行楽地を走るイメージ
※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません
文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

バイク事故は秋の行楽地で多い! それはなぜか?

バイクのツーリングが快適になる秋。だが、この時期は行楽地でのバイク事故が増えるという。なぜ秋の行楽地でバイク事故が増えるのか? 過去の事故事例から、事故の予防法を探る。

目次
  • 「JAF Mate」2021年10月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

快適な気候の秋。ツーリングに出かけた先で…

夏の猛暑や、厳しい残暑の終わりを心待ちにしている人は多いだろう。しかし、過ごしやすい季節である秋に多発する事故がある。

昨年10月下旬のある晴れた日の午後、群馬県南部を3台のバイクが連なって走っていた。排気量1,000㏄の大型バイクや250㏄の普通バイクなどに跨る20歳前後の男性ライダー3人は、県内の同じ専門学校に通う友人同士。この日は学校が予定よりも早く終わったため、秋の晴天という絶好のチャンスを逃す手はないと、ツーリングへ繰り出した。

沿道は紅葉のベストシーズンで、目前に広がる景色は最高だが、日が暮れた県道沿いには、道路照明灯や商業施設はほとんどなく、山道を走るライダーの目に映るのはヘッドライトが照らす路面だけ。しかし、ライダーにとって最も過ごしやすい季節でもあり、気の置けない仲間と一緒に走るツーリングは楽しいものである。前後を走る車両や対向車両にほとんど会うことなく、連続するカーブを山頂付近まで軽快に上りきった後、駐車スペースが設けられた展望台で一息つく3人組。しばらく夜景を堪能した後、一番年上の男性を先頭に、目的地である榛名湖へと出発した。

「あれっ、後ろの2人がついてきていないなあ……」

バックミラーを見ながら首を傾げるリーダー役のライダー。急なカーブが連続する山道を3㎞ほど進んだところで、道路沿いの無料駐車スペースへとバイクを乗り入れた男性は、年下の2人が追いついてくるのを待った。しかし、間もなく姿を現した2人は、周囲の暗さのせいで気が付かなかったのか、待機するリーダーの目の前を素通りしてしまった。

彼らに追いつかなければと、出発の準備を始めるリーダー。数十秒後、彼の両耳が思いもよらぬ衝突音をとらえた。慌ててバイクを発進させるリーダー。向かった先には、ヘッドライト等を点灯させたままのバイク2台が横倒しになっていた。

群馬県警の調べによれば、前を走行していた普通バイクが急に減速し、Uターンでもするかのように右に車首を向けたところ、後ろを走行していた大型バイクが、その動きに対応できず、普通バイクの右側面に衝突してしまったのだという。

「腰を強打するなどした普通バイクのライダーは、出血性ショックにより亡くなり、大型バイクのライダーは右腕骨折等の重傷を負いました。なぜUターンするかのような行動を取ったのか不明ですが、大型バイクの男性は、減速したのはわかったが、前進し続けると思っていたため、衝突してしまったようです」(群馬県警交通指導課・栗原啓次席)

プロのオートバイレーサーの経歴を持つ大阪国際大学人間科学部人間健康科学科の山口直範教授(交通心理学)は「バイクは小回りが利かない乗り物であり、急に向きを変えられない。四輪車のようにハンドルを切れば曲がるというものではなく、目前の不測の事態に対処しにくい」と指摘する。

「Uターンをしたいと思ったのならば、左側にバイクを寄せて安全な場所に停車してから戻るのが基本。ツーリング中ならばなおのこと、後方の仲間を事故の危険にさらす行動は御法度です」(山口教授)

群馬県警交通企画課の調査・分析によると、バイクが関係する事故は秋に集中しているのだという。2016年から20年の過去5年間に同県内で起きたバイクが関係する事故を月別にみると、10月が最多の312件で、11月の304件、9月の296件と続く。死者数で見た場合、5月が最多の10人で、8月と11月の8人がそれに次ぐ。

「新緑や紅葉が見頃の時期に事故が多発しており、特に過ごしやすい気候の秋に集中しています。景色に気を取られた一瞬の脇見が事故の一因となっているのかもしれません。ただ、事故は山間部に限らず、平野部の市中も含めた県内全域で発生しているので、秋の過ごしやすい気候が、バイクでの外出や観光、旅行等を増やした結果、事故も比例して増えたのではと思われます」(交通企画課・木村岳史次席)

運転中は適度な緊張感も大切

秋は心休まる季節であるものの、バイクは、体はリラックスしていても、心までリラックスして乗ってはいけないと山口教授は警告する。

「運転時に緊張感を持つことは、バイクにとっては特に大切。身体がむき出しのライダーは、事故時には被害が大きくなるため、周囲を走る車両の位置関係やウインカー等をチェックするなど、常に先の先を読むことを要求されます。リラックスをしている余裕などはないし、してはいけない。事故防止には、十分な睡眠を取ることが最も大切で、出発前はもちろん、泊まりがけのツーリングでは宿泊先で十分な睡眠を取り、運転前に疲労を解消しておくことが肝要です」(山口教授)

原付を含むバイクの死傷事故のほとんどが対四輪車である。ドライバー側は、この時期はバイクの事故が増えるという特徴をよく理解しておきたい。そして、バイクの動きに注意して事故防止、被害軽減へと役立てよう。

山道のカーブの途中に駐車場の出入口があることも。見落としに注意したい

まとめ

バイク運転中は快適な時期であっても過度なリラックスは厳禁。行楽地では脇見運転などをしないよう注意する。

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