車道? それとも歩道!? 自転車で、どこを走っていますか?のイメージイラスト
監修=遠藤まさ子(自転車ジャーナリスト)/文=高橋 剛/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

車道? それとも歩道!? 自転車で、どこを走っていますか?

今こそ知っておくべき正しい自転車の走行ルール、基本の“キ”

身近で手軽な、自転車。免許証不要で年齢制限もなく、誰もが便利に使える乗り物だ。しかし、道路交通法では「軽車両」と位置づけられている「車の仲間」。最近では事故防止に向け、法整備が着々と進んでいるが、まだまだ周知不足という面も……。現状、自転車走行に関するルールはどれぐらい守られているか、今回はもっとも基本的な「走るべき場所を走っているか」を調査した。

目次

「自転車は、車の仲間」。でも走るべき場所がわからない!?

道路交通法では、自転車は「軽車両」に区分されている。軽車両は、自動車と同列の「車両」であり、車の仲間というくくりだ。道路交通法を中心に、守らなければならないルールも数多い。

だが、自転車には免許制度がない。そのこともあって、ルールを学ぶ機会が少ないのが現状だ。また、いざ自転車に乗ると、その手軽さから「車両を運転している」という意識が薄れがちな乗り物でもある。

今回調査したのは、「自転車はどこを走っているのか」。自転車も車だと思えば、「どこを走るか」は守るべきルールの基本中の基本だが、これがまた、いろいろと複雑で難しい。しっかり理解し、ルールを守れている人は、果たしてどれぐらいいるのだろうか?

自転車が走れる場所に関するルールは多岐にわたっているが、今回は自転車レーンがある道路と、例外的に自転車が走ってもよいとされている歩道に絞って調査。その結果を基に、自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんに実態を解説していただいた。

調査①: 自転車レーンがある道路で、自転車はどこを走っているかを観察

自転車レーン(普通自転車専用通行帯)がある道路で、自転車レーンを走る自転車と、歩道を走る自転車の台数を、それぞれカウントした。

調査場所は駅へと向かう道路で、調査時間帯は平日朝7〜8時の1時間。通勤通学で先を急ぎたくなるシチュエーションだ。ここでは道路交通法上、自転車は自転車レーンを走らなければいけないのだが、果たして……!?

歩道と自転車レーンを走る自転車

車道の左側に青いペイントで路面標示された自転車レーンがある

約4割が、走ってはいけない歩道を通行! ルールの周知不足が明らかに

1時間で観測した計262台のうち、155台が自転車レーンを走行していた。59%、約6割がルールを守っていた計算だ。しかし、裏を返せば107台、約4割もの自転車が、走ってはいけない歩道を通行していたことになる。ちなみに今回の調査区間で、自転車レーンに停車している車両などはなかった。

歩道と自転車レーンを走行していた自転車の割合グラフ

調査地点でカウントした計262台の自転車のうち、107台が歩道を走行していた

「私が普段目にしている光景と、非常に近い結果が出たと思います」と遠藤さん。「調査地点は、青いペイントで明確に自転車レーンを標示しています。それでもルールをしっかり守っていたのは6割だけ。残念ですね」

遠藤さんは、ふたつの理由を挙げる。

「まずひとつは、ルールの周知不足です。現時点で自転車には免許制度がありません。ですから自分から積極的に学ぼうとしなければ、自転車に関するルールを知る機会が少ないんです。最近では、学校で積極的に交通教育に取り組んでいますので、実は若い世代ほど自転車のルールをよく知っている傾向も見られますよ。

気を付けなければならないのは、中高年以上の方。自転車のルールに触れる機会が少ないうえに、道交法自体もだいぶ変わってきていますから、情報のアップデート不足にも陥りがちです。

運転免許証の更新の際には、自転車に関する話題にも触れているはずですし、教則本も自転車に割くページが増えてきています。よく確認していただきたいですね。

そしてもうひとつは、自転車で歩道を走ることのリスクがあまり認識されていないことです。自転車と歩行者を同等レベルに考えているのだと思いますが、自転車は人が歩くよりずっと速い。人々が自由に歩いている歩道を自転車が走れば、どう考えても危険なんですけどね……。

自転車の時間帯別走行場所グラフ

車の交通量が多くなるにつれて、歩道を走る自転車が増える印象

最近は電動アシスト自転車による事故も増えています。特に子供を乗せた2人乗り、3人乗りの状態ですと重さも増えてしまうので、万が一歩行者と衝突すると衝撃が大きくなってしまいます。
重さが増えるとブレーキやハンドルにも影響が出るので、本人は避けられると思っていても、難しい場合もあります。

