事故ファイル

危険! 重大事故にもつながる、あおり運転

2024.04.01

文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

2024.04.01

文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2017年8・9月合併号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

たとえ急いでいたり割り込まれたりしても、あおり運転をしてはならない。一方、あおり行為を受けても冷静な対処が重要だ。過去の事故事例から、事故の予防法を探る。

あおり運転の結末は、5台がからむ多重事故に

2016年11月上旬のある朝、愛知県内の東名高速上り線で1件の事故が発生した。片側2車線の追越車線上で起きた、この多重衝突事故のきっかけは、現在社会問題化している〝あおり運転〟だった。

愛知県警高速隊の調べによれば、追越車線を走行していた普通乗用車のハンドルを握っていた男子大学生が、前を走る軽自動車にあおり運転を始めたのは、事故現場の4㎞ほど手前からだった。

あおり運転とは、一般的に前方を走行する車両に対して異常に接近し、もっと速く走るように挑発したり、進路を譲るように強要したりする、悪質かつ危険な行為である。高速道路などを走っているときに、後方からものすごいスピードで迫ってきた車両が背後にピタリと接近し、パッシングしてきたり、クラクションを鳴らしてきたりといった経験を持つドライバーもいることだろう。

この事故では、執拗に接近したり蛇行運転したりする普通乗用車に対し、軽自動車のハンドルを握る50歳代の男性は、それに構わず追越車線を走り続けたという。

自らの行為が無視されていることにイライラを募らせたのか、普通乗用車のドライバーは左側から軽自動車を追い抜こうと進路を変えて速度を上げた。すると、軽自動車はその動きに合わせるかのように、速度を上げる。両車の距離が広がらないまま、普通乗用車の目前には、タンクローリーの後ろ姿が迫った。軽自動車は速度を落とし、そのタンクローリーと並走し始めた。

軽自動車とタンクローリーに行く手を阻まれた普通乗用車のドライバーは、想定外の行動に打って出た。高速バス停留所の手前に設置された減速車線とゼブラゾーンに入り、そこから強引に2台を追い抜いたのだ。軽自動車とタンクローリーの前に出た普通乗用車は、そのまま追越車線内へ進み、軽自動車の直前を走行。その後、軽自動車の直前で急ブレーキを踏んだ。目前に割り込まれ、急ブレーキを踏まれてはどんな対応も間に合わず、軽自動車は普通乗用車に追突。さらに後続のワンボックス車3台も巻き込まれ、次々に衝突した。あおり運転がきっかけとなった追突事故は、合わせて5台が関係する多重衝突事故に発展したのである。

「相手が軽自動車なら追突されてもダメージは少ないとでも思ったのかもしれませんが、高速道路上での不必要な急ブレーキ、急減速は、命にもかかわる危険な行為。5台が絡む多重衝突で、横転する車両が出るなど物損被害が甚大な中、死傷者がゼロで済んだことは、奇跡としか言いようがありません。普通乗用車のドライバーが行った不必要な急減速を死傷につながる悪質な行為(有形力の行使)と判断し、今年2月、刑法の『暴行』容疑で逮捕しました」(愛知県警高速隊・服部孝文警部)

あおり行為を受けたら、挑発には乗らないこと

2017年1月、警察庁は、あおり運転の取り締まり強化を全国の警察に通達。たとえ事故に至らなくとも、車の運転をすることが著しく交通に危険を生じさせるおそれがある運転者を〝危険性帯有者〟と規定し、交通違反による点数の累積がなくても最長180日間の免許停止処分を行うなど、厳正に処分している。
ヘリコプターを使った、上空からの取り締まりも始まっているが、導入はまだ愛知県警などいくつかの県に限られている。やはり、個々のドライバーによる対応が重要となる。あおり運転者の挑発行為に乗ってしまうのは、今回の事故からも明らかなように、自ら危険に飛び込むようなものでもある。

実践女子大学の松浦常夫教授(交通心理学)は、あおり運転の被害に遭わないためには、常に寛大な気持ちで対処することが肝要だという。

「あおり運転は、それを行った側が悪いのはもちろんです。しかし、道路上にはいろいろな人がいて、何が起きてもおかしくないのだと考え、常に寛大な気持ちでハンドルを握ることが、結果として自分の身を守ることにつながります」(松浦教授)

あおり行為を受けたら、絶対に挑発には乗らず、追越車線を走行中であれば、左側の車線へ移動するなどして、あおる車とは関わらないようにすべきと、愛知県警高速隊の薮上篤史警部補は忠告する。

「それでもなお、あおり運転がやまない場合は、最寄りのサービスエリアなどの安全な場所に停止し、直ちに110番通報すること。また、ドアをロックして窓を閉め、警察官が来るまで車から出ず、相手と対峙しないことも大切です」(薮上警部補)

一方、追越車線をずっと走行し続けるのは通行帯違反であることも忘れてはならない。そして、互いに思いやり・譲り合うことを忘れないことや、前車が急停止しても、追突を防げるだけの速度と車間距離を保つことも大切だ。

今回の事故では、軽自動車の後ろに1台のワンボックス車がいた。その車は適切な車間距離を取っていたため、事故が起こった直後に左側へ進路変更し、多重衝突に巻き込まれずに済んだという。

PAへ移動する車

あおり行為を受けたときは、SA・PAなど安全に停車できる場所に退避し、警察に通報すること。あおり行為を受けたら、左の車線に移って道を譲るなど関わらないようにする

あおり運転は違反。最大で懲役5年の刑に処せられることも! あおり運転をしない・させない方法はこちらから

まとめ

路上では、何が起きてもおかしくないのだと考え、常に寛大な気持ちでハンドルを握ること。

この記事のキーワード
この記事をシェア

この記事はいかがでしたか?

関連する記事Related Articles