ながらスマホ自転車のイメージイラスト
監修=遠藤まさ子(自転車の安全利用促進委員会委員・自転車ジャーナリスト)/イラスト=北極まぐ

重大事故の引き金になる自転車の「ながらスマホ」。渋谷駅周辺でその実態を調査したら…?

2024年11月から罰則が強化された「ながらスマホ」自転車のリスクと対策を解説

年末年始のこの時期は何かと慌ただしい。道行く人やクルマもどこか先を急いでいるようだ。そんななか、人混みや車列の間をすり抜けるように、スマホを手に持ったまま走って来る自転車がいる……。以前、「車道? それとも歩道!? 自転車で、どこを走っていますか?」でも取り上げた自転車のルール違反の続編として、今回は2024年11月から罰則が強化された、自転車の「ながらスマホ」の実態を調査した。

目次

自転車の「ながらスマホ」に関するルールと罰則とは

何かと世間を騒がせ、罰則強化までされた、自転車に乗りながらスマートフォンを使用する「ながらスマホ」について、まずどのような行為が道路交通法で禁止され、それに違反した場合はどのような罰則があるのか確認しよう。

【禁止事項】
自転車運転中にスマホで通話すること(ハンズフリー装置を併用する場合等を除く)。
自転車運転中にスマホに表示された画面を注視すること。
※どちらも自転車が停止しているときを除く。

罰則については従来は5万円以下の罰金が科されていたが、2024年11月以降は下記のように厳罰化された。

【罰則内容】
自転車運転中に「ながらスマホ」をした場合: 6か月以下の懲役または10万円以下の罰金
自転車運転中の「ながらスマホ」により交通事故を起こすなど交通の危険を生じさせた場合: 1年以下の懲役または30万円以下の罰金

罰金が引き上げられたことに加え、懲役刑になる可能性まで大幅に強化されている。

東京・渋谷で「ながらスマホ」の実態について調査。そこには意外な結果が!?

このように重大な違反である自転車の「ながらスマホ」について、東京都渋谷区で調査を行った。特命調査団「免許不要から1年、電動キックボードは今どうなった?」の回に続き、渋谷駅周辺の交差点付近を中心に、午前と夕方の各2時間、「ながらスマホ」の自転車の台数をカウントした。何かと危険性が取りざたされている「ながらスマホ」だが、果たして実際にはどのくらいの自転車がそのような行為をしているのだろう。

夜の渋谷の街

渋谷の街はクリスマスシーズンで一層賑わいを見せていた

ちなみに今回の調査では、通行する自転車のうち、スマホを手に持って通話したり画面を注視したりしながら走行している台数を目視でカウントし、自転車に取り付けたホルダー上のスマホを注視しているかどうかについては、その判別が難しくカウントしていない。気になる調査の結果は下記の通りとなった。

ながらスマホ自転車の割合

午前と夕方の4時間でカウントした自転車361台のうち、ながらスマホの自転車は10台(約2.8%)となった。内訳は、午前が236台中5台(約2%)、夕方は125台中5台(4%)と、割合としては若干夕方のほうが多い結果となった(JAF Mate Online編集部調べ)

このおよそ100台中3台の自転車が「ながらスマホ」をしていたという数字は、果たして多いのか少ないのか……? 今回の調査結果について、自転車の実態に詳しい専門家はどう感じるのだろう。正しい自転車利用の促進に向けた啓発活動を行う「自転車の安全利用促進委員会」の委員も務める、自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんに話を聞いた。

ながらスマホの自転車

歩道でながらスマホをしている自転車

ながらスマホの自転車

シェアリングのながらスマホ自転車も

「私は今回の調査で出た100台中3台という数字については、実感より少ないように思います。渋谷駅周辺の交差点という場所柄、結構人も行き交うので、ここを通るときだけ注意している方もいるのかなと推測します。そして自転車の『ながらスマホ』については、学生をはじめとする若年層に目立つ気がします。特に夕方の下校時、友達とメッセージをやりとりしているのか、動画でも見ているのか。もし通学路や学校の近くで調査したのなら、もっと数字は増えていたのではないでしょうか」

