車道から歩道を横切ってGSやコンビニの駐車場に入るとき、歩道の手前で一時停止していますか?
みんな知らない? 守っていない? 再認識したい「歩道は歩行者のためにある」という基本車で店舗の駐車場などに出入りする際、歩道を横切らなければならないケースは非常に多い。その時あなたは、どのような運転をしているだろうか? 歩道の手前で一時停止する? それとも、しない? 特命調査団が、現状を調査した。
ほとんどのドライバーが知らないかも!? 車で歩道を横切る際のルール
あなたはご存じだっただろうか? 車で歩道を横切る際には、「必ず一時停止しなければならない」ということを……。
車を運転していると、店舗や駐車場、ガソリンスタンドへの出入りなど、歩道を横切らなければならない場面は多い。だが、歩道の手前でしっかり一時停止しているドライバーの姿は、あまり見かけない。
さて、下記の道路交通法第17条第1項、第2項をご覧いただきたい。ここには非常に重要なことが記されているのだが、少しわかりにくい……。モータージャーナリストの菰田潔さんに解説していただいた。
「ここで定められているのは、ごく当たり前のことなんですよ。『自動車は、歩道を通行してはいけません』という、運転する上での常識ですね。つまり、『歩道は、歩行者のもの』というだけのことです。
ただし、店舗やコンビニの駐車場へ入るときなど、やむを得ず歩道を横切る場合もありますよね。その際は直前で一時停止して、なおかつ歩行者の邪魔をしてはいけない、と定めているわけです。
強く意識してもらいたいのは、歩道を横切るのは『やむを得ない場合に限って』特別に許されている行為だ、ということです。車の出入り口は、縁石が低くなっていたり、色分けペイントが施されていたりして、ドライバーは『どうぞお通りください』と言われているように感じるかもしれません。
でもこれは、完全に誤った認識です。歩道は、あくまでも歩行者等のもの。そこを横切るにあたって、ドライバーは『お邪魔します』という意識を持たなければならないんです」
(通行区分)
道路交通法第17条
1 車両は、歩道又は路側帯(以下この条及び次条第1項において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するとき、又は第47条第3項若しくは第48条の規定により歩道等で停車し、若しくは駐車するため必要な限度において歩道等を通行するときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
絶対守るべきルールは、守られているのか…!? 歩道の奥にある、道路沿いの店舗出入り口で調査
調査したのは、交通量が多い片側2車線の幹線道路沿いにあるガソリンスタンド。2か所で行ったが、いずれも車道と歩道の切れ込み箇所を調査場所とした。1か所はすぐ先に信号があるため、交通の流れはそれほど速くない地点。もう1か所は近くに信号がなく交通の流れが速いため、ドライバー心理としては一時停止しづらいポイントだ。
調査場所①周辺の様子
調査場所②周辺の様子
どちらの調査地点も、車道と歩道の境目に植え込みや街路樹があり、見通しが良いとは言えない。特に歩行者側からは、入ってくる車が見えづらい印象だった。また、自転車通行可の歩道だったため、歩行者はもちろん、自転車の姿も多く見られた。調査員の目視により、一時停止した車としなかった車の台数をカウント。一時停止の有無は、タイヤが完全に停止したかどうかで判定した。
やはり? 8割以上が歩道手前で一時停止せず!
調査地点でカウントした計90台のうち、歩道の手前で一時停止したのは15台だった
2か所の調査地点で各1時間・延べ2時間にわたる調査の結果、歩道の手前で一時停止した車はわずか17%! なんと83%もの車が一時停止しないという、衝撃の結果となった。
「毎度のことですが、実際は一時停止しないドライバーはもっと多いのではないでしょうか」と菰田さん。
「調査員いわく、きっちりと一時停止したのはすべて商用車だったとのこと。商用車は会社による教育が徹底しているのでしょう。一方、一般車のドライバーは、出るとき、入るときのどちらかで一時停止をしていなかったそう。一般ドライバーにはルールが知られていないことの証と言えそうです」
「このままではいけないですね……」と、菰田さんは続ける。
「歩行者と車が交差する場面ですから、人の生死に直結します。しかも、原則的に車が通行してはいけない歩道。そこを横切るのですから、道交法で定められているかどうかにかかわらず、直前で一時停止するのはドライバーとして当然でしょう」
調査員によると、多くの車が歩道を横断する際にスピードは落としていたようだ。だが、きっちりとは止まらない。2か所のうち1か所はガソリンスタンドの入り口手前に路地があり、中には歩道と交差する路地をかすめるようにして、ほとんど減速せず進入する車の姿もあった。
「スピードを落とさないというのは、まったくもって論外ですが、多くのドライバーがスピードを落とすということは、歩道は危険だと認識しているはずなんですよ。それなのに、一時停止しない。道交法違反になるかどうか以前に、これは人の命を左右する重大な問題なのですが……」
店舗に入るときより出るときの方が一時停止率が高い! その理由に隠されたドライバー心理とは?
