危ない交差点のイメージイラスト
イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

追突や歩行者事故が多発する「危ない交差点」の事故原因と危険回避対策とは?

池袋六ツ又交差点と神宮前交差点で自動車ジャーナリスト菰田潔氏が解説

2024年9月に日本損害保険協会が発表した「全国交通事故多発交差点マップ」では、各都道府県の「危ない交差点」が示されている。今回、自動車ジャーナリストの菰田潔氏が、JAF Mate Online特命調査団顧問として、全国ワースト1となった東京・池袋の交差点と、東京都内ワースト2となった原宿駅近くの交差点を現地調査。そこに潜む特有の危険の原因と、交差点において安全に通行するための注意点を解説する。

目次

他人事ではない! 全国にある「危ない交差点」

「たくさんの 笑顔が走る 首都東京」。これは警視庁が2021年に募集した交通安全スローガンで最優秀作品に輝いたものだ。その言葉のとおり、今日もたくさんの人の幸せを守るべく、日々交通安全に尽力する人々がいる。この記事を読んでいるドライバーの皆さんも、その一人だろう。

しかしその一方、光と闇のように、日々交通事故という悲劇が生じていることも否めない。そしてその闇というべき事故の危険がもっとも潜んでいる場所、それが交差点だ。

日本損害保険協会(損保協会)では、交差点における事故の多さを啓発すべく、各都道府県で発生した人身事故を集計し、その件数が多い交差点を一覧にした「全国交通事故多発交差点マップ」を毎年作成、公表している。

2023年(令和5年)の全国の交通事故多発交差点ワースト5

順位 人身事故件数 都道府県 交差点名称
同率1位 19件 東京都 池袋六ツ又交差点
大阪府 長居交差点
3位 16件 大阪府 谷町9丁目交差点
4位 15件 大阪府 谷町4丁目交差点
同率5位 14件 東京都 神宮前交差点
東京都 赤羽橋交差点
愛知県 笹島交差点
愛知県 折戸交差点
大阪府 上本町6丁目交差点
大阪府 梅新東交差点
大阪府 瓜破交差点
  • 資料=日本損害保険協会「全国交通事故多発交差点マップ」(令和5年データ準拠)

これを受け今回は、全国交通事故多発交差点マップに掲載されている交差点のうち、2023年の人身事故件数19件で全国ワースト1となった東京都の「池袋六ツ又交差点」と、同じく人身事故件数14件で全国ワースト5(東京都ワースト2)となった「神宮前交差点」を調査の対象とした。10月の平日の日中、自動車ジャーナリストの菰田潔氏と現地に赴き、2つの交差点に潜む事故の危険について確認していただいた。
調査のポイントは以下のとおり。

・直進時の危険
・右左折時の危険
・信号の変わり目の危険
・歩行者や自転車の動き
・その他各調査場所の注意点
など

一見普通の交差点だが…、神宮前交差点に潜む事故のリスクとは?

菰田氏をはじめとする調査団が最初に訪れたのは、東京・渋谷区にある神宮前交差点。明治神宮の近くにあり、エリア的には「原宿」や「表参道」と呼んだほうがわかりやすいだろう。ここでまず目につくのが、とにかく人の多さだ。通勤や通学、ショッピングや遊びと、人通りが絶えることがない。国内外からの観光客とおぼしき人々も多数集まっている。

神宮前交差点の俯瞰

神宮前交差点を俯瞰(ふかん)する

神宮前交差点の人通り

神宮前交差点を行き交う人々

この神宮前交差点は、都内有数の交通量がある都道305号明治通りと都道413号表参道が交わっており、どちらも交差点付近で右折レーンが付加される片側2車線で、人通りだけでなく車両の通行も多い。しかし、形状自体はよくある十字路の交差点だ。ここのどこに全国ワースト5となる事故の危険が潜んでいるのだろう……。菰田氏が指摘するポイントは以下の8つだ。

神宮前交差点のリスク要因

・歩車分離信号ではない
・2車線が交差点で3車線になる
・明治通りは車両通行帯が黄色ではなく白色
・とにかく歩行者が多い
・自転車も多い
・右折矢印の点灯時間が短い
・車間距離が短い
・右折レーンからのUターンが可

車間距離が短いと追突の危険大。焦りの気持ちが生じやすくなる?

