豪雨の中、アンダーパスへ入るクルマ
文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

豪雨時、アンダーパスの冠水に注意

目次

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2019年8・9月合併号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

鉄道などの下を通るアンダーパス。豪雨時には、冠水するおそれがあることを覚えておきたい。過去の事故事例から、事故の予防法を探る。

冠水したアンダーパスには絶対に入らない

近年、台風による大雨のほか、ゲリラ豪雨と呼ばれる予測が困難な局地的集中豪雨に見舞われている日本列島。昨今の異常気象によるものなのか、夏から秋にかけて各地で起こる集中豪雨は、ドライバーにとっても他人事ではない。

2016年9月中旬の夕方、愛知県北西部の川沿いの堤防道路を、1台のワゴン車が走行していた。非常に強い勢力の台風が接近する中、家路を急ぐ60歳代の女性ドライバー。しかし、雨は時間とともに激しさを増し、ついには河川の増水のため、走り慣れた通勤路でもある堤防道路は通行止めとなった。想定外の出来事に慌てた女性ドライバーは、川沿いに広がる住宅街の中へとハンドルを切り、自宅のある西の方角へ、ひたすら走り続けた。

狭い街路を進んでいたワゴン車は、突然マンションの敷地内駐車場に進入。そのまま駐車場内を斜めに横切り、別の出入口から外へ出て、右にハンドルを切り、目の前を走る片側1車線の県道へと進入。その数秒後、事故は起きた。

ワゴン車が進入した県道は、すぐに左に大きくカーブし、その先にあったのは、鉄道の下をくぐる“アンダーパス”だった。前後に比べて道路の高さが低くなっているアンダーパスは、その構造から、雨水がたまりやすい。通常の降雨なら支障はないが、この日は、非常に強い勢力の台風の接近による豪雨が続いていた。排水能力の限界を超えた雨水が下水道からあふれ出し、濁流となってアンダーパスへと流れ込み、冠水していたのだ。

しかし、ワゴン車は速度を緩めることなく、約3mの深さまで冠水していたアンダーパスへと進入し、水没した。地元消防などが車内から女性ドライバーを救出するも、意識不明の状態で、近くの病院に搬送されたが、約12時間後に亡くなった。

県が管理するこのアンダーパス付近では、このとき1時間に54㎜の非常に激しい雨が観測されていた。

「愛知県では、アンダーパスにおける冠水事故防止のため、15㎝の冠水をセンサーで検知した場合には通行止めとしており、事故のあった日は、水没事故の1時間半前から、アンダーパスの前後にある信号交差点で通行止めの措置を取っていました」(愛知県建設局道路維持課 路政・管理グループ 藤原英智課長補佐)

アンダーパスへと続く県道をバリケードで封鎖し、監視員も立った。このとき、近づいてきた車両がUターンできるようにと、通行止めの開始地点をアンダーパスの出入口付近ではなく、出入口から数十m離れた交差点としていたのだが、ワゴン車が県道へと進出したマンション駐車場の出入口は、この通行止め区間の内側にあった。

区間内に脇道はなかったが、たった1か所だけ進入可能だった駐車場を通り、ワゴン車は悲劇が待つアンダーパスへと車首を向けてしまった。このとき、監視員がワゴン車に気づいたというが、停止の呼びかけはドライバーには届かず、さらにアンダーパスの入口に設置されていた、冠水による「通行止」などの規制を知らせる電光掲示板も修理中で、表示が出ていなかった。

事故の見取り図

防止策も万全ではない。常に危機意識を

事故後、愛知県はアンダーパス冠水事故防止策を強化。大雨警報が出た時点で、アンダーパス付近に監視員らを待機させ、速やかに通行止めなどの規制ができる態勢を整えた。

「水位が15㎝に達した時点で自動的に作動する『バルーン式仮封鎖装置』を備えたのに加え、すべての装置のメンテナンスを強化して、停電時でも稼動できる新たな電光掲示板も設置しました」(同道路維持課 維持防災グループ 小澤孝典技師)

国土交通省の調べによれば、アンダーパスは全国に3463か所(2017年4月1日現在)。このすべてに同様の措置はされておらず、ドライバー自身による、常日頃からの危機意識を持った運転が欠かせない。愛知県では、アンダーパスの区間内に冠水時の水深がわかる路面標示を施し、冠水想定マップやチラシ等を作成するなどして、注意を喚起しているが、事故を未然に防ぐためには、事前の情報収集も大切だ。
「冠水時は、水深も水の中の様子もわかりません。もし冠水に遭遇したら安易に進入せず、迂回してください」(同維持防災グループ 夏目和紀課長補佐)

車が水没してドアや窓が開かないという事態に備え、脱出用ハンマーを車内の手の届くところに常備しておくことも大切だ。そして、見通しも悪く、土砂崩れなどの危険がある大雨や集中豪雨の際は、できるだけ運転を控えることが肝要だ。

浸水の深さがわかる道路標示

アンダーパスには、浸水した水の深さの目安としてラインが引かれているところも。150cmのところまで浸水している場合、最も深いところでは1.5mになることを示している

まとめ

豪雨の際、アンダーパスは冠水しているものと考え、進入しないようにしよう。

●JAFユーザーテストでは、冠水路を走行するテストなどを実施しています。詳細はWebサイトへ。

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