今回はさらに細かく調査。ガソリンスタンドに入る車と出る車、それぞれのケースで一時停止する車・しない車の台数をカウントした。その結果、入る車で一時停止しなかった車はなんと96%! 出る車で一時停止しなかったのは67%だったので、かなりの差があったと言える。
歩道に入るときに歩道の手前で一時停止した車は50台中2台
出るときに歩道の手前で一時停止した車は40台中13台。ちなみに出入りの台数が異なるのは、調査地点の1つには出口が複数あったため
菰田さんは、「状況による差が如実に表れましたね」と言う。
「店舗などに入るとき、車道からは歩道が比較的よく見通せます。でも、実はこれは勘違い。死角がたくさんあって危険度は高いのですが、移動しながら進行方向と並行して歩道が見えることで、ドライバー心理としては『しっかり確認できている』と誤解しやすいんです。だから止まらない。
そして、今回調査したガソリンスタンドに関していえば法律の定めで塀で囲われていますから、出るときは非常に見づらいんです。死角だらけに感じる状況だけに、さすがに一時停止するドライバーが多い、ということでしょう。
また、ガソリンスタンドに限らず、店舗などから出る際には建物の角など死角が多いため、やはり一時停止率が高いのだと思います」
そして菰田さんは、「この、入るとき・出るときの一時停止率の差は、実はかなり重要です」と言う。
「ガソリンスタンドから出るときは、塀などによって見通しが悪いから、ちゃんと一時停止する車が増えている。ということは、歩道を横断することの危険性を認識している、ということなんです。それなのに、入るときは一時停止しない。やはり、このままではいけませんよね」
歩道の危険は認識しつつ、一時停止しない理由
歩道を車で横切る行為が危険だということは、多くのドライバーが理解している。
「人と車が交差する場面ですから、ドライバーなら直感的に『危ないだろう』とわかっているんです」と菰田さん。
「実際、歩行者は車が来るとは思っていない可能性が高いですし、自転車はそれなりのスピードで接近してくるので、ドライバーが見落とす場合もある。植え込みより背が低い子供がいるかもしれないし、物陰からの飛び出しだってあり得ます」
だが、一時停止はしない。いったいなぜだろうか? 菰田さんは「ひとつには、危険という認識が薄いことがあるでしょう。見込み違い、思い込みというものですね。そしてもうひとつには、道交法自体の周知不足が挙げられます」と指摘する。
「一時停止しなければならないと道交法で定められていることを知らないから、止まらないのではないでしょうか。非常にシンプルな話ではありますが、この記事をお読みで交通に関する意識が高い方でも、先に挙げた道交法第17条第1項、第2項ともに知らなかった、ふだん意識していなかった方は多いのではないでしょうか」
「また、見逃せないのは後続車からのプレッシャーです。今回は、交通量が多く流れの速い幹線道路沿いで調査したためになおさらですが、ドライバーとしては『歩道に入る直前で一時停止していたら、後ろから追突されちゃうよ』と言いたくなるのかもしれません。
実はここにこそ、大きな問題が隠されています。というのは、追突されるおそれがあると感じるということは、前方にこれから歩道を横切ろうとする車がいたとき、その後ろにいる自分は『一時停止しないだろう』と思い込んでいることを示しているからです。
つまり、大半のドライバーが『歩道を横切る際は、直前で一時停止する』というルールを知らないか、忘れてしまっている状態なんですよ。私が再三『このままではいけない』と繰り返しているのは、この点です。
逆に言えば、ここで改めてすべてのドライバーが『車で歩道を横切る際は、歩道の直前で一時停止する』というルールをしっかり頭に入れておけば、後続車も『前走車が一時停止するかもしれない』と予測するわけですから、追突も起こりにくいはず。
そうやって、交通社会の全員がきちんとルールを認識することが、安全確保のためにとても大切です。これはもちろん、一時停止に限った話ではありませんが……」
「ルールだから一時停止する」では不足! 何のために止まるのかを考えたい
今回の調査では、道交法で定められているにもかかわらず、歩道を横切る際に直前で一時停止するドライバーは非常に少ないことがわかった。
とはいえ、「ルールだから、一時停止する」といった考え方では足りない、と菰田さんは言う。
「もう一歩踏み込んで、『何のためのルールか』を考えてほしいんです。言うまでもありませんが、歩道の手前で一時停止するのは、歩行者や自転車などと接触しないため。安全確保のための行動だということを、ぜひ理解してください。
ルールでは『一時停止せよ』と定められていますが、だからと言って『止まればいい』と考えるのは短絡的です。ただ止まるのではなく、歩行者はいないか、自転車は接近していないか、死角からの飛び出しはないか、など、しっかり安全を確認することが最重要。そして、安全確認のために最適な手段が一時停止、ということなんです」
何の考えもなく、ただルールを守るだけでは、安全運転は成し遂げられない。今回の調査結果を通して、菰田さんがもっとも伝えたかったことである。
菰田 潔
こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。