交差点のイメージ
文=鈴木ケンイチ(日本自動車ジャーナリスト協会会員) ※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

歩行者が巻き込まれた交差点での右直事故…ドライバーの対策、歩行者の心構え

交通事故鑑定人、熊谷宗徳はこう見た
熊谷宗徳

元千葉県警察の捜査官で、現在は「交通事故調査解析事務所」の代表を務める交通事故鑑定人・熊谷宗徳氏が、注目された交通事故についてその背景や事故防止策について解説する連載の第3回。
2019年5月に、散歩中の保育園児らが交差点での交通事故に巻き込まれる死傷事件が発生した。事故から6年が過ぎても、事故が発生した5月8日には、事故現場に花やお菓子が供えられている。そんな痛ましい事故を繰り返さないために、事故防止の対策を学ぼう。

目次

直進車が右折車と衝突した後、歩道に突っ込む

滋賀県大津市の県道で2019年5月8日、県道の交差点を右折しようとしていたクルマが直進車に衝突する事故が発生した。事故のはずみで、直進車は高い速度を維持したまま歩道で信号待ちをしていた保育園児らに突っ込んだ。その結果、園児2人が死亡し、保育士を含む14人が重軽傷を負うことになったのだ。

右折車と直進車の事故は非常に多く、ぶつかったはずみでクルマが歩道に突っ込むケースがある

「交差点における事故で、右折車と直進車が衝突するものは、いわゆる“右直事故”と呼ばれており、非常に多く発生しています。右折車は “直進車が来る前に曲がれるだろう”と判断し、直進車は“右折車は、待ってくれるだろう”と考えるために事故が起こります。“相手がやってくれるだろう”と思う、甘い判断が事故の理由とも言えます。また、信号の変わり目に起きやすいのも特徴でしょう。さらに、クルマ同士ではなく、右折するクルマと直進するバイクが衝突するというケースも多数あります」と熊谷氏は説明する。

ここで注意しなくてはならないのが、右折車と直進車が衝突した結果、直進車が道路から歩道に押し出されるケースがあることだ。「直進車はスピードが乗っており、その勢いのまま左側の歩道に押し出され、歩行者が巻き込まれると非常に大きな事故となります。死傷事件になることがほとんどです。もちろん事故は起こってはいけないことですが、歩行者にとっても、右直事故は他人事ではなく、自分たちも関係する危険性があることを理解していただきたいと思います」と熊谷氏は指摘する。

右折のイメージ

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

交通事故鑑定人・熊谷宗徳の見解

・右直事故を起こさないために

右折しようというクルマと直進車が交差点内でぶつかるのは、両車のドライバーの判断の間違いが原因となる。一般的に、「右折車は直進車の進行妨害をしてはならない」(道路交通法第37条)とされているため、右折側の過失が大きい場合が多い。右折するドライバーの対策としては、十分な距離がなければ直進車が通り過ぎるまで待つことが大切。右折先の横断歩道に歩行者がいる場合にも、対向車に気を取られて横断歩行者に気づかなかったケースがあるため、対向車と右折先の安全確認を特に意識したい。一方で、直進ドライバーの対策としては、交差点に進入する際に、一度アクセルから足を離す。このことで、万が一の際にはすぐにブレーキを踏む準備ができるようになるはずだ。
また、右直事故は信号の変わり際に多いのも特徴だ。そのため「右折側のドライバーは、ゆとりをもって直進車を待つことが重要です。直進側のドライバーは、黄色信号に変わったら急ブレーキを踏まなければ止まれないような場合でない限り、停止すること。特に対向右折車が待機している場合には、ギリギリに進入すると、これが右直事故の原因になってしまう」と熊谷氏は説明する。特に直進しているのがバイクの場合、車体が小さいことから速度や距離を右折車ドライバーが誤認しやすく、「まだ遠くにいるから曲がれるだろう」と誤った判断で衝突に至るケースが散見される。特に、夕暮れや夜間など見通しが悪い状況の右折の際には「いけるだろう」という安易な判断を避け、曲がれるかどうか迷う際は、直進車が通り過ぎるのを待ってから右折を行う心がけを。対向直進車がしっかりと途切れたのを確認したうえで、余裕をもって曲がるようにしよう。

・信号を待つときにも歩行者には注意が必要

右直事故によって直進車が押し出された場合、歩道にいる歩行者が事故に巻き込まれる可能性は非常に高い。そのため「歩行者も、交通事故に巻き込まれるかもしれないと、常に意識していることが大切です。“歩道にいれば大丈夫”というのはある意味では過信となります」と熊谷氏と忠告する。具体的には「信号待ちのときに、スマートフォンを見たまま、うつむいていることは危険です。自転車に乗っていれば、自転車にまたがったまま信号を待つのではなく、衝突したクルマが向かってきても退避できるように降りて待ちましょう。車道から離れた位置に立ち、周囲の道路状況を把握していれば、万が一、交通事故が発生したときに、回避することができます」とアドバイスする。

・「事故に巻き込まれにくい場所」を把握する

もうひとつ重要なのが“歩行者が信号を待つ位置”であるという。「歩道と車道の間に、鉄製の車止めがあれば安全度が高まります。一方、高さ15㎝程度の縁石は、突っ込んできたクルマを止めることはできません。しっかりとした車止めがない場合、歩道が広くても、突っ込んできたクルマから身を守ることは難しかったりするのです」と熊谷氏。

交差点に立つ位置で歩行者の危険度が変わってくる

※図はイメージです。

また、右直事故で巻き込まれやすい場所があるのを理解するもの重要だという。

「右直事故の場合、衝突後に直進車が押し出されてゆくのは、進行方向の先の左側にある歩道(1)の位置。そのため、交差点の進行方向の手前側にある歩道(2)に直進車が突っ込んでくる危険性は低いと言えるでしょう。クルマの交通量の多い交差点等を集団で(1)から(4)へ横断する必要がある場合などは、右直事故によって巻き込まる危険性のある位置を加味したうえでルートを勘案すると、より安心することができるかと思います」

意識するだけで事故に巻き込まれる危険性は大幅に下がる

ドライバーやライダーが事故を起こさないのは大前提だが、交差点の交通事故に歩行者が巻き込まれると、大きな被害を被ってしまうことがある。それを防ぐには、事故が起こる危険性を意識することが重要だ。

また、歩道上でも信号待ちをする場所を変えれば、確実に事故被害の危険性を下げることができる。交差点での信号待ちは、スマートフォンから目を離して、周囲に広く注意を配ろう。自転車であれば、自転車から降りて、いつでも動けるように。そして、信号待ちするときは、上図の(1)や(3)のように、衝突後のクルマが突っ込んでくる場所はなるべく避けて待つようにしよう。ほんの少しの注意と行動で、大きな事故に巻き込まれることが防げるのだ。

熊谷宗徳

くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。

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