「トンネル内は凍結しない」は誤解! 冬季の運転における心構え
冬場に多発するのが、路面の凍結によるスリップ事故。凍結した路面では、ひとたびタイヤがスリップしてしまえば、体勢を立て直すことは容易ではない。事故を防ぐには、凍結しやすい場所を把握することが重要だが、凍結するはずがない、と思うような場所であっても、悲劇が起きることがある。過去の事故事例から、事故の予防法を探る。
スリップ事故は、トンネルの中で起こった
2月中旬のある晴れた日の午後、山形県内を縦断する自動車専用道路を、30歳代半ばの男性が運転する軽貨物車が北進していた。センターラインにラバーポールが設置された対面通行の道路には、道の両脇と中央線上に除雪された雪がうずたかく積まれている。しかし、歩行者や自転車は通行せず、交差点も信号もない自動車専用道路は、雪国暮らしのドライバーにとって、危険や不安を感じさせるものではなかった。
冬季は、通常の時速70㎞から50㎞へと速度規制される自動車専用道路を順調に走り続け、軽貨物車は長さ3㎞弱のトンネルに差しかかった。雪国のドライバーならば誰もが凍結に警戒するトンネルの出入口付近を、規制速度前後の速度を保ちながらトンネル内へと進んでいく軽貨物車。しかし、トンネル内に進入した軽貨物車は、30mほど進んだあたりで、突然、その車首を斜め右に向け、中央線上に設置されたラバーポールをなぎ倒しながら、対向車線へと飛び出していった。
トンネル内に衝突音が響いた。対向車線にはみ出した軽貨物車が、大型トラックと正面衝突してしまったのである。ノーブレーキで大型トラックと正面衝突した軽貨物車の被害は大きく、車両は大破し、ドライバーは頭部などを強く打って死亡。大型トラック側も右前部を中心に破損し、運転手は頸椎捻挫(けいついねんざ)などの軽傷を負った。
トンネル内部の道路が凍結路面になっていたのが原因
事故の原因は、軽貨物車を運転していた男性の運転操作ミスであることは間違いない。しかし、そのきっかけは、現場にかけつけた山形県新庄警察署の面々を驚かせた、想定外のものだった。
雪も雨も降らないはずのトンネル内の路面が、広範囲にわたって凍結していたのである。
新庄署の調べによれば、正面衝突事故が発生したのは、軽貨物車が入ったトンネルの入口から90mほど進んだあたりだったが、路面の凍結は入口から30mほど進んだところから衝突現場のあたりまで続き、車道のほとんどを覆い尽くしていたという。
「車のヘッドライトやトンネル内の照明などが反射することもなく、薄く凍ったブラックアイスバーンのような凍結路面で、見た目にはとてもわかりにくく、我々捜査員も靴底を滑らせて何度も転びそうになるほどでした。大型トラックのドライブレコーダーの映像などからの推測になりますが、軽貨物車はトンネル内に進入した後、凍結路面に気づかず速度を上げようとアクセルペダルを踏んだところ、右前輪がスリップし、ハンドルもブレーキも操作不能となって反対車線方向へと飛び出し、対向の大型トラックと正面衝突してしまったと思われます。トンネル出入口付近での路面凍結によるスリップ事故は少なくありませんが、今回のようにトンネル内部での事故、しかもこれほど広範囲な路面凍結による事故は記憶にありません」(新庄署・石井健一郎交通課長)
車道上の除雪は行き届いており、トンネルの出入口付近にはロードヒーティング(融雪装置)も施され、冬季の事故は非常に少ない道路だったという。しかし、ドライバーは、トンネル内部でも路面が凍結することがあるという現実から目をそらしてはならない。
「トンネル内は通常、外より気温は高くなりますが、気象状況や風向きなどによって、内部の気温が下がることもありえます。トンネル内に雪は降りませんが、走行車両のタイヤやボディに付着した雪が路面に落ち、それが内部に吹き込んだ強く冷たい風などによって冷やされ、凍結したものと考えられます」(新庄国道維持出張所・管理第三係長)
昨冬、山形県内ではトンネル内部での人身事故が多発。新庄国道維持出張所では、今回の事故が起きた付近に、液状凍結防止剤を自動的に散布する装置を設置したという。トンネルの出入口から数百m以上離れた路面が凍結する可能性はほとんどないというが、ゼロとは言い切れない。
路面凍結はどこであってもおかしくない、と危機意識を持って運転すること
積雪地域では、トンネルの出入口付近や橋など凍結しやすい場所に注意しつつ、路面凍結はどこに潜んでいるかわからないという危機管理意識を常に持つことが肝要だ。
「暗くて狭さを感じるトンネル内の走行は、早く抜け出したいと思うため、速度が上がる傾向があります。今回の事故でも、速度を上げてしまったことが事故につながったと考えられます。冬季は凍結と乾燥の路面が混在しており、路面状況をしっかり読むことが大切となりますので、夏場よりスピードを時速10㎞以上落とすような慎重な運転を心がけてください」(石井交通課長)
どんな環境でも、路面が凍結していれば「急」のつく動作は厳禁。凍結路面に乗ってしまったときは、余計な操作はせず、一定の速度のまま通過するのがベストだ。
冬季は、外気温を示す電光掲示板や車の温度計にも注意したい。たとえ気温が0℃を上回っていても、路面は凍結しているおそれもある。