三菱・GTO(初代)に試乗。バブルが生んだ、ハイテクマッスルスポーツ #17
自動車ライター・下野康史の旧車試乗記三菱自動車が1990年から2001年まで販売していたGTOに試乗。4輪駆動や4輪操舵、4輪ABSなどを備え、当時の三菱自動車が得意としていたオールホイールコントロール(AWC)の考え方を具現化した一台でした。
そんなGTOを自動車ライターの下野康史さんが借り受け、走りをレポートします。
GTOは、バブルが生んだ本格的なスポーツカー
バブル景気の絶頂期、1989年から90年にかけて、ユーノス・ロードスター、スカイラインGT-R、ホンダ・NSXといったクルマ好きをうならせる国産スポーティーモデルが相次いでデビューした。それから少し遅れた90年の10月に登場したのが、三菱・GTOである。
70年代のヒット作、ギャランGTOのモデル名を復活させたこの車は、三菱初の本格的なスポーツカーだった。大柄な4座2ドアクーペボディーに3リッターV6ツインターボ+フルタイム4WDのパワートレインを搭載する。
最高出力は自主規制値の280psだったが、42.5kgmの最大トルクはスカイラインGT-Rの2.6リッタ―直列6気筒ツインターボ(36.0kgm)やホンダNSXの3リッターV6(30.0kgm)を圧倒した。主要メカニズムの多くがシグマ/ディアマンテ用の発展形だったために、話題性こそ先発のライバルには及ばなかったが、スペックの迫力ではそれらをしのぐものがあった。
そんなバブル時代の“大作”に今でも乗ることができる。この連載ではすでにおなじみ“おもしろレンタカー”がラインアップする1台である。
アクセルを踏めば怒涛(どとう)のトルクが盛り上がる、パワフルなエンジン
GTOは一代限りで終わってしまったが、改良を積み重ねながら、2001年までつくられた。試乗車は2000年2月初登録の最終バージョン。オリジナルのヘッドランプはリトラクタブルだったが、こちらはプロジェクターランプの固定式。最大トルクは43.5kgmに微増し、ゲトラグ製のMTも5速から6速に変わり、純正のクロームメッキホイール(顔が映る)に履くタイヤは18インチへと大径化している。“旧車”と呼ぶには気がひけるようなスペックである。
そんな印象は乗り込んでも同じだ。シートは革張りで、電動調整機構が付く。背もたれにはランバーサポートやサイドサポートも付いている。最終型とはいえ、もう四半世紀前のクルマである。走行距離は20万kmを越え、シートの革などはそこそこ傷んでいるのだが、そうした電動メカがちゃんと作動することにちょっと感心した。
ドイツのゲトラグ製MTが採用されたのは、40kgmオーバーの大トルクを受け止めるためである。革巻きシフトノブの変速タッチは軽いが、クラッチペダルは軽くない。いや、重い。以前、旧車レンタカーで経験したスカイラインGT-R(R32)よりまだ重かった。長い渋滞にはハマりたくない車だ。
しかし、2500rpmで最大トルクを出し切るエンジンだから、一旦走りだせばそんなにしょっちゅう変速する必要はない。どのギアからでも、踏めば怒涛のようなトルクが盛り上がる。加速もイイ。というか、下からモリモリと力強い。「トルクは加速に効く」と言われるとおりの加速感である。
タイトなワインディングより、高速巡航を得意とする
100km/h時の回転数は6速トップで1900rpm。高速道路での追い越しは、シフトダウンしなくたってそのまま右足を踏み込むだけで十分だ。高い6速ギアのおかげで、巡航中も静かである。
同じ理由で燃費もワルくない。高速道路8割で200kmのワンデイツーリングを楽しんで、リッター8kmだった。20世紀設計の3リッターツインターボの高性能四駆車(のレンタカー)としては、まずまずじゃないだろうか。
パワーステアリングの操舵力は重めだ。大きなパッドを持つステアリングホイール自体も重そうに見える。1840㎜のボディー全幅は、デビュー当時、国産車最大で、いま乗っていても、でっぷり大きい。そのため、狭い山道でペースを上げる気はしない。そういうオーラは出ていない。そのかわり、高速域での直進安定性はすばらしい。リラックスできるハイウェイクルーズはGTOの最も得意とするところである。誇れる“直線番長”だ。
古くから三菱自動車は米国クライスラーと協業してきた。GTOも“ダッジ・ステルス”の名のクライスラー版が北米にOEM供給された。
GTOを運転するのは、デビューしたての新車を試乗したとき以来である。今回、三十数年ぶりにハンドルを握ってみると、GTOはスポーツカーというよりも、ジャパナメリカンなGTカーという印象が強かった。スカイラインGT-Rより、雰囲気は同時代のシボレー・コルベットに近いように思えた。時を経て、脂が落ちると、クルマもまた別の姿を見せてくれるのかもしれない。
試乗している間、風雨の強い悪天候のなかでも4輪駆動のおかげで安定した走りを見せてくれた。直進安定性の高さもあいまって、グランドツーリングカーとしてのポテンシャルが高い
下野康史
かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。