9割以上が止まらない!?「自転車の一時停止」の実態を調査!
検挙数が増加する「一時不停止」の危険と「安全な止まり方」を解説自転車で「止まれ」の標識がある交差点を通過するとき、あなたはしっかり一時停止していますか? クルマを運転していて、交差点で自転車の飛び出しに遭遇した経験があるドライバーも多いのではないか。
当企画の調査によると、ある都内住宅街での一時停止率は、わずか4.3%という驚きの結果に。なぜ多くの人が止まらないのか? その背景には「止まる意味がない」という誤解や、教育機会の不足、そして心理的なハードルが隠れているという。
今回、調査結果と専門家の声をもとに、一時停止の重要性と事故を防ぐための具体策を解説する。
停止率はわずか4.3%という現実…交差点での危険認識のズレと「止まりたくない」心理
2025年8月の平日日中、都内住宅街の交差点で行った当企画の調査では、観察した自転車209台のうち、「止まれ」の標識で一時停止したのは9台のみで、停止率は約4.3%という結果となった。
自転車が「止まれ」の標識がある交差点で…
調査は昼間と夕方の時間帯に各1時間実施。「一時停止の義務のある交差点の手前で一時停止したか」のみを基準とし、停止時に足を着いたかどうかや、何秒間停止したか、左右の安全確認をしたか等の厳密な判定は行っていない。
交差側の道路をうかがうようにゆっくり走る自転車は多かった
大半はチラ見程度、なかにはスピードも落とさず、ノールックで通過する自転車もいた
一時停止の規制がない交差側のクルマが停止して、自転車をやり過ごす場面もあった。とはいえ、その自転車もクルマに会釈をしていて、我が物顔というわけではない。こと自転車に関していえば、もはや暗黙の独自ルールでバランスが保たれており、一時停止しなくてもうまくやり過ごせるのでは? という思いもよぎった。
この結果について「自転車の安全利用促進委員会」の委員も務める、自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんに話を聞いた。
「この数字、実態に近いと思いますよ。信号がないと交差点って思わない方、意外と多いのです。一時停止の標識があっても、自転車は例外でしょ? と言わんばかりにスルーしてしまう場面、よく見かけますよね。
自転車ではなくクルマのほうが止まってやり過ごすというケースもあったとのことですが、交通安全ではお互いがルールを守ることが重要です。相手が止まってくれるだろう、などという依存は危険です」
遠藤氏は、一時停止の標識を無視する背景として、交差点での安全意識の欠如や、標識への理解不足が考えられると指摘。その結果、周囲に住宅の塀が建ち並ぶような見通しの悪い十字路でも、そのまま通過することにつながってしまう。
加えて、とりわけ30代以上の世代は、自転車に関する体系的な交通教育を受ける機会が乏しいまま親となっているため、子供に正しいルールを伝えていないケースが多いという課題もあるという。
「幼少期の交通教育が手薄だっただけでなく、成人後の交通教育の機会も少ないのです。標識の意味は知っていても『止まる必要性』まで腹落ちしていない方が多い。さらに高齢の方は一度止まると再度のこぎ出しが大変で、できれば止まりたくないという気持ちもあるでしょう」
ノールック走行が招くリスク…交差点が「自転車事故の温床」となる理由
自転車の主な法令違反別事故件数(第一当事者)
交通事故総合分析センターの統計によると、2024年度の自転車乗用中の法令違反(第一当事者)のうち、一時不停止が原因となった事故は約7.4%にのぼる
遠藤氏は、自転車の場合、聴覚に依存して安全確認を済ませてしまう傾向があると指摘する。「自動車の走行音が聞こえないから安全」と判断し、標識があっても止まらないという目視の軽視も、事故のリスクを慢性的に押し上げている。
「事故の多くは交差点で起きています。歩行者との接触では自転車側が加害者になる割合がとても高いのです。『クルマのエンジン音がしない=クルマは来ていない』は、危ない思い込みですよね」
さらに、歩行者と接触事故を起こした場合、過失割合が自転車側に85%以上となるケースが多い。
「でも、そうしたリスクを知らない人が多い。“歩行者が飛び出してきたから”と言っても、歩道上では自転車が100%悪いとなることもあります」
対歩行者事故では自転車が加害者となり、その法的責任は決して軽くないことも、十分理解しておく必要がある。
「青切符時代」の取り締まり強化と実効のある対策とは?
