房総のワインディングを走るコペン
文=下野康史/撮影=荒川正幸

ダイハツ・コペン(初代・L880K型)を外房で試乗。新車当時のコンディションをレンタカーで体験 #16

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

ダイハツが2002年から2012年まで販売していた初代コペンに試乗。軽自動車ながらリトラクタブル式の電動ルーフを装備。手軽にオープンドライブが楽しめるモデルとして親しまれました。そんなコペンを自動車ライターの下野康史さん借り受け、走りをレポートします。

目次

“コペンの桃源郷”が房総半島にあった

東京湾アクアラインで千葉県に入り、圏央道と一般道を40分、もう外房が近い田園地帯に、突然、目を疑うような光景が現れる。黒塗りのカッコいいガレージ建屋のまわりに、色とりどりのダイハツ・コペンが集まっている。円形定規だけでデザインしたような旧型(初代)コペンだ。雑木林をバックにして、まるで“コペンの桃源郷”のように見える一角が、コペンの専門店“わだち ”である。
清潔な工場内に4基のリフトを備え、修理や整備がメインだが、1時間1100円というお手頃価格で初代コペンのレンタルも行っている。借りに来るお客さんは、もちろん旧型コペンの愛好家だ。購入を考えて試乗に来る人が多く、MTとATを用意しているため、乗り比べもできる。
2014年デビューの2代目コペンは現役続行中だが、2002年登場の初代モデルはもう20年選手である。しかし古くても、このカタチや4気筒エンジン(現行型は3気筒)のおかげで、今も根強い人気を持つ。そんな背景から生まれたネオクラシック旧車のレンタカーである。

コペンの外観

千葉県睦沢町の「わだち」でお借りしたコペンは2004年式。スリーサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1245mmで、車検証によると車両重量は830kgだった。発売時の車両価格は149万8000円
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コペンのリア部分

「低重心で力強い走りをイメージしたティアドロップシェイプシルエット」(当時のリリースより)がデザインのモチーフ。走らせていても腰高感はなかった
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エンジン・足回りをリフレッシュ。ほぼ新車の走り味を体感できる

借りた赤のコペンは2004年式のMT。出発前の注意事項は、主に電動ルーフの扱いについてだった。コペンはホンダ・ビートやスズキ・カプチーノに続く軽の2座席オープンカーだが、先達に差をつけたのが“アクティブトップ”と呼ぶ電動ルーフである。当時、メルセデスSLKやプジョー206CC、日本車ではトヨタ・ソアラが採用していた贅沢なリトラクタブルルーフを150万円の軽自動車でやってのけたのがコペンの売りだった。
2か所のロックを外し、スイッチを押すと、アルミ製の屋根がふたつに折れて、トランクルームの中に収納される。20年経ったいまも作動はスムーズで静かだ。約20秒でハードトップのクーペから青天井のフルオープンカーに変身する。
すでに17万kmを走った個体だが、走り出しても“旧型車のレンタカー”という感じはしなかった。軽の自主規制値64psを発生する659cc4気筒ターボは、レッドゾーンの8500rpm近くまでよく回り、しかも低回転から太いトルク感を発する。今の3気筒ターボと比べると、同じ64psでも“中身が濃い”感じがする。
コペンはフロントエンジンの前輪駆動(FF)だが、これだけ元気のいいエンジンとの組み合わせでも、操舵感にFFのいやな癖はない。急加速中にハンドルをとられたりすることもないし、エンジンの微振動がハンドルに伝わり過ぎることもない。20年と17万kmを刻んでも、そうしたところに経年劣化がないことに感心した。
それもそのはずで、わだち代表のIさんによると、この個体は「ほぼ新車時を体感できるレベル」に仕上げてあるそうだ。エンジンは新品。足まわりもリフレッシュしてある。初代コペンの部品供給事情は今のところ問題なく、ボディーを除けば、ほぼ新品パーツだけで1台クルマがつくれるという。わだちのレンタカーは、そうしたメインテナンスのノウハウや技術力を体感してもらう“広報車両”でもある。

コペンのインパネ

エアコンのアウトレットやスイッチなど、各所に丸をモチーフにしたデザインが印象的なインパネ。ステアリングはMOMO製を装備していた
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コペンのシート

ホールド性に優れるタイトなバケットシート。しかし狭いという印象はない
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房総のドライブルートで、小さくてもキラリと輝くスポーツカーを楽しんだ

“ほぼ新車”の初代コペンで九十九里浜まで走った。クルマもイイが、環境もいい。里山に囲まれたこのあたりの道は、絶好のドライブルートで、適度なアップダウンと大小のカーブが続く。信号はない、と言ってもいいくらい少ない。小気味よくキマるMTの5段ギアを使い分けながら走ると、まさにコペンのための道である。初代コペンには現役当時、何度か試乗しているが、そのとき以上の好印象を受けた。
東京モーターショーの参考出品車を経て、この車が登場した2002年は、新車販売ベストテンの5台がミニバンだった(※)。軽自動車の世界でも、背の高いワゴンが次第に勢力を増していた時期である。そんなときに現れたコペンは、小さくてもキラリと輝くスポーツカーだった。
初代コペンは今後、ますます希少になり、そして古くなる。でも、わだちはあくまで初代モデルにこだわっていきたいという。ガレージ裏手の敷地には、全国から集めたコペンが部品取り用も含めて50台ストックしてある。房総半島の片隅で、初代コペンはこれからもキラリと輝き続けそうだ。

  • 軽自動車を除く登録車のみ。

コペンのエンジン

専用チューニングを施したというJB-DET型ツインカム直列4気筒16バルブEFIターボエンジン。659ccの排気量から規制値いっぱいの64psを発揮する

コペンが走る姿

生産から20年が過ぎた個体ではあるが、エンジンやサスペンションが新品に交換されており、新車に近い運動性能が楽しめた

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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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