• トップ
  • 自動車
  • 特集
  • 電気自動車(EV)は冬に弱い? 実際どうなのか、モータージャーナリスト・岡本幸一郎さんが雪国でリアル試乗!
雪上を走行するEV車
構成=ダズ/文=岡本幸一郎/撮影=長谷川 徹

電気自動車(EV)は冬に弱い? 実際どうなのか、モータージャーナリスト・岡本幸一郎さんが雪国でリアル試乗!

電気自動車を正しく理解すれば、冬のドライブが快適になる!
岡本幸一郎

電気自動車(EV)は冬の寒さに弱いのでは? 多くの人が抱いている漠然としたイメージですが、実際のところはどうなのでしょうか。EVの生命線であるバッテリー問題や、雪道での走行性能など、モータージャーナリスト・岡本幸一郎さんと冬の奥志賀高原(長野県)でテスト走行を実施しました。「寒さに弱い」は本当なのか? EVの実力を検証します!

目次

気温差は20℃以上! 横浜から長野県の奥志賀高原までロングドライブ

何らかの形で電動の要素を取り入れたクルマを「xEV」と称し、その中でもエンジンを搭載しておらず、モーターとバッテリーのみで走行するクルマを「BEV=バッテリーEV」と呼んでいます。外部電源からバッテリーに充電し、その電力でモーターを駆動して走行しますが、内燃エンジンがないので、走行中にまったくCO²や排出ガスを出さないことが最大の特徴です。

半面、充電なしでは走行できないため、遠出するとなればなおのこと、充電環境の確保が必要に。一般的にBEVは特に気温の低い冬場が苦手だといわれているのを耳にしたことはあるでしょう。ちゃんと問題なく充電できて走れるのか、不安に感じる人も少なくないに違いありません。

そこで2024年12月中旬、日産アリアを駆って横浜から長野県の奥志賀高原までロングドライブを行い、実際にBEVを冬場の厳しい環境下で使っても大丈夫かどうかを試してみました。

今回のテスト車両で使用した「日産アリア」

今回のテストで使用した「日産アリア」

エアコンの起動直後は消費電力が大きいが、長時間の使用では大差なし!?

スキー場がいくつもある志賀高原で、エアコンを快適な温度でON、エアコンOFF、エアコン全開という3通りで約25kmの同じルートを走ってみたところ、確かに違いが出ました。

一方、シートヒーターやステアリングヒーターの消費電力は圧倒的に小さく、ONにしても航続可能距離の表示に変化はなかったので、エアコンOFFのときも両方ともONに。足元からくる寒さは否めませんが、それだけでもずいぶん暖かく感じられました。

アリアには電動コンプレッサーのほか、即暖性に優れるPTC素子ヒーターと、家庭用と同じ仕組みのヒートポンプシステムが搭載されています。冷房時の消費電力は比較的小さい印象でしたが、暖房時には特に起動直後の消費電力が大きいようでした。

エアコンを23℃の一般的な温度に設定したときに比べ、全開となる「Hi」に設定して走り続けると、0.2km/kWh悪化したのに対し、エアコンOFFにすると、もっと電費が良くなると予想していたものの、意外と上がり幅は小さい結果に。おそらく寒い状態から車内を暖めるため最初に大きな電力を消費しても、ひとたび暖まってしまえば、それほど大きな電力を消費せずに済むからなのでしょう。

この結果から、航続距離を延ばすために無理をして寒い思いをするよりも、エアコンも使って快適にドライブしたほうがはるかに賢明と言えそうです。

雪のEV走行テストコース

今回のテストコースは「道の駅 北信州やまのうち」から「奥志賀高原ホテル」までの約25km。勾配がきつい山道だが、路面はしっかりと圧雪されていた

EV車電費テストの表

ほぼ同じ条件下での電費テスト。エアコンを全開にした「Hi」の場合、起動時に瞬間的に電費が悪化するものの、最終的には大きな差は出なかった

EV車のインストルメントパネル

航続距離の影響が少ないステアリングヒーターやシートヒーター。寒冷地ではエアコンと併用して利用したい便利機能だ

EV車で雪上を運転する男性ドライバー

ステアリングヒーターとシートヒーターを使えば、エアコンの温度設定が低くても快適。ただ足元は少々冷たいので、それぞれをうまく併用したい

雪道や下り坂で便利すぎる「ワンペダル走行」とは?

