採用した洗練のインテリアデザインも魅力的
19年振りに登場した軽オープン
ホンダ・S660(2015年)
走る楽しさを誰でも気軽に、というホンダの信念から生まれたオープンスポーツ。発売時は納車まで1年待ちもザラというほど大きな話題と高い人気を誇った
1996年のビートの生産終了を受け、スポーツカーの肩身が狭くなり始めた時代でもあった2015年。そんな時代にズバッと切り込み、大きな風穴を開けてくれたのがターボエンジンをミッドシップにレイアウトしたホンダのS660だった。ホンダのスポーツの証であるSの頭文字と排気量という伝統的なネーミングにふさわしく、そのクイックでエモーショナルなスポーツ性能に人気が殺到。低重心フォルムも寄与したコーナリング時のよく曲がる走り味と高い操縦安定性で、スポーツカーの楽しさを再認識させてくれたスタイリッシュなオープンスポーツだ。
本格的な走行性能を持つ軽オープンスポーツとして誕生したS660は、いかにもスポーツカーらしい精悍なフォルムも話題に。その意匠は実にエネルギッシュ
MR(ミッドシップ)って乗ったらどんな感じ?
ミッドシップレイアウト車、特にスポーツモデルに実際に乗ってみると、誰もが感じるのがその曲がりやすさとコントロールのしやすさ。エンジンと乗員がクルマのほぼ真ん中にあるため、走り出せば駆動輪である後輪にトラクションがかかりやすくなるのがその理由。前輪を操舵する際の軽さも手伝って、走る、操る楽しさを体感できる。決して大きなパワーがなくともスポーツ走行を堪能できる、それがミッドシップ車をドライブしたときのピュアなフィーリングなのだ。
若かりし頃にMR2に乗る機会があった筆者は、サイドエアインテークからエアが抜ける「シュゴーッ!!」というサウンドにメロメロになりました。直に感じるエンジン音と振動すら、気分がアガる絶好のスパイスで。そんなミッドシップスポーツ、走りが好きなら今からでも。クルマを操るワクワク、味わってみてはいかがでしょう。
酒井賢次
さかい・けんじ 兵庫県尼崎市出身。ドレスアップ&チューニングを取り扱う自動車専門雑誌の編集部員を務め、2000年にフリーランスとして独立。以後、さまざまな自動車専門雑誌に関わり、寄稿。現在もアフターパーツ業界の最前線である取材現場で奮闘するフリーライター。