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日産・スカイライン GT-R(BNR32)に試乗。日本車ヴィンテッジイヤーの大作にして名作

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記

下野康史
2023.12.28

文=下野康史/撮影=荒川正幸

2023.12.28

文=下野康史/撮影=荒川正幸

日産が1989年から1994年まで製造していた日産・スカイラインGT-R(BNR32型、以下GT-R)に試乗。モータースポーツでも大活躍し、当時も今も国内外の自動車ファンから羨望(せんぼう)のまなざしを向けられています。そんなスカイラインGT-Rを自動車ライターの下野康史さんがレンタカーとして借り受け、走りをレポートします。

GT-Rの外観

千葉県松戸市のカーレンタル東京でお借りしたGT-Rは1994年式で、スリーサイズは全長4545mm×全幅1755mm×全高1340mm。車両重量は1480kgだった。発売時の車両価格は445万円(消費税抜き、東京・名古屋・大阪での価格)。
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GT-Rのリア部分

リアフェンダーは5ナンバー枠におさまる2000ccモデルと比較すると60mmワイドになっている。トランクに据え付けられた大ぶりなリアスポイラーもGT-Rの証(あか)し。
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“技術の日産”が世界一を目指したGT-Rの動力性能は?

1989年登場の8代目スカイライン(R32型)で甦ったのが、シリーズ別格の高性能モデル、GT-Rである。“ケンメリ”GT-Rが姿を消して以来、16年ぶりに復活した“サンニイ”のスカイラインGT-Rだ。
89年といえば、バブル景気のピークである。それを象徴するかのように、この年にはユーノス・ロードスター、トヨタ・セルシオといった画期的な新型車が次々と発売された。ワインの当たり年にならって、「日本車のヴィンテッジイヤー」なんて言い方もされる。
サンニイGT-Rもそれまでの日本製高性能車の殻を破る意欲作だった。GT-R初の四駆システムは、世界初の技術を盛り込んだ電子制御トルクスプリット4WD。グループAのツーリングカーレースを睨んで2.6リッターとなった直列6気筒ツインターボエンジン。本当は馬力自主規制の殻も破って300馬力で登場するはずだったのに、大人の事情で280psに抑えられてしまったが、それでも新車当時、ポルシェ・カレラ4と比べると、ゼロヨン加速はGT-Rのほうが速かった。サンニイのGT-Rも本格的に輸出されることはなかったが、90年までに世界一の技術を持つ車をつくるという、日産の「901運動」から生まれた新型車だった。

“脱日本車”を実感させる足まわりの骨太感

そんなヒストリックカーをレンタカーとして用意しているのは、千葉県松戸市にある「カーレンタル東京」。今回借りたのはサンニイGT-Rの最終モデルにあたる94年型だ。
内外装のコンディションは30年の年輪をそれなりに感じさせたが、レンタカーとしての備えはぬかりない。多言語対応のカーナビをダッシュボードに埋めたために、エアコンの操作パネルはセンターコンソール内に移設してある。アニメや映画やゲームの影響で、ジャパニーズカーの旧車はいまや外国人旅行者にも人気なのだ。“Keep left”(左側通行)から始まって、セルフスタンドでの給油方法に至るまで、レンタカー使用中の注意事項をまとめた英文ガイドが車内に入っていた。
経年変化でシフトノブ頂部の変速パターンがすり減って見えなくなっている。代わりにシフトレバー根元にはNISMOの金属プレートが付けてある。小さなパーツの大きな親切だ。
サンニイGT-Rのハンドルを握るのは何年ぶりだろう。踏み応えのあるクラッチペダルを踏み、キーをひねると、ズボン!と腹に響く音がしてエンジンがかかる。手足に伝わる操作系のタッチは重いのに、なぜかウインカーレバーだけが妙に細くて、作動も軽い。こうだったこうだった。
走り出すと、重厚な乗り心地がなつかしかった。別格の“ハイスピード仕立て”を予感させる足まわりの骨太感が、新車当時、なにより“脱日本車”を実感させたのだ。

GT-Rのインパネ

GT-Rのインパネ。ダッシュボードのセンター部がドライバーの側を向き、コックピット感を盛り立てる。ヘッドライトとワイパーのスイッチは、メーターフードから生える独特なもの。ステアリングホイールはナルディ製のものに変更されていた。
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GT-Rのシート

GT-Rのフロントシート 。見た目に違(たが)わずタイトな座り心地ではあるがホールド性が高く、長時間のドライブでも疲れにくいものであった。
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“サンニイ”が、ワインディングロードをいちばん楽しめる

計器類はすべてアナログメーター。デジタルメーターはひとつもない。7桁の積算計は約16万5000kmを示している。フツーのレンタカーではありえない数字だ。さすがに新車当時ほどのパンチは感じなかったが、高速道路では80km/hあたりから5速トップのままで余裕しゃくしゃくの加速をみせる。
レーンキープアシストなんていう運転支援システムはもちろん付いていないし、想像すらしなかった時代だが、高速安定性の高さは21世紀の今でも見るべきものがある。半年ほど前に乗ったユーノス・ロードスターと比べると、同じ100km/h巡航でもこちらのほうがはるかにリラックスできる。癒されると言ってもいい。
山道も走った。“ハコスカ”から始まって、このあとのR33、R34と通算5世代にわたるスカイラインGT-Rの中でも、ワインディングロードをいちばん楽しめるのはサンニイだと思う。でもこの日は車をいたわっておとなしく走る。そうしないとすぐ「急ハンドルを検知しました」とか「急ブレーキを検知しました」とか、レンタカー装備のドライブレコーダーに叱られるからだ。
でも、30年前のサンニイGT-Rを今こうして走らせてみると、“往年の高性能車”と呼びたくなるような風格を感じた。やはり日本車ヴィンテッジイヤーの大作にして名作だったのだ。信号待ちをしていると、中学生くらいの男子にスマホで写真を撮られた。サンニイGT-Rはいまやそういう存在でもある。中古車情報を調べると、2000万円なんて数字もザラにある。そんな車をレンタカーで味わえるのだからありがたい。

GT-Rのエンジンルーム

GT-Rのエンジンルームには、RB26DETTエンジンが縦置きにマウントされる。2568㏄の排気量から最高出力280馬力、最大トルク36kg-mを発揮した。
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GT-Rが走り去る姿

ワインディングを走るGT-R。発売から30年以上が経ち、“往年の高性能車”として独特の存在感を放つ車になっていた。
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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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