その旧車、レンタルさせてください

ローバー・ミニ(初代)のMT・AT車を町田で試乗。視点と重心の低さは独特

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記

下野康史
2023.11.28

文=下野康史/撮影=荒川正幸

2023.11.28

文=下野康史/撮影=荒川正幸

イギリスのローバーなどが1959年から2000年まで製造していた初代ミニに試乗。映画やアニメなどにもしばしば登場したこともあり、いまでもファンが多い車です。そんなミニを自動車ライターの下野康史さんがレンタカーとして借り受け、その走りをレポートします。

ミニの外観

東京都町田市のガレージ フジックス・オートでお借りしたAT車のミニ タータン。丸いライトや四隅で踏ん張ったタイヤホイールが、動物のような印象を与える。スリーサイズは全長3070mm×全幅1430mm×全高1290mm。車両重量は760kgだった。
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ミニのリア部分

ミニ クーパー(MT)のリアを眺める。丸みのあるトランク部分が印象的だ。オーバーフェンダーは後付けだそう。
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90年代、ミニが世界でいちばん売れていたのは日本だった

いま「ミニ」と言ったら、BMWがイギリスで製造している“MINI”のことだろう。2001年のデビュー以来、大成功を収め、日本では2016年から不動のベストセラー輸入車である。
そのBMWミニの先祖にあたるのが、通称クラシック・ミニである。1959年にBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)から登場し、オースチン、モーリスのブランドで販売された小型車だ。その後、メーカー名はブリティッシュレイランドからローバーへと変遷したが、一度もフルモデルチェンジをすることなく、20世紀いっぱいの2000年まで生産された。
イギリスでクラシック・ミニが活躍したのは1960~70年代だが、80年代後半からは日本でも人気を博した。日本市場に合わせてエンジンに改良を加え、クーラーや手厚い内装などの装備を充実し、高性能版の“クーパー”を復活させた。その甲斐あって、90年代は本国イギリスの販売台数を凌いで、日本が最大のお得意様だった。晩年、日本人と結婚し、幸せな余生を送ったイギリス人。20世紀の歴史的な英国車には、そんなイメージがダブる。

現行の軽自動車枠にすっぽり収まるコンパクトなボディー

「わ」ナンバーのクラシック・ミニを揃えているのは、東京都町田市のフジックス・オート。クラシック・ミニの販売、修理で30年近いキャリアを持つ専門店だ。
オーバーホール中のエンジンが置かれた工場の奥では、木工作業が行われていた。1960年代のミニ・カントリーマンのボディーを飾る木枠のメインテナンスだ。41年の歴史を持つクラシック・ミニ全般に通じたショップである。クラシック・ミニのレンタカーは5年ほど前に始め、6時間8800円というお手頃料金でローバー・ミニのATを2台、MTを1台用意している。
エンジンとトランスミッションを上下2階建てに配置したコンパクトなパワーユニットや、ラバーコーンと呼ばれるゴムの塊を使うサスペンションなど、クラシック・ミニは数々のユニークな技術的特徴を持つが、21世紀の今あらためて見て感動さえ覚えるのは、その小ささである。
ボディーは今の軽よりはるかに小さい。とくに全長は軽自動車の規格枠より30cm以上短い。全高は軽のベストセラー、ホンダNボックスより50cm低い。当然、室内は身長181cmのミスタービーンがよく乗れたなあと思う狭さだが、しかし狭くても、心地よい狭さである。そのへんも、バブル景気の残り香をひきずる90年代、日本でウケた理由のひとつだと思う。

ミニのインパネ

クーパーのインパネ。木目パネルがイギリスらしさを醸し出している。ハンドルが他の乗用車より水平に近い角度になっているのも特徴だ。
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ミニ クーパーのシート

クーパーのフロントシート 。パンと張ったレザーシートはクーパー専用で、適度にスポーティな座り心地だった。
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ミニのリアシート

小さいボディーのイメージに反して、十分な後席スペースが確保されている。
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速さより“速さ感”がミニの特徴

借りたMT車は1.3リッターの97年型クーパーである。走り出すなり、低い視点と低重心感がなつかしくもうれしい。“地べた”を近くに感じるクラシック・ミニ独特の走行フィールだ。
インジェクション化された1271cc4気筒OHVは62馬力。軽自動車の最高出力自主規制値(64馬力)より低いし、実際測っても今の軽ほど速くないだろう。しかし、このエンジンにはキャブレター仕様のような応答性があり、アクセルをわずかでも踏めば、前にガクンとせり出して、ギヤノイズをうならせながら元気に加速する。クラシック・ミニは速さより“速さ感”である。

ミニのエンジンルーム

ミニのエンジンルーム。限られたスペースのボンネット内にエンジンや補器類などがぎっしりと詰まっていた。
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筆者も90年代にローバー・ミニを所有していたが、今回の試乗車に乗って驚いたのは、現役当時からほとんど古くなっていないことだった。もちろん試乗車の程度がよいということもあるが、もともとクラシック・ミニは古かったのだ。なにしろ基本設計は1950年代である。「昔のちゃんとした教育を受けた人」みたいな老成した雰囲気が新車の時からあり、それが英国車っぽくもあった。その魅力はこの日もまったく色あせていなかったのだ。クラシック・ミニはまさにエバーグリーンである。

ミニが走り去る姿

MTもATも、きびきびと走ることが印象的だった。ミニの走りが「ゴーカートフィーリング」と呼ばれることにも納得だ。
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クルマの進化の過程を知ることができるのも、旧車ならでは

95年型のATモデルにも乗ってみた。クラシック・ミニにATが追加されたのは1965年。当時の小型大衆車としてはススんでいたトルクコンバーター式の4段ATである。
フジックス・オートはこのATのメインテナンスを得意としている。“AT推し”でもあるという。たしかにATしか乗れない人があたりまえになっているのだから、ATモデルをないがしろにしていたら、旧車人気もすたれてしまう。
今のAT車に比べると、停車中の振動は大きいし、シフトショックも気になるが、クラシック・ミニが初めてという人には、レンタカーもまずATモデルから薦めているという。それだけATの仕上げに自信を持っているということだろう。
旧車は“乗りっぱなし”にはできない。メインテナンスやチューニングの実力を論より証拠で知ってもらう。それがショップ系旧車レンタカーの特徴といえる。

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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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