駐車場をバックで出る際、歩行者との事故に注意!
前向き駐車することが多いコンビニなどの駐車場。バックでの出庫時は、特に注意しなければならない。過去の事故事例から、事故の予防法を探る。
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※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2020年6月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。
慌てて出庫することが事故の原因に
5月上旬のある晴れた日の午後、関東地方南部にある、住宅と小さな個人商店などが混在する市街地のコンビニ駐車場に、ミニバンが左折入場しようとしていた。店舗前面に設置された6台分の駐車スペースの右から2番目に空き区画を見つけた50歳代前半の男性ドライバーは、ハンドルを左に切り、そのまま前向きに車体を区画内へと滑り込ませた。
買い物を済ませ、店舗出入口へと出てきた男性ドライバーの目に、駐車待ちの車が目に入った。ちょこんと頭を下げながら慌てて運転席へ乗り込んだ男性ドライバーは、左に振り向き、駐車待ちの車両が止まっている位置と、店舗の前を走る片側1車線道路に左から来る車などがいないことを確認。右足をブレーキからアクセルへと移して、アクセルペダルを軽く踏み込みながら真後ろへとバックを始めた。
ガシャンッ!
車内に響き渡る衝突音。事故は起きた。隣にある民家の陰からコンビニ敷地内へ入場しようとしていた自転車が、バックで出場しようとしていたミニバンの右後部側面に衝突してしまったのだ。
自転車に乗っていた20歳代前半の女性は、幸いにも手足にかすり傷を負う程度で済んだが、男性ドライバーは、事故から1年近く経った今でも、コンビニに限らず、駐車場から出場する際には、事故のことを思い出さずにはいられないと言う。
「何度も利用しているコンビニなので、いつもならば敷地内をバックで転回してから道路に出ていました。しかし、あのときは敷地内に駐車待ちの車がいたこともあり、まっすぐバックをして、片側1車線道路の手前の車線内で転回しようとしたのです。そのため、左から来る車がないことを確認してからバックを始めたのですが、駐車待ち車両に対して『申し訳ない、急がなければ』という焦りがあって、急いでしまったのです。後から考えると、手前の車線を走る車のことしか考えておらず、路肩付近を走る自転車や歩行者などが近づいて来る可能性が完全に頭から抜け落ちていて、バックの際に、右後方をちらりとも確認しませんでした」
コンビニの敷地の右側には2階建ての民家が建っており、前向きに駐車していたミニバンの運転席から振り返ったときに、道路の右側から来る自転車や歩行者などの有無を視認することは難しい。バックの際は幅広く安全確認をするとともに、たとえ待っている車がいても慌てることなく、自転車側に自分の存在を気づいてもらうためにも、ゆっくりと出場しなければならなかった。
慌てることと、自分勝手な思い込みは、どちらも事故の元であり、2つが重なれば、より事故の危険度が増す。たとえ自転車が逆走してきたとしても、慌てることなく、きちんと安全確認を行い、ゆっくり出場していれば防げた事故だった。
しかし、今回のコンビニを含め、商業施設やコインパーキング、月極などの駐車場とその付近での事故は少なくない。日本損害保険協会東北支部が行った「東北6県の車両事故実態に関するモニタリング調査」(2018年1月〜12月)では、車両事故の3割近くが駐車場内で発生していると指摘されている。
愛知県警豊田署が2018年に行った調べによれば、同署管内で1か月当たり1,200件ほどある物損事故のうち、約30%が駐車場内で発生し、その約15%がコンビニの駐車場内だった。そして、コンビニ駐車場内の人身事故を見ると、前年に発生した38件のうち、バック出庫時の事故が30件を占めた。前向きで駐車することが多いコンビニ駐車場には、思わぬ危険が潜んでいるのだ。
乗車前に車の周囲を必ずチェックするのも重要
モータージャーナリストの菰田潔氏は、事故のリスクが高い前向き駐車からのバック出庫では、まず車の後ろ側をひと回りしてから乗車することが大切だと語る。
「周囲を目視で確認するのは、障害物や子供などがいないかをチェックするためです。運転席に座ったらすぐにシートベルトを着用し、エンジンをかけて発進準備。発進までに時間がかかると、せっかくの後ろ側のチェックが無意味になります。動き始める前には、横から来る歩行者や自転車、車を確認。駐車スペースから直接道路に出る場合は、特に速度の速い自転車に注意してください。自転車が歩道を走って来たり、車道を逆走していたりする場合もあるので、左右ともに遠くまで視認すること。そして直視、ドアミラー、バックモニターなどもチェックしながら、ゆっくり動き始めること。とにかく、バックはゆっくりが基本です。相手に自分の存在や行動を知らせることで、事故防止につながりますから」(菰田氏)
「ゆっくり」とは、ブレーキペダルを踏んだ状態から少しずつ緩めるようにして、歩くより遅い速度でバックするイメージだ。これならば、相手にも発見されやすく、何かあってもすぐに停止でき、踏み間違いも防げる。ただし、バックモニターの画面だけを見てバックするのは危険だ。モニターに映る範囲を把握し、ミラーや目視と併せて前後左右に幅広く安全確認をすることが肝要だ。