自転車への青切符適用後、歩道ではなく自転車レーンを走る自転車が8割超に急上昇
何が変わった? クルマから見たヒヤリハットも解説2026年4月から始まった自転車への青切符適用を背景に、自転車レーンを走る自転車は8割超に増加。一方で、車道では新たな“ヒヤリ”も生まれている。自転車とクルマはどう共存すべきか。自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんが、双方の視点から現状と注意点を解説する。
※調査はJAF Mate Online編集部が独自に行いました。
【調査結果】歩道を走る自転車は2割以下に減少
「自転車は原則、車道を走る」そう言われ続けてきたルールに、ようやく行動が伴うようになった。
編集部が2026年4月に都内の普通自転車専用通行帯(以下、自転車レーン)設置道路で行った観察調査では、平日朝7時〜8時に走行していた自転車のうち、自転車レーンを走行していた自転車が8割以上を占め、歩道を走る自転車は2割以下という結果になった。
2024年6月の同時間帯に行った調査では、歩道走行がおよそ4割を占めていたことを考えると、わずか2年で大きな変化が起きている。
【2026年】
今回2026年4月の調査では、1時間で観察した計465台のうち、384台が自転車レーンを走行(83%)、歩道走行の自転車は81台(17%)
【2024年】
前回2024年6月の調査では、1時間で観察した計262台のうち、155台が自転車レーンを走行(59%)。歩道走行の自転車は107台(41%)。今回の調査より自転車の総数が少ないのは、季節的な要因(梅雨時期)が影響していると思われる
いずれの調査も朝の通勤・通学時間帯に行われた。つまり、日常的に自転車を使う人たちが、「いつもの走り方」を明確に変えている、ということでもある。
前回の調査「車道? それとも歩道!? 自転車で、どこを走っていますか?」の時点からわずか2年足らずで、自転車レーンを走行する自転車は大幅に増加した。注目すべきは、クルマをはじめとする周囲の交通量が増えても「歩道に戻る動きが増えなかった」点だ。
【2026年】
今回の調査ではクルマも含め周囲の交通量が増えても、そのまま車道に接した自転車レーンを走っている傾向が見られた
【2024年】
前回の調査では、周囲の交通量が多くなると、歩道を走る自転車が増える傾向が見られた
この変化の背景にあるのが、2026年4月から導入された自転車の交通違反に対する「青切符の適用」だ。歩道通行や並走などが反則金の対象になると広く報じられ、多くの利用者が「これまで通りではまずい」と感じたのは確かだろう。
では、この変化は「安全になった」と言い切れるのだろうか。「自転車の安全利用促進委員会」の委員も務める、自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんに、自転車とクルマ双方の視点から話を聞いた。
青切符適用の後、自転車は本当に「車道へ移った」のか?
今回の観察結果を、遠藤さんはまずこう受け止めている。「率直に言うと、数字だけ見れば“良い変化”だと思っています。自転車への青切符適用が始まった背景には、歩道での歩行者と自転車の事故が多かった、という現実がありますからね」
歩道上での接触事故、特に高齢者との事故は、長年課題とされてきた。自転車が車道に移ることで、歩行者の安全性が高まる可能性がある点は、評価できる変化だという。
「一番大きいのは、“罰則がある”と具体的にわかったことだと思います。これまでは『車道が原則』って言われても、実際に何かあるわけじゃなかった。でも反則金が生じることで、一気に自分ごと化したのでは」
重要なのは、「罰金が怖い」という単純な恐怖だけではない、という点だ。「罰金がいくら、という話よりも、『自分が当事者になる』っていう意識が生まれたことが大きいですね」
一方で、遠藤さんはすぐにこう付け加える。「ただ、自転車が歩道からいなくなった=全部うまくいったとは、全然思っていません」
なぜなら、場所が変われば、リスクの形も変わるからだ。
自転車が車道に移ったことで増えた「新しいリスク」
「歩行者との事故は減るかもしれません。でも今度は、自転車とクルマの事故が増えないか、そこが正直心配です」
今回の観察では、自転車レーンを走行していても危険な場面がいくつか確認された。
バス停付近
停車中のバスを追い越そうとして、追い越し車両や対向車線の車両に挟まれる形で、その間をすり抜ける自転車が確認された。
