免許不要から一年、電動キックボードは今どうなった?のイメージイラスト
監修=金 洋国(一般社団法人 日本電動モビリティ推進協会)/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

免許不要から1年、電動キックボードは今どうなった?

渋谷で電動キックボードの実態を調査

2023年7月の道路交通法改正により、自転車と同じく運転免許がなくても乗れるようになった特定小型原動機付自転車の「電動キックボード」。それから1年が過ぎた今、レンタルできる場所も増え、利便性が高まる一方で、はたして利用者は電動キックボードの走行ルールを守っているのか? 今回、JAF Mate Online編集部が行った調査に基づき、電動キックボードの現状と、実際に走行する際の注意点を紹介する。

目次

電動キックボードにつきまとう「危険」というイメージ

アメリカ西海岸など海外で普及が始まった電動キックボードだが、ここ日本では6年ほど前に登場した。当初はそのままでは公道を走れない状態だったが、原付と同様の出力や保安設備が整備され、電動バイクとして導入されたのが普及のきっかけだ。

小型・軽量で持ち運ぶこともでき、電動走行というスタイリッシュな印象から、新しもの好きのアーリーアダプターたちの関心の的となり、市街地移動のラストワンマイルを担い始めた。一方、その高い利便性と表裏をなすように、「交通ルールの不徹底」からくる危険性が取り沙汰されるようになる。

警察で電動キックボードが関係する交通事故を把握した2020年に、年間5名の負傷者が出たという。その後2022年には負傷者数は41名に増加、そして初の死者1名が出てしまい、電動キックボードの取り締まりが一層強化されることとなる。

それと同時期、2023年7月の道路交通法改正により、電動キックボードは新たなモビリティである「特定小型原動機付自転車」(特定小型原付)とされ、当初のバイク扱いとは異なり、運転免許不要で乗れるようになった。ここから電動キックボードは急速に普及し始め、同時にこの新たなモビリティに対する世間の不安も高まっていく。

損保ジャパンが2023年10~11月に行ったアンケートでは、電動キックボードについて約8割が「危険」と回答。「歩行者と接触しそうな距離でのすれ違い」、「フラつきながら走っていた」、「2人乗り、逆走、スピードを出しすぎ」、「突然車道に出てきたり、自分が優先で歩道を走ったりしていた」等、車両を運転しているという自覚がないように感じられるという点が多く挙げられていた。

一見わかりにくい電動キックボード(特定小型原付)の走行ルールをおさらい

こうした電動キックボードに対するイメージは、電動キックボードが守るべき交通ルールの不知や、車体の見分けがつきにくいといった「わかりにくさ」にも起因しているのではないだろうか。

例として、電動キックボードの形をした車両には、新しくルールが制定された特定小型原付と、従来同様バイクとしてのルールに従う必要がある一般原付がある。

写真左が一般原付、右が特定小型原付の電動キックボード

写真左が一般原付、右が特定小型原付の電動キックボード

特定小型原付の保安基準に適合していることを示す性能等確認済シール

特定小型原付の保安基準に適合していることを示す性能等確認済シール

また、特定小型原付は時速20kmを超える速度を出すことができないとなっているが、中でも、最高速度表示灯を点滅させている間は車体の構造上、時速6kmを超える速度を出すことができないもの、といった規制内の機種については「特例特定小型原動機付自転車」といって、一定の条件下で歩道を走行できるものもある。

このように一見判別しにくい電動キックボードだが、 今回のテーマである運転免許不要の特定小型原付では、下記のようなルールを守らなければならない。

・16歳未満の者の運転の禁止
・乗車用ヘルメット着用の努力義務
・車道と歩道等の区別があるところでは車道を通行(「特例特定原付」のみ一定の条件下で歩道走行が可能)
・車道では左側端を通行
・交差点での二段階右折(矢印信号での右折不可)、など

  • 上記以外のルールもある

渋谷の明治通りで電動キックボードの実態を観察、そこには意外な結果が!