「自転車を起因とする交通事故を減らすため、警察による一時不停止と信号無視の取り締まり件数が、ここ2〜3年で急増しています」
自転車の主な交通指導取締り状況(検挙件数)
自転車の一時不停止による検挙件数が過去2~3年で3~4倍に急増している
2026年4月から始まる自転車への青切符導入を控え、反則金の対象となる違反が明確化しつつある。これに教育を組み合わせることがポイントで、小中高向け教材の整備や、地域と連携した啓発などが成果を上げている。
「たとえば東京のとある下町エリアでは、警察と連携しながら小学生が描いた『飛び出し注意』の看板を交差点に設置することで、事故が半減したという事例もあります。看板を見て、『自分たちが描いた絵だ』 『うちの子が描いた絵だ』って思えば、自分事として注意するきっかけになるんですよね」
一方で遠藤氏が指摘するのは、成人してからの学び直しが不足している点だ。
「子供だけでなく高齢者の事故率も、実はすごく高いのです。免許を返納して自転車に乗るようになった方が、事故を起こしてしまうケースが目立ってきています。反応が鈍くなっていることに加え、手足の筋力が落ちている、判断が遅れるなど、身体的な要因も大きいですね。今後は免許更新時の高齢者講習の中で、自転車の安全教育をもっと充実させるべきです」と遠藤氏は提言する。
「免許返納後に自転車に乗る方が増えるのは当然の流れですが、そのタイミングで交通ルールや危険認識をアップデートしておかないと、事故のリスクが高まるばかりです」
【自転車への交通反則通告制度(青切符)の導入】
今日から実践できる「安全に止まる」コツ
「昔は自転車は『歩行者寄り』の存在と捉えられることが多かったのですが、今は違います。ルールは基本的にクルマと同じ。小回りが利くという利点はありますが、それでも交差点では一時停止、安全確認が必要です」と遠藤氏は強調する。
「特にカーブミラーが設置されている交差点は死角が多く、事故が起きやすいポイントです。必ず一時停止してミラーを確認してから進行する習慣をつけましょう」
だが95%以上の自転車が一時停止を守らないという現実がある以上、きちんと一時停止したことで、かえって他の自転車に追突されるといったリスクはないのだろうか?
「安全に一時停止するためのポイントとして、まず交差点の手前から余裕をもって減速する習慣をつけましょう。停止の意思を示す際には、後方を軽く振り返るなどして周囲に合図を送ることも大切です。左足をペダルから下ろすなどの動作も、後続の自転車やクルマに『これから止まります』というサインになります」
安全に一時停止するためのポイント
- 交差点手前で減速する習慣をつける
- 停止する前に後方の確認をする
- 足をペダルから外すことで停止の意思を示す
「止まる・見る・伝える、をワンセットにしましょう。止まるのはクルマから自分を守るだけじゃなく、歩行者やほかの自転車を守ることにもつながります」
さらに遠藤氏は、標識の高さや表記の複雑さも改善の余地があると指摘する。子供から大人までが気軽に乗れる自転車がルールを順守するために、よりわかりやすいピクトグラムの導入や、自転車目線からの標識位置の見直しなど、道路環境の整備も並行して進めるべきだろう。
参考
(指定場所における一時停止)
第43条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあっては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第36条第2項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
罰則: 3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金
交通反則通告制度(青切符による反則金): 一時不停止 5,000円(見込み)
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