ローバー・ミニ(初代)のMT・AT車を町田で試乗。視点と重心の低さは独特 #08
自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
イギリスのローバーなどが1959年から2000年まで製造していた初代ミニに試乗。映画やアニメなどにもしばしば登場したこともあり、いまでもファンが多い車です。そんなミニを自動車ライターの下野康史さんがレンタカーとして借り受け、その走りをレポートします。
90年代、ミニが世界でいちばん売れていたのは日本だった
いま「ミニ」と言ったら、BMWがイギリスで製造している“MINI”のことだろう。2001年のデビュー以来、大成功を収め、日本では2016年から不動のベストセラー輸入車である。
そのBMWミニの先祖にあたるのが、通称クラシック・ミニである。1959年にBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)から登場し、オースチン、モーリスのブランドで販売された小型車だ。その後、メーカー名はブリティッシュレイランドからローバーへと変遷したが、一度もフルモデルチェンジをすることなく、20世紀いっぱいの2000年まで生産された。
イギリスでクラシック・ミニが活躍したのは1960~70年代だが、80年代後半からは日本でも人気を博した。日本市場に合わせてエンジンに改良を加え、クーラーや手厚い内装などの装備を充実し、高性能版の“クーパー”を復活させた。その甲斐あって、90年代は本国イギリスの販売台数を凌いで、日本が最大のお得意様だった。晩年、日本人と結婚し、幸せな余生を送ったイギリス人。20世紀の歴史的な英国車には、そんなイメージがダブる。
現行の軽自動車枠にすっぽり収まるコンパクトなボディー
「わ」ナンバーのクラシック・ミニを揃えているのは、東京都町田市のフジックス・オート。クラシック・ミニの販売、修理で30年近いキャリアを持つ専門店だ。
オーバーホール中のエンジンが置かれた工場の奥では、木工作業が行われていた。1960年代のミニ・カントリーマンのボディーを飾る木枠のメインテナンスだ。41年の歴史を持つクラシック・ミニ全般に通じたショップである。クラシック・ミニのレンタカーは5年ほど前に始め、6時間8800円というお手頃料金でローバー・ミニのATを2台、MTを1台用意している。
エンジンとトランスミッションを上下2階建てに配置したコンパクトなパワーユニットや、ラバーコーンと呼ばれるゴムの塊を使うサスペンションなど、クラシック・ミニは数々のユニークな技術的特徴を持つが、21世紀の今あらためて見て感動さえ覚えるのは、その小ささである。
ボディーは今の軽よりはるかに小さい。とくに全長は軽自動車の規格枠より30cm以上短い。全高は軽のベストセラー、ホンダNボックスより50cm低い。当然、室内は身長181cmのミスタービーンがよく乗れたなあと思う狭さだが、しかし狭くても、心地よい狭さである。そのへんも、バブル景気の残り香をひきずる90年代、日本でウケた理由のひとつだと思う。
速さより“速さ感”がミニの特徴
借りたMT車は1.3リッターの97年型クーパーである。走り出すなり、低い視点と低重心感がなつかしくもうれしい。“地べた”を近くに感じるクラシック・ミニ独特の走行フィールだ。
インジェクション化された1271cc4気筒OHVは62馬力。軽自動車の最高出力自主規制値(64馬力)より低いし、実際測っても今の軽ほど速くないだろう。しかし、このエンジンにはキャブレター仕様のような応答性があり、アクセルをわずかでも踏めば、前にガクンとせり出して、ギヤノイズをうならせながら元気に加速する。クラシック・ミニは速さより“速さ感”である。
筆者も90年代にローバー・ミニを所有していたが、今回の試乗車に乗って驚いたのは、現役当時からほとんど古くなっていないことだった。もちろん試乗車の程度がよいということもあるが、もともとクラシック・ミニは古かったのだ。なにしろ基本設計は1950年代である。「昔のちゃんとした教育を受けた人」みたいな老成した雰囲気が新車の時からあり、それが英国車っぽくもあった。その魅力はこの日もまったく色あせていなかったのだ。クラシック・ミニはまさにエバーグリーンである。
クルマの進化の過程を知ることができるのも、旧車ならでは
95年型のATモデルにも乗ってみた。クラシック・ミニにATが追加されたのは1965年。当時の小型大衆車としてはススんでいたトルクコンバーター式の4段ATである。
フジックス・オートはこのATのメインテナンスを得意としている。“AT推し”でもあるという。たしかにATしか乗れない人があたりまえになっているのだから、ATモデルをないがしろにしていたら、旧車人気もすたれてしまう。
今のAT車に比べると、停車中の振動は大きいし、シフトショックも気になるが、クラシック・ミニが初めてという人には、レンタカーもまずATモデルから薦めているという。それだけATの仕上げに自信を持っているということだろう。
旧車は“乗りっぱなし”にはできない。メインテナンスやチューニングの実力を論より証拠で知ってもらう。それがショップ系旧車レンタカーの特徴といえる。

下野康史
かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。
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