信号待ちでスマホを見ている自転車

信号待ちでスマホを手にする様子

信号待ちでスマホを見ている自転車

交通量の多い交差点でもスマホを見てしまう

確かに信号待ちの間にスマホを取り出しても、走り出す前にはしまっていた場面が多かった。若者の街である渋谷ならば、多くの「ながらスマホ」自転車が確認できるのではないかと考えた調査団員の浅はかさということか……。今回の調査場所では通学の自転車は少なく、子供を乗せた送迎の自転車や、スーツ姿で走っている自転車が多かった。

そして、今回の調査でもうひとつ気になるのが季節だ。冬の寒空の下、ただでさえ手がかじかむような状況で、あえて片手でスマホなど見ながら自転車に乗るだろうか。

「この時期だから少なかった、というのもありそうですね。手袋をしていたら操作しにくいですし、素手だと寒いし、かつスマホも冷えていますし」

つまり、今回の「100台中3台」という「ながらスマホ」自転車については、場所や季節といった条件から、かなり低めに出た数字と言えるのではないか。

「ですが現在、国内で自転車の保有台数は6800万台以上と、国民の2人に1人は乗っている計算です。今回の結果をそのまま実態として当てはめることはできませんが、仮に100台中3台、3%という数字でも、200万台以上の自転車に『ながらスマホ』の可能性があることになります。これは潜在的な事故のリスクとして決して少ない数ではありません」

まさに発想の転換とも言える数字のとらえ方に、調査団員は自信を取り戻したのだった。

ルール違反の自転車が多いなか、なぜ「ながらスマホ」の厳罰化なのか?

それでも気になることがある。今回の調査中、確かに「ながらスマホ」をしている自転車は少なかったのだが、その他の自転車はルールを守っていたのかというと、信号無視や逆走、歩道走行といった違反のオンパレードだった。日没以降は無灯火で走る自転車もちらほら見受けられた。今回の調査内容とは異なるので詳細にカウントしていないが、ながらスマホよりも他の違反のほうがリスクが高いのではないだろうか?

違反走行の自転車

左手をポケットに入れ片手運転で歩道を走る自転車

違反走行の自転車

交差点の中央寄りを走る自転車

「もちろん、その他の違反についても問題ですが、なぜ最近になって『ながらスマホ』の罰則が強化されたのかという点については、ここ数年間で自転車の『ながらスマホ』が関係した事故が増加傾向にあるというデータからきています。2023年は139件と、5年前の1.6倍以上になっています」

自転車の携帯電話等使用による交通事故発生状況グラフ

自転車(第一当事者)の携帯電話等使用による交通事故発生状況(資料=警察庁)

「自動車の『ながらスマホ』に関する事故が増加したことで、罰則や取り締まりが強化されています。同じように自転車も車両として取り締まりを強化する必要があるのでしょう」

スマホのゲームをしながら車を運転し、人の命を奪うといった重大事故も発生している。世間の厳しい目が「ながらスマホ」に向けられるなか、自転車だけは例外というわけにはいかない。

「自転車においても、2017年に神奈川県川崎市で自転車に乗った『ながらスマホ』の大学生が、遊歩道から市道に出ようとしたところで高齢者に衝突し、死亡させる事故が記憶に新しいかと思います。あの事故では他の要因もあったとはいえ、普通に正面を見ていれば避けられた事故です。これをきっかけに、自転車の『ながらスマホ』の危険性がより認識されることになりました」

ながらスマホ自転車の走行場所グラフ

今回の調査では、ながらスマホ自転車の割合は車道のほうが大きいという結果が出た(JAF Mate Online編集部調べ)

今回の調査中、「ながらスマホ」をしていた自転車10台のうち、歩道を走っていたのが3台、車道を走っていたのが7台だった。数が少ないので傾向としてどちらが多いと語ることはできないが、歩道を走っていた自転車は、他の自転車よりもフラフラしながら、歩行者の間をすり抜けていったのが印象に残っている。

