落石のイメージ
※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

山間部は要注意! 落石による事故

山道を走る際、時折見かける「落石注意」の標識。この標識があったら、上から落ちてくる石だけでなく、路上に落ちている石にも注意が必要だ。

過去の落石事故の事例から、事故の予防法を探る。

目次
  • 「JAF Mate」2019年5月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

道路に落ちていた約40㎝の石が事故の原因に

黄色い菱形の警戒標識は、路上で警戒すべき点をドライバーに知らせ、注意を促すものである。しかし、警戒標識の中でも、ドライバーに軽視、あるいは無視されがちなのは「落石注意」の標識かもしれない。

2017年春のある雨の夜、埼玉県秩父市内の県道を1台の軽自動車が走行していた。高校を卒業して間もない男性4人を乗せた軽自動車は、昼夜を問わず交通量が少ない、片側1車線の山道を走行していた。ヘッドライトに導かれるように山道を進み、緩やかに下る直線区間に入った瞬間、事故は起こった。

まっすぐに延びる道を走行していた軽自動車が、橋の数十m手前で、突然、その車首を斜め右前方へと向けた。黄色のセンターラインを踏み越え、対向車線内へ進入した軽自動車は、車道と歩道を分離する高さ25㎝の縁石を乗り越える。縁石で跳ね上がった軽自動車は、歩道沿いに設置された金属製フェンスに突っ込んだ後、フェンスを突き破り、約15m下の崖下に転落。車両は大破し、胸部を強打したドライバーは死亡し、3人の同乗者は重軽傷を負った。

この事故の発端は、車道上に落ちていたひとつの大きな石だった。埼玉県警の調べによると、路上に落ちていた石は、縦横約40㎝、厚さ約20㎝だったという。同乗者との会話に夢中になっていたのか、軽自動車のドライバーらは、路上の落石の存在に気づかなかったという。

「道路照明灯も設置された直線区間でしたので、しっかり前を見て運転していれば、ヘッドライトのあかりだけでも石を見落とすことはなかったと思われますが、完全に見落としてしまったようです」(埼玉県警交通捜査課・小久保和浩次席)

降雨による路面の見えにくさも影響したのかもしれない。落石に衝突した瞬間、運転席のエアバッグが展開。思いもよらぬ衝撃に加え、エアバッグに前方の視界を奪われた若葉マークのドライバーが、パニックに陥ったことは想像に難くない。

「衝突の衝撃を感じた時点で、ブレーキを踏んでいれば、単なる物損事故で済んだかもしれませんが、パニックになったと思われるドライバーは、逆に、アクセルペダルを踏み込んでしまったのではないかと推測されます」(小久保次席)

落石は、いつでもどこでも起こりうる

今回の事故現場には、落石防護柵が整備されており、「落石注意」の警戒標識の設置はなく、過去に落石による事故が起きたこともなかった。県道を管理する埼玉県の県土整備部道路環境課の防災担当者によれば、山の所有者が山林の管理で出入りするために、落石防護柵の一部を意図的に開けてあったが、そこから石が落ちたと推測されるという。

「県内での落石は、集中豪雨や地震など自然災害に起因するもののほか、樹木の根が伸びる、鹿や猪などが蹴落とす、などが考えられますが、今回はどこからなぜ落ちたかはわかりませんでした。県道で落石による死亡事故は、これまでなかったのですが……」(防災担当・永田亘主査)

事故を受けて、埼玉県は緊急点検を行い、県内で確認された同様の隙間97か所について、約3か月で応急処置を施した。しかし、国土の約7割が森林の国内には、同様の隙間が数多く存在するはずだ。柵が破損していたり、柵が設置されていないところもあるだろう。今は落石のおそれがなくとも、地震や集中豪雨、雪解けなどにより、落石はいつ起きるかわからない。落石注意の警戒標識を軽視、無視しないことは当然だが、山間部の道路を走るときは常に落石に対する警戒を怠らず、注意深い運転を心掛けることが肝要だ。

長雨や豪雨の後は山道の運転を避けて

「山間部では、石が落ちているかもしれないと常に頭に入れて運転し、前方に何か落ちていることに気づいたら、速やかに減速すること。速度を落としさえすれば、近づいて大きな石だったと気が付いても、急ブレーキや急ハンドルなど危険な操作をすることなく、安全に避けることができます。また、集中豪雨などの予報がある場合は山間部の通行を控え、晴天でも前日までに長雨や豪雨が降っていたら、同様に通行を控えるのがベストです」(埼玉県警交通総務課・池山良之次席)

もし、落石を発見したら、安全な場所まで移動し、道路緊急ダイヤル(#9910)または110番へ通報を。

落石防護柵のイメージ

防護柵には隙間があることもある

落石注意の標識

落石注意の標識があったら、路上に石が落ちていることにも注意すること

まとめ

山間部の道路では、石が落ちている可能性を常に意識し、何かが落ちていても対応できる安全な速度で通行しよう。

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