内燃エンジン車にもエンジンブレーキがありますが、BEVにはモーターによる回生ブレーキがあり、エンジンブレーキよりもずっと強い減速度を得ることができるのが特徴です。そんなBEVの強みを生かし、アクセルペダルの操作で加速だけでなく減速もある程度コントロールできる、いわゆる「ワンペダルドライブ」が可能なクルマが増えています。

これによりアクセルペダルの操作のみで速度調整ができるので、ブレーキペダルに踏み替える頻度を大幅に減らすことができるという大きなメリットがあり、特に冬場はスノーブーツのような底が大きくて厚いクツを履く機会が増えるので、なおのことありがたみが感じられます。

アクセルペダルから足を完全に離さずゆっくりと緩めるとなめらかに減速することができる。減速をパドルシフト等で任意に選べるようにしたクルマもあるが、日産の「e-Pedal」では車速によって最大減速度をほどよく調整している。おかげで雪のワインディングロードもリズミカルに楽しく走れます。

減速が足りない場合はブレーキペダルを踏めばよいが、不意にABSが作動したり、前のめりの不安定な姿勢になることもあり、ワンペダルドライブによりその可能性が圧倒的に小さくなるのは、特に前荷重となる下り坂のコーナーのようなシチュエーションでは助かります。

EV車ブレーキペダル部分の寄り画像

回生ブレーキによって車速をコントロールできるEV。日産は「e-Pedal」と呼び、スイッチボタンによってON/OFFを行う

ワンペダル走行の解説図

特定の走行モードで、アクセルペダルの操作によって加減速をコントロールする「ワンペダル走行」。アクセルペダルからブレーキペダルに踏み替える頻度が少なくて済み、車速のスムーズなコントロールが可能

雪上走行のカット

アクセルペダルの踏み加減だけで車速をコントロールできるので、雪のワインディングロードも安心して走ることができる

前後重量配分のバランスに優れたEVは、雪道での安定感も格別

BEVで雪道を走るとどうなのか? というのも大いに気になるところだが、総じてドライバビリティーは高いと言えます。

モーターというのは内燃エンジンと違って回転し始めた瞬間から安定して最大トルクを発生するのが特徴で、アクセルを踏んだとおりリニアに加速します。もちろん内燃エンジンのように音や振動を出すこともありません。おかげで走りは静かでなめらかで力強くて扱いやすいと言えます。

フットワークも、いかにも重心が高そうでグラつきそうに見えますが、実際には重たいバッテリーが車体の中央寄りの床下という低い位置に積まれているので、見た目の印象よりも重心が低く前後重量配分のバランスも◎。それらが雪道でも効いてくるのです。

とくにアリアのAWDの場合は、前後2つの高出力モーターとブレーキの統合制御により駆動力を自在にコントロールするという高性能な電動駆動4輪制御システムの「e-4ORCE(イーフォース)」が搭載されているのが強み。スリップしそうになってもクルマ側で緻密に走りを制御して何ごともなかったように立て直してくれます。

上れるかどうか不安を覚える上り坂で試しに途中で止まって再発進してみたところ、アクセルを全開にしても少しだけ滑って即座に前に進み出しました。モーターと先進的なデバイスの組み合わせで、トルクを緻密に制御して最大限にグリップするところをうまく探り、着実に前に進ませている感覚が伝わってきました。内燃エンジン車ではこうはいかないもの。コーナリングでの曲がり具合も自然で、イメージしたとおりにラインをトレースしていくことができました。