バス停直前で突然歩道へ逃げる自転車も少なくなかった。
自転車レーン内のスピード、車間距離不足
レーン内では安心感からか速度が出やすく、自転車同士の車間が詰まり、急停止時に追突しそうになる場面も見られた。
追い越し時に自転車レーンからのはみ出し
前走自転車を追い越すため、後方確認不足のまま車道側へ大きく膨らむ挙動が確認された。
駐停車車両への対応
駐停車車両の影響で、レーンから車道へ出る、あるいは歩道へ入るといった状況が頻発した。
なかには、バスの後ろで発進を待つ自転車もおり、判断が分かれる典型的な迷いポイントだった。こうした判断に迷う場面では、自転車はどう動くべきなのだろう。
「法律が100%の正解になる場面って、実はあまり多くないんです。その場で一番安全な動きかたや選択肢は何かを考えないといけません」
たとえば、バス停付近での対応について、遠藤さんはこう話す。「危険回避として一時的に歩道へ入る、という選択が必要な場面もあります。ただ、その場合は走らず押し歩きに切り替えるだけで、歩行者とのトラブルはかなり防げます」
他にも今回の観測では、通学中とおぼしき自転車が2台並んで走っている様子も見られた。
「並走も青切符の対象ですし、正直かなり危ないです。2人並ぶと、それだけで車道幅を1.5m以上使ってしまう。それ以上に問題なのは、『ながら運転』に近い状態になりやすいこと。おしゃべりに気を取られて、周囲への注意が散漫になるんです」
自転車の並走は、周囲から見て違反だとわかりやすく、警察の指導警告や近隣住民からのクレームも多いというので注意が必要だ。
クルマから見ると「自転車のここが怖い」
こうした自転車の「歩道から車道へ」の流れでは、クルマのドライバー側の視点も欠かせない。「まずドライバーにとって一番怖いのは、自転車との速度差と動きの予測の難しさなのです」
多くの幹線道路では、クルマは40〜60km/h前後で流れている。そのすぐ横を、20km/h前後の自転車が走っている。
「特に怖いのが、自転車レーンが途切れたり、路駐車両や停車中のバスを避けるために自転車が急に外へ膨らむ瞬間です。ドライバーから見ると、いきなり車道に出てきたように見えてしまいます」
青切符適用直後に考えられる「現実的な落としどころ」
今回の調査で浮き彫りになったのは、自転車がルールを共有していない状態で、急にクルマと同じ車道に立たされたという現実だ。「自転車は免許制度がない分、きちんと交通ルールを学ぶ機会が少ないのが現状です。そのため、クルマに対しては弱者で、歩行者に対しては強者という、都合のいい感覚が混ざったまま走っている人が多いです」
では、どうすればいいのか。遠藤さんは「完璧な答えはない」と前置きしたうえで、こう話す。
自転車側にできること
・後方確認を習慣にする
・バスや路駐車両を無理に追い越さない
・危険を感じたら、歩道に入って押し歩き
「歩道に入る=悪いこと、ではありません。歩道では走らない、という選択をセットにしてほしいですね」
また、遠藤さんによると電動アシスト自転車の活用も有効という。
「自転車が止まりたくない理由の多くは、『こぎ出しがしんどい』、『体力的にきつい』という点ですが、電動アシスト自転車ではかなり解消されています。こぎ出しのふらつきも少ないので、停止と発進の繰り返しが多くなる状況での転倒防止や安定走行という意味でも、事故リスクは下がります。車道を安全に走るための選択肢として、もっと評価されていいと思います」
自転車と歩行者、クルマの共存のカギは「客観的な視点」
自転車レーンを走る人が増えた。それ自体は確かに前進だ。一方、意識の上では自転車と歩行者、クルマの三者それぞれが相手を怖いと思っているままだ。
「この意識のズレが、ずっとかみ合わないまま表に出てこなかった。今は、ようやくそのズレが表に出てきた段階だと思います。どんな場面でも通用する完璧なルールの運用は、現状では難しいと言えます。だからこそ、自転車と歩行者、クルマが互いに、『今この瞬間、誰が一番危ないか』を考え続けるしかない」
今回の場合、自転車レーンや車道では、自転車は「クルマからどう見えているか」を想像する、クルマは「自転車はこちらの存在に気づいていないかもしれない」と考える、客観的な視点が重要だ。
自転車の青切符時代にまず必要なのは、取り締まりの強化ではなく、お互いの意識をアップデートすることなのかもしれない。
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