危険運転事故のイメージ
文=鈴木ケンイチ(日本自動車ジャーナリスト協会会員) ※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

イライラしたドライバーが引き起こした悲劇…危険運転、あおり運転に関わらないために

交通事故鑑定人、熊谷宗徳はこう見た
熊谷宗徳

自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷罪)を原因とする交通事故が2019年3月、静岡県沼津市で発生した。「いらだつ感情を抑えられなかった」という運転手が、曲がり切れないほどの速度で交差点に進入して人身事故を発生させている。危険運転致死傷は、いわゆる「あおり運転」で人身事故を起こした場合に適用される違反だ。もしも、自分が、そのような危険な運転に直面したときはどうすればいいのか? 

元千葉県警察の捜査官で、現在は「交通事故調査解析事務所」の代表を務める交通事故鑑定人・熊谷宗徳氏が、事故防止策や回避法を解説する。

目次

「いらだつ感情を抑えられなかった」
交差点を曲がり切れずにクルマ3台と衝突

同市内の交差点で、普通乗用車が時速約55㎞で左折。曲がり切れずに赤信号で停車していた普通乗用車3台に衝突し、2人にケガを負わせた。裁判において、事故を起こした運転手は「(自分の)前のクルマが、(走行中に)ブレーキをかけた。いらだつ感情を抑えられなかった」のが、速度を上げた理由と述べている。
「道路交通法で交差点の右左折時は徐行することとなっておりますが、この事故では時速約55㎞と、大幅に超過した速度を出しており、非常に危険な運転であったことは確実です」と熊谷氏は解説する。そうした危険な運転に適応されるのが「危険運転致死傷罪」だ。

「危険運転致死傷罪とは、自動車の危険な運転によって人を死傷させた際に適用されるもの。たとえ人身事故が怒らなくても、あおり運転そのものも妨害運転罪となり、違反点数25点で、免許取り消しの上、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処されます。危険運転の延長上で人を負傷させた場合は、15年以下の拘禁刑となり、人を死亡させた場合には1年以上20年以下の拘禁刑に処されます」と熊谷氏は説明する。同じ死亡事故でも過失の拘禁刑は最長7年であることを考えると、危険運転致死傷罪がいかに重い罪なのかがわかるだろう。

衝突事故のイメージ

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

危険運転が生まれる心理的要因
「被害者感情」と「鉄のヨロイ」

「運転中に、イラッとしたことは、ドライバーであれば誰もがあることでしょう。私自身も、運転中に割り込みをされて、ヒヤッとしたり、イラッとしたことがあります。そして、そうしたことは、運転を続けていれば必ず起こることです。そうした誰もが遭遇する状況で、人によっては受け流せたり、逆に今回のケースのように感情の高ぶりを抑えられず、あおり運転に発展してしまうことがあります。クルマを運転している以上、誰もが、あおり運転の被害者にも加害者にもなりえます」と熊谷氏は警告する。

「あおり運転に発展した理由で、最も多いのが『進行の邪魔をされた』。さらに『割り込みされた』『抜かされた』『クラクションを鳴らされた』『車間距離を詰められた』が続きます。それらはすべて『~された』という、要するに被害者感情が、歪んだ怒りとしてあおり運転に発展しているケースが多いということです」と熊谷氏。

また、それ以外にも、あおり運転になるのが『鉄のヨロイ』という心理だという。
「クルマという鉄の塊に乗っていることで、鉄のヨロイを身にまとっている気分になってしまうんですね。そのため気が大きくなって、普段ならしないような行動に出てしまいます。わかっていない連中に“教えてやる” “注意してやる”と、あおり運転を行ってしまうのです」

「あおり運転」「危険運転」に遭遇したらどうするべきか

「もしも走行中に、周囲に危険な走行をしているドライバーがいる、もしくは自分があおられている、と思ったら、そのクルマとは関わらないことが重要です。相手よりも先に進まず、停車できそうな状況でしたら駐車場や路肩など安全な場所に停車し、距離を取りましょう。停車中はドアをロックして窓を閉めます。万が一、相手がクルマから降りて詰め寄ってきたら、車内から警察に連絡を」と熊谷氏はアドバイスする。

ドライブレコーダーも万が一の際の記録として効果的だ。特に保険関係では、ドライブレコーダーが証拠に使われるので、前方だけでなく、後方など360度を撮影できるものが望ましいという。

「一方で、自分がイラっとしたときは、すぐに反応せずに、“ちょっと待てよ”と、一呼吸おきましょう。それで自分が冷静になることができます。相手の運転に問題があれば、“相手の運転が下手なんだ”という考え方で割り切りましょう。間違っても、“自分が被害者だから、教えてやる! 注意してやる!”といった感情を持ち、クラクションやあおり行動に出ないように。加害者となってしまいます」

ドラレコを付けているというアピールがあおり運転の抑止力にも

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

交通事故鑑定人・熊谷宗徳の見解

・危険運転、あおり運転への対処

乱暴な運転をするドライバーとは「距離を取ることが重要です」と熊谷氏。先に行かせて距離を取ろう。それでも絡まれたときは、車外には出ずにドアをロックして窓を閉め、車内から警察に通報を。ドライブレコーダーの存在も抑止力になる。

・運転中にイラッとしたときの対処

「運転中は常に、心の余裕を持つことが大切です」と熊谷氏が言うように、運転中にいら立ちを覚える経験は誰でもある。そこで「自分は被害者だから、反撃してもよい」と考えると、自分が加害者になってしまう。

人は感情の生き物だからこそ、思いやりとマナーを

「運転手同士のトラブルというのは、自分が警察官であった数十年前にも、非常に数多くありました。その頃と比べると、今のほうが数は減っていますが、それでもなくなったわけではありません」と熊谷氏。

「結局のところ、クルマ同士とはいえ、運転は人と人の行動です。相手も自分も人であることを意識して、道を譲ってもらえたら会釈などで感謝の意を示すなど、思いやりとマナーを大切にしましょう。そうすることで、互いに感情的な余裕が生まれます」と熊谷氏は、アドバイスした。

熊谷宗徳

くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。

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