文=高橋 剛/写真=高橋克也/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

見通しの悪い交差点での一時停止。停止線ではなく先が見通せる位置で止まってませんか?

停止線で止まることが「先が見えないリスク」を減らす

停止線での一時停止は、事故回避のため絶対に守るべきルール。しかし、見通しが悪い交差点では「停止線より先に行かなきゃ見えないよ」という身勝手な解釈により、ついおろそかになりがちだ。今回はその実態を調査しました。

目次

見通しの悪い交差点の停止線で車がきちんと止まっているかを調査

警察庁「道路交通法違反の取締り状況(令和5年中)」によると、取り締まり件数でもっとも多いのが「一時停止違反」。その数はなんと126万7094件にも上る。2番目に多い最高速度違反88万8500件と比べても1.4倍以上と、かなりの多さだ。それでなくても多発している一時不停止だが、今回はさらに心の隙が生まれやすい見通しの悪い交差点で実態を調査した。

調査を行った東京郊外の市街地。あまりの違反ドライバーの多さに、取り締まりも頻繁に行われている

調査を行った東京郊外の市街地。あまりの違反ドライバーの多さに、取り締まりも頻繁に行われている

調査を行ったのは東京郊外の市街地。片側1車線の道路から片側2車線の幹線道路に出るT字路で、信号はなく、左折しかできない交差点だ。停止線の2.9m先に横断歩道があり、横断歩道からさらに2.6m進まないと幹線道路には出られない。

比較的開けた交差点ではあるものの、停止線で止まった位置では、右方向からの車や左のブラインドの陰からの歩行者等が見通しにくい。そのためドライバー心理としては「早く先を見たい」と一時停止を怠りがちな場所となっており、実際、取り締まりも頻繁に行われている。

片側2車線の幹線道路を右方向から速いスピードで進んでくる車や、左から走ってくる自転車などをしっかり目視するためには、停止線での一時停止はもちろん、その後もゆっくりと進行する必要がある危険な交差点だ。

調査は、交通量が多い朝夕の時間帯を選び、8時30分〜9時30分、17時30分〜18時30分の各1時間、計2時間行った。停止したかどうかは調査員の目視で判断。停止度合いを3つに分類し、調査結果とした。

①停止線ぴったり、または手前2m以内で一時停止した
②停止線からはみ出して一時停止した
③まったく一時停止しなかった

停止線の端から2m以内で正しく一時停止する車両がどのくらいいるのか計測してみた

停止線の端から2m以内で正しく一時停止する車両がどのくらいいるのか計測してみた

停止線から2mの地点にマーク(調査後消去)し、車両が止まるたびに目視で確認した

停止線から2mの地点にマーク(調査後消去)し、車両が止まるたびに目視で確認した

タイヤが完全に静止した正しい一時停止。教習所の講習では目安として「3秒間止まれ」と言われている

タイヤが完全に静止した正しい一時停止。教習所の講習では目安として「3秒間止まれ」と言われている

ほとんどの車が停止線手前で減速するものの、タイヤを完全に静止させてはいなかった

自覚の有無にかかわらず、ほとんどの車が停止線手前で減速するものの、タイヤを完全に静止させてはいなかった

驚愕! 75%超がきちんと一時停止せず! 見通しが悪いとはいえ、あまりの結果に

「一時停止標識のある見通しの悪い交差点での一時停止」調査結果

「見通しの悪い場所での一時停止」調査結果

衝撃の調査結果となってしまった。朝の1時間は約83.6%(122台中102台)、夕方の1時間は約65.3%(95台中62台)が、停止線での一時停止を怠っていた! 朝夕合わせて計算すると、違反の比率は約75.6%(217台中164台)にも! これは驚きだ。

しかも、もっとも悪質な③が大多数だ。③はある程度の減速はしているものの止まることなく停止線を突破しており、自覚の有無はともかくとして完全に違反だ。停止線の先には信号機のない横断歩道も控えていることを考慮すると、まったくの論外である。

調査員の所感としては、朝のほうが明らかに急いでいる様子のドライバーが多く、夕方は比較的落ち着きがあった。が、その夕方でさえ約65%と過半数のドライバーがしっかりと一時停止していない。

