文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタ・セリカGT-FOUR(ST205)に試乗。ファミリーカーとしても使えそうな、ラリーベース車 #10

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

トヨタが1994年から1999年まで製造していたトヨタ・セリカGT-FOUR(ST205型)に試乗。世界ラリー選手権(WRC)にも参戦した、現在WRCに参戦するヤリスWRCの祖先にあたるモデルです。そんなセリカGT-FOURを自動車ライターの下野康史さんがレンタカーとして借り受け、走りをレポートします。

目次

GT-FOURの外観

Vintage Club by KINTOでお借りした1994年式のセリカGT-FOUR。初代から数えた場合は6代目で、セリカGT-FOURとしては3代目にあたる。なお、このセリカGT-Fourは、2024年春からまたレンタルができるようになるという(近日中にKINTOからお知らせ予定)。詳細はVintage Club by KINTOのウェブサイト をチェック!

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GT-FOURのリア部分

テールゲートに控えめに据え付けられたリアウイングはGT-FOURの標準装備。スリーサイズは全長4420mm×全幅1750mm×全高1305mm。車両重量は1380kgだった。発売時の車両価格は317万1000円(東京・大阪の価格)
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おおよそ30年モノだが、パワステの重さ以外に古さを感じることはない

セリカGT-FOURに乗ったのは大雨警報も出る荒天の日だった。道路にはあちこちに水溜まりが出現し、とても旧車レンタカー日和とは言えなかった。
しかし、94年型GT-FOURは車齢を感じさせない走りを見せた。モデル名の通りのフルタイム四駆機構はセリカをWRC(世界ラリー選手権)で走らせるための必須アイテムだったが、30年経った今も実用装備としてありがたい。同じ年代の旧車でも、二輪駆動車ではここまで安心して走れなかったはずだ。
今回のレンタカーは、この連載でおなじみ“Vintage Club by KINTO”の車だ。貸し出しは都内のトヨタ・ディーラーだったが、車を仕上げたのはトヨタ系の新明工業。メーカーのワークス整備に近いレベルでメンテナンスされた旧車レンタカーである。
実際乗っても、これまでワンオーナーできちんと整備を受けてきた車、といった印象だ。内外装からエンジン、駆動系、ブレーキ、足まわりまで、旧車の古さを感じさせることはほとんどなかった。唯一感じたのは、パワーステアリングの重さだろうか。このような高性能車でも、操作力はどんどん軽くなっていくのが時代の流れである。昔のスーパーカーなんて、体力と筋力がなければ乗れなかったのだ。
KINTOレンタカーには、その車両固有の注意書きが載っている。ターボ車なので、エンジンを停止する前には必ずクールダウンのアイドリング運転をすること。このころの高圧ターボエンジンに必要とされていた“アフターアイドリング”の指示だ。15分乗ったら1分以上。30分だと3分以上と細かい。しかし、人間もトシをとると暑さに弱くなるから、大切な注意点だろう。

セリカGT-FOURのインパネ

セリカGT-FOURのインパネ。メーターパネルの水温計の下に追加されたブースト計がGT-FOURの専用装備。イルミネーションが輝く2DINオーディオが90年代を思い起こさせる
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セリカGT-FOURのフロントシート

セリカGT-FOURのフロントシート。シートバックの倒れ具合はダイヤルで微調整が可能で、レバーを引くとワンアクションで倒すこともできる
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日常性能も高く、実用的なホモロゲーションモデル

70年に登場したセリカは、85年のモデルチェンジでFRからFFに切り替わる。『流面形』がキャッチフレーズだった4代目だ。続く5代目と6代目は丸っこくなったカタチが似ているが、リトラクタブルヘッドランプから固定4灯式になったのが93年10月デビューの6代目である。FFセリカとともに誕生したスポーツ四駆の高性能モデル、GT-FOURは90年代前半のWRCで大活躍し、日本車としては初めてメーカーとドライバーに年間タイトルをもたらす二冠を達成している。
しかし、その後、スバル・インプレッサと三菱ランサー・エボリューションのあいだで繰り広げられたWRCホモロゲーションモデルの公道バトル(?)に比べたら、町で見かけるセリカGT-FOURはまだずっと地味だったように思う。
6代目GT-FOURのボンネットには大小の吸気口や排気口が開くが、黒いボディーだとそれほど目立たない。テールゲート後端に付くリアウイングも控えめだ。レンタカーとして、ETC車載機やUSBソケットはあと付けされているが、コクピットの装備はむしろシンプルだ。パワートレーンやサスペンションの性格を変えるコントローラーの類いはまだひとつもない。そういうマニュアルの可変機構って、実際使いますか? というのが筆者の立場なので、センターフロアのすっきりした眺めがうれしい。
エンジンは先代GT-FOURよりプラス30psを得た255psの2リッター4気筒DOHCターボ。KINTOレンタカーの殺し文句である「エンジンをいたわってください」という注意書きを今回も尊重したが、それでも、今なお十分パワフルである。GT-FOURは5段MT一択。クラッチペダルは以前乗った94年式スカイラインGT-Rより軽く、シフトフィールも滑らかだ。ふだんの足にするならGT-FOURのほうがいいと思った。
4輪ストラットのサスペンションはさらに運動性能を突き詰めた“スーパーストラット”に進化しているが、いま乗ると乗り心地のよさが印象的だった。「ラリーカーのホモロゲーションモデル!」と声高に主張するようなヘビーデューティーさはない。
試乗車の年式と同じ94年に免許を取ったという編集部Nさんに運転を代わってもらい、リアシートにも乗ってみた。頭上も足もとも広くはないが、意外や後席窓が大きいので、閉塞感はそれほどない。セリカは“スペシャルティカー”というカテゴリーに属する車だったが、子どもが小さければ、GT-FOURもファミリーカーとして使えたはずだ。後席もトランクもあきらめたような現在のGRヤリスを思うと、実用的なホモロゲーションモデルである。

セリカGT-FOURのエンジンルーム

セリカGT-FOURのエンジンルームには、3S-GTEエンジンが横置きにマウントされる。1998㏄の排気量から最高出力255ps、最大トルク31kg-mを発揮した
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セリカGT-FOURが走り去る姿

コーナーに差しかかるセリカGT-FOUR。30歳を迎える旧車ながらくたびれたところがなく、程度のよさが印象的だった
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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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