菰田氏がまず注目したのが車間距離の短さだ。「交差点を通過する多くの車が、前の車との距離を詰めています。安全確認についても、前の車の後ろについて進んでいるだけという印象です。これでは前方で何か起きたらブレーキが間に合いません。信号が青から赤になるまでの時間も短く、ドライバーがこの青信号のタイミングで通り抜けてしまいたいという、焦りの気持ちがうかがえる状況です」

なかには、信号が全赤の状態で通過しようと交差点に入ったものの、前の車が詰まっていて、交差点内に取り残されるケースも見られた。「ここでも『まだ交差側の車は来ないだろう』と思い込む、全赤信号の問題が見られました。交通量が多い交差点では、前方の状況をしっかり把握し、交差点内に取り残される可能性についても予測しておかなければなりません」

「右折時の車間距離も短いですね。青信号の車の切れ目で曲がろうとして、対向車との距離を見誤れば、衝突事故が生じやすい状況です」。やはり交通量の多さから生じる、この交差点を早く通り過ぎてしまいたいという気持ちが、事故につながる一因なのだろう。

車で神宮前交差点を右折する様子

神宮前交差点で右折待ちする様子

神宮前交差点をUターンする車

神宮前交差点でUターンする車

今回の調査では、特に右折矢印信号の点灯時間が短く感じられた。菰田氏は「ここの信号機は交通量に応じて点灯時間を調整するタイプだろう」と、曜日などによって状況が異なる可能性も推測しつつ、「いくら点灯時間が短いからといって、右折矢印信号がついたと同時に焦って右折しては、交差点内に入ったばかりの対向車との衝突リスクが大きくなります。交差点でスムーズに右折するためには、先頭車がきちんと停止線の直前まで進んで右折待ちし、しっかり交差点内の安全を確認することが大切です」

右折レーンには交差点でUターンする車も混在しており、単なる右折と予想した後続車が急ブレーキを踏むシーンもあった。

歩行者や自転車の駆け込み横断も多い。ルール軽視が事故につながる

また菰田氏は、歩行者用信号機の青信号が短い点にも着目する。「これは車の渋滞解消を優先して、車を流れやすくさせようという工夫ですね。しかしそのために赤信号に変わった後も、横断歩道をゆうゆうと歩いている歩行者がいます。自転車も信号次第で横断歩道を走ったり、車道を走ったりとめちゃくちゃな動きをしています。こうしたルール軽視は問題です」

神宮前交差点を横断する歩行者や自転車

神宮前交差点を横断する歩行者や自転車

歩行者や自転車の駆け込み横断により、適切にUターンしていた車が急ブレーキを踏む場面もあった。信号機がこまめに切り替わることは、車にとっては信号を守りやすくさせる効果もあるというが、ルールの大切さを知らない歩行者や自転車にとっては、わがままで危険な状況を生み出しているようで、効率と安全の兼ね合いが難しいところだ。神宮前交差点はとにかく人通りが多く、「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」という心理状態になりやすいのだろう。実際2023年には車両対歩行者の事故が4件発生しているのもうなずける。

また、左折路のカーブが緩やかなので、車が速度を落とさず入って行きやすく、かつ左折先の横断歩道の状況が見通せるまで時間がかかるというリスクもある。「信号を守るのは車だけでなく、歩行者や自転車も含めて全員に当てはまるルールです。もちろんそれが前提なのですが、交差点付近ではたとえ自分の側が青信号でも、安全確認は必ず行ってください」

歩行者や自転車の側も、どうせ車が止まるだろうという甘えではなく、きちんと信号を守ることで、ルールに対する信頼が保たれ、自分の安全が確保されるということを自覚すべきだろう。

見た目からラスボス感の漂う、池袋六ツ又交差点を攻略せよ!