あまりの結果に愕然とする調査員たち。見通しが悪いことで、「もっと先を見たい」という意識が先行し、一時停止がおろそかになってしまうのだろうか……。モータージャーナリストの菰田潔さんに解説していただく前に、改めて一時停止についておさらいしておこう。

車高の高い車は横断歩道を渡る高齢者や幼児にはなおさら注意したい

車高の高い車は横断歩道を渡る高齢者や幼児にはなおさら注意したい

無意識のうちに一時不停止も!? 正しい一時停止を改めておさらい

「そんなに多くのドライバーが一時停止を守っていないのか!」と憤っているあなたは、間違いなく優良ドライバーだろう。その怒り、ごもっともだ。しかし、調査結果は一時不停止のあまりの多さを示している。もしかしたら、あなた自身も無意識のうちに一時停止違反をしているかもしれない……。

一時停止については、道路交通法43条によって規定されている(下記)。「停止線の直前」とあるので、今回の調査で言えば②③は完全に違反ということになる。一時停止の時間は定められていないが、車体が完全に静止することが必須条件だ。

さらに見通しの悪い交差点には道路交通法第36条第4項、同第42条第1項(下記)といった交差点安全走行義務が課せられており、単に完全に静止するだけではなく、左右の安全確認をして他の車や歩行者に十分に注意し、徐行して交差点に進入しなければならない。

なお、道路交通法第43条では「停止線の直前」とだけ定義されているが、免許実技試験の検定では2m以上手前で停止した場合は「停止線で止まったことにはならない」と判断される。最低でも停止線の手前2m未満、できれば停止線ピッタリに止めることが理想だ。

一時停止は安全マージンを築くための出発点だが…

見通しの悪い交差点での一時不停止率、75%超……。この恐るべき調査結果について、モータージャーナリストの菰田潔さんに解説していただいた。

「本当にひどい結果ですが、残念ながら実態をよく示していると思います。夕方は約65.2%が一時停止違反とは、少なく感じてしまうほど。それぐらい一時停止違反は横行しているんです。

今回の調査ポイントは『見通しの悪い交差点』で、ドライバーにとってはややトリッキーな場所でした。いち早く先を見たくなるドライバー心理は、わからないこともありません。しかも停止線を守っても先が見通せないとなれば、「ここで止まっても意味がない」という、身勝手な考えに陥りがちなのでしょう。だからこそ、③のまったく止まらないという悪質なドライバーが多い結果になったのだと思います。

当地では取り締まりも頻繁に行われているということですが、『停止線で止まっても先が見えないじゃないか! ただ先を見ようとしただけだ!』と、警察官に食ってかかるドライバーの姿が目に浮かびます。

しかし、当然のことながら最優先すべきは道交法に則った安全運転です。まずは確実に停止線で一時停止することが基本中の基本。停止線で止まることで車速がいったんゼロになります。そこから先を見通すための運転が始まるので、自然と車速もゆっくりになり、より安全です。停止線での一時停止は、安全マージンを築くための出発点と考えるとよいでしょう」

朝夕それぞれ1時間ずつ、目視で調査を行った

朝夕それぞれ1時間ずつ、目視で調査を行った

一時停止線で正しく止まるも、ブラインドの先は確認できない

一時停止線で正しく止まるも、ブラインドの先は確認できない

オートバイでの一時停止は片足を地面に着地させることも今回の調査の条件のひとつ

オートバイでの一時停止は片足を地面に着地させることも今回の調査の条件のひとつ

徹底攻略! 見通しの悪い交差点での一時停止は、多段階停止や「アリさんブレーキ」で安全にクリア

まずは停止線で一時停止することが大前提。停止線から車体がはみ出すことなく、完全にタイヤが停止し、なおかつ安全確認を行うことが必要だ。

「自分では止まったと思い込み、実際はしっかりと止まれていないドライバーが非常に多いんですよ」と菰田さん。「たとえば夫が運転、妻が助手席のドライブ中、つい一時停止違反してしまった夫の運転を妻が指摘すると、『いや、ちゃんと止まったよ』『止まってなかったわよ』『止まったってば!』と夫婦ゲンカになることも。容易に想像できますよね(笑)。