歩道で歩行者と事故を起こしてケガなどを負わせてしまった場合、自転車に乗っていた人に重い過失が問われる可能性が高いのです。実際、自転車に100%の過失を認める判例も少なくありません。

自転車が歩道を走ると非常に危険なこと、万一事故を起こしたら自転車の側に重い過失が問われること、どちらも『自転車も車の仲間』と認識していれば、納得できることと思います。

歩道を走っていた107台の自転車は、恐らく自分が常に交通弱者だと思い込んでいるのでしょう。『自転車は、降りて押していれば歩行者』となるのですが……。ずっと押し歩くのは遅いし面倒、でも自動車からは距離を置いて走りたいという考えで、自分も歩道では歩行者のつもりでいるのだと思います。

まず自転車も車だと、しっかり認識する。4割のルール違反を減らすためにも、これが非常に大切です」

調査②: 自転車が通行できる歩道内で、どこを走っているか調査

自転車は、場所や条件によって例外的に歩道を通行(徐行)することが許されている。条件は3つ。ひとつは、「普通自転車歩道通行可」などの標識があるとき。人と自転車が行き交える幅が確保された歩道であることが多い。

普通自転車歩道通行可の標識

普通自転車歩道通行可の標識

もうひとつは、13歳未満の子供や70歳以上の高齢者、身体の不自由な人が自転車を運転しているとき。この条件に当てはまる人は、「普通自転車歩道通行可」などの標識がない歩道でも、自転車で通行してもよいことになっている。これは、先述の自転車レーンがある場合でも同様だ。

最後に、道路工事や車の交通量が多いなどの理由で、車道を走ると危険な場合。やむを得ず歩道の通行が認められるケースもある。

自転車レーンに停車する車と、歩道を走る自転車

車道や自転車レーンに停車車両があり、車の交通量も多いと、なかなか自転車で車道を走り続けるのは難しい印象だ

ただしリスクの高い行為なので、歩道内の走り方は道交法でしっかりと定められている(詳しくは後述)。歩道内で通行していい場所は、「当該歩道の中央から車道寄りの部分」とされているのだ。

このルールがどれぐらい守られているかも調査。自転車通行可の標識がある歩道で、ルール通りに車道寄りを通行している自転車の台数と、ルールを守らず車道寄り以外を通行している自転車の台数を、調査員が目視でカウントした。ちなみに今回の調査では、もうひとつのルールである「歩道での徐行」については、判断が難しく行なっていない。

調査したのは、日曜夕方16〜17時の1時間。日曜日とあって、家族連れや友人たちと連れ立って出かけている人が目立ち、歩行者、自転車、さらには並行する車道ともに交通量は多かった。

調査地点の様子

調査地点の様子

正しく車道寄りを走っていた自転車は3分の1。それも多くは成り行き!?

「普通自転車歩道通行可」の標識のある歩道を通行していた自転車は、1時間で53台。そのうち19台、約36%はルール通りに歩道内でも車道寄りを通行。残りの34台、約64%は歩道の中央や、車道から遠い建物寄りを通行していた。

歩道内の車道寄りを通行していた自転車の割合グラフ

歩道内の車道寄りを通行していたのは53台中19台

この結果について、「ルール以前の問題として、自転車は安全のために車道寄りを走ってもらいたいものです」と遠藤さん。

「道交法で車道寄りを走るよう定められているのは、そのほうが安全だからです。いろいろな理由があるのですが、中でも重要なのは、交差点などで車の死角に入りにくいこと。建物寄りでは車からの発見が遅れるので、出会い頭事故のリスクが高まります。

また、自転車が歩道を走ることを例外的な扱いにしているのは、歩道は歩行者が安全に通行するための道路だから。スピードが出やすい自転車が左右に蛇行しながら気ままに走っていては、歩行者はおちおち歩いていられません。ですから道交法では明確に『歩道内を走ることが許されている場合でも、自転車は車道寄り』と定めているわけです。

調査員の所感によると、なんとなく中央寄りを走り、あとは歩行者に合わせて成り行き任せ、という自転車が多かったそう。また、車道では左側通行なので、車と並走する状態では感覚的に左側の建物寄りを走ってしまうこともあるのかもしれません。実態として理解できないことはありませんが、一定のルールに則らなければ、安全は確保できません。