続いて菰田氏と調査団員が訪れたのは、東京・池袋。東京副都心のひとつとして巨大な繁華街を有する、都内きっての大都会だ。池袋に来たのが数十年ぶりではないかと話す菰田氏だが、実際に池袋六ツ又交差点のありさまを目の当たりにして、しばし言葉を失ったようだ……。

池袋六ツ又交差点の案内標識

池袋六ツ又交差点の複雑な案内標識を前に緊張感が走る

池袋六ツ又交差点の様子

池袋六ツ又交差点の実態を目の当たりにした菰田氏

この池袋六ツ又交差点は、東京都心から埼玉西部に至る国道254号と、都道305号明治通り、環状5号線上に位置する都道435号の終点、都道441号の起点が交差している六差路だ。大通りに加えて上下が分離している道路や細街路まである。「この交差点はとにかく複雑ですね、全国ワースト1というのも納得できます」

池袋六ツ又交差点の概要

池袋六ツ又交差点(地上部分)の概要イラスト(国土交通省東京国道事務所の説明図を基に編集部で作成。改良工事等のため現状とは異なる場合があります)

池袋六ツ又交差点のリスク要因

・高架下で暗く、構造物が多い
・右左折先が複数ある
・直線路も緩やかにカーブしている
・横断歩道の途中で信号が途切れている
・歩行者の切れ目で右折すると対向する直進車と交錯する
・自分の進む道がわかりにくい
・ウインカーや車の向きからは相手の進路がわかりにくい
・右折レーンから直進しそうになる
・交通ルールに当てはまらない走り方が必要

行く先がわかりにくく、そして暗い…。ドライバーが混乱する要因に

菰田氏は、池袋六ツ又交差点が難所となる要因のひとつとして、交差点上にある高架道路を指摘する。「国道と都道のオーバーパスと首都高で覆われているので、交差点が全体的に暗くなります」

池袋六ツ又交差点を通る道路の路線番号案内標識

池袋六ツ又交差点を通る道路の路線番号案内標識

高架下にある池袋六ツ又交差点の様子

池袋六ツ又交差点高架下の明暗差の様子

調査日は晴れており、実際に車で交差点を走ってみると明暗差を強く感じた。オーバーパスの隙間から差し込む光でまだら模様に見える場所もある。支柱の間を縫うように横断歩道が設置されており、そうした物陰や暗がりに歩行者の姿が垣間見えると、さらに緊張感が高まってくる。

「この交差点では見落としが増えやすいので、ライトは必ず点灯すべきでしょう。さらに支柱や交通島などの工作物で道路が上下分離されていて、道の本数が多く、より複雑に感じます」。これはまるで巨大な神殿の柱の陰から、魔物がいくつもの触手を伸ばしてくるようだ……。

たしかに交差点に入ってからも、進行方向が多岐に分かれており、どこの信号を見ればよいのか、どの道の先の状況を把握すればよいのか、わかりにくい印象だ。周囲の車の中には交差点の途中で止まってしまい、後続車にホーンを鳴らされている場面もあった。

池袋六ツ又交差点を走る車両の様子

池袋六ツ又交差点を走る車両の様子

路面標示の矢印

路面標示の矢印

「道路の進行方向を示している、路面標示の矢印をしっかり確認することがキーポイントです。これを見落とすと、自分がどこに進むのかまったくわからなくなるでしょう。なじみのない道路では、どこでどの方面に進むのか、どの通りに入るのか、あらかじめ把握しておくことが基本です。特にこのように複雑な交差点では、ナビの音声を漫然と聞いているだけでは難しいでしょう」

ウインカーのタイミングや進路のわかりにくさ…ルール不在のカオス

さらに、進む方向によっては、直進レーンの先でさらに右折に分岐しているところがあり、そこでは直進レーンからウインカーを出さずに右折していく車も多かった。菰田氏いわく、「この状況は交通ルールが当てはまりにくいと言えます。交差点内の2か所の右折場所に対してどの位置でウインカーを出すのか、非常にわかりにくいのです」