2023年7月の道路交通法改正から1年が経過した現在、はたして電動キックボードの走行実態はどのようなものなのか、交通ルールは守られているのだろうか。2024年8月上旬の平日の日中、電動キックボードの取り締まりが多いことでも知られる東京・渋谷区の明治通りで午前と午後、各2時間の調査を行った。

渋谷の明治通り周辺

今回の調査場所、渋谷の明治通り周辺

渋谷の街中の様子

電動キックボードのシェアリングも多く、すでに街の一風景といった印象

その結果は下記グラフの通り。ちなみに今回の調査はあくまで調査団員の目視によるもので、利用者の年齢確認や速度違反、飲酒の有無など、すべてのルール違反についてカウントしているわけではない。

電動キックボードの違反の有無(JAF Mate Online編集部調べ)

今回調査した電動キックボード61台中、何らかの違反があったのは26件、とくに違反がなかったのは35件(JAF Mate Online編集部調べ)

電動キックボード違反の内訳

違反の内訳は、車道の左側端以外を通行していたのが10件、信号無視が8件、歩道走行(横断歩道含む)が7件、二段階右折しなかったのが1件。ちなみに全員ヘルメットは着用していなかった(JAF Mate Online編集部調べ)

電動キックボードの走行ルール違反例

間違った車線を走行

電動キックボードの走行ルール違反例

二段階右折をしていない

電動キックボードの走行ルール違反例

集団で並走(車道の左側端を走っていない)

電動キックボードの走行ルール違反例

間違った車線を走行

日中の数時間に限ってみても、右折矢印の出ている赤信号を直進したり、信号の変わり目(全赤)で信号無視したりするなどのケースがあった。観光客風のグループで利用している集団が車道を並進しているケースもあり、電動キックボード利用者のイメージを悪化させることになるのだが、数の上でこうしたルール違反とおぼしき電動キックボードは4割程度にとどまっていた。

もちろん、この数字自体も憂慮すべきものだが、実は調査前、ほぼすべての電動キックボードがルール無視の混沌とした状態なのではないかと危惧しており、実際には約6割の電動キックボードはとくに問題なく走行していたというのは、正直言って意外な結果だった。

歩道走行はほぼ皆無!? 歩行者と電動キックボードは共存できるのか?

さらに、最も危惧していたのが、歩行者の間を縫うように歩道を走っていく電動キックボードの姿だ。今回調査した区間は歩道での自転車通行が禁止されている。つまり歩道走行が可能な特例特定小型原付であっても歩道の走行はできず、電動キックボードが歩道を走ることはルール違反となる。

電動キックボードの走行場所グラフ

今回の調査では、電動キックボード61台中、車道を走行していたのが55台、一部でも歩道を走行したのは6台(JAF Mate Online編集部調べ)

これについても上のグラフの通り、結果として9割が正しく車道を走行していて、当初のイメージとは異なる結果となった。もちろん、歩道を走っているルール違反の電動キックボードも1割見受けられた。ただ、車道の駐車車両などを避けるように短時間歩道に入るような印象で、歩行者を押しのけて走っていく傍若無人なありさまではない。

車道を走る電動キックボード

路上駐車や荷降ろしなどの車両もあり、車道左側端を走りにくい印象だ

調査地点によっては歩道の人通りが少なく、大半の自転車は歩道を走っていたのはありがちだったが、こうした場所でも歩道を走る電動キックボードは見られなかった。もしかすると自転車よりも電動キックボードのほうが、車両を運転しているというドライバー意識があるのかもしれない。

この点について、日本電動モビリティ推進協会理事の金 洋国氏は「このエリアではすでに歩行者と利用者がお互いに『電動キックボードは歩道を走ってはいけない』という共通理解があるのかもしれません。たとえば都市部で利用者が多い電動キックボードのシェアリング(レンタル)では、初めて利用する前には交通ルール等についてのテストがあり、全問正解しないと借りられません。基本的なルールは理解しているはず」

ただでさえ目立ちやすい電動キックボードで歩道を傍若無人に走ればどうなるか、歩行者からの冷たい視線や警察の取り締まりも含め、多くの人がわかっているのだろう。

歩道上のペダル付き電動バイク

歩道に関してはむしろ自転車やモペット(ペダル付き電動バイク)のほうが縦横無尽に走行しており、そのほうが危険ではないかとの印象も

すり抜けや割り込み…クルマ目線で感じる電動キックボードの「危なっかしさ」

歩行者の立場から今回の調査結果を見れば、「電動キックボードは危ない」と感じる場面には遭遇しなかった。しかし、視点を変えてクルマのドライバー目線で見たときに、電動キックボードはどう映るのだろう。

たとえば今回、交差点で電動キックボードが大型車の左側すれすれをすり抜けて走っていくケースが見受けられた。左折時の巻き込みなど、自分がクルマのドライバーから見えているかどうかの認識は低い印象だ。ほかにも急な進路変更や狭い車間への割り込みといった危なっかしい場面もあり、車道を走行している電動キックボードには一定のリスクが感じられた。

金氏は電動キックボードに乗るときの一つの注意点として、車体の小ささを挙げる。「クルマに気づかれにくく、かつ死角に入りやすいので、見落としによる事故も多くなります」と指摘する。