歩道を走行する自転車

歩道を走行する自転車

ルールを守ることだけが目的になっては本末転倒ですが、ルール無用の状態も危険なことこのうえありません。いま一度、『自転車が歩道を走ってもよいのは、例外的に許された場合だけ』『自転車が歩道内を走る場合は、車道寄りを』という2点を、しっかりと認識していただきたいと思います。

歩道内での歩行者と自転車の事故は、残念ながら後を絶ちません。そしてどのような状況でも、ほとんどの場合で歩行者ではなく、自転車の責任が問われます。歩行者と自転車が入り乱れる歩道内では、意識的にスピードを落とし、できれば自転車を降りて押して歩いたほうが無難です」

便利な乗り物だからこそ、より安全に。自転車のリスクを減らすためにできること

「今回の調査結果は、正直言って残念ですが、『実態を考えると、仕方ない』と思ってしまう部分もかなりあります。というのは、ルール自体が複雑でわかりにくく、世代によっては学ぶ機会も少ないからです。

また、狭い日本では、道路そのものが抱える構造的な問題も見逃せません。すべての道路で人、車、自転車を分離できればそれに越したことはありませんが、現実的には難しいですよね。混合交通の中で、自転車はどっちつかずの難しい立ち位置にあります。

そうした状況の中、全交通事故のうち自転車が関わる事故、とりわけ第1当事者となる事故が占める割合は、増加傾向となっています。交通事故の数そのものは減っているのですが、車などの事故のほうが大きく減っている分、相対的に自転車事故の割合が増えているんです。

その結果として、自転車に関するルールはより厳密化し、罰則も厳しいものになろうとしています。2024年5月17日には自転車による交通違反者に反則金の納付を通告する(いわゆる青切符制度)、改正道路交通法も可決・成立しています。今後2年以内に施行されるでしょう。

ドライバーの皆さんも、自転車に関する最新ルールを知っておくべきだと私は思います。車を走らせていて自転車との事故を起こす可能性もありますし、自転車に乗っていて歩行者を巻き込んでしまうこともあり得ます。自分がいつ、どの立場になるかわかりません。常日頃から自転車に関するニュースや情報にもアンテナを張っていただきたいですね」

自転車はどこを走ればいいの? 改めておさらい

自転車は車の仲間。大原則として、自転車は車道左側を走ることになっている。しかし、車の仲間ではあっても、そこは自転車。手軽さや利便性を損なわず、実際の使用状況に即するよう、さまざまな「例外」が設けられている。

それが事態を複雑化させているのは確か。道路環境や地域性に合わせて、自転車が走る場所はかなり細かく規定されているのだが、その分、かなり意識的に注意しなければならない状況となっている。

警察庁による「自転車安全利用五則」を紹介しよう。

1 車道が原則、左側を通行。歩道は例外、歩行者を優先
2 交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
3 夜間はライトを点灯
4 飲酒運転は禁止
5 ヘルメットを着用

今回の調査は、「自転車はどこを走るべきか」がテーマ。自転車安全利用五則のうち、1にあたる。かなり簡略化されているが、1は自転車乗車の基本として、まず絶対に覚えておくべき内容となっている。

繰り返しになるが、道路交通法において自転車は車の仲間、つまり車両と規定されている。自転車は手軽な乗り物だが、安全に関しては車を運転するのと同じぐらいの緊張感を持ちたい。

【参考】自転車が走るべき場所について規定している道路交通法(抜粋)

道路交通法 第二条 三の三

自転車道 自転車の通行の用に供するため縁石線又は柵その他これに類する工作物によって区画された車道の部分をいう。


道路交通法 第六十三条の三

(普通自転車は、)自転車道が設けられている道路においては、自転車道以外の車道を横断する場合及び道路の状況その他の事情によりやむを得ない場合を除き、自転車道を通行しなければならない。


道路交通法 第六十三条の四

普通自転車は、次に掲げるときは、第十七条第一項の規定にかかわらず、歩道を通行することができる。ただし、警察官等が歩行者の安全を確保するため必要があると認めて当該歩道を通行してはならない旨を指示したときは、この限りでない。
一 道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができることとされているとき。
二 当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき。
三 前二号に掲げるもののほか、車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき。
2 前項の場合において、普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分(道路標識等により普通自転車が通行すべき部分として指定された部分(以下この項において「普通自転車通行指定部分」という。)があるときは、当該普通自転車通行指定部分)を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。ただし、普通自転車通行指定部分については、当該普通自転車通行指定部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で進行することができる。


※普通自転車とは

車体の大きさおよび構造が内閣府令で定める基準に適合する自転車で、他の車両を牽引していないもの。

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