「自転車のながらスマホの危険性とは、片手運転によって操舵性が悪くなりブレーキも弱くなることだけではありません。スマホの画面を見ながら運転すると視野が狭くなり、前方不注意の状態が続いてしまうのです。だから『スマホホルダーを使っていれば安全』ということにもならないのです」

自転車のホルダーに装着したスマホを見る様子

自転車のホルダーに装着したスマホを操作している

自転車のホルダーに装着したスマホを見る様子

スマホのナビを見ているようだ

前方不注意になるという意味では、歩行者も同様だ。今回の調査中、スマホを見ながら信号の変わり目で横断歩道を渡った歩行者に対して、通りかかったパトカーが注意している場面もあった。

「歩行者同士でも危険な場面がありますが、自転車の場合はやはり速度による衝撃が違います。万が一衝突した場合、重大事故につながる確率が高いのです。さらに速度が出たまま前方に危険が生じても、『ながらスマホ』では回避するための判断も遅れてしまいます。時々前を見ていれば大丈夫ということにはならないのです」

「ながらスマホ」の状態では、自転車の操舵性と制動力が低下し、運転する人の注意力の欠如と判断の遅れも生じる。そうした悪条件と自転車の速度が相まって、事故につながるという悲劇は避けなければならない。

「ながらスマホ」から浮かび上がる、安全意識の欠如をもたらす理由

こうしたながらスマホのさまざまなリスクについては、誰しもそのすべてを理解していなくても、何となく「危険だ」という感覚になりそうなものだ。にもかかわらず、なぜ自転車に乗っているときにまで、スマホを使う人がいるのだろう。

「今は『ながらスマホ』をしたくなる気持ちが生じやすい社会、すなわちスマホが高性能になって、コンテンツもバラエティーに富み、生活のあらゆる面においてスマホに依存する状態になっています。たとえば推しの人がやっているライブを見ていて、今すぐスパチャ(投げ銭)を送りたいとか、リアルタイムに反応したい気持ちが出てきます。そういうときは『今やらなきゃ』と思うように、行動の優先順位が変わってしまいます」

「自転車に乗っているときにまで、『ながらスマホ』をしてしまう理由としては、仕事とか時間に追いかけられているパターンと、『これは娯楽だから』という軽い気持ちからくるパターンがあると思っています。自分は片手間にちょっと動画を見ているだけで、きちんと乗れている。何か問題でも? という意識なのではないかと。娯楽だからこそ油断してしまうのです」

これが電車やバスなどに乗って移動しているときであれば、娯楽としてスマホを見ることに何ら疑問や懸念を抱くこともないだろう。自転車が普段使いの気軽な乗り物であるがゆえ、油断しやすくなる側面もあるのではないか。

「交通量の少ない住宅街や、出歩く人が少ない夜間に、『ながらスマホ』の自転車によく遭遇します。人混みの中だとぶつからないようにしなくてはという意識が生じても、注意が必要ないと感じるところでは気軽になるのでしょう」

今回の調査では「ながらスマホ」をしていた自転車10台のうち7台が車道を走っていたのだが、これも同じような理由からだろうか。むしろ車道のほうが自分の身の危険が増すように思えるのだが。

車道を走る自転車

安全を確認せずに車道を走っている自転車も多い印象だ


「歩道と異なり、車道だと皆同じ方向に走っていくことを予測しやすいからだと思います。周りをよく見なくても、信号だけ見ていればいいといった感じに。結局、自転車に乗ることが、電車に乗っているのと同じ『単なる移動』で、自分が運転しているという感覚がなくなるのだと思います。ですので、スマホを確認する、見ることの優先順位が高くなってしまうのです」

生活全般におけるスマホの浸透、自転車は気軽な乗り物という思い込み。これこそ安全意識の欠如をもたらす元凶なのだろう。自分もそうだが、普段電車の中でスマホを見ている人であれば、ふとした油断から、自転車に乗りながらスマホに手を伸ばしてしまう可能性があることに注意しておきたい。