それぐらいドライバーは、『止まった』と思い込みがちです。通常はカッコ悪い運転としている『カックンブレーキ』ですが、停止線ではちょっとカックンとするぐらい、明確に止まることを心がけたほうがいいかもしれません。また、安全確認と同時に左右の景色にも目をやり、自車が動いていないか確認するのも有効です」

今回の調査地点のように見通しが悪い交差点では、停止線での一時停止の後の動作にも注意を払いたい。JAFが提唱しているのは、多段階停止。①停止線でいったん停止、②車の先端を少し出して停止(体を前に出して確認)、③目視できる位置まで進んで停止し発進前に再度左右を確認、というものだ。

菰田さんも「とにかく目視することが重要です」と強調する。「ドライバーが見通しの悪い交差点のリスクを十分に理解し、本心から警戒していれば、必ず目視するはずです。そして確実に目視をしようと思えば、自然と多段階停止になるんです。逆に言えば、多段階停止をしないということは、見通しの悪い交差点のリスクをわかっていないということ。まず心構えを改めてほしいと思います」と菰田さん。

さらに菰田さんは、一歩進んだテクニックとして「アリさんブレーキ」を提唱する。「一般的なAT車には、ブレーキペダルから足を離すと車がゆっくりと動く『クリープ現象』があります。これを利用しブレーキペダルをそっと操作して、アクセルを使わずに極低速で車をコントロールします。

スピードは本当にゆっくり。車が動いていてもスピードメーターが0km/hを示しているぐらいの状態が、『アリさんブレーキ』の理想です。停止線での一時停止の後、アリさんが歩くようなスピードでゆっくり進むことで、先を見通すために車の頭を出すことができますし、周囲に『車が出てくるぞ』と注意喚起を促すこともできます」

かかとをフロアに付けて、足首の微妙な動きでペダルを操作する「アリさんブレーキ」には、ブレーキコントロールが上達するというメリットも。菰田さんは「見通しの悪い交差点では、左右の確認をしっかり行うことが非常に重要。『アリさんブレーキ』に集中してしまい、左右確認がおろそかになっては本末転倒です。『アリさんブレーキ』は決して難しくありませんが、停止線で一時停止すること、そして左右確認することを最優先にしてください」と注意する。

いくら気を付けても足りない危険地帯。停止線で止まる意味を再考しよう

事故多発地点である交差点。警察庁「交通重傷事故の発生状況(令和5年中)」によると、2万6288件の重傷事故のうち、1万6880件(64.2%)は交差点で発生している。もともとリスクが高い地点である交差点で、見通しが悪いとなれば、いくら注意しても足りないほどだ。

「停止線で一時停止することは、道交法で定められているから当然です」と菰田さん。「しかし、『違反になるから止まる』という程度の考えでは、安全意識が低すぎます。見通しの悪い交差点は、自分が他車や自転車、歩行者などに衝突してしまうリスクがかなり高い場所です。相手側からすれば、見えない所からいきなり車が飛び出してくることになるので、避けようがありません。

つまりは自分次第で事故を防ぐことができるわけですから、最大限に注意を払うべきでしょう。自分の存在を安全にアピールするために、多段階停止や『アリさんブレーキ』を駆使してほしいものです。

最近はコーナーレーダーを装備し、見通しの悪い交差点でも接近する交差車両を検知してドライバーに知らせてくれる機能を備えた車が増えてきました。また、カーブミラーが設けられている場所も多いと思います。しかし、いずれにしても目視することが何よりも大切です。コーナーレーダーやカーブミラーは、あくまでも補助。頼り切ることなく、必ず目視による左右安全確認を行ってください。

日本は停止線が非常に多いこともあり、一時停止もついおろそかになりがちです。しかし停止線が多いということは、それだけ見通しの悪い交差点が多く、リスクが高いということ。安全運転の出発点が、停止線での一時停止だということを、くれぐれもお忘れなく」

歩行中のスマートフォンやワイヤレスイヤホンの使用が増えた昨今、アイコンタクトや音による安全確認もあまり期待ができなくなった

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一時停止後も前の車についていくのではなく、あくまでも自分で安全確認を行ったのち、自分の判断で発進しよう

一時停止後も前の車についていくのではなく、あくまでも自分で安全確認を行ったのち、自分の判断で発進しよう

菰田 潔

こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。

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