自転車は「交通弱者」じゃない! 26年4月の自転車“青切符”導入で変わる、自転車とドライバーの関係【交通事故鑑定人が解説】
ドライバーこそ注意を! 道路交通法を知らない無法自転車から身を守るために
「自転車は交通弱者だから、事故が起きても守られる」——そういった印象を持って、自転車を利用している方もいるのではないだろうか。しかし、自転車はれっきとした軽車両として、違反の際には道路交通法が適用される。2026年4月からは、さらに改正道路交通法の施行により、16歳以上の自転車利用者に対して「青切符(交通反則通告制度)」が適用されることが決定。一時停止無視や信号無視、右側通行(逆走)など、これまで見逃されがちだった違反が、反則金の対象となる。
なぜ今、こういった措置が必要なのか。その背景には、自転車側の交通ルールの軽視や、そもそも交通ルールを知らないことによる悲劇が後を絶たない現実がある。交通事故鑑定人・熊谷宗徳氏の解説とともに、2026年からの「自転車新時代」を生き抜くための心得を紐解く。
「止まれ」を無視した70歳女性の悲劇
なぜ彼女は確認せずに飛び出したのか?
1999年10月7日の朝8時50分頃、佐賀県佐賀市の市道三差路で、自転車に乗っていた70歳の女性が乗用車にはねられ、頭を打って約2時間半後に死亡するという事故があった。
現場は信号機のない三差路で、自転車が進入してきた道路側には一時停止の標識と道路標示があった。しかし70歳の自転車の女性は、一時停止や安全確認をすることなく飛び出したという。一見すると「被害者」とみられる亡くなった女性。しかし、警察の捜査は意外な方向へ進んだという。
クルマと衝突する人身事故が発生した場合、ケガをするのは大抵が自転車側。しかし、ケガをしていても自転車側は単なる被害者ではなく、道路交通法違反の被疑者となることも
※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません
ドライバーを襲う「自転車の飛び出し」という悪夢
自転車側が「被疑者」となった理由とは
「この事故の内容を精査すれば、クルマ側の過失が小さいことがわかります」と、交通事故鑑定人の熊谷氏は解説する。
「人身事故でケガをするのは大抵自転車側ですが、たとえ自転車に乗っていた人が死亡していても、原因が自転車側の一時停止無視であれば、警察は自転車側を『道路交通法違反の被疑者』として捜査します」
信号のない交差点で、一時停止を無視して飛び出してきた自転車がクルマと衝突。自転車に乗っていた70歳の女性が死亡したものの、事故の原因の大半が自転車側にあるケースと言えるだろう。
一方で、自動車側は過失が小さくても「自動車運転死傷行為処罰法」の被疑者となるおそれがあるという。自転車側のたった一度の「確認不足」が、過失割合が低いドライバーの人生をも暗転させてしまうというのだ。
運転免許を持たない層の「交通法規への無知」
止まらないのは“悪意”ではなく“知らない”から?
なぜ自転車に乗っていた女性は、無謀な飛び出しをしたのか。熊谷氏は「交通安全教育の断絶」に注目する。
「自転車に乗っていた女性は、運転免許を持っていなかった可能性があります。免許がない人は、交通ルールを体系的に学ぶ機会がほとんどありません。『止まれ』の標識がどれほどの重みを持つのか、止まらないことがどれほど恐ろしい行為なのか。それを知識として知らないまま自転車に乗っているのです」と熊谷氏は指摘する。
自転車は、道路交通法上は軽車両にあたり、ルールの多くが自動車と同等に適用される。しかし「日本の現状では、自転車を歩行者の延長として『自身はクルマより優先されるべき交通弱者である』と考えている人も多く存在します」(熊谷氏)
自転車は「免許なしで乗れる車両」であるからこそ、一般的な交通強者であるドライバーとの間に大きな「常識の乖離」が生まれているという。
法改正で、自転車の車道飛び出しが増加⁉
自転車ユーザーへの道路交通法周知を
この状況を打破すべく、2025年12月には警察庁が、未就学児童から高齢者までの自転車安全教育に関する初のガイドライン
を発表。「運転免許を持たずに自転車に乗る人にも道路交通法を周知させる必要があります」と熊谷氏は説明する。
さらに自転車を取り巻く状況は、2026年春から大きく変化する。16歳以上を対象に、一時停止無視(指定場所一時不停止等)や道路の右側を通行する逆走(通行区分違反)などに交通反則通告制度、通称青切符が導入される。これによって警察による自転車への取り締まりの強化が予想されるが、
「現状では、一般的な自転車の利用者は、道路交通法に関する理解が浅いと言えるでしょう。たとえば、自転車は、一律に“歩道を走ってはダメ”ではなく、『13歳未満の子供、70歳以上の高齢者、身体の不自由な方が運転する場合』や『道路工事や駐車車両等で車道左側通行が難しい場合』には、例外的に歩道走行が許されます。そういった細部までを理解せずに“警察官がいるから、急いで歩道から車道に出なくては!”と、急に車道に飛び出す自転車が出てくるケースが考えられるなど、新たな混乱も予想されます」と熊谷氏は憂慮する。
「普通自転車歩道通行可」の標識がある歩道は、自転車が例外的に通行できるが、歩行者優先が原則。自転車は車道寄りを徐行する必要がある
※撮影場所は記事内容と関係ありません
ドライバーが自分を守るための
「3つの心得」
・「自転車は交通ルールを知らない」という前提で距離を取ろう
「クルマの運転をする際には、車道のみならず歩道を走る自転車にも注意を。車道の左側を走行している自転車が、後方を確認せずフラッとクルマの前に出てきた、という事故のケースも多く、そもそも自転車に乗っている人は、“交通ルールを知らないで走っている”と見るべきかもしれません。
またクルマのドライバーは、改正道交法の施行により自転車の右側を通行する際に適切な間隔を取ること、適切な感覚が取れない場合は原則または徐行することが義務付けられます。「自転車は予測不能な動きをするかもしれない」と認識し、特に住宅街などでは徐行を心掛け、自転車とは距離を取ることが重要です」
・自転車は車両。ドラレコで事故状況の記録を
「自転車は軽車両なので、クルマと同じ道路交通法を守る義務があります。クルマとの事故が発生したときに、自転車側の過失が大きければ、被害者ではなく、被疑者として捜査の対象になります。ドライブレコーダーなどで自転車側の違反を記録することは、自動車側にとって自分を守るための盾になります」
・施行直後の混乱期はより危険!
「ルール変更が浸透するまでの間、現場の混乱が予想されます。特に高齢者や子供の動きには、これまで以上にマージン(余裕)を設けて対応してください。未就学児童や高齢者など、運転免許や交通安全教育から遠い人たちに、いかに道路交通法を周知してゆくかは大きな課題となるでしょう」
自衛こそが、理不尽な事故を防ぐ唯一の手段
自転車とは間隔を空けた「防衛運転」を
自転車は免許のいらない便利な乗り物だが、その実態は「教育なき車両」だ。2026年の法改正によって、自転車にも実効性のある取り締まりが強化されることとなったが、自転車との事故は、一度起こればドライバーの受けるダメージも甚大。
「相手はルールを守らないかもしれない」。 この冷静な視点を持つことこそが、無謀な自転車乗員の命、そしてあなた自身を救うことにつながる。
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熊谷宗徳
くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。
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