左折車の横をすり抜ける電動キックボード

電動キックボードの走行中は、自分からは周りがよく見えていても、周りから自分が見落とされやすい点を意識する必要がある

前後の車の間に入っていく電動キックボード

調査団員が実走した際の印象として、車体の小ささから来るハンドルのブレやすさや、タイヤが小さいことによる段差の乗り越えにくさにも注意が必要だ

また、電動キックボードは車道のどこを走ればよいのか、という点についても、いまだルールの不徹底があるようだ。金氏は、今回の調査結果におけるルール違反の現状について「おおむね同じ印象です」と話す。そのうち数が多かった車道の通行場所について、「車道の左側を通行するという原則に変わりはありません。たとえば交差点を直進するとき、複数車線の左端が左折レーンだったとしても、特定小型原付の電動キックボードはそこを通行します」と説明。

確かにルール上はその通りで、基本は左車線と頭ではわかっていても、車線が多く複雑な道路に直面すると、困惑するのも事実ではないだろうか。

「その場合、迷ったら歩道に入ってください。もちろん走行するのではなく、押して歩いてください。そうすれば歩行者扱いになりますし、交差点を通過するときも横断歩道を渡ればよいのでシンプルです」

車体が小さく軽量で幅も取らず、押し歩きが容易な電動キックボードならではのメリットだ。

歩道を押し歩く電動キックボード

今回の調査でも交差点で歩道を押し歩く姿が複数見受けられた

もはや「市民権を得た」電動キックボード、今後の望ましい姿とは?

あくまで今回の調査に限って言えば、大半の電動キックボードの走行実態について、危険な乗り物というよりも、見ていて「危なっかしい」乗り物という、イメージの問題として結論付けることもできるだろう。

ただ、やはり4割の電動キックボードが信号機や通行場所、通行方法といった守るべき交通ルールを守っておらず、自分勝手に走行していたという点は看過できない。こうした一部の利用者によるルール違反について、販売やシェアリングによって電動キックボードを普及させている側の事業者は、どのように対処するつもりなのだろう。

金氏は「やはり啓発活動しかありません。電動キックボードを体験する機会を増やし、言い続けるしかない」と言う。それはありきたりの意見にも思えるが……。

「一昔前はバイクでヘルメットをかぶらない、ノーヘルで走ることがカッコいい! などという時代がありました。今はどうでしょう。もしノーヘルで走っているバイクがいたら、ダサい、カッコ悪いと思うのではないですか? むしろ安全に配慮したウエアやギアを着用している姿のほうがカッコいい。そうした見た目のカッコよさをルールに合わせていくことが、これからの電動キックボードには必要なのです」

近年では自転車乗車時のヘルメット着用についても同じことが言えるが、利用者と周囲の双方に価値観の変化を促し、「あるべき姿」のイメージを定着させていくことが、結果的にルールの徹底につながるということなのだろう。

また、全国各地で行われる電動キックボードの体験会に参加するのも一つの方法という。「体験会は販売が目的ではありますが、利用者に直接、交通ルールや安全運転の方法を説明できる重要な機会。(電動キックボードのあるべき姿について)もっと自分事としてとらえてもらえたらいいと考えています」

電動キックボード試乗会の様子

電動キックボードを販売するSWALLOWが開催する試乗会の一コマ。「ハンドルにもたれる前傾姿勢ではなく、いわゆる体幹を意識して体の中心に重心をおくような感覚でボードの左右中央に真っすぐ立つと、安定した操作ができます」(SWALLOW・笠井氏)

2023年の法改正以降、裾野の広がりを見せているという、特定小型原付の電動キックボード。サドルに着座することで体力や体格に左右されにくい自転車型の特定小型原付も登場し、シェアリングに加え、家電量販店などで購入できる機会も増え、 乗ってみたいという人も、当初の30~50代の男性中心から、女性や高齢者にも広がっている。金氏自身も自転車の安全教室の一環として学校などに呼ばれる機会が増えていると言い、「電動キックボードは市民権を得た印象があります」

現在、価格や性能を含め、さまざまな電動キックボードが世間に出回っている。自転車と同様、免許不要の手軽で便利な乗り物という位置付けではあるが、「乗り物としての特性の違いを理解してください。そして、同じに見える電動キックボードでも、より大きなパワーを出せる(免許等が必要な)一般原付扱いの機種もあります。ルールの違いと用途を理解して、 むちゃをせず走行してほしい」

電動キックボードという新しいモビリティについて、多くの人がそのあり方とルールを正しく理解していくことが、今後の普及にとって必要不可欠だ。

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