電動キックボードが前方を走る姿
写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
※「JAF Mate」2024年冬号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。
文=山岸朋央

前方の電動キックボードがいきなり転倒! 転倒しやすいのはなぜか?

2023年7月、道路交通法の改正により『特定小型原動機付自転車』が新設され、より身近な存在になった電動キックボード。16歳以上が運転免許なしで乗ることができ、ヘルメット着用も努力義務、さらに条件付きで歩道走行も可能となった。街中で風を切って走るその姿を見かけ、公道を利用する新たな仲間の出現に、新たな悲劇が生まれるのではと、不安に駆られた人も少なくないのではないか。その不安は、決して間違いではない。過去の電動キックボードの事故事例から、事故の予防法を探る。

目次

車線変更した直後に電動キックボードが…

2023年8月下旬のある晴れた日の昼前、北関東の都市部を縦断する片側2車線の道を、40歳代半ばの男性・Aさんが普通乗用車で南進していた。時速30㎞前後で歩道寄りの車線を走っていたAさんは、数十m先に迫った交差点が赤信号だったため、右足をアクセルペダルからブレーキペダルに踏み替えた。徐々に速度を落とす車。その左脇を、姿勢良く立った半袖のYシャツ姿の若者が、スーッと流れるように追い抜いていく。驚きの表情で思わず二度見するAさん。

「あっ、これが電動キックボードか。かなりスピードが出るんだな。自転車より速いかも」

赤信号を目の前に、一瞬、速度を緩めた電動キックボードだったが、信号が青に変わるや否や、速度を増しつつ交差点内を通過した後、車道の左端を真っすぐに進む。その後ろ姿を見つつ、センターライン寄りの車線へと移るAさん。その直後、突然、何かにつまずいたかのように転倒する電動キックボード。右肩からアスファルトへ飛び込むように倒れ込む若者。事故は起きた。

目前で発生した電動キックボードの単独事故に驚きつつも、Aさんは速やかに車道の左端へと停車し、若者のもとへと駆け寄った。道路上に座り込んだ若者は、事故に呆然としつつも、目立った外傷はなく意識もはっきりしていたため、ホッと胸をなでおろすAさん。

「若者は柔道経験者で、身体が勝手に反応して受け身をとっていたと語り、擦り傷程度で済んだようです。彼曰く、車道上にできた工事跡のアスファルトの凹みに前輪が取られたようで、アッと思う間もなく転倒していたとか。何となくキックボードの近くを走るのは危ないかもと嫌な感じがしたので、車線を右に変更していたのが幸いしました。もしキックボードと同じ車線をそのまま走り続けていたら、転倒した若者を避け切れずに轢いてしまっていたかもしれませんからね……」(Aさん)

転倒した電動キックボード利用者を後続車が轢いてしまった場合、死亡事故へと発展してしまう確率は高い。ドライバーは、たまたまと謙遜するAさんの今回の対応を聞き流すことなく、よく覚えておくことが肝要だ。

転倒しやすい乗り物と知り、距離をとろう

警察庁の調べによると、電動キックボードに関連する交通事故件数は、令和2年から5年1月までの3年余りで合計76件(うち死者1人、負傷者78人)。これを相手当事者別で見た場合、最多が「四輪」の31件(41%)で、「自転車」の14件(18%)、「歩行者」の8件(11%)、「二輪車」の3件(4%)と続くが、実は今回と同様の「単独事故」が20件(26%)と2番目に多かった。しかも、今回の法改正後の令和5年7月と8月の2か月間、警察庁に報告のあった特定小型原動機付自転車が第1当事者または第2当事者となった人身事故件数17件(うち死者0人、負傷者17人)の相手当事者別は、7月、8月ともに最多は「単独事故」で、それぞれ4件、3件を記録している。

元オートバイロードレース国際A級ライダーでもある大阪国際大学人間科学部人間健康科学科の山口直範教授(交通心理学)は、「電動キックボードは非常に転倒しやすい乗り物」だと警告する。

「法改正の直後、電動キックボードに試乗する機会があり、いろいろと試してみたのですが、まず感じたのは、二輪のバイクや自転車と比べ非常に転倒しやすいということ。タイヤが小さくサスペンションもないので、バイクや自転車では気が付かないようなアスファルトの割れ目や補修跡などのちょっとした段差でも大きな衝撃がダイレクトに身体へと伝わりますし、当然ハンドルも容易に取られてしまう。歩道と車道の境目の2㎝ほどの段差で、自転車でも転倒する事例が散見されますが、キックボードはより容易に転倒してしまいます。車道の左側端を走るように決められていますが、路肩にはアスファルトとコンクリートの継ぎ目や排水溝の蓋があったり、排水の関係で外側へ傾いていたりと、そもそもキックボードにとって、安全な走行に適した場所ではありません」(山口教授)
また、電動キックボードは幅が狭く不安定な乗り物にもかかわらず、バイクや自転車のように跨(また)がらずに立ったまま運転するので、転倒時は上半身から突っ込むように倒れるのは当然のこと。ヘルメット着用は努力義務だが、必須であることは間違いないという。

「電動キックボード利用者は免許も要らないので、歩行者の延長線上の感覚で、手軽なものと思っているのかも。歩行者との事故で『ぶつかっていないから』と立ち去ってしまうケースが見られるのも、そもそも車両を運転しているという意識じゃないからなのかもしれません」(山口教授)

交通法規に従った利用が求められているにもかかわらず、免許を持たず意識が低い利用者もいるとなれば、事故が起きるのは当然だろう。ドライバー側は電動キックボードの危険性を知り、事故を未然に防ぐ運転を身に付けることが肝要だという。

「転びやすい乗り物であり、いつ転倒しても不思議ではないという認識を持っておくこと。見つけたら、速やかに何が起きても対応できる距離をとりましょう」(山口教授)

ドライバーは、電動キックボードの特徴を知ったうえで、事故当時者にならない努力をしたほうがよいだろう。

キックボードの車輪と段差

自転車であれば難なく乗り越えられる小さな段差でも、タイヤホイールの径が小さい電動キックボードだとハンドルが取られやすく、転倒する危険性がある。

まとめ

ドライバーは電動キックボードを不安定な乗り物であることを理解し、その姿を見かけたら距離をとろう。電動キックボードの利用者は、ヘルメットを着用し路面状況に注意すること。

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