直進レーンから進路がさらに左右に分かれている

直進レーンの先で進路が2方向に分かれている

直進左折レーンの路面標示

直進・左折レーンの路面標示があるが、実際には左折先が2か所に分かれている

また、直進・左折レーンの先で、手前と奥に2本の左折先があるところもある。「たとえばここでバイクが手前の道路の左折車を追い抜いて奥の道路で左折しようとすると、後続車から追突されるリスクが高まります。結局、同じ左のウインカーでも、どこに進むのかわからないのは問題です」

2023年に池袋六ツ又交差点で発生した人身事故のうち、追突が7件、出会い頭衝突が4件、左折時衝突が1件、右折時衝突(右直)が1件、工作物への衝突も1件発生しているという。交通ルールに当てはまらない走り方が必要、かつどこに進むのかわからない車が走っているなど、まさにカオス。危ない交差点ワースト1となる理由としては十分に思えてくる。

さらに問題をややこしくしているのが、明治通りの横を走る細街路の存在だ。そこは本線の側道にも見えるため、直進レーンから入るのかとも思えるが、それだと交差点の途中で行き場を失ってしまうのだ。細街路の手前にある道路に進む車と同様、右折レーンに入り、緩やかに右カーブして細街路に入るのが正解なのだが……。「この細街路はすでに廃止されることが決定しています。それこそが正解でしょう」

他にも路面標示を描き直すことや、横断歩道の位置を変更するなど、交通安全に向けた改良工事が予定されているのだが、現状において、この交差点を安全に通行するために注意すべきことは何だろう。

「この交差点は速度域が高めですが、速度を落とすべきところでは、しっかり落とさなければいけません。とくに明治通りを池袋駅東口側から王子方面に進み、交差点を右折する先がさらに左右に分岐するところを走るとき、道路の間にある支柱が見通しを悪くさせているので、十分に速度を落として、周囲の動きに注意しておくことが必要です」

池袋六ツ又交差点にある細街路

池袋六ツ又交差点にある細街路

交差点内にある高架の支柱

交差点内にある高架の支柱

「歩行者も同じく、車がいつ、どこに入って来るのかをしっかり見ておく必要があります。横断歩道の途中には交通島が多く、渡ろうとしても渡り切れない場合もありますし、一部は信号機がありません。横断歩道だからと安心するのではなく、車から見落とされているかもしれないと思ったほうがよいでしょう」

交差点内の交通島で信号待ちをする歩行者

交差点内の交通島で信号待ちをする歩行者

池袋六ツ又交差点を横断する歩行者

一部の横断歩道には信号機が設置されていない

すべての交差点には魔物が潜んでいる

今回の調査では、東京都内にある2か所の「危ない交差点」を調査した。事故が多いのは人通りの多さや形状の複雑さなど、それぞれの交差点特有の原因があることは確かだ。だが、ここで菰田氏が指摘したリスクは、すべての交差点について言えることだということを理解していただけるだろうか。

交差点における事故類型別データ(資料=交通事故総合分析センター)

2023年の交差点における歩行者と車両の事故類型(資料=交通事故総合分析センター)

交差点における事故類型別データ(資料=交通事故総合分析センター)

2023年の交差点における車両相互の事故類型(資料=交通事故総合分析センター)

2023年に発生した交通事故は約30万8000件、そのうち交差点とその付近で発生した交通事故は17万6000件以上と、全事故件数の6割近くを占めている。スピードの出しすぎや不十分な安全確認、焦りの気持ちや思い込み、ルールの軽視……こうしたさまざまな原因をドライバーや歩行者、自転車など、すべての道路利用者が取り除かない限り、どんな交差点も「危ない交差点」になるのだということを、今一度考えてほしい。

菰田 潔

こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。

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