「ながらスマホ」はなくせるのか? その対策となる「正しい自転車の乗り方」

ここまで話を聞いて、「ながらスマホ」とは、効率化が過度に求められる現代社会におけるマルチタスクの弊害とも思えてくる。車両の運転中に関しては危険をもたらすだけの、こうした「ながらスマホ」自転車に向けて、とるべき対策は何だろう。

「まず、そもそも人は2つのことを同時に行うのが本当に難しい、ということを理解する必要があります。『ながらスマホ』の危険性を体感できる映像もあるので、こうしたものを教育現場で活用していくことが大事です」

自転車乗車中の「ながらスマホ」(JAFユーザーテスト)

「そして今、自転車に対する罰則や取り締まりが強化されていることを、家庭で話し合っておくべきです。自転車に乗って他人に危険を及ぼすような行為は14歳以上から取り締まりの対象ですし、今後16歳以上は交通反則通告制度、いわゆる青切符が切られることになります。運転免許のあるなしは関係ありません。さらに万が一子供が人身事故を起こしてしまったら、億単位の賠償金を保護者が負うという判決も出ています」

「他人を巻き込むこと以外にも、2輪である自転車の場合、『ながらスマホ』によって漕ぎ出し時のふらつきや段差の乗り越え、目の前に転がっている小石を避けられないだけで転倒するおそれがあります。単独事故を起こす危険も高まるのです」

自転車が関係する事故現場の様子

今回の調査中、自転車が関係する事故現場に遭遇した(今回の記事の内容とは無関係です)

自転車の「ながらスマホ」は危険で間違った乗り方であることを、大人も子供も理解しておく必要がある。ならば、正しい自転車の乗り方を学んで、それを守ることが最大の対策になるだろう。

「まず自転車に乗っているときに見るべき場所ですが、視線は3~5m先を見るようにしてください。ですが一点ばかりを見ていると視野が狭くなり標識などの見落としも起きますので、周囲の動きを把握するように上下左右に目を配る必要があります。あと、事故が起きやすい、見通しが悪いところにはカーブミラーが設置されているので、これをきちんとチェックする習慣も身に付けるとよいでしょう」

「ブレーキには指を2、3本かけておくようにしてください。指をかける位置もてこの原理でブレーキをしっかり引けるよう、なるべく外側にしてください。そして左右均等の力でブレーキをかけるように。5本指でハンドルだけを握っていると、肘が張って脇も開くことでハンドルの操舵性が悪くなり、機敏な動きができなくなることも覚えておいてください。特に街中ではハンドルを5本指で握ってしまうと、歩行者などの飛び出しにとっさに対応できません。」

自転車の基本姿勢

自転車の基本姿勢

  • 【視線】3~5m先を見る
  • 【ひじ】ひじは軽く曲がる程度に
  • 【指】できれば常に指2~3本がブレーキに軽く触れるように
  • 【ひざ】ひざは外に向かないように真っすぐ
  • 【ブレーキ】ブレーキをかけるときはなるべく左側(後輪)を先に引いてから右側(前輪)もかけると安心
  • 【サドル】サドルの高さは停車時に両足の爪先が地面に着くように
  • 【ペダル】ペダルは親指の付け根あたりで踏む
  • 自転車の安全利用促進委員会資料よりJAF Mate Online編集部作成

「ここで説明した安全のための形とも言える基本姿勢も、『ながらスマホ』をすることによって、すべて『形無し』になっていまうのです。自転車に安全に乗るためには本当にいろいろな要素が必要であることを知っていただきたいと思います」

若年層に多く見られるという自転車の「ながらスマホ」。その今ある危険への対策としてだけではなく、子供のうちから自転車の正しい乗り方やルール、マナーを身に付けることによって、将来的に自動車免許を取る段階でスムーズに理解が進むメリットもあるという。交通安全についても警察や学校任せにするのではなく、ぜひともご家庭での早期教育に取り組んでほしい。

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