また、SNOWモードといえば滑りやすい路面でスリップしないよう出力を抑えるのが一般的なところ、アリアの場合は、しっかり加速できて意のままに走れる印象を受けました。それは、ECOモードではFWD状態でスタンバイするのに対し、SNOWモードでは最初から4WDとなり、トルクを穏やかに立ち上げて急激な変化を起こさないようにしつつも、踏めばフルパワーが出るようにされているから。これまたBEVだからこそできる芸当に違いありません。実はBEVの4WDというのは、雪道に非常に適しているような印象を持ちました。

半面、充電や消費電力のこと以外でも気になったことはありました。雪がひどくなったときに、先進運転支援装備のセンサーが一定時間使えなくなってしまったのです。おそらく雪でセンサーが覆われたのが原因と思われますが、BEVは熱源が少ないため、内燃エンジン車だと雪が溶けるような状況でも溶けずに長く残ってしまうことはあり得ます。これには雪が溶けるように熱を発生する部品を追加するとか、雪が付着しにくいようにセンサーの位置を見直すなど何かしら対策を求めたいと思いました。

雪上を走行するEV車

取材当日、大雪に見舞われたが、パワフルな加速力によって雪道であることを感じさせない感覚だった

EV車のドライブモードセレクター

路面状況や使用するシチュエーションによって使い分けたいドライブモードセレクター。「SNOW」モードでの雪道走行は安定感が明らかに違った

氷点下での充電能力はやっぱり下がる?

一般的に言われているとおり、リチウムイオンバッテリーというのは暑くても寒くてもダメ。とくに寒さに弱いのですが、それは主に寒いと化学反応が鈍るのが原因。今回のテストでは何度か充電を試みたが、条件をそろえるのは難しかったものの、その傾向は確かに見受けられました。

本当に厳しい極端に寒い状況こそなかったですが、やはり長野で充電したときよりも、最後に日産本社で充電したときには、気温も高めで、他のときよりもアタマひとつ抜けた充電量だったのは事実。

一方で、寒い中でほぼ同じ条件で急速充電を試みた際に、バッテリーが冷えた状態と暖まった状態では明らかに充電量が違うこともわかりました。アリアにはバッテリーの温度を上昇させて急速充電時間の増加を抑えるバッテリーヒーター機能が搭載されていますが、作動すると電力が消費されて走行距離が短くなるものの、効率的に充電できることには違いなく、多くの場合は作動させたほうが賢明と言えそうです。

充電するEV車

EV車を充電する男性

充電を始めるEV車

急速充電するEV車

今回の試乗テストで行った充電回数は計8回。さまざまな条件下で充電してみたが、急速充電の30分で可能な充電量は寒い地点よりも暖かい地点のほうが明らかに多かった。

充電場所とバッテリー残量の図

充電器の違いなどもあるが、外気温の違いによってバッテリーの充電量が異なるのは明らか。横浜にある日産本社での充電量は、他に比べ数値が頭ひとつ抜けていた

インストルメントパネル

参考までに、アリアの取扱説明書にも「外気温が低く、メーター内に凍結注意アラームが表示されているときは、急速充電をする30分~1時間前にバッテリーヒーターをONにすることをおすすめします」という旨が記されている

EV車の充電状況をスマホで確認する男性

充電中の状況をスマホで確認できるほか、CO²や排出ガスを出すことなく、あらかじめ車内を遠隔操作で暖めておけるのもBEVならではの強みだ

岡本幸一郎

おかもと・こういちろう 1968年富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーのモータージャーナリストとして活動している。幅広いジャンルのクルマに数多く試乗し、電気自動車に関する造詣も深い。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

この記事はいかがでしたか?
この記事のキーワード
あなたのSNSでこの記事をシェア!
  • トップ
  • 自動車
  • 特集
  • 電気自動車(EV)は冬に弱い? 実際どうなのか、モータージャーナリスト・岡本幸一郎さんが雪国でリアル試乗!